続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

「Coach」ではなく、「Manager」として

 いきなりですが、「サッカーの監督に必要な資質とは?」と問われた時、皆さんはどのようなことが思いつくでしょうか?様々な回答が出るかと思いますが、私は以下の3つを総合的に備えていること、と答えます。

1:日々の練習で自身の戦術・哲学をチームに落とし込める能力

2:選手のモチベーションを保たせる能力

3:内外に説得力を示せるマネジメント能力

 1に関しては備えていることが当たり前とさえ思いますが、時に理想と現実の折り合いがつかず、あるいはコミュニケーションが一方通行となり、自身の哲学を落とし込むのではなく「押し付ける」格好になって上手くいかずに…という監督もいます。近年だと…炎上したくないので具体名を挙げるのはやめにします(苦笑)

 2についてはクラブレベルより代表レベルの監督に当てはまる部分でもありますが、どれだけ緻密なデータとトレーニングでフィジカルコンディションを上げても、メンタル面が整ってなければそれをフルに発揮できません。そんなメンタル面に対するアプローチとして、選手に対して疑念を与えず、常に前向きな気持ちでプレーさせるため、実直でも大げさでも嘘は方便でも、とにかく清濁併せのんだ焚き付ける言葉や行動でもってモチベーションを保たせる能力(落とさせない、という言い方もできますが)は、地味に見逃してはいけない部分だと思います。

 さらに、現代サッカーにおいて必要な部分が3。全てのチームの監督に該当する資質ではないかもしれませんが、全体的にサッカー界のスケジュールは過密化し、試合ごとの強度は高まっていて、監督・コーチ陣は選手のコンディションを常に見極めながら、与えられたリソースをフル活用して戦い抜かなければいけなくなりました。また、ネット化社会の到来・発達により、今までは一部のマスコミだけ相手をしていればよかったのに対し、今ではあらゆる人間、様々な媒体から有形無形、実名匿名、毀誉褒貶様々な声が監督やチームのもとに届くようになりました。

 そのすべてに、監督が真摯に対応する必要はないと思いますが、しかし、ある一定の世論が形成されてしまうと、それを覆すのがかなり難しい社会にはなっていて、スポーツマスコミ部門もそうであると言えるでしょう。そういった世論を形成させないために――万が一形成されても、その「言い訳」を用意しておくために――常に外へ自分がやりたいことの「説得力」を発信し続ける、あるいは「世の中はこう言ってるけど、俺の真意はここにあるから、お前らぶれるんじゃねぇぞ」的な中へ向けた的確なチームマネジメントは、何よりも大事になってきている印象があります。これが抜群にうまいのが、ジョゼ・モウリーニョディエゴ・シメオネなのかなぁと。

 

 少し話は替わりますが、先日、Footballsita前編集長の木村浩嗣さんがこのようなコラムを書かれていました。その一部を引用させていただきます。

  選手登録にしても招集メンバーにしても先発メンバーにしても、監督に全権が任されているのが、プロからアマまで貫くこちら(注:スペインのこと)のサッカー界のルールである。

 全権というのは本当の全権で、クラブ会長もスポーツディレクターも監督仲間も決して口を挟めない。例えば、社長も上司も同僚も口を出せない独占的な裁量権がいち社員に与えられることなど会社ではあり得ないが、監督の世界ではそれがルール。その意味では、監督はクラブという組織に属しながら独立した存在で、“チームが社員、監督が社長”と考えた方が実態に近いのかもしれない。

 私もこの意見に賛成で、もはや監督は「チームに雇われている」のだけれど「チームに関与されない」立場となったがために、より権威を得て、より責任が増し、よりマネジメント力が問われているのだと思っています。世にいくつか見られる表現をお借りして端的に言いかえれば、「Coach」ではなく「Manager」として優秀でなければ、少なくともビッグクラブ・メガクラブの監督は務まらなくなっていると言えるのでしょう。

 これまでの城福監督について思いを巡らせると、1、2については平均点以上な印象。前回東京で指揮を執った時も、甲府で指揮を執った時も、与えられたリソースからくる志向の違いや、最終的に結果が出た・出ないはあったにせよ、自身がやりたいサッカーを選手たちは一定のレベルで表現できていたと思います。また、選手が「その気」になっているコメントを多々発していたことは(と記憶していますが、それが間違いでなければ)、しっかり外から見えない部分で選手のモチベーションを保てていたことの裏返しだと捉えています。

 しかし3に関して、言葉(プレゼンテーション)についてはたいそうご立派なものの持っている一方、発した言葉に説得力を帯びさせるための選手起用(マネジメント)が出来ていたかというと、正直懐疑的な部分もあります。例えば前回指揮時、09年にナビスコカップを制覇した流れで見せた、良い意味での「決め打ちのどハマり」があった一方、諸所の事情があったとはいえ、徳永いるのに松下サイドバック起用(しかも左)とか、徳永ボランチ起用とか、選手交代の迷い方とか、傍目からはクエスチョンマークが浮かぶ事例がしばしばありました。対して甲府時代は、例えば外国人選手に対する毅然とした振る舞いだとか、限られた人材の中で最大値を出すためのコンバートといった部分で成果を挙げていたことから、マネジメント能力が多少は上がっているかな?とも感じていました。

 もちろん、同じくACLと並行するシーズンを送る広島・森保監督、G大阪・長谷川監督、浦和・ペトロヴィッチ監督はいずれも4~5年目の指揮となり、それぞれACLとの並行を経験済みな一方、城福監督は今季が初体験。チームによって(良くも悪くも)立ち位置が異なるヤマザキナビスコカップとは違い、より勝ち上がっていくことを内外から求められるACLとの並行は、おそらく私たちが思っている以上に困難なこと。また、真逆の哲学を持つと言ってもいいフィッカデンティ体制からチームを引き継ぎ、ACLプレーオフもあった短いプレシーズンのトレーニングだけでシーズン頭から結果を出し続けていくのは、かなり難易度の高いミッションとなります。

 それでも、甲府時代の経験値と1年間の解説者生活で世界の様々な監督のマネジメントを目の当たりにして、いい部分を吸収してくれていたら…という期待は持っていて、それをどう今季のやりくりに反映させるのか強い興味を持っていました。今年に入って東京に関して書いたエントリーのほとんどが「ポジション別の序列」だとか「ターンオーバー」だとか戦術面以外のことなんですが、なぜそうしてきたかというと、ここまで書いてきたとおり「城福監督は『Manager』としてどうなんだ?」ってのを今季の私の主眼としているため。

 まあ、こういった選手起用の部分は特に結果論で何とでも言える側面であり、かつ1年が終わってみないことには結果が見えてこない部分であるため、短期的にはネタに困ることが出るかもしれませんが、私なりの考えをポツポツ書きつつ、城福監督の意図と説得力を拾っていけたらいいなと思っています。

 

 

 さて、改めての所信表明はここまでにしまして(相変わらず前フリが長い)、全北、大宮、ビン・ズオンの3連戦における結果は、当初思い描いていたものとは違う形となりました。全北戦はともかく、大宮、ビン・ズオン戦における失点シーンは、かつての悪癖を思い起こさせる、メンタル面でダメージの大きいやられ方でしたしね。

 そんな試合展開はさておき(誰か、流暢にまとめてください)、私は先日、全北戦前にこのようなエントリーを書きました。

 要旨は「怪我人・蓄積疲労が少ないシーズン頭から、ターンオーバーしてもいいのでは?」というものでした。割と前向きな気持ちで書いたつもりでしたが、一方で悩んだ末に書かなかった、別の意味でのターンオーバー論も私の中にはありました。それが、エントリーをアップした後、全北戦より前にしたこんなツイート。

 

 

 

 

 

 ことACLに絞ると…というお話ですが、グループリーグ全部勝つ!だなんてことは夢物語。では、現実的に日程や状況を踏まえての「勝ち点落としてもやむなし度」を考えてみると、最も高いのがアウェイ全北で、最も低いのがホームビン・ズオンだと思うんです。言い換えれば、全北戦は勝ち点ゼロもやむなし、1取れれば上々。一方、J1開幕戦は世の中のサッカーファンに対して良い意味で昨季との違いを示したく、ホームビン・ズオン戦はグループリーグ突破のためには是が非でも負けられない舞台だと考えていました。これらを全て勘案すると、「全北戦はマッシモイズムも採り入れた堅守速攻で、その後の2試合は、今城福監督がベストだと思うメンバーで、今季やりたいサッカーをする」ことが理に適っているのではないかと思い、エントリーに仕立てた次第です。

 蓋を開けてみたら、城福監督のプランニングは「全北、大宮戦を全力で取りに行き、ビン・ズオン戦はターンオーバー」という割と真っ正直なもの。私の思いはただの妄想にとどまり、結果は上々とは言えないものに終わりました。だからと言って「それ見たことか!城福マジで無能!」と頭ごなしに書くつもりは全くありません。むしろ、「ビン・ズオン戦で、連敗にひよってターンオーバーしなかった方がマジ無能!」だと思っていたので、ビン・ズオン戦でしっかりターンオーバーしてくれたのは、何と言いましょうか…ホッとしました。

 結果的に、ではありますが、この3試合で怪我人(駒野、ハ・デソン、佐々木、石川、林、平山)を除き、現在プレーできるコンディションにある選手をほぼほぼ起用することができました。プレシーズンのトレーニング、ニューイヤーカップ、練習試合も含めて始動日から約1か月半、自身が思い描いていたポジションバランス、そこでの各選手のプレーぶりの「シーズン前想定」と「実際の結果」を城福監督なりに精査することができたはずで、今後も続く連戦を見据えての使える・使えない(使いづらい)を判別できたのならば、この1勝2敗は全く無駄にならないと思います。

 

 その使える・使えない(使いづらい)。自分なりに感じたのは、例えば「橋本右サイドバックや幸野センターハーフは、現状セカンド・サードオプションの域を出ることはなく、よほどの緊急時以外は使わないだろうな」とか、「田邉や小川は、まだエクスキューズ付きだけど意外とやってくれるんじゃない?」とか、「阿部はすげぇフィットしているなぁ。でも、水沼がちょっと心配だなぁ。」あたりでしょうか。一方で、まだ見えてこないのが「センターバック高橋はあり得るの?」とか、「中島やユ・インスはどこから本格稼働なの?」といったあたりで、これはこの先の楽しみとして取っておきたいところです。

 ただ、最終ラインについては現状不安が先行します。駒野の怪我もあって、森重、丸山、徳永は3連戦フル出場。純粋なセンターバックの控えは吉本だけで、サイドバックも小川はまだ半信半疑(よくて6信4疑)、橋本も大宮戦のパフォーマンスだと若干使いづらくなったことを踏まえれば、駒野が戻ってくるまでは自転車操業、火の車です。

 今後、鹿島戦までの日程を見ると「(ビン・ズオン戦から中4日)仙台(中4日)神戸(中3日)江蘇(中3日)鹿島」と中2日でのゲームがなく、コンディション面では一応幸いな日程となっていますが、それでもビン・ズオン戦の徳永は連戦の影響が色濃かったのか歴代稀に見る低調な出来。丸山も、徳永ほどではなかったものの危うさを見せていましたし、森重は足首の負傷が気がかりで、そもそもシーズンインからパフォーマンスが上がってきていません。

 いずれも代えが利かない主力ではありますが、フィジカル面も去ることながら、戦い方のシフトチェンジによる最終ラインにかかる「一発の恐怖」が、メンタル面での消耗を昨季よりグンと早めてしまう可能性は大いにあって、個人的には3連戦まで、百歩譲っても4連戦以上はダメージが大きすぎると考えていました。

 けれど、この3連戦はいずれも森重・丸山コンビは崩さず、おそらく連戦終盤の江蘇戦、鹿島戦でもこのコンビは崩さないはず。かつ、森重と丸山(と米本)は、3/7~9まで代表候補のトレーニングキャンプに呼ばれることが発表され、仙台-神戸戦の間にリカバリーを十分取れない恐れがある。と考えると、ベタに思いつくのは吉本に仙台、神戸と連戦で出てもらい、それぞれ森重、丸山を1試合ずつ休ませる起用が現実的な案になるのかな…と思って書いていたら、トーチュウによると城福監督は「中4日」を有り難がり、紅白戦のスタメン組4バックは右から徳永、森繁、丸山、小川だった様子。どこまでもピュアだな(苦笑)と思いつつ、実際どうなっていくのか、「Manager」としての手腕を見せてもらおうじゃありませんか、ってなところで今日はしめたいと思います。