続々々・メガネのつぶやき

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アルベルトーキョー追跡記 その3

 追跡記 その2(https://re-donald.hatenablog.com/entry/2022/04/28/222232を挙げてからまだ2週間ほど。試合にしてリーグ戦3試合を挟んだだけですが、その2同様、今日の段階で書いておきたいなぁと思う点があったので、手短ではありますが、その3を。

 




Chapter7 改めて考える「順番」

 0-1で敗れた5/8鳥栖戦。これで、鳥栖には直近6連敗となってしまいました。昨シーズンに感じた「どうにもならない感」は薄れ、同じ土俵に立って勝負はできたと感じていますが、浸透度の違いは如実に見て取れた試合でもありました。

 鳥栖はキム・ミョンヒ前監督時代からポジショナルプレーに取り組み、育成年代との意思統一も図りながら近年は独特な存在感を醸し出しています。そして、昨シーズン山形でピーター・クラモフスキー監督のもと、コーチとしてポジショナルプレーに注力していた川井監督へバトンタッチした今シーズンは、さらにプレー原則・プレーマインドの統一が進んでいる印象を受けました。そして改めてこの試合の東京と鳥栖のやり方を比較すると、一口に「ポジショナルプレー」と括っていますが、その内実はチーム(在籍選手)によって多種多様だなぁ、とも感じました。

 鳥栖は、「自陣で量的優位性を確保して敵陣へ前進⇒敵陣で再度量的優位性を作り出してチャンスクリエイト」という、まさにポジショナルプレーの王道と言えるプレー原則。もう少し細かく書くと、自陣ではGK+最終ライン(この日は3枚)+2センターハーフの6人でプレスライン突破を試みる。そこで突破できれば良し、引っ掛かっても自陣に6人いるので守備も担保できるのでリスクマネジメントとしてはOK。そして、敵陣侵入後も極端に急いでゴール前に迫るのではなく、例えばペナルティエリア横のスペースにまずはボールを運び、ボールホルダーを基準点として2~3人が絡みながら崩しの局面を作るのと同時に、ペナルティエリア内(近辺)にも2~3人潜り込ませることでファイナルサードでの量的優位性を常に取る。そこでシュートまで持ち込めれば良し、仕掛けのところで失っても敵陣に人をかけているので即時奪回が狙えるのでOK。細かいメカニズムはさておき、大まかには非常任シンプルながら、理に適った狙いを90分間やり通しました。対する東京。追跡記 その2で「ボール保持時の量的優位性を、今度どこに置くのか?」という話をサラッとしましたが、その後の3試合を流れで見ると、それまでと比べれば格段に青木が最終ラインに落ち、インサイドハーフもどちらかは自陣に下がってきて…という形を自陣で見せたように思います。

 

 先週、公式サイト内の「F.C.TOKYO FANZONE」において、ライターの馬場康平さんが青木、安部、松木の言葉を借りながら、東京流ポジショナルプレーの一端を考察するコラムが掲載されました。お読みになった方がどう感じたかは人それぞれですが、個人的には「プレーにはまだ落とし込み切れていないけど、論理的には順序立てて理解を図ろうとしている(一部、図れている)な」と。特に興味深く読んだのは、以下の部分。少し長いですが、引用します。

青木拓矢はこう話す。

 

「相手の立ち位置によってこちらも立ち位置を変えていく。変えたときに、うまくいくときといかないときがある。その波が少ないのが理想。プレーしていて違うなと思いながらも、映像を見返したら意外に良かったこともある。その感覚のズレがまだあって、うまく自分を俯瞰して見られていなかったな、と。アンカーは浦和の時からボールを触れずにサッカーができるポジションだと思う。ボールに触れられる時は、ゲームもつくっていきたい。でも、相手がマンツーマンで来て触れられない時に、監督は中にはあまりつけないと言っている。ボールを触れずにサッカーできたらそれも最高なカタチ。自分の立ち位置で相手の出方を見ることが大事で、人がついていなければ何でもできる状態なのでボールを受ければいい。そうじゃなくなった時に、触れずにサッカーができればいい」

 

これに安部柊斗が続く。

 

「試合が終わった後の映像ミーティングでインサイドハーフのポジションの位置の話にもなる。相手センターバックに見られるような位置にいすぎてしまっているので、もう少し相手の中盤とセンターバックの間でうろちょろする位置を取れと言われるので、それを意識している。映像を見て練習でも一度止めてポジションの修正もしてきているが、試合ではうまくいかないこともある。ピッチ内で選手同士が話あって違うやり方や、アイデアも出し合っている。そうやって臨機応変になりつつある。試合を重ねないと、改善点も見えてこない。逆に、こういうこともできるという理解につながらない。これは監督を信じてやり続けるしかない」



(5/5掲載「中盤3選手の証言で紐解くアルベル流ポジショナルプレー【後編】(https://www.fctokyo.co.jp/fanzone/fctokyofanzone/detail/224)」内から引用)

 土地柄によってワンボランチ、アンカー、ピボーテレジスタなど呼び名が様々あるとおり、中盤3枚を逆三角形にした際の下頂点にあたる選手に求められる役割は必ずしも一定ではありません。言い方を変えれば、そのチームにおいて戦術、プレー原則が明確であるならば、ステレオタイプな考え方に立って「あのチームのアンカー(以下、アンカーで表記は統一します)は動きがなってない」と批判するのは、誤りだと思います。そこを分かったつもりなうえでもなお、ここまでの試合を観る限り、(私の理解力不足もあって)アルベル監督がアンカーに求める役割が今一つ見えてこない印象がありましたが、このコラムを読んで、アルベル監督が意図するところの一端を知り、「青木の脳内は割としっかり筋道が立っていて、まだまだ上積みあるな」と感じたところです。

 

 少し横道へ。ちょうどこのコラムを読んだ後、5/7に行われたリーガエスパニョーラ ベティスバルセロナを見る機会がありました。今季のバルセロナはシーズン途中にクラブのレジェンドであるチャビを監督として招聘し、改めてバルセロナバルセロナたらしめたポジショナルプレーに取り組んでいます。就任して間もない時に、チャビが「正直言って大半の選手が(ポジショナルプレーを)理解できていない。誰の責任かは分からない。いま改善に取り組んでいるところだが、想像以上に苦労している。バルサは見失ってしまったモデルを取り度さなければならない。それが明るい未来へ繋がる道になるはずだ(https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=103083)」と嘆いたようですが、その後は指導が進みながら冬の選手補強も奏功して、来季のCL出場権は確保したところ。

 で、先ほどのコラムを見た直後だったので、スタートからバルセロナのアンカーであるセルヒオ・ブスケッツに視点を当てて見ていました。この日のベティスは2トップでCBにプレスをかけつつ、ある程度ブスケッツにもマンマーク気味に当てるやり方。まさに、青木が語った「相手がマンツーマンで来て触れられない時」でした。

 さて、ブスケッツは、バルセロナはどうしましょうか?と思っていましたが、この日のバルセロナはおおむね以下の手順でプレスライン突破を狙います。

・両CBが割と広めに位置し、SBを押し上げる。

・ただし、ブスケッツは極力ポジションを動かさず、あえてマンマークされたままにする。

・外回りでウイングまでボールを運べれば、ウイングが1対1でアタック。

・ただし、外回りありきではなく、ベティスの2ライン間にポジションを取った選手が下りてきてCBからパスを引き出し、(なるべく2タッチ以内で)同サイドのSBやブスケッツにボールを落とすことでSBやブスケッツに前向きでボールを持たせる。

 近年よく、「アンカー潰しにはマンツーマン」という対応策を目にします。その対応に対する対応策として、「アンカーが最終ラインに落ちる」「アンカーを経由せずに前進する」といった方策がありますが、この日のバルセロナは完全に後者で、見ていてちょっとビックリするぐらい、ブスケッツがボールを触らない時間帯もありました。

 じゃあ、ボールが回っていないのかと言われれば答えはNO。もちろん、変な引っ掛かり方はありましたが、ダニエウ・アウベスジョルディ・アルバの両SBが適切なポジショニングからしっかりとボールを前に運べていましたし、2ライン間にポジションを取ったインサイドハーフ、ウイング、センターフォワードの誰かが10~15mほど下りてきてレイオフし、そこでブスケッツが前向きにボールを持たせることで、持ち味である広角の展開をスムーズに出すことができていました。ここからは個人的嗜好ですが、私が最も好きなアンカー像は、まさにこの日のブスケッツ。アンカーとは英語で「(船の)いかり」という意味がありますが、まさにチームの中心軸とした「おもり」として、そこにいるだけで、それこそボールを触らなくても、相手のいくつかを無効化、あるいは半減化させていたブスケッツの存在感は、あえてボールの位置とは関係なく注視していたからという視点以上のものがあったと感じています。

 

 東京に話を戻して。アルベル監督の理想が在りし日のバルセロナであることは、おそらく疑いの余地がないでしょう。そして、今バルセロナを率いているのは、そんな在りし日のバルセロナを最も輝かせたと言っていいチャビ。となると、まさに今、バルセロナが見せているサッカー、見せている志向、見せている原則は、大半の部分で東京が目指すべきところである、と考えてもおかしくないのではないでしょうか。

 「ピッチ全体を支配下に置く」ことを最大かつ究極の目標にしたとして、攻撃面において目標にたどり着く順番をアルベルがどう考えているか、まだはっきりとは分かりません。ただ、これまでの流れ+今後の想像として、

1:外回りでのボール前進の徹底

    ↓

2:自陣での量的優位性獲得のメカニズム構築

    ↓

3:自陣と敵陣を繋ぐセクションのオートマティズム化

    ↓

4:敵陣での量的優位性獲得のメカニズム構築

 という順番でチームの成熟を考えているならば、私はここまでの4カ月間のプロセスを「正しく進んでいる」と評価したい派です。4の次、すなわちゴールを奪う部分は…ミクシィさんに頑張ってもらいましょう。




Chapter8 再セレクション、必要?

 先ほどの順番に倣うとすれば、今の東京は1を主原則としながらも2に取り組み始めたところ。そして、ようやく…というと変な表現ですが、自陣でのボール保持・前進を目指す中でほぼ全チームがぶつかるであろう壁にぶち当たっています。

 中でも気になるのはサイドバック。外回りのボール前進を主原則とする中で、サイドバックの立ち位置、ボール扱いはかなりの重要度を占めますが、現状、相対的にアルベルを満足させているのは長友と小川ぐらい。その小川も、森重、エンリケ トレヴィザンの負傷離脱によりセンターバックとしての起用もあり、いささか大変。一方、ここにきてカシーフが怪我から戻り、徐々に実戦勘を取り戻す作業中だったり、中村が継続的ではないながらも起用された際には印象に残る仕事をしたりとアピールを続けていて、追跡記 その2で「セレクションは終わったのでは?」と書きましたが、サイドバックは再びセレクションが始まった印象もあります。

 また、チーム全体のバランスやサイド同士の関係性(と私の志向)を考えたとき、サイドバックは極力固定したいのに対し、ウイングの起用は「タイプ」と「利き足」によって選択肢を変えられるのがベストだと思っていて。例えば、相手が守備時4バックだとして、両ウイングに縦に強いタイプを起用し、幅を取って相手のサイドバックを制限する(いわゆるピン留めをする)のか、逆足の選手を置いてカットインもあるよ、と脅して相手を中に収縮させ、大外はサイドバックが使うのか、あるいは両サイドに違うキャラクターを置いて、サイドごとに崩しの局面における進め方を変えるのか、といったアイデアが湧きますが、相手のやり方や立ち位置によって、ウチはどれも選択できますよ~となれば、相手は相当困りますから。

 というなかで、レアンドロが怪我から戻り、いきなりハイインパクトなゴールを決めたことで、アルベルの選択肢は増えました。センターフォワード含めてですが、先の鳥栖戦のように前線3枚総取り替え!みたいな暴力・・・じゃないな、選択も取れるわけですから。いずれにせよ、この先もアルベルなりの落とし込みが続く中、言っても補強可能な夏まではやっぱり、セレクションは完全には終わらないのかなぁと。そして、全ての事実をアルベルが、チームが説明する必要は全くありませんが、記者・ライターの方には引き続き、表層的な部分ではないコンテクストの妙について、積極的に会見等で迫ってほしいなと思っています。ね、ワッショイ兄さん(名指し)。