続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

勇気がないから引くんじゃない、勇気を持って引くんだよ

 現在のチーム事情も考え合わせて、今日勝ち点3を取れたことに満足をしなければいけない。試合の大部分で私たちがコントロールできていたと思うが、リードした後に気を抜いて隙を見せ、自分たちで苦しむ状況を作ってしまった。もちろんG大阪に対するリスペクトはあるが、自分たち自身が一番危ない存在になってしまった。後半はそれまでやってきた繋ぐことを怖がってしまった部分もあったし、ボールを簡単に蹴り出してしまう場面もあった。
 もちろんG大阪にも素晴らしい選手がたくさんいてクオリティの高いチームだが、私たちはこれまで取り組んできたことがやれていなかったし、やっていなかった。G大阪を助けてしまった。ある選手に関しては、チームプレーを理解せずに個人プレーに走ってしまった。怠慢なプレーで隙を見せると、2点のリードが逆に自分たちを苦しめてしまうことを理解しなければならない。リードしているからこそ気を引き締め、チームの為にやり切ることを学んで欲しいし、それができなければ、いつまでたっても上にいくことは難しい。PKに関してはもう一度確認したいと思うが、どうだったのかな…という気持ちではある。

 今日はポポヴィッチ監督の試合後コメントからスタートしてみましたが、まあおかんむり。昨日の「マッチデーJリーグPLUS」内ではその会見映像も流されていましたが、怒りと不機嫌が入り混じっていることが一目で分かるぐらいまくし立てた口調で語っていました。また、東京ファンならお馴染みの馬場康平さんがJ’s GOALに寄稿されたレポートも、そのポポヴィッチ監督の怒りを許容し、自分たちのサッカーをやりきってほしい、やりきるべきだと主張する内容だったかなと。その顕著なところを拾わせていただくと、

 G大阪は長年、サッカーをするチームであり続けてきた。自陣に引きこもってサッカーを放棄するようなチームではないはずだ。敗戦後、G大阪の選手たちが「守備のバランスが…」という言葉を頻繁に使っていたことが気に掛かる。G大阪には、ゴールを守る守備は似合わない。前半できなかった主導権を握るための奪う守備が彼らには必要なはずだ。降格圏へと沈み、現状は芳しくないかもしれない。自分たち本来の姿を見失ってもおかしくない。この日のF東京がそうだったように、慣れないことをしても上手くはいかない。後半のような魅力的な攻撃を繰り返すチームが、もしも変わってしまうのであれば、それはあまりにも惜しいことだ。サッカーを楽しみ、自分たちのスタイルを磨いていくことでしかチームは成長できない。

 という部分。正直馬場さんが「サッカー」という単語を、こういう意味で使ったことには少なくない驚きがありましたが、この見方は今の東京が進んでいる道にあっては「正論」だと言えますし、私もこの見方を否定や批判するつもりは全くありません。ただ、それでもこの試合をその見方だけで片付けてしまうのは、なにか喉に小骨が引っかかるというか、釈然としないところがありまして。その部分について、1つ前のエントリで書いた内容と一部重複するかもしれませんが、前半戦を終えたここでもう1度考えて書いてみます。


 単刀直入に今日の結論から言いますと、見出しでもある程度お分かりのとおり「『引く』選択肢を消してほしくはない」という点。そのことを、客観的なデータと主観的な意見でまとめてみたいと思います。
 まず客観的なデータ面から。支配率については日刊スポーツ公式サイトの試合結果ページより、その他についてはJリーグ公式記録より拾っております。また、データはその見方によっていろんな姿に形を変えるもので、これ以降に示す見方もその一端に過ぎないことは予めご承知おきください。

得点 21(1試合平均1.24 リーグ11位) うち、PK得点/回数=0/0
シュート数 151本(1試合平均8.9本 リーグ16位)
時間帯別得点 0〜15分 2得点 16〜30分 1得点 31分〜 2得点
          46〜60分 3得点 61〜74分 5得点 75分〜 8得点
平均ボール支配率 54.3%(最高65%(鳥栖戦)、最低43%(横浜戦))


失点 20(1試合平均1.18 リーグ7位) うち、PK失点/回数=1/1
被シュート数 152本(1試合平均8.9本 リーグ5位)
時間帯別失点 0〜15分 1失点 16〜30分 0失点 31分〜 6失点
          46〜60分 3失点 61〜74分 3失点 75分〜 7失点


状況別勝敗 先制した試合…7戦7勝 先制された試合…2勝1分7敗
         平均ボール支配率を上回った試合…2勝6敗 下回った試合…7勝1分1敗
         先制した7勝中、平均ボール支配率を上回った…1勝 下回った…6勝

 平均ボール支配率54.3%は、全チームの数字を取っていないので正確には分かりませんが、おそらくトップ3に入るはず。これは当初の狙い通りと言えるでしょう。しかし、得点が思ったほど伸びず、シュート数も2桁に達せず、リーグ16位に沈んでいるのは全く想定していませんでした。ただ、そこに時間を追うごとに伸びている時間帯別得点を当てはめるとあら不思議、「立ち上がりからボールを支配し、パスで主導権を握って相手を走らせ、相手が疲労を感じる試合中盤から終盤にきっちり得点を奪う」という、実に理に適った攻撃スタイルを出せていることが見て取れます。一方の守備はどうか?ポポヴィッチサッカーの、最初の最初のおぼろげなイメージは「失点も厭わずに…」でした。しかし、いざ蓋を開けてみれば、「攻守の切り替えを早くし、ハイライン・ハイプレスでなるべく高い位置でのボール奪取を目指す(そして、また攻撃に繋げる)」という狙いが見て取れ、失点数が予想より少なく、実数としての被シュート数の少なさは「撃たれる前に取ってしまう」という狙いがしっかりとハマっている証左と言えるでしょう。
 ここまでで終わっていれば、何も言うことはありません。しかし、どうしても気になるのがその後の数字。まず時間帯別失点。失点数が「前半<後半」となるのは、清水(前後半とも7失点)、浦和(前後半とも9失点)、神戸(前後半とも12失点)以外の14チームもそうであり、別に特筆すべきものではありません。しかし、「前後半それぞれの立ち上がり15分:終わり15分の失点数」の比が1:3を超えるチーム*1」となると、驚くことに清水*2のみで、東京が断トツトップ(ワースト?)となります。これが何を示しているかはいくつかの見方があると思いますし、失点の中身としてセットプレーや、ガンバ戦での2失点目のように引いた中で取られるケースもありますけど、「スタミナの減少や疲労の蓄積により、攻撃ではサポートの遅れやパスのズレが生じる、守備では前からのプレッシング強度が低下して奪いきれないことにより、相手にボールを渡している時間が増える。けれど、ハイラインは状況に応じずキープすることで裏のスペースを比較的容易に使われて失点する」という見方は間違ったものではないはずです。
 続いて状況別勝敗。先制した7試合は全勝で、勝率100%(引き分けもなし)は東京だけ。まあ、先制した試合の勝率が高いのはサッカー界全体に言えることで、これだけでは何の特徴も出ませんが、ここにボール支配率を組み合わせるとなかなか面白い結果になりました。まず、チーム平均ボール支配率(54.3%)を上回る=文字通りボールでもってゲームをコントロールしている試合の勝率が.333、逆に下回った=相手に持たれることが多く、受ける展開も多い試合の勝率が.777。さらに、鉄板勝利パターンである先制した試合に限ってみても、チーム平均ボール支配率を上回って勝った試合は第10節新潟戦ただ1試合で、あとの6勝は全て平均以下。しかも、そのうち第1節大宮、第5節川崎、第17節G大阪戦は50%を下回ってのもの(川崎戦は仕方ないですけどね)。このデータからは、「ボールを支配しながらゴールを奪うアイデアや精度に欠け、やりきれない攻撃の逆手を取られて数発に沈む」という負けパターンと、「ボール支配率の面ではゲームをコントロールしきれず相手に押し込まれる場面がありながらも、先制点を奪いきって耐えるところは耐える」という勝ちパターン、この2つが−狙いとは異なるものかもしれないが−事実として存在したことを言い表すことができるでしょう。
 以上を踏まえ、客観的側面からのまとめは、

スタミナ切れや強度不足により、潜在化するハイラインスタイルのリスクが、前後半それぞれの終盤にゴールネットを揺らしてしまうことが数字の事実としてあり、しかしその一方で、耐える時間帯は耐えることができている守備陣の踏ん張りが見て取れるのであれば、「現在失点が増している時間帯に、ある程度しっかり引く形を取って耐え、カウンターの手を見せる」という戦術があってもいいのではないでしょうか?

 という言い方になるでしょうか。


 続いて主観的な意見(妄想含む)。冒頭に引用したG大阪戦後のコメントでもお分かりのとおり、ポポヴィッチ監督は「ある選手」について厳しい言葉を残しました。その選手は、佐藤に引っ張られて何度もラインのバランスを崩してしまい、1失点目では二川からスルーパスが出そうなその瞬間、1人だけズルッとポジションを下げてしまったことで最終ラインにギャップが生まれてしまい、そこを見逃さなかった阿部に抜け出されてしまい、その後PKを与える結果に。2失点目では権田から声が掛かったのか、それともセルフジャッジだったのかは定かではないものの、背後にいる佐藤の存在を嗅ぎ取れず、クリアすべきボールをクリアせずに後ろに流すというミスを犯しました。2失点目は集中力の欠如と批判されても仕方なく、個人で防げるものだったと思います。ただ、1失点目については、その選手だけが責を負うべきなのか?と問われると、確信を持ってそうだとは言えません。
そ れで、改めてG大阪戦を振り返ると、前半はボールを失った後の素早い切り替えと高い位置からのプレッシングで再びボールを奪い返し、そこで慌てることなく一度最終ラインにボールを下げ、そこからボランチを経由したビルドアップで相手守備陣に穴を作って奪った1、3点目はまさに真骨頂とも言える形ですし、それ以外の場面でも最終ラインが時にはハーフウェーラインに迫ろうかと言うほど高い位置を取り、つられてボランチもがんがん前にボールを取りに行き、米本が明神のパスを引っ掛けるなんてシーンもあったほどアグレッシブな守備ができていました。攻撃でも低い位置のビルドアップは相手のプレッシングを上手くいなせていて、ルーカスや田邉に収まることでタメや押し上げも○。シュート数は相変わらずでしたが、それこそ30分過ぎまではポポヴィッチ監督の目指すサッカーが100%出ていました。後半も立ち上がり15分間は、ある程度整理され、息も整ったおかげでイーブンなゲームが展開されていました。しかし、そのほかの時間帯は「腐っても鯛」ではないですけど、前半はダイレクトなプレーを続けて東京の各選手を「走らせる」形で、後半は疲労の色が見え、押し下がった東京守備ブロックの中・外を上手く使い分けるパスワークと、選手交代による布陣変更によってポジションを上げた藤春や、途中から入った佐々木らサイドアタッカーの突破とクロスでもってあらゆる方向から東京ゴールを脅かすなど、バリエーションに富んだものを見せました。
 それに対して、ポポヴィッチ監督は何をしたのか?ピッチサイドから檄を飛ばし、守備陣を叱咤し、「上がれ!」「前から!」という類のジェスチャーを繰り返すのみ。戦況を変えることができる選手交代も、いつもと変わらず渡邉をそこそこの時間帯に入れたのみで、その後はしばらく動かず。「リードしているからこそ気を引き締め、チームの為にやり切ること」を思い出させる交代がなければ、現実的にリードを守りきるメッセージを込めた交代もなく、2、3枚目の交代は単なる時間稼ぎとも取れるアディショナルタイムに入ってから。ポポヴィッチ監督からすれば、「現在のチーム事情」においてこういう局面で信頼に足る選手がいないのかもしれませんし、ピッチに立つ11人で解決してほしかったのに「笛吹けど踊らず」だったかもしれません。けれど、G大阪が選手交代を重ねるごとに勢いを増したことに対応するには、こちらもフレッシュな選手を入れて前から当たるエネルギーを注ぎ足す、あるいは低い位置で相手の圧力を食い止められるエネルギーを新たに入れる必要は絶対にあったと思いますし、疲労の色を隠せないスタメンの選手達に吹いたその笛の音色は、決して聞き惚れるものではなかったかと。結果は何とか逃げ切り勝ちとなりましたが、なかなかにモヤモヤとしたままその瞬間を迎え、勝ったのに終了のホイッスルと同時に席を立ち、スタジアムを後にしてしまいました。
 しかし、翌日録画を見直してみると、そんなモヤモヤや雑念はどこかへ吹っ飛び、時間を追うごとに前のめっていく自分がいました。回され、押し込まれ、次々と危ないシーンが続く中、決してそれが本意ではなく、組織的ではなく、半ば本能的にやっていたはずの引いた守備がやけに新鮮に見えてしまいましたし、逆説的かもしれませんが、「引いたって守れるんだよ」という一面が見えたことは−チームはそう感じていないかもしれませんが−私は大きな収穫だったと受けっています。思えば、先月行われたEURO12で「クアリタ」を押し出して革新さを見せたイタリアも、伝統的なディフェンシブメンタリティー−球際で、1対1で負けない、身体をぶつける、振り切られそうになっても諦めずに身体を投げ出すといった−は失われておらず、守備が攻撃を助けた部分は大きく見られました。優勝したスペインも、あえて相手にボールを持たせて引くことでゲームを支配するという新しい一面を見せましたし、ポルトガルギリシャイングランドも守備の強さがベスト4やベスト8をもたらしたことは否定できないでしょう。ことJ1においても、首位仙台、2位広島、3位浦和、4位名古屋はそれぞれ攻撃に強さがありながらも、スッと特徴を挙げることができる守備戦術も持っていて、その共通項として「引くことを厭わない」という点があります。こういった点を見ても、引くことは勇気がないからそうするのではなく、むしろ勇気をもっているからこそ取れる戦術であり、その勇気を見ている私たちは共有して、一緒に昂ぶることでスタジアムが一体となることだってあると私は思っています。


 前半戦最高クラスの試合として第13節浦和戦を挙げる人は多く、「お互いのスタイルがガッチリぶつかり合って…」という評価をした記者や解説者、評論家が多かったように思いますが、あの緊張感が生まれたのは、お互いの攻撃力・バリエーションだけではなく、浦和の堅く引いた守備ブロックとカウンターの威力が常に東京の脅威であり続け、東京も権田がハイパフォーマンスで締めるところを締めた、そんな「守備」がもたらした側面も小さくありませんでした。もちろん、東京には東京の進むべき道があって、目指すべきゴールがあって、G大阪戦の前半で見せたゲームが90分続くなら何も言うことはありません。今が発展途上であり、我慢してやり続けることも大事です。しかし、上でも書いた客観的な数字とこれまでの戦いぶりを振り返れば、必ず試合中に我慢しなければいけない時間帯が出てきます。そして、現メンバーの大半には「リアリズム」としての一面もあった城福監督の、そして、「本質」を唱え続けた大熊監督のエッセンスが多分にあって、引くことを決してマイナスだと思ってはいないはず。すぐに、とは言いませんが、この先さらに環境が厳しくなり、前からの圧力をかけ続けることが難しくなることが容易に想像できる中、ポポヴィッチ監督には是非とも−ダメなら福岡でその哲学と手法を持っていた篠田コーチでも構わないので−違う顔を見せてほしいと感じています。

*1:東京は立ち上がり15分4失点:終わり15分13失点=1:3.25

*2:立ち上がり15分3失点:終わり15分9失点=1:3