続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

Pain for Glory

 突然ですが、皆さま「世界三大スポーツイベント」ってご存知でしょうか?一つはオリンピック、一つはサッカーワールドカップ、そして、もう一つがツール・ド・フランスと言われています(3つ目はいろいろな意見があるようですが)。

 フランス全土+αを23日間、自転車一つで駆け巡って争われるサイクルロードレースの大会の1つで、5月にイタリアで行われるジロ・デ・イタリア、8~9月にスペインで行われれるブエルタ・ア・エスパーニャと並んで「三大グランツール」と呼ばれるビッグレースの中でも、特に伝統と格式を併せ持ち、世界中のファンの目が注がれるのがツール・ド・フランスです。

 サイクルロードレーサーにとって憧れの舞台であり、年に一度、その舞台にチーム代表として立てるのはわずか8人(昨年までは9人だったので、より狭き門に)。また、平坦なステージでゴール前のつばぜり合いに勝負をかけるスプリンター、山岳が複数あるステージで、坂を登るタフさと下るテクニックを兼ね備えて勝負するクライマー、その中間…というのは正確ではありませんが、比較的オールラウンドな能力を持ち、コースレイアウトや展開を機敏に感じながら勝負するパンチャーやルーラーと、選手には各々、別々の持ち味があります。

 そのうえで、年間で設定されている21ステージは平坦、丘陵、山岳、タイムトライアルなど様々な顔があり、チームによって「我がチームはこのステージでこの選手を勝たせたい!」という戦略があり、道中では転倒やマシントラブルなど予期せぬ出来事もあり。つまるところ、すべての選手がすべてのステージで優勝を狙いに行くことは事実上不可能。そう考えると、ステージ優勝を果たすことは非常に難しく、非常に尊いことであると言えるでしょう。

 

 今年は今まさに行われており、今日まさに前半戦の山場となる第12ステージが行われているところですが、一昨日の第10ステージでステージ優勝を果たしたジュリアン・アラフィリップは、レース後にこんなコメントを残しました。

ずっと心の底からツールの区間勝利が欲しかった。走りながら今まで積んできた練習や、家族のことを考えた。病気の父のことも。父がTVでレースを見ているに違いないと思えば、僕もどれだけだって苦しみを耐えることが出来た。でも、まあ、僕は苦しむのが好きなんだ。今日はだから思いっきり苦しんだ。

 フィニッシュラインを先頭で駆け抜け、チームスタッフに祝福を受けるアラフィリップは、人目もはばからず涙を流しました。一フランス人として、一サイクルロードレーサーとして、これまでの良きも悪きも苦も楽も、すべてをひっくるめた感情がその涙となったことは、想像に難くないところ。このステージ、たまたま眠気にも負けずフィニッシュまで見ていましたが、そこまでサイクルロードレースに造詣が深くない私でも、その涙にグッとくるところはありました。

 

 

 苦しむのが好きだ。そう言い切れる人間は多くないでしょう。少なくとも私は好きではありませんが(苦笑)、苦境にあえぐ彼らが今、どんな心境なのか聞いてみたいところでありまして。

 彼ら…とは、FC東京U-18の面々。今年もユース年代の頂点リーグであるプレミアリーグEASTで戦っている彼ら。東京U-18は一昨年が2位、昨年が優勝と成果をあげてきたものの、今年はここまで1勝3分け5敗、勝ち点6で降格圏内の9位。私はこの9試合中2試合しか見ることができていませんが、この2試合に限れば、間違いなく苦しんでいます。

 第4節、鹿島ユース戦。そこまで1勝1分け1敗。ここで勝ち点を奪えれば上昇気流に乗ることも可能かな?と思いながら試合を見ていましたが、結果は0-1の敗戦。内容も、良く言えば質実剛健な、ちょっと意地悪く言えば手練手管な、けれどトータルでは「やるべきことを、しっかりとやる」ことができていた鹿島ユースに対し、東京U-18はどこか一体感がなく、各々の力が足りていないのか、出せていないのかは測りかねましたが、全体的にパワー不足な印象を受けました。

 その後も勝ちを掴めず、トータル3連敗で迎えた第7節、浦和ユース戦。プレーに明らかな影響が及ぶほどの強風の中、前半は風下ながら浦和ユースを押し込み、2-0で折り返します。

鹿島ユース戦から半数メンバーが変わっていましたが、13宮田、11今村の2トップから始まる守備は及第点以上のものになっていて、攻撃面も風の影響でやや単発なところこそありましたがサイドアタックに向上が見られ、3分の9鈴木、40分の11今村のゴールは、いずれもサイドが起点となったもの(2点目はカウンターでしたが)。ハーフタイムには正直、「今日はいける」と感じていました。

 しかし、エンドが変わり、風向きも変わった後半、試合展開まで真逆になります。浦和ユースは前半から長身のFWへシンプルに当てる攻撃が目立っていて、後半も大きくやり方が変わったわけではありませんが、受ける東京U-18側が、自らが後手に回ってしまうシーンが増え始め、ペースはじわじわ浦和ユースへ。何とか水際で食い止めるところもありましたが、結局63分、84分に失点し、2-2のドローで勝ち点3を掴めませんでした。

 勝ちに結びつかない理由がどこにあるのか?答えは一つではないでしょうけど、どうしても勝てていないことから来る自信の無さは隠せていなかったと思います。今季のトップチームが勝ちながら自信を掴み、自信を確認に変えながら勝ち点を積み重ねている様とは、あまりにも対照的。勝つことでしか解消されないこのジレンマは、見ていて心苦しいところがあります。

 それでも、佐藤監督からは前向きな言葉が徐々に聞かれるようにもなっています。東京U-18はおおむねどの試合後も、ピッチ上で円を組み、佐藤監督が選手に向けて言葉を発します。その場では鹿島ユース戦後も浦和ユース戦後も、端々で語気を荒げ、選手たちを叱咤する場面が見られましたが、浦和ユース戦後のマスコミ・ライター向けの囲み取材では必ずしもネガティブ一辺倒ではなく、ポジティブな思いもしっかりと言葉にしていました。

 詳細は後藤勝さんのWEBマガジン(トーキョーワッショイプレミアム)にて紹介されており、かつ佐藤監督のコメント部分は有料会員向けとなっているのですべてを引用することはできませんが一節だけ、すごく印象的なフレーズだけ引用させていただきます。

ここ数年、苦労するシチュエーションが少なすぎた(中略)うまくいくだけがいいチーム(の条件)ではないと思うんです。苦労を重ねていくことも大事な要素。これはこれで、われわれの歴史のなかで、飛躍するためにとてもありがたいものだと捉え、選手たちが進む先を切り拓いていけるようにしていきたい。

(トーキョーワッショイプレミアム 7月2日配信分より引用)

 同じニュアンスのことを、選手に向けてどのような言葉で伝えているかは分かりません。しかし、苦しい状況から逃げず、厳しい現状を打破しようとする気概はこれっぽっちも失っていない。そう、想像することはできます。

 

 

 そんな状況のなか、週末からは全国大会、全日本クラブユース選手権(通称「クラ選」)が始まります。この大会、東京U-18は目下連覇中。昨年に引き続き、今年もディフェンディングチャンピオンとして大会へ臨むこととなります。

 もちろん、世代は変わりました。今の3年生はこの連覇を目の当たりにしてきたわけですが、残念ながら全国大会での場数が多いとは言えません。今年のメンバーに、昨年の岡庭キャプテンが発した「王者のメンタリティ」を求めるのは、酷なのかもしれません。

 それでも、先輩たちが勝ち上がっていった姿、発してきた言葉、見せてきた態度、築いてきた歴史、なによりも東京U-18の一員としてのプライドを携えてタイトルにかけてきた想いは、2年生以下も含めて全員の頭の、心の中にどこかしら、何かしら残っているはずで。

 ならば私は、そうした想いを「覚悟」に変えて、結果にとらわれず今できる100%を表現してくれるみんなが見たい。そう思っています。その覚悟が後押しとなるか、重荷となるかは分かりません。でも、どちらに振れるにせよ、その振れた先が今の自分なわけで。そんな自分と向き合って欲しいとも思っています。

 

 

 最後にもう1つ。世界的テニスプレイヤーであるラファエル・ナダルが、度重なる怪我から見事なカムバックを果たし、17年8月、再び世界ランキング1位に返り咲いた際に発したこの言葉を。    

 今出ているどの選手よりも、私がああいった立ち位置(筆者注:怪我による欠場)を経験してきた。それがどれだけタフなことか私は知っている。(けがをした)みんなのことは非常に残念に思うし、素早く良好な回復を祈っている。

 キャリアを通して大きな大会を何度も欠場してきたのは、トップ選手では私一人だ。ほかの誰よりも、それがどれだけ大変なことか知っている。でも、こういったことが起きたときにできるのは、たった一つ。受け入れ、前に進み続けるということだ。

 さあ、顔を上げて。さあ、胸を張って、苦しみすらも糧にして。全国の舞台で己を出し切って欲しいと願っています。