続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

色のない世界

 5月25日から始まった「日本クラブユースサッカー選手権(U-18) 関東大会2次予選」は、2勝3敗、12得点11失点でグループ4位に終わり、このラウンドでの敗退が決定しました。Wikipediaさんによりますと、クラ選における関東予選での敗退は2000年以来13年ぶり。もちろん、私がユースを見始めてからは初めてのことで、何とも咀嚼しきれないでいる部分もあります。そんなグループリーグ5試合中、甲府ユース戦(●1−2)、町田ユース戦(○6−1)、鹿島ユース戦(●0−3)の3試合を見ることができました。その3試合で改めて強く感じたのが、「今年の東京U−18の『色』って、なんなのだろう?」という点でした。


 2011年までの東京U−18は、バルセロナの隆盛とともに多くのチームがポゼッション型サッカーを志向していく中、今風に言うところの「ハイ・インテンシティ」なサッカーで全国のタイトルを数度獲得するなど、独自の存在感を醸し出し続けていました。しかし、当ブログでも何度か触れましたが、ランコ・ポポヴィッチ監督がトップチームの監督に就任した昨シーズンから、U−18もトップチームとの連携を図りながら、「繋いで崩すサッカー」を特徴としてやっていく方向に舵を切りました。そんな昨季は、もともとスロースタートなチーム作りをしてきたこともあって、シーズン序盤はかなり手詰まりな試合をしてしまうこともありながら、それぞれの大会で満足な結果を残すには至らずも、「2012年度の東京U−18はこうなんだよ!」と胸を張って言えるところにまで成長してくれたと思っています。
 そんな、チャレンジングな1年を経て迎えた2013年。1年ごとに代替わりのある育成年代の難しさもあって、一口に「2年目だから、より熟成したチームに…」とは言いづらいところがあるのは理解しつつ、夏ごろまでは試行錯誤の部分もあるだろうなぁ…という覚悟も持ちつつ、それでも確かな期待(と微かな不安)を抱いてシーズンスタートからここまで見てきました。ただ、ここまでの公式戦、勝ち負けだけで言えば勝ちの方が多いながら(12勝9敗)、自分たちの持てる力を出し切って、目指すサッカーをやりきって90分を終えた試合がいくつあったか?と言われると、なかなかこれといった答えを見出すことができません。もちろん、相手がいるわけですから「出そうと思っても出させてもらえなかった」パターンはあります。でも、この時期になっても「出そうとすらしていなかった」、あるいは「出そうにも出す手段を実は持ち合わせていなかった」という印象を拭い去れない試合が続いている気がしてしょうがないんです。6/16鹿島ユース戦は、出そうとしても出せず、出そうにも手段がなかった、その両方が如実に表れた試合だったように思います。


 スタメンは以下のとおり。

――――――矢島――――――
蓮川――――長澤――――川上
―――輪笠――――安部―――
鴨池――大西――渡辺――相原
――――――伊東――――――

 まあ、いろいろと使ってほしい、ここにいてほしい選手が怪我やらなにやらで外れていましたが、それはそれとして。雨がそぼ降る中、実質グループ3位の座を賭けた試合は、13時にキックオフ。
 立ち上がりから、鹿島ユースの選手たちは「ロングボールの使い方」「セカンドボールへの対応」「寄せきるチェック」「チャレンジ&カバー」「声を出し続け、声をかけ合う」、この5つが相当鍛えられていると実感させられるプレーをしていました。2011年の秋、Jユースカップグループリーグ第3節をここに見に来た時も、立ち上がりから「ファイトボール」を仕掛けてきたわけですが、それがより洗練されていた印象を持ちました。11年は最前線の選手がそれほど大きな選手ではなかったので、割とアバウトなボールを蹴って、そのセカンドボールをどうにかして拾って…という形でした。しかし、この日1トップに入った18番の子はかなりガタイがよく、少々の当たりには全く動じないタイプの選手だったため、まず18番をめがけて、意図したロングボールを入れようとしていました。そこで収まれば次の展開があるし、五分の競り合いによりこぼれたボールに対しては周りの選手がきっちり素早くセカンドボールへ反応して回収。もし競り負けて東京にボールが渡っても、前線の4枚が思い切ってポジションを捨ててボールホルダーに寄せきることで、東京の選手が慌てて蹴ってしまったり、パスミスを誘われたりという場面が少なくありませんでした。
 一方の東京も、矢島のポストプレー、長澤や蓮川の仕掛け、輪笠のコントロール、鴨池のオーバーラップなどで鹿島守備陣を慌てさせるシーンを何度か作れていました。中でも光っていたのが蓮川。前節スタメンだった伊藤や高橋を差し置いてこの日は抜擢されたわけですが、その期待に応えようとする気持ちはビシビシ伝わってきましたし、一昨年の夏、まだU−15深川に所属していた中学3年生の彼を始めてみた時のスケール感がフワッと甦りました。いつもは蓮川に対して生温かい声援を送る(恐々見ている、とも言う)ことも多いこちら側も、立ち上がりから躍動するこの日の蓮川に対しては、かなりの期待がこもった声が飛んでいたなぁと。
 しかし、(見ていたほかの方がどう感じたかは分かりませんが、私は)徐々に埋めきれない差が出てきたなぁ…と感じていました。それは、鹿島は上でも書いたとおり自分たちのスタイル、やるべきことがハッキリしていて、流れを読みながら上手くチームで戦えていたのに対し、東京はどういうスタイルで、どうやって相手を崩すのか、あるいは上背やフィジカルで優る相手の攻撃をどう食い止めるのかハッキリせず、個人が単発でその場を何とかしのぐプレーが増えてきたから。この部分が顕著に現れたのが、サイドの攻防でした。
 「東京の攻撃対鹿島の守備」という目線で見ると、まずはっきりと差が出たのがヘルプ・サポートのスピード。例えば、矢島が収めて外の蓮川へポストプレーという攻撃を仕掛けたとして、次の手には「蓮川に対して鴨池、輪笠、長澤いずれか(あるいは複数)がすぐさまサポートに入って数的同数、あるいは優位な形を作る」形が1つあると思います。オフィシャルに書いてある10分のシーンはそれができていましたが、徐々にサポートが遅れ始め、ボールホルダーが一人でどうにかしなければいけない選択肢しかなくなっていきました。そうさせられたのは鹿島の守備が機能していたからで、左SHである蓮川に対して鹿島の右SBがチェックに入ったその後、東京の選手が攻撃のサポートに入る前に、鹿島の選手が守備のヘルプを済ませてしまう場面の方が明らかに多く見られました。本当に律儀に、とにかく献身的に右CB、ボランチ、右SHの3人のうち必ず1人はヘルプに入り、数的不利は絶対に作られないぞ!という意図を強く感じましたし、2人がヘルプに行って「蓮川1人対鹿島3人」というシーンが生まれ、蓮川が強引にドリブルするもあっさり奪われる、なんて流れが2度も3度もあったのは印象的な構図だったかなと。
 では、なぜ東京の選手のサポートが鹿島の選手のヘルプを上回れなかったのか?それは、鹿島の前線からの守備も効いていたから。上でも少し書きましたが、とにかく鹿島の前線の選手は「ここ!」と思った際、わき目も振らずポジションを捨ててボールホルダー(主に東京の最終ラインやボランチ)に対して間合いを詰めにいきました。その勢いたるや「サッ」とか「シュッ」ではなく、「ギュッ」という擬音語を使いたいぐらいの、ものすごいパワーでした。そんなチェックに対して、東京の最終ラインは多くの場面で仕方なく蹴るという選択肢を取らざるを得ませんでした。そうなると、意図した形でのフィードではないためどうしても精度が落ちますし、合わせてプレスにやられてボランチ(ともすれば両SHまで)含んだ全体のラインが下がってしまったため、苦し紛れに蹴ったボールを矢島や蓮川がなんとかマイボールにできたとしても、そこから後ろの選手がポジションを上げてサポートに行く距離が、鹿島の選手が守備のヘルプに入る距離より長くなってしまい、どうしてもサポートが間に合わないという現象がそこにはあったと見ています。多くの人が「セカンド!」「こぼれ球!」と思い、各々(私も)声を出していましたが、冷静に振り返れば物理的に無理だったわけで、この物理的を生み出した鹿島の守備のやり方は、素晴らしかったと思います。
 方や、「鹿島の攻撃対東京の守備」という目線ではどうだったか。先ほど、鹿島の18番がガタイよく収まって…と書きましたが、ここは大西、渡辺がそれぞれ踏ん張って競り勝つ、跳ね返すことができてもいました。しかし、両SBがこぼれ球へのヘルプや、後ろから追い越してくる選手のケアでやや中へポジションを絞るケースが増えていきます。こうなると、両サイド深いところにスペースが生まれるわけですが、鹿島はそこを見逃してくれませんでした。一番崩されたやり方としては、「ワンサイドに相手を引き寄せておいて、中長距離のパスを逆サイドのスペースに飛ばす」形。例えば、自陣右サイドでボールを持ったとする。近場で受けられる選手はきっちりボールサイドに寄っていく。と同時に、最前線にいる18番も真ん中に張るのではなく、右サイドにポジションを移す。それに対して東京の守備が全体的に(鹿島側から見て)右に傾く。そこで空いた逆サイド対角のスペースに余っている鹿島の選手が入っていき、その選手めがけてロングボールが入る。平たく言えばこんな流れで、幾度もサイドを深くえぐられました。まあとにかく、ボールと逆サイドの裏はとことん突かれました。この日の前日に行われたJ2、北九州対熊本(北九州が7−0と爆勝)において、熊本が全く最終ライン裏のスペースをケアできずにズタボロにされた試合をたまたま見ていたんですが、東京の守備はこの日の熊本並に統率が取れておらず、やられてもやられても、誰一人修正できませんでした。1つ前のエントリで「今年、公式戦でまだ無失点試合がない」ことを書きましたが、このやられっぷり、ベンチを含めたチーム全体の修正能力の無さを見せられると、それも当然の成り行きなのかなと一人苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
 ただ、そのロングボールの効力を最大限のものにしているのは、実は密集でのテクニックとコンビプレー。上で書いた流れの中で、「鹿島が自陣でボールを持ったところにプレスをかけて取りきれなかったのか?」、あるいは「東京の陣地に入ってくるまで手を出さず、自陣に入ったところで人数をかけて囲んで奪う手はなかったのか?」と思われた方がいるかもしれません。私も、試合中はどちらかといえば後者のやり方で何とかできるのではないか?と考えていました。また、ここまで読んでいただいた中で「鹿島の選手たちは大味なことしかできないんじゃないの?」と思われた方がいるかもしれません。しかし、細かいテクニックや密集でのコンビプレーといった小技も巧みで、3人が小さなトライアングルを作り、そこに東京の選手を(あえて、とまで書きますが)おびき寄せた上でヒラッと交わし、中盤や遠いところにオープンスペースを作る場面を要所で見せ、先のロングボールと合わせて東京の守備陣に対して「行ってもダメ、待ってもダメ」という意識を植え付けることができていたように思います。また、腕の使い方が本当に上手で、いい寄せからボール取れる!と思ったけれど、ハンドオフされて取りきれない場面も多々見られました。これをテクニックと言うべきか、高校生のうちから教え込むべきものかについては議論の余地があるかもしれませんが、現にこの試合に限れば、腕の使い方には圧倒的なさがあったと思います。


 そんな中、鹿島に先制点が生まれたのは必然の流れだったかと。26分、(確か)鹿島の最終ラインから放たれたフィードは東京の右サイド深くに流れてしまい、相原がそのボールを処理しようとしましたが、鹿島の選手がチェックに入り前を向かせてもらえません。ここで相原は「このままボールをゴールラインまで流してゴールキックにする」、もしくは「セーフティにタッチに切る」を選択すべきでしたが、なんとボールを生かそうと思い、無理やり腰をひねって前にボールを蹴りだします。しかし、このボールが渡った先は鹿島の選手。素早く中の様子を伺うと、エリア内は11番とCB(大西だったか渡辺だったかは見えなかった)の2人だけ。そして、フリーの状態から上げられた正確なクロスに対して11番がCBに競り勝ってヘディングシュートを放つと、これがゴール左隅に決まって試合が動きました。相原の判断は完全に間違っていました。ただ、相原はプレッシャーをかけられてヘッドアップできず、周りの状況を確認することが難しいシチュエーションでもありました。そう考えると、周りの選手がコーチングしてあげて正しい判断をさせてあげるべきでしたが、その声は(出ていたかもしれませんが)スタンドには届いてきませんでした。
 1つ前のエントリで「声」について書きましたが、その時感じていた声の出なさと比べれば、この試合多くの選手が声を出し、互いにコミュニケーションを取れていたと思います。しかし、鹿島と比べてしまうと、雲泥の差がありました。コーチングの声、励ましあう声、いいプレーを褒める声、ダメなプレーを叱責する声、レフェリーとのコミュニケーション、いずれをも鹿島の選手は全員ができていました。まあ、レフェリーに対しての声はさすがにやりすぎだろ(苦笑)と思いましたが、変な話、それもできる余裕が鹿島にはあったわけです。それに対して、東京の選手がレフェリーに対して向けた声はどれもイライラした、怒気を含んだものばかり。また、序盤には出ていたその他の声も、劣勢が続く中で消え入るようになっていきました。声を出していれば勝てるわけではありませんが、ここだけ見ても屈していたことは疑いようがありません。2失点目は、東京から見れば完全に事故(超スーパーなミドルシュート)。これは忘れるに限る。その後、オフィシャルにも書いてあるとおり蓮川や川上がシュートまで持ちこむ展開も作りますが、ネットは揺らせず。前半は0−2で終了しました。
 後半。東京は前半ほとんど見せることができなかった最終ラインからのビルドアップを試みる場面が増えました。前半から「繋ぐのを怖がっていたらダメだ」と思っていたので、このアクションを起こしてくれたことはとても嬉しかった…わけですが、その結果は「東京の足元を警戒した鹿島の先手を取ったアプローチに、攻撃に転じても中々繋げることができない」というオフィシャルの言葉通り。選手間の距離が遠く、ボランチはボールホルダーに対してアングルを作って上げられず、SBが持てばきっちりとプレスにはめられ、3本とパスが繋がらない場面ばかりが続きました。一方の鹿島は前半と何も変わらず、ショートとロングを巧みに使い分け、真ん中ではなくサイドから崩していこうとする形を続けていきます。そんな旗色が少し変わったのが67分の高橋投入。狭いエリアでボールを持てて、ドリブルもあり、いわゆる起点となれる選手が1つ増えたことで鹿島の守備がややぼやけ、徐々に見え隠れする疲労も相俟って前半にはなかった東京にとっては美味しい、鹿島にとっては嫌なスペースができ始めます。そして72分。輪笠、長澤、高橋が上手く絡み、巧みなパスワークで完全に鹿島の左サイドを崩して中へクロス。これをフリーで待っていた川上(矢島?)が流し込むだけ!…だったんですが、シュートのタッチがややズレてしまい、がら空きのゴール左側ではなくGKが詰めていたゴール右側に飛んだボールは、無情にもGKに当たってノーゴール。この日最大のチャンスを逃してしまいました。その後も何とかゴールを奪おうと試みますが、引き続きビルドアップはスムーズさを欠き、時折ある単発のチャンスもゴールには結びつかず。逆に、強烈なカウンターから87分に3失点目を喫してジ・エンド。次のステージへの扉は閉ざされてしまいました。


 冒頭の話に戻りますが、このクラ選関東予選で私が見ることができた3試合の相手には、すべて特徴的な色が見られました。甲府には、とにかく粘り強く守備をして、少ないチャンスをものにして勝ちきる勝負強さがありました。町田には、厳しい試合展開が続いても折れることのないメンタルと、最後まで諦めずに走りきる根性がありました。そして、鹿島には…「ブラジルっぽさ」がこれでもかとふんだんにまぶされた、今の潮流からすれば異質な存在感がありました。
 では、今の東京には何があるか?どんな色をしたチームなのか?努めて冷静に考えてみても、まだユースを見たことがない東京サポや他の方々に胸を張ってこうだ!と言い切れるものは思いつきませんでした。トップチームと同じく、最終ラインからしっかり繋…げていない。いつかの原トーキョーのようにサイドを中心に、割とダイレクトに、スピーディーに攻撃でき…ていない。前線から激しくプレスをかけ、そこでボールを取りきってショートカウンターから得点をとれ…ていない。ややリトリートして、自陣で人数をかけてボールを奪い、そこからコレクティブに攻め上が…れていない。最後まで気持ちを切らさず、相手より多く走れ…ていない。みんなで声出して、みんなで盛り上げて、チームで戦え…ていない。言ってしまえば何もかもが中途半端で、よくある六角形のグラフで言えば、5点満点中全部が2点台前半という小さいまとまり方をしてしまっている状態にあると、私は感じています。
 さて、どうこの状態を脱却していくのか?正直、攻撃も守備も、フィジカルもメンタルも、どれも厳しい状態にあるので、何から手をつけていけばいいのか難しいところはあります。ただ、逆に言うと、ここからの意識付け、アプローチの工夫次第では飛び抜けた「色」をつけられるチャンスでもあると思うんです。ポゼッションにこだわるもよし、カウンターに活路を見出すもよし。失点覚悟で攻め倒すもよし、とにかくゼロで抑えるために守り倒すもよし。どう考え、どう意識付けるかは本吉監督以下コーチ陣の腕の見せ所ですし、選手たちは監督・コーチ陣の意図はしっかりと理解しつつも、それに縛られるのではなく自分たちで考えて、自分たちで決断して、自分たちが後悔しないプレー、試合をするように意識を働かせてほしいと願っています。
 このまま「なんとなく」試合を重ねていくことは、誰にとっても幸せなことではありません。ここで腐って、ここで打ちのめされて、もうこのままでいいと思うなら、どうぞ好きにすればいいと思います。でも、そうやって卑屈になる必要は全くないし、何かを諦めなければならないほどこのチームは弱くないと信じているし、なによりこのままダラダラ1年を終わってしまうのはもったいないじゃない。このまま終わっちゃったら、つまらないじゃない。鹿島戦、ピッチの上で悔しさを味わった奴も、私たちと同じスタンドで声を上げることしかできずに終わった奴も、ここでもう1回ギアを入れ直してやるしかないだろ。もしこれを読む機会があって、「こいつ知ったようなこと書きやがって」と思った選手がいたら、プレーで見返してみやがれ。こっちはいつでも、「減らず口叩いてすいませんでした!」って頭下げる準備しておくからさ。