続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

分水嶺

 4年ぶりとなるACLの戦い。Jリーグを「日常」と称するならば、「非日常」とも言えるこのコンペティションで――いつの日か、ACLも「日常」と言えるぐらいに、常に参加できるようになるのが夢ではありますが――クラブは様々な経験をし、ファン・サポーターはJリーグ以上に一喜一憂し(私だけ?)、選手起用や戦術面においても、ACLの試合が転機となったこともありました。また、Jクラブを背負って…だなんて大それたことを私自身は考えたことがありませんが、それでも広島、G大阪が力及ばずグループリーグで敗退したことを受け、ラウンド16の戦いは今まで以上に勝利を欲するようになりました。

 そんなラウンド16 1stレグ。スコアは2-1。貴重な、素晴らしい勝利だった一方、アウェイゴールを与えてしまったことがどれほどのダメージになるのか、一抹の不安も残した一戦でした。そんな1stレグを自分なりに振り返ってみつつ、たまにはプレビューみたいなことも書いてみようかと。久々に、中の人がたぎっていると思っていただきつつ、当ブログのプレビューはあまりあてにならないので、お茶請けとしてお読みいただければ幸いです。ちなみに、どうでもいい話ですけど「お茶受け」じゃなくて「お茶請け」が正しいんですね。今の今まで勘違いしていました。

 

 

 1stレグ、両チームのスタメンは以下のとおりでした。

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東京は湘南戦から採用した4-1-4-1。小川が諸般の事情によりベンチからも外れ、サイドバックは右橋本、左徳永のコンビ。また、インサイドハーフに羽生、ウイングに東、水沼とACL主力組を起用し、フレッシュさも注入した11人となりました。対する上海はキックオフ前までどうくるか読めませんでしたが、蓋を開けてみれば4-2-3-1。アサモア・ギャンが怪我により不在も前線は一発のある怖い顔ぶれが揃い、システム的にも中盤ががっちりと噛み合う(東京が逆三角形、上海が正三角形)興味深い形となりました。

 

 さて、上海が立ち上がりどう出てくるか?が大きな注目ポイントだったと思いますが、私の印象は「思ったより前から来るんだな」。攻→守の切り替えが非常に早く、エウケソン、コンカの両ブラジル人も含めた前線から中盤の選手が引かずにアタックをかけていて、ネガティブトランジション時のプレー原則は「即時奪回のためのプレッシング」でした。グループリーグでどう戦っていたかは分かりませんが、個人的には少し面を食らった部分もありました。

 しかし、そのプレスを外された後の守備は決して強固とは言えず。エウケソン、コンカはプレスを外され自分の後ろにボールが行ったところでお役御免(そのまま攻め残り)となり、しかしウー・レイ、ルー・ウェンジュンの両サイドハーフもプレスバックしきれずに、4バック+2センターハーフの6枚で守るシーンが立ち上がりから散見されました。その結果、東京がサイド深くにボールを運んだ際の上海守備陣の対応は、「ボールサイドは数的同数で守りつつ、ボールとは逆のサイドバックが絞ってエリア内を埋める」形が主で、いわば片側(ボールとは反対)のサイドは捨てて真ん中の耐久性を保つやり方を取っていたように見えました。

これにより、真ん中の耐久性はある程度担保されていたと思います。一方で、東京にとっては攻めどころとなるスペースを割と容易に見つけられる状況でしたし、前半の前田のポストプレーはほぼパーフェクトで、どうしても複数人が前田に気を取られることで、収まった次を展開しやすい状況も生まれていたかと思います。試合後に水沼が「2点目はファーサイドにクロスが入ると、相手DFはボールウォッチャーになることは分かっていた」と語りましたが、その前兆は前半からすでにあって、象徴的だったのは11分、22分の2シーン。

11分は、右サイドのペナルティエリア角付近で複数人が絡み、前田のポストプレーからの落としを羽生が受け、逆サイドの奥に意表を突くクロスを上げ、ボールウォッチャーになったDFを尻目に大外から走り込んできた米本が合わせた形。24分は、米本が右サイドをドリブルで駆け上がり、2人を引きつけた上でフォローに入った水沼に落とし、水沼がクロス。このボールもファーまで届いて相手DFがかぶった先で東がボレーを放った形。いずれもシュートがヒットしきれず…に終わりましたが、上海は前述のとおり6枚(頑張っても7枚)で守る中で、あちらを立てればこちらが立たず、捨てた場所も攻められてあわや…という悪循環に陥っていたようにも見えました。

 

 対して、上海の攻撃対東京の守備に視点を移すと、基本的には上図のとおり噛み合うマッチアップ。ボールロスト後のプレッシングで奪い返してそのまま、という場面もありましたが、プレスをかけてとりきれなかった場合、ボールの回復点はおのずと低い位置に。そうなると、ビルドアップかロングボールかの選択になりますが、ビルドアップは両サイドバックを高い位置まで上げ、センターバックセンターハーフで様子を窺いながら前線への出しどころを探る、よくあるパターンのやつ。格段に上手い、というほどではありませんでしたが、東京のプレスを巧みにいなす場面もありましたし、及第点以上のパス回しはできていました。

方やロングボールですが、ビルドアップで詰まった際には迷わず長いボールを出す傾向が見られ、行き先はエウケソンが中心。このシンプルなフィードに対しては森重、吉本、高橋が割と跳ね返せていましたが、厄介だったのがサイドバックの裏へのボール。ウー・レイ、ルー・ウェンジュンの両サイドハーフがスピードで仕掛ける形で優位に立ち、徳永、橋本の両サイドバックはかなり苦労させられていました。私の知人が言っていて「なるほどなぁ」と思いましたが、徳永は右サイドバックとして身体に染みついたボールの追い方や体の入れ方、コース取り――平たく言えば、相手を自分の左側に置きたがる――が裏目に出て対応が後手になるシーンが2、3度ありました。

また、橋本も全北戦ほどではありませんでしたが、やはりサイドバックとしては裏への意識が不足し、一歩先に走られてしまう場面がちらほら。最終的には水際で食い止められていましたが、ここを徹底的に突かれていたら、さてどうなっていたでしょうか?と思う部分ではありました。まあ、上海がサイド深くに上手く入り込むも、クロスの精度を欠いた場面が1度や2度ではなかったのはラッキーな部分でしたかね。

と、決して盤石な守りが出来ていたとは思いませんでしたが、さすがの動きを見せたのは羽生。基本的には対面のツァイ・フイカンを監視しながら、前田がいい追い方をしてくれた時には米本と協力しながら相手の最終ラインにまでアタックする場面があったかと思えば、自由自在に動き回るコンカに対して高橋がついていき、少しバイタルエリアが空きそうになればスッとスペースを埋め、サイドバックが苦しんでいればきっちりヘルプに入る働きぶり。この「全方位型適切ポジショニング」は羽生の真骨頂ですが、それでも久々にいい意味で目立つ動き回り方をしていて、ありがたみを感じ続けたところです。

 

 こうして、お互いがやりたい攻撃の形をぶつけ合い、守備陣もなすすべなくやられるところまでは行かず、大事な部分はギリギリ守れていて、いい意味での緊張感がスタジアムを支配。40分も近づくころに、私は「まあ、0-0は決して悪い展開ではないから、これでいいか」なんて思いながら前半の終盤は試合を見ていました。

 が、なんとびっくり前半のうちにスコアが動きます。41分、右CKを得ると水沼のボールはファーまで飛び、こぼれを拾った橋本がシュート。これがエウケソンの手に当たりフリーキックを得ると(リプレイで見たら、完全にエリア内でしたが(苦笑))、水沼が鮮やかに――壁に入った高橋がキム・ジュヨンとの駆け引きに勝ったことも味方して――決めました。望外な1点とまでは言いませんが、試合展開を考えれば非常にいい時間帯での得点で、ただでさえ今季のホームゲームではベストとも言える高揚感を隠せなかったスタジアム全体がよりポジティブな空気に包まれて、前半を終えることができました。

 

 後半。録画を見返すと、意外と前半30分すぎから上海が上手くボールを持つ時間を増やしていて、その流れのまま入りから上海ペース。また、G+で解説していた北澤豪さんは「ウー・レイとルー・ウェンジュンが絞り気味にポジションを取り、中で仕事をしようとし始めた」と解説していましたが、なるほど失点シーンは、コンカのスルーパスに反応して中から抜けていったのがルー・ウェンジュンで、シュートのこぼれ球につめて押し込んだのがウー・レイ。先ほど、前半は2人が外を崩してもクロスの精度が…と書きましたが、ならば中で仕留める役割に変え、外はサイドバックに任せようと切り替えたエリクソン監督の采配と、それに応えた選手たちの理解度の高さは、冷静に見返すと脱帽の一言でした。

 ただ、今まであればこれでしょんぼりしてしまってもおかしくない流れだったにもかかわらず、この日のスタジアム全体は依然ポジティブな空気感であふれ、選手たちも誰一人下を向かず。久々にその場しのぎではなく、90分トータルで試合を捉えられている選手が多かったことによる前向きさだったと思っていますが、この失点で決して受け身になることはありませんでした。

その姿勢が実った勝ち越しゴール。徳永がクロスを上げた瞬間、エリアの中には5人も入り(ニアに阿部と羽生、センターに前田、ファーに水沼と橋本が同タイミングで走り込み)、徳永のボールも前半から危うさを隠せないでいたファーへのもの。これまでならサイドをうまく崩しても中に1、2人しかいない場面がよく見られていましたし、両サイドバックがともにアタッキングサードに入ることもほとんどなかったと思いますが、この場面では全員の意識が噛み合い、うねるようにゴールに迫れていて、水沼のシュートがネットを揺らした瞬間は、ちょっと興奮を抑えきれませんでした。

 

 それでも、時間はまだ65分。アウェイゴールを与えているだけに3点目を取りに行くのか、それとも2失点目だけは絶対に与えない方向に舵を切るのか。城福監督の采配と選手たちの意識がどちらに行くのか期待と不安半々で見ていました。

 失点後、上海は再び両サイドハーフを絞り気味にする形に変えてきました。その中で、コンカはあらゆるポジションに顔を出し、東京の守備の焦点をぼやかしにかかります。対する東京は、引くのではなく前から行き続ける選択を取ります。しかし、リスクを負った上海の攻撃は強力で、かつ、システム的なギャップも生じることとなりました。

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 そんな状況下で城福監督が手を打ちます。すでに62分に東→阿部の交代はしていましたが、78分に水沼→田邉の交代をし、システムも4-4-2に変更します。試合後にツイッターなど見ていると、この変更は賛否両論ありました。

 スタジアムで見ていたときは、細かいあれこれを把握できていなかったので、単純に「4-4-2のローラインブロックディフェンスという考え方は妥当だな」と考えていました。録画を見ながらでも、アンカー周りのスペースを自ら消し、明確に2センターハーフにしてローラインにする方が選手はやりやすいかな?という見方ができ、やはりこの采配は妥当な選択だったと言えます。

 一方で、より録画を冷静に見てみると、4-4-2にしても前から取りに行こうとする姿勢は変わらないまま。それにより、高橋・米本コンビはお互いの位置を見ずに突貫してしまう悪癖をのぞかせていて、アンカー周りのスペースを消すためだと思った手が、むしろ相手に美味しいエリアを与えてしまい、結構しんどいラスト10分だったことが見て取れました。システムを替えてどうするかが伝わりきらなかったのか、選手たちが意思統一しきれなかったのかは分かりませんが、これで同点に追いつかれていたら完全に悪手になったところ。なにはともあれ、最後までヒヤっとするシーンは作られましたが、何とかこのまま逃げ切り、前半の90分を終えました。

 

 

 さて、この戦いを受けての2ndレグ。コンディション面では、1週間空いた東京が、先の土曜日も試合を行った上海より圧倒的有利。しかも、上海は主力を休ませなかったようですし。ここから注目ポイントを探るならば、「上海がどの時間に仕掛けてくるか?」でしょう。

先制点が持つ影響力がいつも以上に大きい試合で、お互いに先制点が欲しいけれど先制点を与えたくない中、体力的にフレッシュで、ホームの声援を受けて勢いが最もつくであろう前半の立ち上がりからくるのか、それとも立ち上がりは東京の出方を窺いつつ息をひそめ、試合が少し膠着するであろう20分過ぎからグッとギアを上げてくるのか、はたまた、前半はそれとなくやり過ごして、後半の頭に勝負をかけるのか。1-0で勝ち上がれるエリクソン監督から見れば、実はプランを練りやすいシチュエーションでもあり、私が上海の監督なら…立ち上がりはブロックディフェンスで様子見、20分過ぎから前プレをかけ始め、あわよくばショートカウンターから前半のうちに先制点というプランを取りたいところですが、果たしてどういう選択をしてくるのか、まずは楽しみにしたいところ。

 対する城福監督が考えるべきは、「複数のシチュエーション」。勝てば文句なしで、引き分けでもOK。負けたとしても1-2なら延長で、2点取れればアウェイゴールの差で勝ち上がれる可能性が高い中、想定すべきシチュエーションは多岐にわたります。もちろん、最優先事項は先制点奪取ですが、仮に先制点を奪われたとしてもそこが世界の終わりでは全くなく、90分トータルで見て常に冷静でいる必要があり、そのためには、早い時間でリードした場合、中盤以降でリードした場合、0-0がしばらく続いた場合、前半で先制点を奪われた場合、後半で失点を喫した場合など、如何に選択肢を多く持っていられるかが大事。J3とのやり繰りがあり、ベンチメンバーの選択肢も限られてはきますが、かつて09年にナビスコカップを制した際、決勝トーナメントでことごとく「週中の準備・想定が試合でどハマり」したように記憶していて、その「準備力」がここでも発揮されるか、注目されます。

 

 もう少し具体的な、戦術面での注目点を挙げれば、1つ目は「前田をめぐる攻防」。1stレグ前半は、とにかく前田が出色のパフォーマンス。2点目のシーンを筆頭に「アンカー高橋の存在が後ろの押上げを促した」という評価が多数目につく中、私は「前田が収めてくれる!という安心感が動き出しを半歩早めてくれた」と感じていて、少なくとも前半は後者により攻撃が円滑に回っていたと思っています。ただ、後半になるとさすがに上海も手を打ち、ただ単にCBに競らせるのではなく、センターハーフもしっかりプレスバックしてサンドすることを徹底し、前半ほど前田の存在感は際立ちませんでした。

 4-1-4-1で臨む東京にとっては、前田を孤立させることなく、2列目の4人と上手く連動して、攻撃に迫力を出したいところ。一方で上海は、前田をうまく封じて、東京の攻撃を単発にさせたいところ。ここのせめぎ合いで、どちらが先に主導権を取れるのか。また、主導権をとるために双方がどのような手を打ってくるのか。ここは試合を通して注目してみたいところです。

 

 2つ目は「東京サイドバックの裏をめぐる攻防」。ウー・レイのスピードは、分かっていたつもりですけどかなりのものがあり、ルー・ウェンジュンもタイミングの良さで何度か裏を取ることができていました。それでもなんとか、1stレグは徳永・橋本が走り合いの末、ギリギリでプレーを一部制限することができましたが、明日も90分間「対処療法」だけで乗り切れる保証は全くなく、根本的にどうするのかを考える必要は生じました。

 ものすごく乱暴に言えば、最終ラインの高さを落とせばいいだけの話なんですが、しゃあ1stレグがそこまでハイラインだったかというと決してそんなことはなく。また、試合の終盤はその可能性があれど、立ち上がりから城福監督がベタ引きを選択するとも思えず。その中で、もっと出所にタイトにあたり「出させないこと」を意識するのか、それとも、出されることを前提に「出された後」をチーム全体が意識するのか、城福監督がどう手当てしてくるのか、注目してみたいと思います。

 

 3つ目は「1stレグの後半に見せた上海の形に対する東京守備陣の応対」。試合開始から絞り気味の3トップ+自由自在なコンカという形を取ってくるかは分かりません。この形を取るためには、サイドバックに高い位置を取らせる必要があり、それだけリスクを負わなければいけないので。しかし、必ずゴールを奪わなければいけない中で、エリクソン監督は必ずこの手を打ってくるはずです。

 極端な応対としては、絞った両サイドハーフインサイドハーフを下げてつけ、コンカには高橋がマンマーク気味につく形になりますが、さすがにあまりに受け身な形。となると、両サイドバックペナルティエリア幅まで狭めて中を破られることを防ぎにかかり、中盤の3枚も意識を後ろに傾けるやり方がベタでしょうか。いずれにせよ、1stレグで押し込まれる原因となった上海のやり方にどう立ち向かうかは、見逃してはいけないポイントになると考えます。

そのほかにも東京の攻撃で言えば「相手左サイドの攻略(4ワン・シェンチャオがCBタイプなのか、サイドバックとしては守備が怪しかった)」、東京の守備で言えば「コンカ対策(高橋がどこまでついていくのか、下りて受けに行った際に誰がどう見るのか)」など見どころはありますが、個人的にはこの3点に特化してみたいと思っています。

 

 

 Jリーグで思ったような結果が出ていないなか、城福監督が対外的に求心力を失い「きらずに」ここまできたのは、一にも二にも、ACLでの結果がモノを言っています。明日の試合がそのまま城福監督の進退に直結するとは思いませんが、明日の試合が今後のチーム運営、城福監督へのもろもろに大きな影響を及ぼす「分水嶺」になることは避けられないでしょう。試合が始まってしまえば、周りのことは関係なく試合に集中するだけですが、終わった後に前向きに進むことができる結果が出ていることを、今は切に願うばかりです。