続々々・メガネのつぶやき

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08−09 その81 バルセロナ−マンチェスター・U

 いよいよ迎えた、CLファイナル。今シーズンの欧州サッカー界を引っ張った両チームによる対決。「攻撃−守備」「理想−現実」「新鮮さ−熟成さ」など、数多くの二項対立を(マスコミが)謳った一戦、勝つのはどっちだ。
バルセロナ 2−0 マンチェスター・U
スコア:10分 S・エトーバルセロナ
     70分 L・メッシ(バルセロナ


 バルサのキックオフで始まったこの試合。そのキックオフから始まるバルサのファーストアタックに対し、C・ロナウドが猛然とチェックをかけにいきました。それは、ボールが下がって下がって、結局はV・バルデスミスパスをするほどの圧力で、私にはファーガソン監督がバルセロナに対して「ウチはがっぷり四つに組んだ上で、勝ちに行くよ」という「宣戦布告」に写りました。
 その先制パンチよろしく、迎えた2分。アンデルソントゥーレ・ヤヤに倒されてFKを獲得。蹴るのはC・ロナウド。右足から放たれたお馴染みの無回転ボールはV・バルデスの守備範囲に飛んだように見えました。しかし、これをV・バルデスは横へ弾くことが出来ず、リバウンドボールに詰めたパク・チソンがこれを押し込んだ…かと思いましたが、ピケが辛うじてタックルに入ってクリア。何とかバルサは事無きを得ましたが、その後もマン・UはバルサのDFラインに対して積極的なプレスをかけ、奪ってからの攻撃でC・ロナウドが立て続けに2本惜しいシュートを放つなど、ペースを掴んだのはマン・Uでした。
 しかし、先制ゴールを奪ったのはバルセロナ。ハーフウェーライン辺りでボールを持ったイニエスタが、マン・U守備陣の間隙を縫うようにドリブルで侵入していき、十分にひきつけた上で右サイドをフリーになって並走していたエトーへパス。これを受けたエトーは、チェックに来たビディッチを切り返し一発でかわしてシュート。これがファン・デル・サールの手をかすめながらゴールに吸い込まれました。正直、この攻撃の前までは全く得点の香りなんてありませんでした。ただ、それを打破したイニエスタの個人技とエトーの決定力には、脱帽せざるを得ません。そして、このゴールは試合の流れを一気に引き戻す、あるいはこの試合の趨勢を決めるに値するものとなりました…ってのは終わったから言える話。マン・Uもどのみち失点は覚悟していたはずで、猫だましのような一撃は喰らったものの、リズムを変えることなく攻めていけば前半のうちに追いつけるような攻めは見せていたはず。なのに、この失点で一気に沈んでしまい、攻めてはバルサの高い位置からのプレスを全くいなせずに(ピッチにアジャストもできなかった?)CBやキャリックから裏への一発を狙うばかりで、出し手と受け手の感覚がピタッと合った時にはチャンスになりかけはしたものの、冷や汗をかかせるまでには至らず。守っても、攻めが放り込みに終始したことで3ラインが間延びしてしまい、かつ「何処で、誰が、いつ取りに行くのか」という意思統一があまり感じられず(バルサのパスワークの流麗さがそう見せた、という言い方もできるかもしれませんが)、好き放題回されるばかり。それでも最後の最後はやらせない守備力で1−0のまま前半は終了。圧倒的なバルサペースながら、2点目が奪えないことがどう影響するのか、ともすれば危ういバランスのまま後半を迎えることとなりました。


 後半、マン・Uはアンデルソンテベスの交代を施しました。4−3−3から4−4−2にシステムを変え、攻撃の際に人を増やそうという意図でしょうか。その交代が功を奏してか、後半の入りも良かったのはマン・U。さっそくテベスがボールに絡み、前からボールを取ろうという意思は感じられました。しかし、前半同様即座にその流れに冷や水を浴びせたバルサ。48分、左サイドでボールを受けたアンリが巧みなフェイントからシュート。これはファン・デル・サールがナイスセーブを見せてゴールにはなりませんでしたが、またしてもマン・Uは意気消沈。53分に得たFK(キッカーはシャビ)は惜しくもポストに弾かれましたが、その後もイニエスタ、シャビを中心に「バスケットボールかハンドボールのようなパス回し(by風間八宏)」でマン・U守備陣に的を絞らせずに時間を潰していきました。マン・Uも単発ではチャンスを得ることはできていたものの、キャリックギグスが全く配給役としての仕事をさせてもらえず、バルサのプレスに屈してか少しずつパスやトラップがずれることで攻撃にテンポが生まれない展開に。いくらロナウドルーニーテベスがスーパーな選手だからといって、いいボールの受け方が出来なければどうしようもないんだなと、改めて思い知らされた時間帯でした。C・ロナウドなんか、時間の経過とともに集中力が切れていく様がありありと見て取れましたしね。
 そんななか迎えた70分。DF(エブラ?)のクリアが甘くなり、フリーで受けたシャビが右サイドに侵入。この両チームの対戦では有り得ないと思われていたほどのスペースと時間(ゆうに3秒は持っていた気が)をもらったシャビは、しっかりと中をルックアップしてクロス。そして、このボールを中で合わせたのは…なんとメッシ!目いっぱい体を伸ばして放ったヘッドはいじらしいほどの放物線を描き、ファン・デル・サールの頭上を越してゴールイン。着地と同時に脱げたスパイクにキスをしながら喜びを爆発させるメッシ、そこに集まるチームメイト、そして、狂喜乱舞のバルサファン側のスタンド。一方、この一瞬だけ守備隊形が完全に崩れ、出し手も受け手もフリーにしてしまったマン・Uの守備陣はうなだれ、ファーガソン監督以下ベンチのスタッフは黙って座って視線をさまよわせるばかり。まだ20分ありましたが、私はここで勝負ありかなぁという印象を抱きました。後で流れたスローを見ると、シャビがクロスを上げんとするその刹那、リオはシャビからもメッシからも目を離してどっか見てたんですよね(もしかしたら、メッシを捕らえようとしていたのかもしれませんが)。別にそれが失点の原因ではないですけど、このレベルの試合になるとそれすらミスに見えてしまうんですから(要求高すぎ?)、ほんとに怖ろしいまでのレベルの高い試合ですよ。この後は、点を取るしかないマン・Uが攻め、それをバルサが受けるという形にはなりましたが、バルサが危なげなく凌ぎきってタイムアップ。バルサが3年ぶり3度目、そしてスペイン勢としては初の3冠(CL、リーグ、リーグカップ)を達成し、マン・UはCLとなってからは初の連覇を目指すも、一敗地に塗れる結果となりました。



 勝敗の分かれ目はいろんなところにあったんでしょうけど、私は一番の要因は「最初の決定機をモノにできたかどうか」という点かなと。正式に数えてはいませんが、お互い先制すればものすごく強いチームという印象があります。バルサなら先制点からさらに勢いづいて追加点を加えていけますし、マン・Uはその1点を守ることも、もう1点取りにいくこともできる戦術的柔軟性で勝利できる、といった感じで。なので、先制点をどちらが奪えるかは相当注目していたんですが、前述のとおり、マン・Uは2分の決定機をモノにできなかった一方、バルサは10分の決定機をモノにした。しかもマン・Uは、(しばしば見せますが)セミファイナルのポルト戦2ndレグのように「前半立ち上がりにガツンと攻めて点を取り、あとは試合展開に応じていろいろと」という戦い方を選択してきた中で、狙い通り点を取れなかったばかりか、先に点を奪われてしまったわけです。なので、失点以降勢いが失われたのは分からないではありませんが、正直あそこまでテンションが落ちてしまうとは思っていませんでしたし、もう一丁ギアを上げきることなく90分間が終わってしまったことに、少なくないショックも受けています。(恐らく)欧州のクラブで最も多い試合数をこなし(この試合が公式戦66試合目!)、バイオリズムの上下動を繰り返し、さまざまなアクシデントを跳ね除け続けた中で得た「マン・U史上最強」とも言われるチームが、ここまでの大差をつけられて敗れるのを見たくなかった、という気持ちもあります。まあ、マン・Uからすれば「まだやることがある」と言われたに等しい結果でした。でも、その超難問に明確な答えを出せるのも、マン・Uの強さだと思うんですよね。来季どのような陣容になるかは未確定な部分がありますが(C・ロナウドテベスあたり)、また憎たらしいまでの強さを引っさげて、この時期に私たちを魅了してくれるマン・Uを待ちたいと思います。地味にですけど、フレッチャーがいなかったのも大きかったかもね。


 バルセロナ側からも少し。まあ〜強かった、その一言ですね。ダニ・アウベスとアビダルを欠き、アンリとイニエスタは完全ではなかったはずなんですよ。いろんな面で柔軟性があるマン・Uに対し、言ってしまえば「攻める」しか武器を持たないバルサが劣勢に立たされても、何の不思議もなかったはずなんですよ。でも、終わってみれば得点以降の80分間をほぼコントロールしきっての勝利ですからね。驚きました。
 どの選手も素晴らしいの一言なんですが、中でも印象に残ったのはイニエスタプジョル。昨日発売のFootballista内のハビエル・イルレタさんへのインタビューの中に、「イニエスタは今シーズン、デコがチェルシーへ移籍したことで独り立ちした」というものがありました。確かに、スペイン代表としてもEURO08で輝きを放ち、シーズンに入ってからも本職であるセンターハーフとして全幅の信頼を受け続け、チェルシー戦では見事なゴールをゲットして、名実ともにバルサの顔として存在している風に写りますし、とにかくプレーの選択にほとんど間違いがなく、かつ高いレベルのスキルがそれを後押しすることで、本当にアンタッチャブルな選手になったと思います。はてなハイクの書き込みも「イニエスタすげぇ」が多かったなぁ(笑) もう一人がプジョル。試合後、ハイクにこんなことを書きました。

MOMを一人挙げろと言われるとすげぇ難しいわけですが・・・私はあえてプジョルを挙げたいです。決して器用な選手じゃないんだけど、与えられたタスクはしっかりとこなし、一つ一つのプレーに気持ちを込めることができ、文字通り「カピタン」としてチームを引っ張ることができる。こういう選手がいるからこそ、攻撃の選手は力を出せるのかなぁとも思います。
はてなハイクより転載

 なんかもう「そこにいてくれるだけで周りが安心感を得られる選手」って滅多にいないと思うんですが、プジョルはまさにそういうタイプ。最初から最後まで一切手を抜かず(抜いてるとしても、そう見せない)、言葉でもプレーでもチームを引っ張っていける素晴らしい選手であると、今一度深く噛み締めました。
 そして、グァルディオラ監督。就任1年目ですよ?というか、そこまでバルサBでの指揮経験しかなかったんですよ?なんかもう、そういったことを忘れさせるぐらい素晴らしいシーズンを送れたんじゃないかと思います。バルサを愛し、バルサを知り、バルサと苦楽をともにしてきたからこそもたらされる、「バルサスタイルへの回帰」に対する説得力、力強さ、我慢強さは、見ていて本当に清々しかったです。で、この試合一番印象に残ったのが、確か87分ぐらいだったと思うんですけど、2−0で勝っていて、もうそれほど失点の香りがしない展開になった中で、相手陣でのパス回しに対してちょっとプレスがずれただけなのに、思いっきり身を反らして「なにしとんねん!ちゃんとせいや!」っていうリアクションを見せたんですよね。はっきり言って、もうサボってもいい展開だったと思うんですけど、その小さな妥協すら許さないんですよ。聞くところによると、練習前のアップでやる「鳥かご」ですら小さいミスに怒ったりもするそうで、そういった妥協を許さない姿勢の積み重ねが、今のバルサを作ったと言っていいんでしょうね。スーパーな選手たちが、(後ろ向きな)小さいミスすら許されずに日々練習・試合をこなしていくんですから、そりゃ強くなりますよ。
 それでもファンは現金なもので、来シーズンが始まると、「昨シーズンよりもっと上へ!」などという無責任な期待を一身に注いでくるでしょう。それに応えるのは相当大変だと思いますし、次のモチベーションを何処へもっていくかという面でのグァルディオラ監督の手腕も問われるようになるでしょう。でも、まだバルサは強くなれる、そんな気さえ抱かせるのもまた事実。ひとまずゆっくり休んで、「ドリームバルサ」を超えるバルサを見せてほしいと、私も無責任な期待を投げておきます。



 締め。よく、こういう大きな大会で勝ったチームのスタイルがその後数年間のトレンドとなる、なんてことがあります。まあ、あまりにもやってることのレベルが高くて、このバルサスタイルがトレンドとなるとは思わないですけど、ハードワークであったり、フィジカルであったり、ソリッドであったりと言った「硬質」なサッカーをするチームが台頭している中(それを否定しているわけではありません)、こういうチームが一つくらいはあってもいいよね、という風に感じました。
 また、マン・Uががっぷり四つに組んで試合に挑んできたことは、素直に素晴らしいと言っていいでしょう。でも、結果は得られませんでした。で、今シーズンのいろんな試合を思い出すにつけ、「本気」のバルセロナを最も苦しめたのは、セミファイナルでぶつかったチェルシーだったのかなぁと。あの試合は、この試合以上に「攻撃−守備」「理想−現実」という二項対立をグランドのそこかしこに振りまいたあの一戦は、各種メディアに「正義は勝つ!」とか「神様は見てくれていた!」などと書き立てさせ、バルサ側の人間に「あんなのフットボールじゃない」とか「クソつまんねぇサッカー」などと嘲けらせ、あたかも「チェルシー=悪者」のような印象を与えさせたものでした。
 しかし、結果論として、「今シーズンのバルセロナに勝つためには、あれしかなかったんじゃないか?」という意見は、間違いでしょうか?もし、マン・UがチェルシーのようにC・ロナウド一人を残し(ってのはいつもの話だけど)、最終ラインはペナルティエリアぐらいまで下がり、MFもそれに合わせてガッツリ引く、というサッカーをしていたら、どうなったんだろうか?というところに、試合後の私なんかは妄想が及んでしまいました。バルサが優勝したことで、「攻撃−守備」という二項対立の答えは「攻撃」だ!という人が出てくるでしょう。でも、バルサチェルシーの1stレグでは、「守備」が凱歌をあげているのも事実なんですよね。というわけで、今シーズンもまた、この永遠の問題の答えが出ないまま、その答えを探したまま終えることになりましたが、それについて、いい大人がああだこうだ言い合うのもまたフットボールの醍醐味。また来シーズン、世界最高峰の戦いがどういうヒントを見せてくれるのかを楽しみに待ちながら、しばし欧州サッカーとはお別れですね。こっからは、完全Jリーグモードだぜ!