続々々・メガネのつぶやき

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09−10 その19 マンチェスター・U−ヴォルフスブルク

 初戦はともに勝ち点3を奪ったものの、辛勝だったマン・Uと快勝だったヴォルフスブルク。この勢いの差が実力差を埋めることになったのかどうか。9/30の試合でした。
マンチェスター・U 2−1 ヴォルフスブルク
スコア:56分 E・ジェコ(ヴォルフスブルク
     59分 R・ギグス(マン・U)
     78分 M・キャリック(マン・U)


 立ち上がりからマン・Uはどことなくぎこちないというか、入り方を間違えたような印象を受けました。解説の粕谷秀樹さんも仰ってましたが、どちらかというと「メンバー固定>ターンオーバー」というイメージがあったマン・Uが、今季ここまでは積極的にターンオーバーを活用していて、この日も直前のリーグ(ストーク)戦から5人*1を入れ替えて臨んできました。それが影響したとは一概には言えませんが(降りしきる雨の影響で、ピッチコンディションに対してナーバスにならざるを得なかったですし)、立ち上がりから軽率なパスミスが目立ち、しかもそれがDFラインの選手に多く見られたことで、みすみすヴォルフスブルクにペースとチャンスをあげてしまっていたかなぁと。
 そのヴォルフスブルクブンデスリーガの開幕戦を見た際の印象は、正直ポジティブなものではありませんでした。しかし、この日は好印象。前述したようにマン・Uがおかしかった点は差し引く必要があるでしょうけど、開幕戦で見られた「攻守完全分業制」は影を潜め、1ボランチを務めるジョズェを中心とした丁寧なビルドアップや、シェーファー、リーターの両SBの積極的なオーバーラップが数多く見られ、そこにもともとの持ち味であるジェコ、グラフィッチの速さと強さ、ミシモビッチのテクニックが加わり、多彩な攻撃を展開できていたと思います。長谷部、ゲントナーの両SHのバランス感覚もなかなか良かったですしね。まあ、恐らくですけど「あまりリスクは冒すな」という指示があったはずなので、普段のリーグ戦に比べたら大人しい感じだったんでしょうけどね。
 てなわけで、ヴォルフスブルクがアウェーながら完全にペースを握って試合が進んでいたんですが、その流れが変わったのが20分のオーウェンベルバトフの交代。もともと具合の良くなかった鼠径部を傷めてしまったためのアクシデンタルな交代でしたが、ベルバトフが入って1、2プレーで一気に主導権がマン・Uへと傾きました。個人的にその理由を考えてみましたが、8/29のアーセナル戦での感想も踏まえた結論としては「ベルバトフは『作れる』選手、オーウェンは『作ってもらう』選手である点」が影響したんではないかと推測。というのも、そこまでの20分間のマン・Uは攻めの狙いが全く見て取れず、「とりあえず」というプレーばかりでした。とりあえず2トップにとか、とりあえずサイドのスペースにとか。しかし、ベルバトフが入ってからは、ベルバトフが巧みなポジショニングでボールホルダーに対して顔を出してそこにしっかりとボールが収まることで、もっと言えば、実際に収まるかどうかは別として「預けどころ」が生まれたことでチーム全体に信頼感と流動性が出てきたことで選手間の距離もいい距離感になり、また各選手の次のプレーへの動き出しも早くなったために、テンポのいいパス回しやスペースへのフリーランニングの質がグッと増えていったように感じました。まあ、オーウェンがダメと言ってる訳ではなくて、あくまで「タイプの違い」と「相手との噛み合い」の問題です。で、逆説的にベルバトフ以外のFW+MFのところでゲームをコントロールできる選手がいない、あるいは、チームとしてゲームを作れていないのでは?という疑問も浮かんできたんですけど、そこに話が及ぶと長くなりそうなので、それはまた機会があれば。とにかく、ベルバトフ加入がきっかけでマン・Uが一気にペースを奪い返して前半を終えました。


 後半もそのままマン・Uペース。なぜかベルバトフが時間を追うごとに消え始めたのだけが今考えてもよく分からないんですけど、このままだとマン・Uが点を取るのも時間の問題か?と個人的には思っていました。しかし、意外にも先制したのはヴォルフスブルク。そして、演出したのは長谷部でした。
 この流れで長谷部についての印象を書いてしまいましょう。開幕直後は怪我の影響もあってか出番はかなり限られたものでしたが、同ポジションのライバルであるジアニが今一つ冴えない(らしい)ことも含めてここに来てフェー監督の信頼を勝ち得たようで、スタメンで使われるようになってきました。しかし、CL初先発で、しかも舞台はオールドトラッフォード。正直どこまでできるかは半信半疑なところがありました。実際、瞬間的なスピードでエブラやアンデルソンにおいていかれるシーンであったり、もっとコンタクトプレーを多くしていいかな?という点で見劣った部分や、簡単なボールロストはありましたけど、トータルで見ればよくやってくれたんじゃないでしょうか?左のゲントナーもそうですけど、マガト監督時代からこのチームのSHは「まず守備」みたいで、ジョズェと協力してバイタルエリアを埋めるであったり、SBが上がっていった際のカバーリングを怠らないであったり、相手のSBの上がりを牽制する守備であったりといった感じで、実際この試合でもそういった働きは十分にこなしていました。その上で、プラスアルファとしてどれだけ攻撃に貢献できるかが、ヴォルフスブルクというチームがどこまで戦えるかという点においてキーポイントになると個人的には見ています。前半はゲントナーが非常に攻撃的な振る舞いを見せていて、その分長谷部は普段以上にバランスを取る役割に腐心した印象で、攻めにおいてはほぼノーインパクトに終わりました(逆に守備はよくやってたかと)。しかし、後半になると一転して長谷部が攻めで目立ち始めていました。この辺がチームオーダーなのか、それとも個人の判断なのかは分かりませんが、前線でジェコ、グラフィッチが上手くタメを作っている間にスルスルッと上がってきて、いつの間にかエリア付近にいたというシーンが何度か見られ、それが結果に表れたのがゴールシーンだったのかなと。そのシーンですが、敵味方がもつれ合って倒れて、周りのほかの選手がセルフジャッジで一瞬足が止まったところを見逃さなかった点も素晴らしかったですし、ジェコがファーサイドで(フリーとまでは言いませんが)いいポジションを取っていたのを瞬時に確認して、腰のひねりだけで上げたクロスの質もよかったんじゃないかと(それに合わせたジェコのヘディングの逞しさがまた凄い)。73分で退いたことに関しては「もったいない…」とか「何しとんねん、フェー!」という声もあるでしょうけど、交代を確認してピッチを後にする際の表情や息遣いを見る限り、私はこの時間が体力的に限界だった=妥当な采配だったと思います。このパフォーマンスなら、今後もジアニを差し置いて右SHのファーストチョイスとして出番はもらえるでしょう。次も期待です。
 話を試合に戻して、これで試合は面白くなったなぁ…と思ったに同点ゴールが生まれ、ここからの(正確には前半から目立ってはいましたけど)主役はギグスでした。まず同点ゴールのFKですが、これはなぜか隙間を作ってしまった壁側のミスでしたけど、それが入っちゃうんですからやっぱり何か持ってるわけですよね。その後もスピード感こそないものの、ポジショニングと間合いで抜き去ってしまうドリブルや多彩な種類のキックで攻撃を牽引し、78分にはキャリックの逆転ゴールもアシスト。このシーンも、一度はベルバトフからのパスと動きが合わずにボールが流れかけたんですが、瞬時に体勢を立て直してマイボールにし、かつエリアのちょい外でフリーになっていたキャリックを見逃さなかった素晴らしいアシストでした。もう36歳ですけど、程よい休養と新たなプレーエリアの開拓により、昨シーズンあたりからまた成長というか、格も質も上がってるんじゃないかとさえ思うほどで、その存在感にはただただひれ伏すのみですよ。FC東京の石川には、ホントギグスみたいになってほしいし、今季はまさにギグスみたいな「セカンドステージ」の第1歩を踏み出せていると思うので、ホントに期待したいです…って話が大きく逸れましたね(笑) この後ヴォルフスブルクマルティンスを投入して同点を目指しますが、フレッチャーを入れて中盤の守備力を厚くしたマン・Uが無難に試合をクローズさせて、勝ち点3を得ました。


 マン・Uについては、上でもちょっと書いたとおり、メンバーチョイス次第では攻撃の迫力が一気に減退する可能性を秘めていることが不安点としてあげられると思います。ただ、C・ロナウドテベスというワールドクラスのアタッカーが抜けたわけで、今はまだ新たな攻撃メソッドを構築している段階という捉え方もできると思うんですよね。そう考えれば、今ターンオーバーを積極的に活用していることにも説明がつきますし、マン・Uほどのチームになれば真の勝負は年を越してからなわけですから、今は大きく勝ち点を落とさない程度にいろいろやってみることが間違いだとは思わないですね。そして、マン・Uでそれができてしまうファーガソン監督ってのは、やっぱりアンタッチャブルな存在ですわ。
 一方のヴォルフスブルクですが、悲観する内容ではなかったかと。8月に見たときよりは確実にチーム全体でゲームを運ぶ術を覚えてきた印象ですし、攻撃に関して言えば、今後はゆっくりやるところと早くやるところの使い分けを上手くできるようになれば、ますます脅威になるでしょう。リーグ戦で7試合14失点と崩壊気味の守備も、長谷部とゲントナーがこの試合ぐらい上手くバランスを取ってくれれば、徐々に改善していけるんじゃないかと。連敗スタートのベシクタシュ相手に勝ち点4取れれば、グループステージ突破も現実味を帯びてくると見てます。

*1:フォスター、スコールズフレッチャー、ナニ、ベルバトフ→クシュチャク、キャリックアンデルソンギグスオーウェンの5人