続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

トーキョー式3−4−2−1

 1つ前のエントリで、3バックを絡めていくつか注目を挙げながら「トーキョー式3−4−2−1」についてプレビューさせてもらいました。結論から言うと、攻撃面に関してはいい形がほぼ思った通りに出ていたように思いますが、守備に関しては完全に、しかしとてもポジティブに「してやられ」ました。そんな横浜FM戦を振り返ってみます。


 スタメンはこちら。

―――――ルーカス―――――
――――梶山――田邉――――
椋原―アーリア―米本――徳永
――森重――高橋――加賀――
――――――権田――――――

 石川がひどい偏頭痛でベンチからも外れ、そのポジションに田邉が収まる形。ベンチには橋本、林と台所事情の苦しさも窺わせながら、しかし羽生がようやく戻ってきてくれました。横浜は中村、大黒がベンチでちょっとびっくり。疲労?コンディション?戦術的判断?
 さて、プレビューエントリの最後にこうまとめました。

私が明日注目しているポイントを改めて簡潔に書くと「アタッキングサードに入ったあたりでボールホルダーが前を向いた際、どれだけの人数が受け手として無理なく関与できるか?」「3バックと4バックの使い分け・判断が上手くできるか?」の2点。この2点が上手くいけばどこが相手でも圧倒できる可能性を秘めていますし、逆に上手く行かなければグズグズな負けが待っているかもしれません。

 当然、この2点をポイントにおいて試合を見始めました。で、立ち上がり10分ぐらいは横浜が試合を動かす展開になり、東京が守備の時間を強いられます。しかし、そこで東京が見せた守り方は意外なもので、個人的には「してやられた」わけです。
 3−4−2−1の東京対4−4−2の横浜FMの対戦は、単純な噛み合わせ上、サイドで横浜が数的優位に立ちやすいことが容易に推測できます。それを解消するためには「どちらかのWBが最終ラインに下がり、そのサイド側のシャドーがSHの位置まで張り出して4バック化する」「両WBが最終ラインまで戻って5バック化する」の2通りがあり、プレビューではいくつかの情報から「4バック化」して守ることを前提にあれやこれや書きました。しかし、横浜FMのキックオフで始まり、その1つ目の攻撃を受ける守備隊形はこんな形でした。

―――――ルーカス―――――
梶山―アーリア――米本―田邉
椋原―森重―高橋―加賀―徳永
――――――権田――――――

 この日はG?(ゴール裏2階席)で見ていたのですが、まったく躊躇なく5バックになっていて思わず妻に「普通に5バックやん!」と笑いながらつぶやいてしまったほどでした。ただ、相手キックオフからの攻撃で、兵藤、齋藤の両SHが高い位置まで張り出してきことに対処する形だったので、まあそんなこともあるかな?とも思い観戦続行。そして、1分を過ぎた横浜FM2回目の攻撃は、横浜FMの両SHがグッと中へ絞り、徳永、椋原の両WBを中に寄せて置いた上でマルキーニョスが3バック横のスペースに走りこみ、最終ラインのドゥトラから1発でそこへパスが出る、そこで3バックのバランスが崩れたのを見計らって齋藤がマルキーニョスを追い越してパスを受けて、ドリブルでCKを取る内容となりました。このやり方についてプレビューでも例題として触れたのですが、かなりあっさりと4バック化できずに形を作られてしまい、先ほどの笑いが一瞬にして消えて、「これを続けられたらしんどいな…」と渋い表情になりました。その後2、3つの攻撃は横浜FMお得意のセットプレー(こぼれからの流れも含む)なのでこれはある意味どうしようもない、ある程度やられるのは仕方ないところでしたが、6分の横浜FMの攻撃はスローインから始まり、椋原が下がって受けに来た小野に対応して、と同時に徳永が最終ラインに落ちる4バック化と言える守り方に見えました。そして、そこから2、3つあった守備機会での守り方は、どちらかのWBが横浜FMのSBにチャレンジし、それを埋めるスライドなどをやっての4バック化が割とスムーズにできていたので、ホッと胸を撫で下ろした覚えがあります。


 ここで一旦攻撃に話を切り替えます。最初に形が生まれたのは7分。権田から高橋にボールが渡り、受けた高橋は前が空いているのを見てドリブルを入れ、一気に最前線のルーカスへフィード。この時、中澤は梶山のチェックに入るもあっさりと振り切られ、ルーカスは走りこんできた梶山にチェストパス。すぐさま中へ入っていったルーカスに梶山から再びいいタイミングでパスが戻り、迷わずシュート。そのこぼれ球を後ろに詰めていた田邉が狙うも栗原が懸命のブロックからクリア、という流れでした。これを見た瞬間の感想は、「横浜FM守備陣は2シャドーに対してCBが食いついてくるけど、周りのヘルプが遅いからいけるな、これ。」でした。また、このシーンでは直接絡みませんでしたが、椋原は田邉がシュートを放つ瞬間ペナルティエリアの中にいましたし、徳永もペナルティエリアの角まで出ていていました。4−2−3−1の際にもこんなシーンがなかったわけではありませんが、仮に4−2−3−1−でこれをやると後ろが2CB+2ボランチの4枚しかいないのに対し、3−4−2−1では3バック+2ボランチの5枚が残ることになります。この1枚の差は相当大きくて、両WBにとっては出ていきやすいシチュエーションが生まれやすくなります。これは1つ、3−4−2−1にした利点として覚えておきたいところです。
そして、2つ目のチャンスは10分。横浜FMのスローインで中町がボールを受けるも米本が素晴らしい判断でボールを引っかけ、ルーカスの頑張りも挟みつつ梶山が高い位置から前を向いてドリブルを開始。そこで3人引きつけている間に田邉が残る最終ラインの2枚と勝負するフリーランを見せ、スッと引いたルーカスは完全にフリー。梶山はジャストのタイミングでそのルーカスにパスを出し、受けたルーカスはミドルシュート。惜しくも枠外でしたが、非常に見ごたえのあるショートカウンターでした。このシーンも、スローインの守備時に田邉は中央にいましたが、攻撃に切り替わった時にすぐさま相手にとって嫌な動きが取れるところにいることができていました。4−2−3−1のSHがそれをできない、とまでは言いませんが、2シャドーだからこそできた攻撃とは言えるはずで、しかも徳永がしっかり、どフリーでエリア近くまで上がっていけるのも、前線の3人だけで最終ラインを中へ収縮させられる形を取れる、そしてWBとしてベースが高い位置にあることが要因としてあるわけで、徳永や椋原の特長である「切り替えの早さ」「上下の運動量」がフルに活かされる働き場と言っていいのではないでしょうか?
 13分に見せた攻撃は、システムどうこうではなくこれまでやってきたことが出来たシーン。加賀がボールを持った際に田邉がボランチの位置まで下りてきて齋藤を中に引き寄せ、空いた外にいる徳永へパス。その瞬間米本が田邉を追い越してフリーランを開始し、徳永はそれも目に入りながらトップのルーカスへ1タッチパス。そして、ルーカスがしっかり1タッチで米本に落とし、それを受けた米本は中澤からイエローカードを引き出しました。今、浦和と広島、海外ではナポリがこの3−4−2−1を採用していますが、シャドーの選手がボランチのところまで下りてきて受けるというシーンはほとんど見たことがなく、また、3バックの1人からWBにパスが出た瞬間にボランチが最前線めがけて走り出すというシーンもあまりないと思っていますが−どちらかというとシャドーに収まったり、WBが高い位置でボールを持ててから飛び出していく−、米本、アーリアはこの動きができる選手で、こういうフレキシブルを見せられると相手はますますマーキングがずれたり、受け渡しにスムーズさが出なかったりするわけで、このシーンはまた別の角度でトーキョー式3−4−2−1の醍醐味になりそうな気配も感じました。


 そんなわけで、15分を迎えるころには完全に東京ペースで試合が進んでいました。しかし、その15分の横浜FMの攻撃。飯倉からスタートしたビルドアップでしたが、立ち上がり1発目の守備と同じく、何の躊躇もなく5−4−1になりました。「またかw」と思ってみていましたが、なんとこの攻撃は齋藤がオフサイドに引っかかって終わったんです(録画を見たらオンサイドにも見えたがw)。浦和や広島が見せている5バックは、仮に相手が丁寧にビルドアップしてきた場合はそこまで無理に前から取りに行かず、最終ラインをグッと下げて自陣に相手を引き寄せてから人数をかけて奪う形なのは皆さんご承知の通り。私も「5バックになる=ラインが低くなる」という懸念を持っていたので、いかに4バック化をうまくやって耐えられるのかに焦点を当てたんですが、この時オフサイドを取った=5バックの位置は、ペナルティエリアから15mは離れていたかなと。その後も、5バックになることを全く厭わず、しかしハイラインキープとラインブレイクしてのインターセプトを積極的に狙いにいく、これまで4バック時にやってきたことと全く変わらない、結果的に個人的にはかなり新鮮で、新しさを感じた「ハイライン5バック」がここで誕生しました。それが意図的であったかどうかは知る由もありませんが、最終ラインの人数がどうであれ、東京はハイラインを保ってオフサイド仕掛けるよ!とこちらからメッセージを発すること、ラインブレイクして仮に外されても4バック時よりカバーの人数が1枚多いことによる個々の積極的な判断の増加、しかし、局面によってはサッと最終ラインを下げて人をかけて守るよ!という姿勢も見せる、これらの複数の手で相手に常にプレッシャーを与えることができれば、それだけ相手の攻撃の視野が狭くなるわけで。実際、5バックになることで横浜FMがゲームをコントロールする時間帯こそありましたが、前半の横浜FMのシュート数は4本で、うち2つはフリーキック。回されたのか、回させていたのか、その答えは明白でしょう。ここについては異論受けないからね!
 そして、先制点も東京らしい前線からのチェックが利いた形から生まれ…たというよりは、まあ中澤のどうしようもない判断&技術ミスが9割5分ですね(苦笑) それは置いといて、その後36分には高い位置のプレスでミスを誘い、そこで得たスローインの流れから梶山→ルーカス→アーリア→大きなサイドチェンジでどフリー徳永シュートで決定機を作ると41分、追加点が生まれます。ボランチに下りてきた田邉から下がって受けに来たルーカスへ楔のパス。これに栗原が食いつき、上手くボールを奪ったかに見えたところを米本が強引に取り戻してすぐさまルーカスにリターン。ここで、なぜかドゥトラがかなり中へ絞って、しかもルーカスにチェックしに行きますが、それを見た梶山が巧みなステップでフリーになってルーカスからボールを受け、下がってチェックに入った齋藤をあざ笑うかのような右足アウトサイドパスでこれまたフリーの徳永へスルーパス。この一連の流れに取り残されていた中澤*1が徳永のチェックに行きますが、これで中は完全にガラ空きとなり、徳永は冷静にショートクロス。きっちり走りこんでいたルーカスが難なくネットを揺らしました。田邉が引いた動きから始まった一連の流れで、横浜FM守備陣のマークがものの見事にずらされたわけですが、それを自らのアクションで生み出したのはすごく爽快でしたし、おそらく今季イチの「中で作って外、外からのクロスを中」という形。今季は「外はあくまで起点の1つで、底からいかに中を崩せるか」という攻撃が多く、プレビューでも「3−4−2−1になって、中へのパスの選択肢をいかに増やせるか」という目線を書きましたが、このシーン以外でもサイドが空いてクロスを…なシーンが複数見られ、中外の使い分けがここまで上手くいったことは素直に嬉しかったですね。


 後半。横浜FMは中村を投入してきました。立ち上がり齋藤の単独突破や、なんとすね当てを付けずに試合をしていた(苦笑)米本が、すね当てを付けるためにピッチから外れて10人で守っていたシーンなどあって、前半同様横浜FMが立ち上がりの主導権を握ります。横浜FMは明確に「中村にボールを集める」「主にSBが東京のWBを引き出し、その空いたスペースに誰かが入っていってボールを出す」という形を対応策として見せ始めますが、この日はあらゆる局面での1対1で東京が8−2ぐらいで勝利し、横浜FMはクリーンなシュート、クリーンな崩しを見せられません。一方の東京は何も変わらず、何も変える必要もなく。むしろ、前半徳永が目立ったのに対し、後半は立ち上がりから椋原が2段エンジンの2つ目に火が入ったが如く、奪った後の切り替えですぐに、あるいは長い距離を走って攻撃に顔を出すようになり、51分には惜しいシュートも放ちました。守備も引き続き5バックになることを全く厭わず、しかし前半よりラインの上げ下げをハッキリさせて、下がる時は前半より躊躇なく下がって受けることもよしとするような形だったかなと。
 ただ、60分ちょっと前ぐらいから再び明白に横浜FMがボールをコントロールし始めたのですが、これは2シャドー(特に田邉)に疲労感が見られたから。先ほどから最終ラインの守り方は書いてきましたが、それ以上に汗をかいて、難しい守りを求められているのが実は2シャドー。基本的には攻撃時より外に開いて横浜FMのSBをケアする形だったと思いますが、しかし場面・局面に応じてCBに食いつく、ボランチを見る、米本やアーリアが前に取りに来るところを下がってヘルプやカバーするなど実に広範囲な仕事を求められ、その上で攻撃になったら瞬時に切り替えて出ていかなければならないわけで、徳永や椋原よりも運動量が必要なんじゃないか?とさえ思うほど、キツイ仕事をしていたと思います。そして、失点もシャドーの疲弊からスタートしました。65分、相手のビルドアップに対してアーリアが飛び出してチェックしに行き、続けて田邉が自分の持ち場と反対サイドに出て行って中村をケアします。この時梶山は自分のサイドでSBの上りをケアしていましたが、これにより2シャドーが同サイドに引き寄せられます。そのあと数本のパス交換を挟んで中村が大きなサイドチェンジで右SBの小林にボールを送りますが、シャドーが同サイドに寄ったためここは椋原が飛び出して応対します。そして、その空いたスペースに小野が流れ、ここに森重がついていって一旦遅らせます。ここまでは別に普通でしたが、その小野が作り直しのために中澤へボールを下げたのですが、ここに対して誰もチェックに行けませんでした。通常はシャドーがケアするべきポジションでしたが、上で書いた通り2シャドーとも同サイド(この時ボールがあったのと反対のサイド)に寄ってしまい、そのポジションの修正もできず。そこからは1つずつマークがずれ、対応が後手を踏んでフリーを作られ続け、結局はドゥトラからのクロスを兵藤が叩き込んで1点差に迫られます。もちろん、シャドーだけのせいではありませんが、これが続いてプレスがかからずただズルズル「下げさせられる」5バックになったらきついな…との思いが頭をよぎります。
 しかし、この日はポポヴィッチ監督がジャストな、ベストなタイミングで選手交代を施します。ピッチサイドには羽生と渡邉。「田邉と…誰下げるんだ?」と思ったらなんと梶山。そして、「あー、渡邉をトップにおいて、ルーカスと羽生でシャドーか」と思ったら、なんとそのまま羽生と渡邉で2シャドー。この采配はしびれましたね。受けきって終わるつもりはない、前からのアタックはやめない、ゴールは狙い続ける、そんな明確なメッセージがピッチ内外に広がり、入ってほぼファーストプレーの渡邉が迷わず長いドリブルで仕掛けてFKを獲得。蹴るのはルーカス。そんな展開、空気感を踏まえて妻には「これ、決まるよ」って言いましたが、あまりにもきれいに決まりすぎてさすがに大爆笑。千両役者とはこの時のルーカスみたいな選手を指すんだね。その後もルーカス、渡邉、羽生の3人できっちりパスコースを限定し、その仕事を受けて後ろがしっかりスウィープ。80分にはルーカスに替わりブチチェヴィッチがそのままトップに入り、そのブチチェヴィッチもしっかり守備の役割を完遂。そして、攻撃でも椋原が実は3段ロケットでしたばりのスタミナで上がっていけば、まるっと替わった1トップ2シャドーの3人が全く違和感なく崩して決定機を作るなど、最後まで意思と意欲を見せ続け、このまま試合はタイムアップ(最後にアーリアがマルキーニョスを突き飛ばしたのは…まあご愛嬌)。久々に完勝と言える内容で、東京は久々の連勝を飾りました。


 まとめ。私が感じたトーキョー式3−4−2−1は「前線からのプレッシングとハイラインを組み合わせた、実はこれまでと変わらない守備」と「これまで以上に中と外、前と後ろのバランスが改善され、相手に的を絞らせない攻撃」が肝だと言えるでしょう。ハイライン5バックは新しくて、続けてほしい気持ちがありますが、しかし3枚でも4枚でも5枚でもその部分はどうでもよくて、ハイラインをいかに保てるか、その時相手の前線の枚数はどうで、それに合わせる際にこちらが何枚で守るべきかという判断をいかに間違えないか、そして、引くときの判断を共有してチームとしてやれるか、そこが鍵になるのかなと。攻撃についても、しばらくこの形で使い分けをうまく扱えるようになればどういうシステムでもある程度形は作れるようになるはず。怪我の功名だったかもしれないこの機会を、それだけにとどめなかったポポヴィッチ監督、そして選手たちの戦いはもろ手を挙げて評価したいですし、この形がオプション以上のものになって、4−2−3−1と3−4−2−1をシチュエーションによって使い分けられるようになれば、一気にチーム力は増すはず。まだ怪我人は多いですけど、苦しい時間はいよいよ終わりを告げそうです。残り3か月、どこまでチームがたくましくなるのか、今は期待しか湧いてこないのが正直な気持ちです。

*1:いや、映像見れる方はぜひ見てほしいんですが、ドゥトラがルーカスにアタックした瞬間、中澤だけ違う世界にいたかのようなひどいポジショニングでした(苦笑)