続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

シンカ

 Jリーグ第2節、仙台戦。0-1で敗れたことも去ることながら、その試合内容から「はて、この先どうしたものか、ちょっと心配だな…」と直感的に思い、以下のようなエントリを書きました。

 

re-donald.hatenablog.com

 

 今読み返しても、その当時を踏まえれば決して間違ったことを書いたとは思いません。しかし、そこからわずか2か月半、状況は一変しました。ともすれば、ワールドカップ中断前まで苦戦が続くのでは?とすら思っていたので、今はいい意味で裏切られたなぁと。まずは、素直に長谷川監督以下コーチ陣、そして選手に敬意を表します。

 そんな、3月末から始まった怒涛の15連戦。東京は○勝△分×敗で乗り切りました。そして、この15連戦で感じたのが3つの「シンカ」でした。

 

 

 1つ目は「真価」。長谷川監督はシーズン新体制発表会の場で「勝利への○求」という言葉を使いました。発表会では「欲求」「探求」「追求」という言葉を例に挙げていましたが、シーズンが始まるや否や、長谷川監督は傍目から見てもわかるほど、選手へ明確に「要求」し続けました。

 最も印象的だったのが、第13節、川崎戦後の「(永井へ)足がつるまでやれ」「灰になるまで戦え」でしょう。細かい指示、戦術の落とし込みをやっていないわけではありません。それこそフィッカデンティ監督時代を髣髴とさせるほど、相手のスカウティングは入念に、丁寧にやっている印象を受けます。

 そのうえで、チーム全体に己を出し切ることを求める。そして、試合後にシンプルな言葉で報道陣、ファンに対して言葉を発する。川崎戦に限った話ではなく、開幕から終始一貫このスタンスを崩していませんが、それこそが長谷川監督の真価なのだと、日々思いを強くしています。

 ただ、篠田前監督が、あるいは現在不調にあえぐ他チームの指揮官が戦うことを求めていないのか?そんなことはありません。むしろ、篠田前監督の方が、そのキャラクターも踏まえて戦うことをより強調して求めていた(その思いを言葉にしていた)場面はありました。

 でも、結果はここまで明暗くっきり。じゃあ何が違うのか?と考えると、「役割分担の明確化」による選手個々の「真価」の発揮ぶりに思いが至ります。

 冒頭にリンクした仙台戦後のエントリにおいて、私は「攻守の分断」「プランBのなさ」をチームの課題として感じ、文字に起こしました。特に攻守の分断については、ビルドアップもままならず、ファストブレイクも仕掛けられず…という展開が浦和戦でも仙台戦でも見られたことで、不安を感じていました。

 そこから数試合。更なる試行錯誤を経て、今振り返れば思っていたよりも早く、長谷川監督は選手の立ち位置、個々の役割を整理・明確化することに成功します。

 

 例えば2トップ。序盤は組み合わせを模索している起用方法でしたが、第5節以降はディエゴ・永井の2トップがファーストチョイスに。守備でしっかりと相手の最終ラインをチェックし、プレスバックも厭わない献身さを見せながら、攻撃に切り替わればディエゴはそのオールマイティさで、永井はそのスピードで、常に相手最終ラインに脅威を与えています。

 ディエゴも永井も、これだけやれる選手であることは過去に見せてきました。ただ、ディエゴは昨季チーム事情もあって出場機会を減らし、永井も昨季はチームの求めと自身の特長が噛み合わず、持ち味を発揮できずに終わっていました。それが長谷川監督のもとで、4月以降特にやることがはっきりしたおかげで、2人とものびのびとその真価を内容で、結果で示しています。

 

 例えば室屋。仙台戦後のエントリでは名指しで「ちょっと厳しいかも…」と書きました。現に、チームがまだファストブレイクの鋭さをここまで研ぎ澄ませられないでいた時期に、岡崎にポジションを奪われる試合もありました。

 ただ、チーム全体の意思統一が図られ、ファストブレイクの鋭さが出てくるのと時を同じくして、室屋の躍動感は急上昇。それはもう、「いやいや、そんなに変わりますかね」と苦笑いしてしまうレベル。ついぞ先日には、海外からのオファーがあるというニュースまで出ました。

 昨季、チームが3バックに舵を切り、一瞬光が見えつつもすぐに闇にはまった時期。「室屋が大外から最終ライン裏へ → 大久保が斜めにロビング → 室屋が受けてシュート or 折り返して中で誰か」は数少ない攻撃パターンの1つとなっていました。これに限らず、豊富な運動量と瞬間のスピードで相手を置いていく姿は、室屋の真価の1つと言っていいでしょう。その姿を長谷川監督が理解し、今のチーム状況に即した形の役割を要求し、室屋が要求に応えて真価を見せた。文字で書けば至ってシンプルなんですけど、そのシンプルさがハマった時に、ここまで劇的な変化があるものかと、改めて奥深さを感じるばかりです。

 

 例えば太田。室屋以上にシーズン序盤はパフォーマンスが揮わず、小川が完全にポジションを奪った感すらありました。しかし、「セットプレーがカギになる」として、長谷川監督からチャンスをもらった川崎戦で、フリーキックから2アシスト。守備でも粘り強さを見せ、小川とはまた異なる真価を内外に示しました。

 第11節、名古屋戦でもスタメン起用はありましたが、どちらかといえば純粋なターンオーバーだった側面が強く、現に第12節、神戸戦ではまた小川が起用されました。しかし、川崎戦は明確な要求を受けての、おそらく、リーグ戦のスタメンの座を窺うラストチャンスだったはず。好調なチームとは裏腹な、忸怩たる時間を過ごしたところもあったであろうなか、その思いを熱く、冷静にプレーに乗せられた。そんな太田の姿に歓喜と感動を覚えたファンは少なくないと思います。

 

 

 そうは言っても、真価の発揮だけでここまで急上昇を描いてきたか?と考えると、やはりそうではないでしょう。そこには2つ目、「進化」が関わってくると考えています。

 チーム全体で見ると、私はここまで3つのタームがあったと見ています。1つ目は開幕から数試合の「試行錯誤」段階。2つ目は第5節以降の「ファストブレイク開花」段階。そして、3つ目は…後述しますが、「ファストブレイク開花」段階は選手の真価発揮に加え、チーム全体、選手個々の進化が勝ち点奪取に大きく寄与したと感じています。

 明確に第何節からそうしていたかは記憶があいまいなんですが、ある試合からポジティブトランジション時、特にビルドアップの際にこんな変化を見せる場面がしばしばありました。

 

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 1枚目が守備時、2枚目が攻撃時。守備時はベーシックな、けれど横幅が狭い4-4-2を基本の立ち位置にする、とは当ブログでも触れたことがありました。

 で、攻撃。もちろん高い位置でボールを奪ってそのまま、あるいは自陣でボールを奪って長いボールを入れてカウンターを狙うことがプランAですが、さすがに毎回そうはいかず。そうなるとプランB=遅攻に切り替わりますが、ある試合から上の図のように、やや可変する場面が見られるようになります。で、肝は大森のポジショニング。

 それまでは比較的4-4-2を崩さず、いわゆる5レーン理論でいえば、アウトサイドスペースとハーフスペースの出入り程度の動きが目立つ程度でした。しかし、ある時から大森がタスクの1つとして中へ絞るようになった?と感じていて。名古屋戦でしたか、DAZNで解説していた都並敏史さんも「ビルドアップ時に中盤が3枚になって…」と言っていましたが、この動きにより3つの事象が生まれます。

1つ目は「ボール保持力強化」。4-4-2が4-4-2のまま行うボール保持は、どうしても現代サッカーにおける守備戦術にそのままハマりやすく、機能不全を起こしてしまうケースが散見されます。実際、開幕当初はこの事象が発生していました。しかし、大森が中へ絞ることで中の人数が増え、最終ラインからすれば1つ前へのパスターゲットが増え、結果、ボール保持力が強化されました。

 2つ目は「疑似トップ下」。大森が絞る、けれど、そのままセンターハーフの位置に3人いるのではなく、誰かがトップ下の位置に入る――言い換えれば、中盤正三角形になる――場面が増えました(上の図では高萩がその役割)。それまでは、ディエゴが引いて受けて、その裏を永井や外から東が狙う攻撃がメインでしたが、中盤の選手が疑似トップ下になることで、ディエゴをよりゴールを意識できる位置にとどまらせておけるプラスが生まれやすくなりました。

3つ目が「室屋の有効活用」。先ほど室屋の話をした際に、「今のチーム状況に即した形の役割を要求し」と書きました。ここともリンクするお話ですが、大森が絞ると同時に空いた外側を室屋が駆け上がり、さながらサイドハーフかウイングかと見紛うほど、サイドバックとしては高い位置を取る動きが増えました。これにより、「ビルドアップにやや難あり」なデメリットを消しながら、「量と速さで勝負する」メリットを最大化することに成功した印象を受けています。

 

 また、このプチ可変+ビルドアップの拙さ解消には、選手個々の進化も要因として挙げられます。その象徴は、橋本と林でしょう。

 橋本は通称「安間塾」と呼ばれる若手と安間コーチの居残り練習で、ボールの受け方、止め方、捌き方を徹底的にやってきた、といくつかの記事で紹介されましたが、昨季までとは別人かと思うほど周辺視野の認知が高まり、高萩に負けず劣らずなセンターハーフらしい立ち居振る舞いをここまで見せてくれています。

 長谷川監督の頭の中に、高萩を低い位置でのコンダクターに限定するのではなく、より高い位置でラストパサーとして活躍してほしい狙い(思い)があることは、例えば開幕直後に高萩をトップ下とする4-3-1-2を試したことからも明白です。一方、ベースとして高萩を高い位置においてしまうことで、自陣から中盤でのボール保持力が低下してしまうこともまた、開幕当初の試合内容から見えてしまいました。

 けれど、橋本は日々の積み重ねを怠らず、ついに進化の一端を披露。それを待っていたかのように大森の絞りタスクは始まり、高萩が後ろを気にすることなく疑似トップ下となる可変も可能になった、と見るのは、あまりに結果論でしょうか?私はそう思いません。

 

 さらに目線を自陣に移すと、林のボールタッチ向上も目を見張ります。こちらもしばしば、ジョアン・ミレッコーチとともに、セービングのみならずボールタッチの練習を積み重ねてきたと見聞きしました。その効果は表れていて、ここ2、3試合での林のファーストタッチ(ボールの置き所)は明らかに向上しています。結果的に長いボールを蹴ることになる場面も多いですけど、それが悪いわけではなく、ファーストタッチから意図をもってボールを扱い、繋ぐにせよ蹴るにせよそこに意思があるのかないのかが大事なわけで。

ノイヤーが世に表れて「リベロGK」なる言葉が生まれ、今季他を寄せ付けなかったマンチェスター・シティにおいて、エデルソンがフィールドプレーヤーさながらのボール扱いでチームのビルドアップを助けるなど、GKにセービング以外のタスクが与えられることが珍しくなくなってきた現代サッカー。「足元上手いけどセービング下手」となると本末転倒ですが、「セービング上手いし足元もある」GKがより重宝されるなかにあって、ここ数試合で林が見せている進化は、見逃してはいけないと思います。

 

 

 こうして、「真価」と「進化」がミックスした新生FC東京。しかし、ここ4試合1勝3分け。3分けはいずれも無得点と、破竹の勢いには陰りが見えています。そこで思うのが3つ目、「深化」の必要性です。

 3つの引き分けはそれぞれに色が違いました。端的に言えば、神戸戦は連戦の疲労が目に見えるレベルであり、致し方なかった。札幌戦はお互い高いインテンシティを見せ、ともに上位に位置することを納得させるゴールレスドローだった。鳥栖戦はとにかく権田の好セーブに屈した。けれど、共通して言えるのは「押し込みきれなかった」点。

 先日、フットボールラボのデータを用いて「データ上、何でここまで勝てているのかようわからん(苦笑)」というエントリを書きました。その中で、攻撃回数やシュート数は少ないけど、ゴール成功率がリーグナンバー1となっていることを挙げました。

 その目線で見ると、引き分けた3戦は、いずれも似たような数字が残りました。

神戸戦  チャンス構築率 13.5% シュート 15本

札幌戦  チャンス構築率 14.8% シュート 16本

鳥栖戦  チャンス構築率 12.7% シュート 17本

※ チャンス構築率=シュート数÷攻撃回数

 実のところ、今季ここまでチャンス構築率が10%を超えた試合が5試合あって、その成績は1勝3分1敗と今一つ。また、この5試合の平均ボール支配率は49.7%。今季ここまでのやり方においては高い平均数字になっていて、単純に見れば「持って打ってると、なぜか決まらない」数字になっています。

 でも、カウンターだけで1シーズン乗り越えられるほどJリーグも甘くなく。ワールドカップ中断明けも連戦が続く、しかも酷暑のなかにあっては、やはり「持つこと」を武器としておくことに損はないわけで。上で書いた可変の深化でもいいし、別の手法での深化でもいいし、この引き分け3つで「やっぱ、カウンターだよね」とはならないでほしいです。

 

 そしてもう1点。選手層の深化の必要性。

 連戦終盤に組み込まれたルヴァンカップ2戦。当然、リーグ戦も見据えてターンオーバーし、主に若手にチャンスが与えられましたが、いずれも敗戦。さらに、連敗という結果も去ることながら、リーグ戦のメンバーに競争意識を持たせられる、突き上げ・起爆剤に、正直言って誰もなりきれなかった内容への寂しさが募る内容でした。私は思わず、こんなツイートも。

 

 

 中断期間もJ3は開催され、今日から中断明け初戦の柏戦まで8試合行われます。そこで、現在のBチームの面々が「J1でプレーするために」J3でプレーして、長谷川監督を何人かが納得させられれば、それにこしたことはないでしょう。

 ただ、優勝を目指し、優勝を目指せる位置にいる--いてしまった?--チームがそれでいいのか?私はそう思いません。結果論も踏まえて、今は貪欲になってもいい時期ではないかと考えます。

 

 

 シーズン前、「勝て、勝て、勝て、勝て、今季こそ!」とのたまいました。勝つことがスポーツのすべてではありませんが、正しい勝ちの素晴らしさ、喜ばしさは誰も否定しようがなく。真価を出し、進化を見せ、深化を図る。中断明けも、チームに「シンカ」を求めながら、チームから「シンカ」を感じながら、秋口により夢へと近づいていることを願って。