続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

「戦術」に逃げるな。「己」に負けるな。

 ミスから失点してしまい、その後は何もできない試合になってしまった。最終戦は勝つしかない。夏以降は、自分たちの力不足を感じる試合が続いてしまった。やるべきことを継続することが、いかに難しいかということでもある。最終戦は自分たちのプライドのためだけに戦うしかない。なんのために戦っているのか。もっとみんながそれぞれ覚悟を持ちながら試合をしないといけない。

(Jリーグ公式サイトより引用)

 完膚なきまでに、現時点での完成度を見せつけられた多摩川クラシコ味の素スタジアム。上記のコメントは、試合後にある選手が発したものです。一見すると、もっともらしい言葉が並んでいますが、私はどこか、違和感を覚えたままでいます。



 今季のFC東京。一言で表すならば「急上昇、急降下」となるでしょうか。当ブログでも継続的にエントリを書いてきましたが、中断前までの右肩上がりっぷりと、中断明け(特に8月中旬以降)の右肩下がりっぷりは、およそ1シーズンで同じチームが見せたものとは思えないほど、起伏に富んだものでした。

 上がり。複数のマスコミ、ライターに取り上げてもらったので仔細は省略しますが、長谷川監督が植え付けた「ハードワーク&ファストブレイク」が、その時点での選手の個と見事にマッチング。その結果、分かっていても止められない攻撃と分かりやすく粘り強い守備で、勝ち星を積み重ねていきました。

 ファストブレイク(≒カウンター)は、攻撃のメーターが0から100へ一気に振れる、極端な話、「縦パス1本+裏抜け=決定機」も可能な戦術。もちろん、コレクティブさや選手同士のタイミングの一致・意思疎通など、成立に必要な要件は多々ありますが、一方で多少のアバウトさは許される、あるいはかかわる個が少なくて済む側面もあります。

 この時期輝いていたのは、ディエゴ(頑健さ)、永井(速さ)、高萩(一刺しのパス)、東(流動性)、室屋(上下動)といった面々。いずれも分かりやすい特長が、分かりやすい形で活き、活かされていたなと、いまや大昔のことのように思い出されます。

 下がり。しかし、近代のサッカーは転換が早く、件の戦術は割とあっさりスカウティングの網に引っ掛かり、チームは次の一手を求められます。そこで長谷川監督は、夏の暑さも考慮しつつ「ビルドアップ」に若干針を振ります。

 ただ、結果は残念ながら不発。7~8月の試合を見たあとにはマイナーチェンジなるエントリにて

 広島を追いかける1番手として、シーズン開幕前の下馬評以上の結果を残して見せた中断前の自分たちに安閑とすることなく、予想された(以上)の猛暑に対応すべく、中断期間のキャンプ等でマイナーチェンジを試みた。

 その試みがすべて否定されるべきではないが、積極的なターンオーバーが結果的にブラッシュアップを若干阻害し、夏の選手移籍、橋本や田邉の負傷、岡崎の代表選出等で手駒のバランスがいささかいびつになったこともあって、良い点がぼやけ、悪い点がダイレクトに結果に跳ね返ってしまった。

(中略)

 暑さの収まりとともに、再びファストブレイクに振れるのか。それとも、今夏のマイナーチェンジを陣容の復活とともに再度試みるのか、ファンだから一喜一憂しますけど、心穏やかな一面も失わずに見ていけたらと思います。

 と、まだポジティブな気持ちを文字に残していましたが、9月下旬の産みの苦しみ?限界?なるエントリでは、

 チームが新たなことにチャレンジした際、結果がついてこないことは往々にしてあり、そんな状況を「産みの苦しみ」と見るか、「伸び白がない」と見るかは、その時その状況で変わってきます。

 今夏、マイナーチェンジを試みた東京ですが、冒頭に書いたとおり、仙台戦を見る限り、私はこのままでは「伸び白がない」状況だと感じました。この状況を招いたのは誰あろう長谷川監督であり、選手であり、チームであり。

 と、かなりネガティブな気持ちを吐露しました。日々の練習を日々追いかけられるわけもないので、これは完全に邪推ですけど、長谷川監督からすれば「笛吹けども踊らず」、選手たちからすれば「やるべきことが定まらず」、互いが何とも噛み合わない状態だったのかもしれません。

 このように、上がりのは「戦術が個に乗っかって突っ走れた」時期だったのに対し、下がりは「個が戦術を縛ってしまった」時期だったと言えるでしょう。言い換えれば、上がりも下がりも戦術と個が織りなした末の結果ではあるものの、軸はそれぞれ別だったと見るのが正しいと思います。

 そして、1年間トータルで見れば、長谷川監督が示してきた指針とそのタイミングは決して間違ったものではなく、示された指針に対応できなかった、あるいは個を伸ばしきれなかった選手たちの奮闘不足に目を向けることが正しい批判ではないか?そう考えています。

 

 

 夏場のマイナーチェンジ。自陣からのビルドアップを指向するなか、ビルドアップからゴールに迫る、シュートに至るためには、どうしても「アシストのアシスト」が必要になります。

 この点を最も説明しやすいのが…高萩。高萩のプレースタイルをどう見るか、人によって多少の差異があると思いますが、私は知人がツイッターでいつぞやつぶやいた「ラストパサー特化型」がしっくり来ていて。

 この視点で書くと、4-4-2のセンターハーフとして、時折橋本と縦関係になって2トップの近くに位置する程度の動きで、十分にラストパス役をこなせていた上がりの時期の振る舞いも、マイナーチェンジ後に2トップの1角、あるいはトップ下として敵陣に置いた長谷川監督の判断も、両方理解できるところ。

 ただ、高萩を前目に置いたことで、「アシストのアシスト」役が不在になる弊害が生じます。橋本はそれでも、今季自陣でのパサーとしての成長ぶりを見せましたが、米本は精度不足を打開できず、品田、平川は長谷川監督を振り向かせられず、センターハーフ陣は長谷川監督の戦術にプラスアルファをもたらすことができませんでした。

 それに輪をかけて、ファンをガッカリさせたのが最終ラインの選手たち。現代サッカーにおいて、守ってればいいだけのセンターバックはその存在価値を落とし、サイドバックはビルドアップにおいて最も難しいタスクを与えられる、裏を返せば、チームにとって(は)要にもなりうるポジションとなりました。

 その視点に立つと、残念ながら最終ラインの多くの選手たちは、及第点に達しなかったと言わざるを得ません。室屋は森保監督就任以降の日本代表に選出されていますが、上下動の豊富さ、切り替えの早さ、敵陣での攻め気といった特長がより伸びた一方、自陣でのボール捌き、パスの受け方など、ことビルドアップにおいては、いまだ拙さを隠し切れずにいます。岡崎には、この点で可能性を感じましたが、センターバック含め、ポジションを奪うまでに至りませんでした(来季に期待)。

 左サイドも一長一短。小川は慣れない右サイドバック起用含め、安定しない起用を強いられた中で奮闘しましたが、一方で突き抜ける働きぶりまでは見せきれず。太田は昨季からアシスト数を減らし、終盤はセットプレーのキッカーを東と分け合う「懲罰」も受けた、非常に残念なシーズンに。活かされて活きるタイプではありますが、ことビルドアップにおいて、味方を活かすようなプレー、ポジショニングは最後まで見られませんでした。

 センターバック。振り返ってみれば、最もビルドアップに適していた丸山を、皮肉にもビルドアップ先鋭化著しい名古屋に譲り渡したことがすべてだったかもしれません。そんな丸山を失ったセンターバック陣--森重、チャン、丹羽--は、「受けて、捌く」のではなく「受けた、捌いた」を繰り返す単発さから脱却することができず、長いボールでの局面打開も、ほぼ見ることが叶いませんでした。

 その中でも、特に失望を隠せないのが…森重でしょう。丹羽はG大阪時代から見ていてビルドアップで期待できる選手ではなく、チャンは縦パスの意識や運び出しなど、長谷川監督の戦術にアジャストしようと試みていた姿勢は見えました。

 しかし、森重が最後まで、どこか気のないプレーに終始したように見えたのは私だけでしょうか?今季、キャプテンをチャンに譲りましたが、任を解かれたことがプラスに出て、よりのびのびしたプレーを見せてくれる、縛られた自分を解き放ってくれるのではないかと、シーズン前は期待していました。

 その期待が高すぎた、と言われれば返す言葉もありませんが、それだけの期待を背負って、いろんな責任を背負って、チームを代表する立場にいなければいけなかったはず。また、足下のプレー、パスの精度を買われていた時期は確実にあって、丸山が去った後、マイナーチェンジを試みたチームにあって、森重がビルドアップの中心にいてほしかったし、いなければならなかったはず。それが、少なくとも私には、物足りなく映り、悲しさを覚えることとなりました。

 

 

 冒頭のコメントは森重が発したものでした。最終節、その言葉を信じて見ていたファン・サポーターは、浦和戦で見せたあまりにも安易な失点シーンに、果たして「プライド」を感じられたでしょうか?「覚悟」を見出だせたでしょうか?俺がどうにかするんだ!という「責任」を受け取れたでしょうか?私は、そう思いません。

 戦術論が喧しく、戦術本が売れる時代にあって、戦術に目を向けることはとても大事なこと。しかし、その戦術を為すのは個であり、戦術が個を引き立てることも、個が戦術を机上の空論にしてしまうこともあるのだと、今季の東京を見ていて強く思い直しました。

 であるならば、来季に期待することは至ってシンプル。一人ひとりが上手くなってほしい。一人ひとりが、一つひとつのプレーに意図を込めて、責任を持ってプレーして欲しい。そこに、長谷川監督以下スタッフ陣の戦術が上手く噛み合い、1つでも多くの勝利を見せて欲しい。今は、ただそう思います。