特長は存分に伝えられているものの14位と結果が伴わない千葉。対して、特長がしっかりと結果にも伝わっている首位福岡。砂塵が飛ぶバッドコンディションの中、千葉がホーム負けなしを継続したのか、福岡が首位を堅持したのか。
続きを読む残酷な数字のテーゼ
今季のJ1も12~13試合、約1/3が終了しました。東京はここまで6勝3分け4敗(19得点13失点)で7位。暫定ではありますが首位柏との勝ち点差はまだ6ですし、1試合1得点以上かつギリギリ1試合1失点と、表面上は及第点を与えてもいい結果を残しています。
しかし、多くのファンは「一向に内容が良くならない…」と感じているのではないでしょうか。私もその一人で、水曜日に行われたルヴァンカップ・清水戦終了後には、こんなツイートをしてしまいました。
この間の甲府戦は見てないからあれだけど、見た中では今季ワースト。断然ワースト。
— どなるど (@B_F_F_H) 2017年5月31日
戦術はないのは分かりきったことだけど、個の強さはない、巧さも丁寧さもない、走りの強度も量もない、なにより躍動感がこれっぽっちもない。なんだこれ。ほんと、なんだこれ。もうふて寝だ、こりゃ。
戦術面で深掘りする要素が少ない、引き出しが多くないことは、当ブログでもたびたび書いてきました。なので、(大事な部分ではあるんですけど)重ねて「戦術が~」とのたまうつもりはありません。ただ、それ以外の部分でもあまりに何もない試合。普段そこまで試合中に文句を言うタイプではない(と思っている)私も、先の清水戦に関してはテレビの前で不満ばかりが募って、ぶつくさ文句を言いながら試合を見ていました。
そして試合後、選手は各々思う「足りない部分」をコメントしましたが、まあそれが絵に描いたような各々具合。チーム内では今、何がやれていて何がやれていなくて、何を伸ばして何を補えばいいのか、意思統一が図られていないのでは?と勘繰りたくなるほど、見通しは明るくない状態だと言わざるを得ません。
では、どうしたらいいのか…を漠然と考えてもただ不満を書き連ねるだけになりそうなので、今日は久々にデータを自分なりに分析して、自分の中での客観と主観をすり合わせてみて、その上で何か見えてくるものがないか?ってことにトライしてみようと思います。昨季篠田監督が就任して指揮したのが12試合、今季がここまで13試合と試合数も並びましたしね。データは当ブログではおなじみ「フットボールラボ」より。
まずは、いきなりスタッツの表から。なお、14,15年はシーズン通して、16年は篠田監督就任後の12試合、17年は今季ここまでの13試合の平均となっています。
参考までに、フィッカデンティ監督時代の14、15年のデータも併記しましたが、ゴール数がほぼ横ばいな中、その他の攻撃に関する数字が軒並み悪くなっていることが見て取れます。
例えばシュート数。なんと平均が2ケタに届かず、順位も16位と当然下の下。また、昨季の篠田体制下より約2本減っていて、同時に枠内シュート数も平均1本減少。さらに、上記の表にはありませんが、チャンス構築率7.7%(攻撃回数127.1回÷シュート数9.8本)もリーグ16位と、全く攻撃のスタッツは奮いません。
それでも得点数が6位なのは、ひとえにシュート成功率の高さ(13.3%でリーグ3位)のおかげ。言うなれば、昨季は「チャンスはそこそこ作るけど、決めきれない」状況だったのに対し、今季は「そこそこ決めているけど、チャンスはあまり作れていない」状況。これは、私の中では客観的イメージとリンクする数字だと感じています。
では、チャンスを作れていない要因はどこにあるのか?に視点を移しますが、数字から読み取れるのは、
1:ボール支配率は上昇、けれどパス成功率は低下
2:攻撃回数は微増、けれど敵陣30m進入回数は減少
3:クロス本数は横ばい、けれどクロス成功率は低下
の3点でしょうか。
1について。ボール支配率49.6%は昨季より3.2%上昇し、パス本数も微増。正直、ここまでボール持てていますかね?という印象は拭えませんが、そうらしいです。しかし、パス成功率は3.1%ダウンし、パス成功率には全くこだわっていなかったフィッカデンティ時代と変わらない数字にとどまっています。と、ここでパスに限定したスタッツの表も作ってみたので、合わせてご覧ください。
方向別に見ると、前方向へのパス成功率が3.5%ダウン。また、自陣パス本数・割合とも昨季より増えているなか、こちらも成功率は3.2%ダウン。さらに、ロングボールの割合が昨季より0.9%とわずかに増え、成功率は6.2%と大きくダウン。結果、これらの数字から仮説として導き出せるのは、結局のところ皆さんのイメージとほぼ重なるであろう「自陣でのビルドアップ、どうしようもない説」になってしまいます。
少し目線を変えますが、フットボールラボ内に「パス交換のトップ10」が記載されています。これは「誰から誰に、何本パスが出されているか?」を集計したものですが、今季ここまでのトップ10は以下のとおりになっています。
現代サッカーにおいて最終ラインの選手のパス本数が増えることはもはや定説であり、上位がディフェンダー同士のパス交換であることに驚きはありません。とはいえ、パッと見気になってしまうのは「森重と高萩の登場回数の少なさ」でしょうか。
丸山が出し手、受け手ともに複数回ランクインしているのに対し、森重は出し手で2度、受け手では1度しかランクインしていません。もちろん、最終ラインは左のユニットが丸山・太田でほぼ固定されている一方、右はサイドバックが室屋と徳永の半々起用で、その影響により森重⇒徳永の組み合わせがランクインしていないなどやむを得ない部分はあるでしょう。
しかし、丸山⇒高萩が入っているのに森重⇒高萩が入っていない、あるいは丸山⇒林が入っているのに森重⇒林が入っていない点は、やはり解せません。森重⇒高萩に関してはある理由が思い当たり後述しますが、丸山⇒林があるのに森重⇒林がないのは、森重が「キーパーも使ってビルドアップするやり方」があったとしてそれを守っていないか、単に気まぐれすぎるかしか理由がないですし。
そんな森重、どうも私は今季「ロングボールを出す回数、増えてません?」と感じています。しかも、チームとして狙いがあるならまだしも、大半はビルドアップに詰まって仕方なく…という場面。まあ、丸山も大概と言えば大概ですし、サイドバックが狙いどころにされて逃げのロングボール…という場面も目立ちます。いずれにしても、ビルドアップの手順・約束事が植えつけられていない、あるいは徹底されていない結果、相手の前プレに屈してロングボールに逃げる。それにより、ロングボールの成功率が大きく落ちていることは間違いないでしょう。
そして、高萩。怪我で3試合欠場していたとはいえ、現時点で出場時間数はチーム7位。かつ、「高萩のチーム」と言っていいほどのオーガナイズぶり、存在感があるので、もっとランクインしていると思っていました。しかし、結果はご覧のとおり、受け手、出し手ともに登場は1度だけでした。
その相手は丸山、太田ですが、これはビルドアップ時に高萩が最終ラインに落ちる際、間に入るというよりは左サイド(丸山の横)に落ちる場面がほとんどで、その結果左サイドの丸山・太田とのパス交換が増えている、と見ていいでしょう。森重⇒高萩がランクインしていない理由もここにあるかと。
それでも、紛いなりにも「ビルドアップやっていきたいっす」と言いたいのであれば、高萩含めてセンターハーフ陣がこれほどボールに絡まない、最終ラインからボールを受けられていない、あるいは最終ラインがセンターハーフにボールをつけられていない結果になっているのは、「いや、ビルドアップ全然できてないし」と苦笑いするほかありません。
2について。フットボールラボ内における攻撃回数とは「ボールを保持してから相手チームに渡る、もしくはファウルやボールアウトで試合が止まるまでの間を1回」とカウントし、それを90分集計したものですが、昨季より2.3回とわずかながら攻撃回数が増加している一方、敵陣のゴールラインから計測して30m以内に進入した回数は3.5回減少しています。言い換えれば「ボールは持っている。けどアタッキングサードに入れない。だからシュート数も減った」わけです。
この要因を探るにはもう少し深いデータが必要になりますが、調べる限りの数字から論を出すとすれば、
・ロングボールが増え、けど成功率が下がったことで、30m以内にボール入らない
・敵陣でのパス割合が減り、かつ成功率も微減したことで、30m以内にボール入らない
・ドリブル数が減少していて、30m進入への手立てがパスに偏っている
あたりになります。ロングボールについては前述のとおり。自陣と敵陣でのパス割合がほぼ50:50になったのは、ビルドアップ時に後ろが重たく、ロングボールに逃げてしまうことも相まって自陣でのパスが増えてしまっている。また、ドリブルでつっかける場面がサイドに限られ(これはあくまでも私のイメージ)、相手の嫌がるところでは出せていない。結果、どうしても30m手前でボールを相手に渡すことが増えているという見立てです。
さらに、ポストプレー成功率や敵陣空中戦の勝率はフットボールラボでは分かりませんが、前田が思っているほど収められていないとか、大久保が良くも悪くもフラフラ動き、どうしてもボールを受ける位置が低くなり、もそこからの一手が芳しくないとか、受け手として東が良い目立ち方をしているけれど、出し手として相手の脅威になりきれていない、といったイメージでのお話はできるかなとも感じています。
3について。クロスの本数は横ばいで、フィッカデンティ監督時代のそれと比べると若干減少しています。で、昨季(のサイドアタック)については当ブログの以下のエントリ内で私の見立てを書きました。
全部お読みいただくと大変なので要点だけ挙げますと、
・サイドバックは自陣でのビルドアップの『クッション』役
・サイドバックがオーバーラップする場面はあるけど、シンプルにクロスを上げるのではなく再度中へ戻して細かく崩す狙いが中心。
・クロスの球質もハイクロスはほぼなく、グラウンダーやプルバック中心
といった具合で、昨季はまずは中央を狙い、サイドアタックは「次善の策」だったと感じています。途中就任で攻撃をある意味でシンプルなもの(=中央突破)で意思統一をはかる必要もありましたしね。なので、クロス数が増えないこと自体はやむを得なかったと思いますし、その中で成功率が約20%ならば御の字だと言えるでしょう。
ただ、今季「クロスが少ない?はい、そうですか」とはなりません。太田がカムバックし、中央で高萩がコンダクターとなり、立ち位置として昨季よりもサイドバックを高い位置に上げていて、「クロスでも崩したい」という意図を見せているわけですから。
太田は、フットボールラボの集計でラストパス数18本(1試合平均1.38本)、アシスト3本(1試合平均0.23本)。これが多いか少ないかは意見が分かれるところだと思いますが、15年が30試合出場でラストパス73本(1試合平均2.43本)、アシスト13本(1試合平均0.65本)だったことを考えれば満足できる数字ではない、という見方はできるでしょう。さらに「太田の上がるタイミング、そこからのクロスの質、それを受ける中の入り方が煮詰まっていない」と見るのも、邪な見方ではないかと。
また、クロス成功率の低下は、右サイドバックも大きく影響しているところ。先ほどのラストパス数で言うと、室屋が3本でチーム10位、徳永はランク外。また、フットボールラボ独自の「チャンスビルディングポイント」のクロス部門で、太田がリーグ13位であるのに対し、室屋は28位、徳永に至っては128位という状態。まあ、この「チャンスビルディングポイント」は累積ポイント制なので、出場時間やプレー機会が少なければランクが上がっていかないものではありますが、とにかく右サイドバックのクロスの回数、質の低さは数字に表れています。
と、ここまでを総括すると、「ボールはそこそこ持っているけど、繋ぎたいところで繋げない。中央を崩したいけど中の選手が受け手になりきれず、30m内にもあまり進入できていない。ドリブルによる個の仕掛けも減っている。じゃあ、サイドに活路を見出してクロスから…も様になっていない。」という、かなり厳しい状況であることが数字からは読みとれました。これで、最後の頼みとなっている決定率まで鈍ってしまうと…あぁ、想像したくもありません。
変わって守備に目を移すと、タックル数は14位、クリア数8位、インターセプト数12位とこれまた散々な数字。フットボールラボ内の守備ポイントも最下位ですし。まあ、実は昨季も守備スタッツは軒並み中位以下でしたが。
それでいて失点数が1試合1失点にとどまっているのは、一にも二にも林の孤軍奮闘のおかげ。セーブ率80.3%は堂々1位で、フットボールラボ内のセーブポイントも1位。という数字を出さずともとにかく止めまくっている印象で、今季のJ1においては林、中村(柏)、チョン・ソンリョン(川崎)、東口(G大阪)がGKビッグ4であることは疑う余地がないところ。異論は受け付けません!
話戻って、林のセーブ機会が増えてしまっているのは、残念ながら最終ラインがプロテクトしきれていないから。タックル、クリア、インターセプト数いずれも昨季と今季でほぼ変わらない中、なぜここまで今季は「守りが緩い」と感じる試合が増えているのか?正直、一ファンが確認できるデータ・数字だけでは説明することが難しいです。
それでも1つ仮説を立てるとするならば、「守備のためのスプリント、ちょっと多い説」を提唱したいところ。スプリント数は昨季に比べて26.9回も増え、走行距離も約1.3km増えています。一見すると「お、動けているじゃないですか」と捉えがちですが、その内容をイメージしてみると、どうしても守備時のスプリントが昨季と比べて増えているんじゃないか?と思っています。
例えば、前田・大久保が前線でスプリントをかけチェックに入る。これだけ見れば「あー、ベテランありがて~」となりますが、じゃあその流れで中盤・最終ラインがボールをキチンと奪えているのか?例えば前線がチェックに入らず「ここはブロックかな」という流れなのに、個人が無意味にスプリントをかけてボールに寄せてしまい、逆にバランスを崩していないか?例えば攻撃が中途半端に終わり、カウンターをしのぐためのスプリントが増え、攻撃へのエネルギーを残せていないのではないか?――これらは、繰り返しになりますが「どの方向にスプリントしているか」あるいは「攻撃のため、守備のため、それぞれどちらで何回スプリントしているか」が見えなければ仮説の域を出ませんが、私の主観で言わせてもらえば、こういった「無為なスプリントが多い」印象はあります。
じゃあどうするか?これは非常に難しい問題。タックル、クリア、インターセプト数が伸びていない≒チーム戦術でも個人戦術でもボールを奪いきれていないわけで。この事実を覆い隠すには、「ひたすら前から行ってカオスを作り出す」か「ひたすら自陣で耐えて、数的優位で奪い取る」ほかありません。
しかし、前者にはスプリントが不可欠で、後者は攻撃の幅を自らそぎ落とす必要がある。現状を考えれば痛し痒し、帯に短し襷に長し。どちらの手も取れそうで取れないようにも思えます。
だからこそ、問われているんです。だからこそ、決断しなければいけないんです、篠田監督が。シーズン前に、「まず隗より始めよ」という偉そうなエントリを書きました。順位とか内容とか、もちろんそれも大事ですけど、何より「篠田監督下のFC東京は、こんなサッカーやってます!」という旗印が欲しかったので。けれど、今は試合を重ねれば重ねるほど、「篠田監督下のFC東京は、どんなサッカーやりたいの?」という思いばかりが内外に広がっているじゃないですか。
なんか、うまくまとまりそうにないのでここらへんで切り上げますが、スタッツから見た現状の篠田トーキョーは「毒にも薬にもなっていない」と言わざるを得ません。しかも、このまま終わってしまいそうな雰囲気すら漂い始めています。
それを受け入れざるを得ないのか?はたまた、反撃の芽がまだ残されているのか?その答えは私には見えませんが、この先どのように転がっていくのか、それをただ、自分の目で見続けていくほかない、ということだけ記して終わりにします。
見えてきたものと、見えてこないものと
Jリーグもほぼ1/3にあたる12試合を終えました。まだ1敗しかしていないG大阪が首位に立っていますが、2位柏が4敗、3位浦和も3敗、前年王者の鹿島はすでに5敗と上位陣が星を落とし続け、1位から8位神戸までまだ勝ち点差が5という大混戦になっています。
東京は6勝2分4敗、勝ち点20で現在7位。出来れば昨日の試合で勝利して勝ち点22にしておきたかったところではありますが、なんとか上位に食らいついているとは言えるでしょう。
とはいえなんだかスッキリしない、ハッキリしない、なんなら「勝ち越してるの、何で?」と思われている方もいるでしょう。私も勝ち越せている感は全くなく、心の底から「いやー、今日は素晴らしかったわー」と思えたのは…鹿島戦か川崎戦ぐらいでした。
当ブログで、篠田トーキョーについては再三「戦術的に深掘りする要素が少ない」と書いてきました。もちろん、今もその考えは変わっていません(昨日の試合も、3バックへのシフトチェンジがややスベりましたし)。また、前回のエントリの締めで
篠田トーキョーの上限値は、もしかしたらこの4月の急減速で見えてしまったかもしれません。しかし、高萩の復帰こそ必要にはなりますが、その上限値――鹿島戦や川崎戦で見せたような戦い方――を高いところで維持することさえできれば…私はそこに望みがまだあると信じています。
と書きましたが、その際友人から「属人的なやり方で高値安定はありえない」とツッコまれました。半分言い訳ですが、私も盲目的に高値安定を期待していたわけではありません。仕事でもそうですが、ある会社・組織がマンパワーのみで成り立っていて、そこに指揮系統がない、あるいは効率化、平準化ができていないところは長続きしないケースが多いことは、私も社会人をそこそこの年数経験して知っているつもりですから。それでも…との思いでこのセンテンスをまとめに書きましたが、まあやはりちょっと夢物語すぎたかと、今では少し反省しております。
そんな書き出しで今日何書きますの?というと、「深掘りする要素が少ない」と書いておきながらの戦術面について。柏戦、神戸戦と見直した中で、ちょっとだけ見えたものというか「お、これはいいんじゃない?」と思った部分と、やはりまだ見えてこない部分と両方ありました。その見方が合っている・合っていないは読んでくださった皆様に委ねますが、現状認識と妄想入り混ぜて、少々書いていこうと思います。
柏戦、中川とクリスティアーノから始まる切れ目ないプレッシングに、東京のビルドアップは全く体をなしていませんでした。柏戦に限らず第2節大宮戦や第5節鳥栖戦など、それなりの強度のプレッシングを外す術は残念ながら持ち合わせておらず、いくつかのメディア上でもビルドアップ時の拙さは指摘されています。
しかし神戸戦、少なくとも前半のやり方は、神戸が4-1-4-1でやや待ち構える守備をしてきてくれたことに助けられた部分こそありましたが、ポジティブに映りました。その大きな要因は「フリーマン・大久保」と「中に絞るサイドハーフ」の2点だったと見ています。
事前に「神戸は高橋をアンカーにおいてくるだろう」というスカウティングがあったのか、大久保はこれまでとは違い、意図してアンカーの両脇のスペースを立ち上がりから突きます。また、神戸が前半途中に4-4-2に変更してからも、4-4のライン間でフラフラしてボールを受けようとする動きをやめることはありませんでした。結果として、先制点は大久保が下りてきて森重からボールを受け、スッと前を向いて前田に縦パスを入れたところから。大久保の動きは奏功していたわけです。
大久保が前線にこだわらず、いろんなところに顔を出す動きを見せたのはこれが初めてではありません。また、川崎時代のエピソードを持ち出し「大久保が下がってこないといけない東京の攻撃はー」とか「大久保を前に留まらせる人がいないとー」といった指摘もいくつか目にしてきました。
私も当初は「下がりすぎじゃない?」と見ていましたし、これらの指摘の前提には「大久保=ゴールゲッター」があるのではないかと推測します。その前提に立つと、もちろん「下がる=ゴールから離れる」わけですから、どうしても違和感に繋がってしまうでしょう。
しかし-もちろん大久保自身ゴールを重ねたいでしょうけど-東京が優勝を目指すに当たって、大久保が15~20点取らないといけないのだろうか?と考えると、私は決してそう思いません。また、今のスカッドにおいて誰が一番「止める・蹴る」巧いの?と考えると、答えは大久保か高萩になることは納得していただけるはず。
そうなると、現状中盤でボールを納め、そこから展開するにあたって、高萩と大久保が近い位置でプレーすることがプラスになれど、マイナスになることはありません。ならば、大久保を最前線に押し込めておくことが得策だとは、私は思わないんですよね。
一方で、大久保がただ自分の意思でフラフラすることがチームに流動性をもたらすわけではなく。大久保が下りる動きを見せる周りで、他の選手がどうポジションを取れば自分たちのボール回しがスムーズになり、相手が守備しづらいかを考えた時、神戸戦の前半で何度か見られたサイドハーフが中に絞るポジショニングは、いいアイデアだったなと。
この試合「永井と室屋の連携がいつになく良いな」と感じました。なんでだろう?と考えながら見直してみると、これまでは永井はタッチライン沿いに張って走りたい、けど室屋もタッチライン沿いをオーバーラップしたい、結果使いたいエリアがもろ被りしていたのに対し、この日は永井がいわゆる「ハーフスペース」にポジションを取る場面が何度か見られました。得点シーンは大久保にボールが入る前に外から中へポジションを移し、最終的に相手センターバックとサイドバックの間を抜けていく流れ。これは今季見られなかった形だったと思います。
また、自陣でのビルドアップに目を移すと、柏戦では大田、徳永がやや無為にポジションをあげてしまい、高萩、梶山も最終ラインに落ちるのではなく1列前でうけようとするあまり、森重、丸山がまともにプレスの餌食となりました。神戸戦も基本的には後ろ2枚だったかと思いますが、しかし柏戦よりは確実に、センターハーフ1枚が最終ラインに落ちる動きが見られました。
この動きはもはやベーシックの域に入り、狙いには「後方の数的優位を確保すること」や「サイドバックを高い位置に送って攻撃によりスムーズに絡ませること」がありますが、今の東京にこの形をやるメリットがあるとすれば、太田をより攻撃的に振る舞わせることでしょう。
フィッカデンティ監督時代は「戦術・太田(&武藤)」と揶揄されるほど、攻撃においてはどう太田を活かすかが、ある程度オートマティズム化されていました。ただ、今季復帰してからここまで、クロスで存在感を見せられたのか川崎戦ぐらい。多くの試合では「上がっていくけどスペースがない」とか「自陣で奪ってから長いボールに頼り、上がっていけない」場面が散見されます。
しかし、後ろに1枚落ち、サイドハーフが中に絞ってセンターでの数的優位を保った上でボールを回すことができれば、太田が上がっていく時間とスペースが生まれます。一方で、右サイドバックは太田ほど高い位置は取らず、ビルドアップにも絡みながら、機を見てスプリントでオーバーラップするイメージを持たせられれば、バランスがいいでしょうか。
これらを踏まえたポジションを、端的に図に落とし込むとこんなイメージ。
図1
後ろに重たい印象が残るのはもう仕方なく、行ったり来たりで体力を消耗するぐらいなら、「パスのためのパス」「ポジションを整えるためのパス」をどこまでチームで許容しつつ、誰が受け手としていいポジションを取れるか、そして、そこにボールが入った次にすぐスピードアップできるかを考えていければ、神戸戦の前半のようなスムーズさは出るんじゃないかと考えています。
また、ここまでは中島を左、河野を右で、いわゆる「逆足のポジション」で起用するケースが多く見られますが、上の考えに立てば、中島はアタッカーとして右、河野はビルドアップに絡む役割として左で起用する方が理に適っているかなと。
神戸戦の前半で見せた立ち位置、攻撃の組み立て方がもし意図したものだとして、かつ対神戸として用意した限定的なものでなければ、幾ばくか攻撃の質の向上が期待できるのではないか?と思っています。方や、これまで攻撃よりは評価を得ていた守備面については、正直まだどうしたいのか、ピンと来ない部分があります。
神戸戦後、前田は「守備のスイッチを入れることは出来た」とコメントしました。確かに、以下の図のような場面では、前田がスイッチ役になれていました。
図2
ただ、毎回これだけ整って守備をすることはもちろん不可能で。第1ラインを破られ、自陣に侵入を許す場面は出てきます。そうした際に、じゃあどこまでラインを下げ、どこで取りに行くのか?がまだ見えてこない点の1つ。逆説的に言えば、ここまで林がセービングで目立っているのは、自陣での守備においてシュートまで持ち込まれているわけですから。そんな自陣での守備、ここまで良く見られる対応は、以下の図のケース。
図3
相手のセンターハーフがボールを持った際、まずは当然センターハーフがチェックに入る。そうすると、どうしてもバイタルエリアが空きやすく、そこに相手のフォワードやトップ下、シャドーの選手が下りてきて受ける動きを取られがちですが、それに対しては近いところにいるセンターバックどちらかが食いつき、少なくとも前を向かせないようにする。そうして飛び出してあいたスペースはセンターハーフが下りて埋める。そして、サイドは1対1あるいは2対2と対面の相手を意識しながら、可能であればセンターハーフがヘルプに入る。私は、これが原則のように見えます。
一見すると、数的不利になるような局面はなく、カバーリングやスライドさえしっかりできていれば、そんなに破綻するようには映りません。ただ、柏戦までの数字では被シュート数が13.8本で(少ないほうから数えて)14位とシュートは打たれてしまっており、前述したとおり、失点数の少なさは林のおかげ。
では、なぜ自陣での守備でうまく相手の攻撃を食い止められていないのか?それは皆さんも薄々お気づきのとおり、「個人の守備の弱さ」になるでしょう。浦和戦、丸山はもっと興梠の走るコースを消し、外に追い出せなかったか?柏戦の2失点目、太田はもっと強く伊東に当たって、シュートを防げなかったか?何より神戸戦、森重のウエスクレイに対するプレーは正気の沙汰だったのか?他にも、細かいところをあげればキリがありません。
コンディションの問題が大きく、全員がもっとキレてくることで解決が図られるなら、そのときを静かに待つしかありません。しかし、個人戦術の部分なのだとすれば、解決するためには戦術を施さなければなりません。そう考えた時、思いつくアイデアは2つ。
図4
1つ目は「リトリートからの人海戦術」。しかし、CB3枚を起用するのではなく、攻撃時のことも考えてセンターハーフに1枚守備型を起用し、守備時のみ最終ラインに下りる形(下りる位置は真ん中でも両脇でも)。また、サイドハーフは中へ絞って3センターハーフのような立ち位置を取り、とにかく真ん中で数的不利を作らない意識を持つ。このときのミソは、5-4-1にするのではなく5-3-2とすることで、自陣でボールを奪ったあとのロングカウンターも睨んでおくことでしょうか。
けれど、個人的には序盤に書いた攻撃の形をより守備とも連動させられたら…と。また、これからますます暑く、湿度が高い時期に入るなか、あまり全選手が上下動するような、あるいは守備時にずっと細かく動かないといけないような形は避けたいところ。そう考えると、以下のような守備がスムーズだと考えます。
図5
図1の攻撃隊形から守備に切り替わった5~7秒間、前の選手はとにかく自分の近い選手を捕まえにいき、相手を前進させない。あわよくばボール奪取まで狙い、もし敵陣でボールを取り返せればショートカウンターもあり。その間、ボールと逆サイドのサイドバックは状況を見ながら帰陣し、後ろの3枚とあわせて4バックを形成し、プレスの第1波をかいくぐられた際のリスク管理をする。まあ、プレスをかいくぐられたということは後ろが1対1に晒されるわけで、前述した「個人の弱さを隠す」こととは矛盾しますが、前からの行くのであればそこは「必要悪」として受け入れるほかありません。
現在のフットボールは、「攻撃(ボール保持時)」「守備(非ボール保持時)」「ネガティブトランジション(攻撃→守備への切り替え)」「ポジティブトランジション(守備→攻撃への切り替え)」の4局面に集約されると言われます。また、攻撃は「ポゼッション」と「カウンター」、守備は「プレッシング」と「リトリート」に切り分けられます。
全ての局面で、全てのことを臨機応変にやれるチームは、世界に数えるほどしかありません。そうではないチームは、何を諦め、その分何をアイデンティティとして打ち出していくか?それを監督がコーチと相談しながら決断し、選手に伝え、選手は監督の意図を理解してやれることを精一杯やる。これ以外に、勝ちへの近道がどこにあるのでしょうか?
就任してからはまもなく1年、今季に入ってからは約2ヶ月。篠田監督は何を諦め、その分何をチームに求めているのか?それが見えてきた部分もありますし、いまだ持って見えない部分もあるなか、この先どう推移していくのか。神戸戦で見えたかすかなポジティブさを私は信じていきたいと思いますが…ダメならダメって書きます(苦笑)
17年Jリーグ観た記 其の32 J1 鹿島-川崎
浦和相手に強かに勝ち点3を奪うも、前節ホームで神戸に敗れて首位陥落となった鹿島。一方、ACLも含めた公式戦ここ3試合で9得点無失点、内容も向上が見られる川崎。ACLラウンド16 1stレグを火曜日に控える両チームのフライデーナイトマッチ。上位を維持し、ACLへ弾みをつけたのは。
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