続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

求められるもの

 先日、スポーツナビにアップされた元川悦子さんのコラムを読んで、少し思うところがあったのでエントリにしてみます。まあ、ツイッターで4、5ツイート連投してやれば済む内容かもしれませんが、今年はサッカーのことについてはなるべくブログに書きたい、エントリにしていきたいと思っているので(そう思って2ヶ月強、ほとんど書けていません(苦笑))、しばしお付き合いを。


 上のコラムは内田篤人の近況・現状をコラムにしたもので、現在シャルケを率いるフープ・ステフェンス監督の信頼を得られず出場機会を失い、復活の足がかりとしたかった代表戦でも失点に絡むなど「過酷な現実」に直面していることを主眼においた内容。確かに、現在置かれている状況は昨シーズンの順風満帆さとは天と地ほどの差があり、私なりにここ数試合を見た限りでもコンディションが上向いているとは言えず、厳しいシーズンを送っているという印象しかありません。そんな、好調期から不調
期へと歯車が狂い始めた分岐点については、コラム内にこう書かれてあるとおりです。

 そのマガト監督が昨年3月、ブンデスリーガでの成績不振によって解任されたことで、内田の歯車が微妙に狂い始めた。後を引き継いだラルフ・ラングニックは右サイドの守備を不安と考えて、ヘーガーを補強し、今季開幕戦はそのヘーガーを抜てきした。それでも内田は8月28日のメンヘングラッドバッハ戦でポジションを奪回。9月に入って徐々に先発に定着しつつあった。ラングニック監督が体調不良から突如として辞任することになったのはそんな矢先の出来事。そして現指揮官のステフェンス監督がやって来た9月27日当日に、内田は右太もも肉離れを起こしてしまった。
 「ホント、タイミングが悪かった。11月に復帰して試合に出してもらったけど、なかなか調子が上がらない。いい時は自分のイメージ通りにボールも蹴れるし止められる。だけど1回ケガして、体も動かないし、ボールも止まらない、蹴れないって中で、ズルズルいって冬のオフに入ってしまった。監督はおれの一番良くないところを見てますね……。コンディションのことを言われたこともあるし、おれを使わないのがすごくよく分かる」と、本人も現状を納得できる部分はあるようだ。

 確かに、こんな短期間で3人もの監督に師事しなければいけない、しかも「強権的で攻撃重視のマガト→柔和かつ戦術的で攻守のバランスを重視するラングニック→堅物で「守備偏愛主義者」という呼ばれ方をするほど守備重視のステフェンス」と全くキャラクターの違う3人の下で、いずれの監督からも信頼を得て出番を得続けるというのは、相当難しいことではあります。しかし、ここで注目したいのが、監督の思想が「攻撃的→守備的」変わっていく中で徐々に出番を失っている点。そこに怪我などの不運も重なったとは言え、内田が乗り越えるべき壁は今どこにあるのかは明々白々で、しかし内田自身のコメントなどからは、果たしてどこまでそれを理解しているのか、あるいは監督とコミュニーケションを取って課題を共有できているのか、疑問を持たざるを得ません。「おれの一番良くないところを見てますね」で終わらせてしまうのでは、いつまで経っても…という気もします。
 って、別に内田に文句があってエントリを上げたわけではなく、これは前フリ。ここからが今日書きたかったことなんですが、ここ数年でサイドバックに求められるものというか、「サイドバック像」って急速に移ろいでいる気がしているんですよ。一昔前のサイドバックと言えば「小柄で走力(スプリント力、上下動できるスタミナ)がある」タイプ、しかもどちらかと言えばオーバーラップしてクロスを供給する、あるいはシュートに絡むといった攻撃的要素を持っている選手の方が重宝されていたような印象がありました。それこそ内田みたいな。しかし、ここ数年はその走力やオーバーラップの要素を持ちながら、あるいはそこが多少見劣りしてでも大柄で、相手とぶつかって守れるフィジカルを持った選手が起用されるケースが増えている印象があります。センターバックもできる選手がサイドバックを担うことが端的なケースで、特にイングランド・プレミアリーグフィル・ジョーンズクリス・スモーリングマンU)、マイカー・リチャーズ(マンC)、トーマス・ヴェルマーレンアーセナル)、ブラニスラフ・イバノビッチチェルシー)、マーティン・ケリーリバプール)−やブンデスリーガ−ジェローム・ボアテンク(バイエルン)、ベネディクト・ヘーベデス(シャルケ)、ハイコ・ヴェスターマン(ハンブルガーSV)−で目立ちます。日本でも、昨年のリーグ王者である柏レイソル酒井宏樹橋本和福井諒司といった180cmオーバーで、育成年代や前チームではセンターバックでプレーしていた選手をサイドバックに置くチームがいよいよ登場。日本代表でもザッケローニ監督は槙野智章伊野波雅彦森脇良太といったセンターバックタイプの選手をサイドバックで起用するケースがままあり、ここまでくると、この傾向が単なる数チームのレアサンプルと切り捨てられない状況になってきたと言っていいでしょう。


 じゃあ、何故その傾向が強まってきているのか?近年はバルセロナを筆頭に攻撃的なサッカー、ボールを大事にして前線に人数をかけて攻めるサッカーが主流となっています。しかし、どのチームにも守備をする時間はあるわけで、その攻撃的な振る舞いをするために、どこを守備の中心として担保しておき、相手のカウンターなどのリスクヘッジとするのか?という点において、今一つ詰め切れていない、あるいは術を持たないチームが散見されるのも事実。当のバルセロナは「ボールを奪われた時点での切り替えを究極的に早くし、そのまま前でプレッシングして取りきる」ことを守備の中心にしており、サイドバックには前で攻撃的に振る舞えて、奪われたら高い位置のまま守備には入れるダニ・アウベスやアドリアーノといった従来のサイドバックタイプを置くことは理に適っています。しかし、全チームがそこまでの振る舞いをできるわけではありません。むしろ、並みのチームがバルセロナほど高い位置でポンポンパスが回り、毎試合65%を超えるポゼッションができるはずもなく、選手の気持ちや配置が前がかりになるもボールを失う回数が多い、あるいは失う位置が悪くて、そのままスッカスカのDFラインを突かれてお終いというパターンが関の山。ベーシックに物事を考えるのであれば、やはりサイドバックはいわゆる「つるべの動き」をしっかりと意識して、攻め上がっていない方のサイドバックセンターバックボランチと協力して、相手の反撃に備えるのが筋となります。
 ただ、今はFWが相対的に大型化してきており、従来のサイドバックタイプだと、身長やフィジカルのミスマッチを狙われてカウンターの基準点になってしまうリスクがあります。例えば、日本代表で考えると「吉田・今野・槙野(伊野波、森脇)」と並ぶのと、「吉田・今野・長友(内田)」と並ぶのとでは、守備という側面においては前者の方がリスクヘッジできているし、基準点を作られない可能性が高いと言えるでしょう。その一方、相手FWが高さより速さを武器にする選手だった場合は、前者より後者の方が対応できる可能性が高まります。そりゃあ槙野より長友の方が足でカバーできる範囲が広く、裏に走られても追いついてクリアができる場面が増える想定ができるわけですから。要は、そのチームがどうやって攻めたいのか、そのためにどうやって攻撃性を減らさずに守ることができるか、守ろうと考えるのかによって、どういったタイプのサイドバックを起用するのか変わってくる。その選択肢の中で、これまでより「2センターバックサイドバック1枚」をチョイスすることが増え(流れの中で自然とそうなることも含む)、3バック化した際の最終ラインのインテンシティを高めたいという発想の中で、センターバックタイプの選手をサイドバックに置くことでそれを実現するという判断をする監督(チーム)が増えてきたということが、センターバックタイプをサイドバックとして起用することが増えている理由だと思っています。もちろん、もっと単純にセットプレーやクロス対応における上背の担保する、という意味合いもあるでしょうけどね。


 その端的なサンプルとして、先日行われたFUJI XEROX SUPER CUPがすごく格好の試合だったと思うので取り上げてみます。東京は今シーズンからランコ・ポポヴィッチ監督が就任しましたが、城福監督、大熊監督時代にもその風情が多少あった「ボランチ1枚をセンターバックの間に落とし、サイドバックを高めの位置に押し上げる」というビルドアップのスタイルをよりはっきりと取ってきました。これは前述したバルセロナと似たような考え方で、ボールを失った後の守備も同様に、切り替えを速くして、高い(失った)ポジションでそのままプレスにいって取りきりたいという形に見えました。こうなれば、最終ラインのカバーはそのままボランチ(高橋)がやる形になり、サイドバックに求められる要素は素早くチェックにいく切り替えや、ロングボールを飛ばされた際になるべく速く帰陣できる走力が最優先となり、それこそ椋原や太田のようなタイプが務めるべきだと言えます。一方の柏は、攻撃のストロングポイントがレアンドロ・ドミンゲスジョルジ・ワグネルの両サイドハーフで、彼らのキープ力を持ってすれば、サイドバックが無理矢理にでも高いポジションを取って中盤やサイドでの数的優位を作る必要はありません。特にレアンドロは中へ絞ってプレーすることが多く(前半は梶山をチェックする意図もあって中へ居っぱなし)、酒井がその空いたスペースに果敢に上がっていってクロス、という形が1つのパターンとなっていますが、レアンドロが絞り、酒井が上がるということは自陣右サイドのスペースが相手にとっては格好のカウンタースペースになります。それを埋めるために、ネルシーニョ監督は右ボランチ(この試合は茨田、本来は栗澤)をスライドさせ、DFラインもセンターバック2枚がやや右に意識を持ち、左サイドバックの橋本が中へ絞る「3バック化」で対応しています。それで、前述したとおり「3バック化」を実現するためには、サイドバックが小柄で軽い選手だときついわけで、ネルシーニョ監督は小柄で走力のある中島ではなく、センターバックもできる橋本を起用するケースが多いと認識しています(橋本が出られない時には増嶋が起用されることが多く、今シーズンは昨シーズン北九州でセンターバックとして起用されていた福井を補強した)。
 それで、この試合はお互いの良いところ、悪いところがはっきり出た試合となりました。立ち上がりから東京は高い位置を取った太田、椋原の両サイドバックがしっかりと攻撃に絡み、サイドハーフも左の谷澤は中へ絞って酒井をひきつけながら、右の石川はスプリント力勝負の土俵に橋本を引きずり込み、それぞれがアクセントとなれていました。そして守備でも、高い位置(失った地点)から積極的にボールホルダーへ人数をかけてそこで取りきれる、あるいはアバウトなロングボールを蹴らせることができていました。これはまさに、ポポヴィッチ監督が理想とするところでしょう。しかし柏は慌てることなく対応し、先制点はカウンターからゲット。さらにハーフタイムにはネルシーニョ監督が「ボールをうまくつなげられない時は無理につなぐ必要はない」と指示し、後半は意図的に浅い東京の最終ラインの裏やスペースにボールを送り、東京の守備陣に背走を強いることに成功し、度々チャンスを掴んでいました。センターバックの間に下りて攻守両面で絡むことを求められた高橋が足を攣らせて交代したことは、その証左と言っていいでしょう。結果、この試合に限って言えば柏の熟成された質実剛健なサッカーが東京の初々しい両サイドバックを高い位置に取るハイラインプレッシングを凌駕しました。ただ、それをもって柏が良くて東京がダメ、だなんて言えるはずもないですし、およそ3ヵ月半後に再戦する時に、東京が柏を食ってしまうことだってあり得るわけです。それこそが、サッカーの醍醐味だったりするんですけどね。


 今回はサイドバックについてフォーカスしていろいろ書きましたが、時代によってそれぞれのポジションに求められる役割は移ろいゆくもので、それを見逃すことなく追いかけられたら面白いんだろうなぁと。それを理解しつつ、何故このポジションにこのタイプの選手を置いたのだろう?と監督の意図を読み解き、そこからどういったサッカーを指向しているのか、また、実際にピッチ内においてどういったサッカーが展開されるのかを見ることができたら楽しいんだろうなと思った次第。まあ、そこまで話が及ぶとちょっと小難しいものと、めんどくさい論調になりがちですが、東京に関して言えば、今年は例年にも増した(ともすればJ屈指の)選手層を誇り、それぞれのポジションに異なるキャラクターを複数抱えていることで、別に意識しなくてもそういう見方ができるシーズンになると思っています。例えば、(怪我や出場停止という外的要因がない上で)サイドハーフが石川&谷澤だったり、田邉&河野だったり、はたまた羽生&長谷川だったり、その組み合わせで明らかにポポヴィッチ監督が意図するところが違う、というのはイメージできるといった感じで。なので、次節の相手を見ながらそうやって選手の組み合わせを想像してニタニタするとか、試合開始約2時間前に分かるスタメンを見て、「はー、そうきたか!」とか「ふーん、この試合はこうしたいのかな?」と想像する楽しみが持てるようになりたいなぁと思っておりまする。


P.S ちなみに、内田はステフェンス監督である限り、シャルケで絶対的な信頼は得られないと考えています。なので、もし来シーズンもステフェンス監督のままであるならば、自分の持ち味が活かされる(と想定される)クラブへの移籍も考えた方がいいのかな?と。