続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

アタッキングマインド

東京都クラブユースU-17サッカー選手権大会 決勝リーグ(通称「新人戦」)が終わりました。結果は見事、2011年以来3年ぶりとなる優勝。3年前は降りしきる雪の中での戴冠、今年は数十年に一度という大雪による順延を経ての戴冠。この時期の雪は、東京U-18にとっては吉報なのかもしれませんね。


 さてこの4試合、チーム内外で「球際」というキーワードがポンポン飛び交っていました。今季から指揮を取ることとなった佐藤監督が、「後ろを怖がらないで、とにかく近いヤツがボールに行くという習慣を今は付けている所」と決勝戦後に語ったようですが(土屋雅史さんのマッチレビューより)、まさにその言葉よろしく、1試合ごとに選手たちが監督の要求に応え…るにとどまらず、「そんなに細かいことは口うるさく言っていないですし、ハーフタイムも選手同士で喋っている時間の方が俺より長いので、それを聞いて『ああ、ちゃんと俺よりお前らのほうがわかっているな』」(土屋さんマッチレビューより)と佐藤監督に思わせるほど逞しくやれていることは、決勝戦を現地で見て強く感じることができました。
 で、決勝戦は試合内容そっちのけでとあるデータの手動カウントに勤しんでいました。それが「ボールホルダーへのアタック数」。上でも引用したとおり、「とにかく近いヤツがボールに行く」ことを意識付けしている段階において、そして、(私が見られなかった)決勝リーグ第2戦、対杉並ソシオ戦、第3戦、対東京ヴェルディユース戦を見た方の、球際の強さやプレスにおけるポジティブな感想を見聞きした上で、見た目の客観的、抽象的な印象と同時に、(手動の不正確なものではありますが)主観的な、具体的な数字で裏づけることができたらなぁ、という思いを決勝戦前日に抱いたので、ちょっとチャレンジしてみました。ただ、一口に「ボールホルダーへのアタック」といっても、1人で行くのか、複数で挟むのか。前からぶつかるのか、後ろや横からねじ込むのか。地上戦なのか、空中戦なのかなど、サッカーにおいては複数のシチュエーションが想像されます。それを全部集計できることはおよそ不可能なので、この日は「ボールホルダーに対して、単独で、地上戦で、前向きにアタックした」シチュエーション、しかも「ボールホルダーに対して足を出す、身体をぶつけるなど直接的な距離までアタックした」場面に限定し、数を集計しました。その結果は、以下のとおりとなりました。

選手名 前 A数 前 成功数 後 A数 後 成功数
38 相原 克哉
2 大西 拓真
28 渡辺 拓哉
13 山岸 瑠
29 安部 柊斗 13 10
17 高橋 宏季 10
14 長澤 晧祐
19 蓮川 雄大
22 渡辺 龍
15 佐々木 渉
32 佐藤 亮
24 大熊 健太
37 小山 拓哉
33 城ヶ瀧 友輝
36 柳 貴博
※前(後)A数…前半(後半)のアタック数
※前(後)成功数…アタックの結果、相手にボールを失わせた回数


 まず、この数字を手動で取ったのが始めてなので、今までと比べてどうか?という比較はできません。ただ、この数字に昨季までの客観的な印象を含めて言うならば、「前半のアタック数は多かったな」と。特に目立つのは、安部と高橋のダブルボランチ。二人とも前半のアタック数は二桁を数え、しかもともに成功数が多く(=「外される回数」も少なく)、非常に効率的かつ効果的なアタックができていました。安部がこういったプレーで存在感を示すのは、それこそ国体以降如実に見ることができていて、もはや「安部はこれぐらいやれて当たり前」なレベルに到達しそうな勢いですが、高橋もこれに追随して安部同様の働きをする、あるいは身体をぶつけることを全く厭わないメンタルを得たのは、少なくない驚きを受けました。
 ただ、このダブルボランチの躍動を引き出したのは、佐々木、長澤のファーストアタック(プレス)によるところも大きいでしょう。二人のアタック数自体は伸びていませんが、これはシチュエーションを「直接的なアタック」と限定したことにより、いわゆる「コースを切るプレスの動き」をカウントしていないため。おそらくこの動きまでカウント範囲を広げれば、ゆうにアタック数は二桁に乗ったでしょう。それぐらい、二人のファーストアタックは間断なく勤勉に行われていましたし、それによりボランチは連動して躊躇なくアタックできていた面はあったと思います。また、最終ラインの選手のアタック数も思ったほど多くなかった印象ですが、こちらは中盤より前の選手がキッチリ仕事をしてくれたおかげで、無理なチャレンジをする必要がなかった上で、狙いを定めたアタックができていたからでしょう。このあたりは、ただ闇雲に近い選手がボールに行くのではなく、個々が戦況を見定めた上で、しっかりと判断しながらできている証左としてもよいのかな?と思います。中でもCBコンビは渡辺(拓)が地上戦でのアタック、大西が空中戦やカバーリングという役割分担がきちっとしていた印象で、大西はその空中戦ほぼ全勝する圧巻のプレーぶりでした(ゴールもセットプレーでのヘディング)。また、相原、山岸の両SBもアタックするところとしないところの使い分け、判断をしっかりできていて、2失点は喫しましたが及第点以上の内容だったと思います。
 一方で、後半はほとんどの選手がアタック数を(成功数も)減らしました。これは、早々にスコアが3−0になったことや、当然のように訪れる疲労が影響しているのだと思います。しかし、三菱養和ユースの山本監督が「ちょっとスペースが空いてきた時には、攻撃も自分たちがいつもやっているような、外の選手と中の選手と両方うまく連動してという形が多少できてきた」(土屋さんのマッチレビューより引用)と分析されていたとおり、自分たちの圧力が落ちた時には耐久性がガクッと落ちますし(後追いのアタックが増えてきたのも、後半15分過ぎぐらいからだったかと)、そうした時にどうしのぐのかについて、まだ発展途上である部分も露呈しました。ただし、新人戦は意識付け、動機付けの大会という認識を監督・選手が共有できているのであれば(傍目にはそう見えましたが)この結果は全く問題ないと思いますし、むしろこの劣勢の中で最後まで落ちなかった三菱養和の「強度」――これがプレミアリーグに残り続けていることによる恩恵、あるいは理由なのだとすれば、これは羨ましい限りだし、見習うべき点だろう――に敬服するほかありません。
 そんな後半、数字的に見どころがあったとすれば、68分から途中出場した大熊でしょう。交代後、1トップにポジションを取りましたが、入った直後からフルスロットルで足を動かし、佐々木、長澤に代わってファーストアタックを一手に担うと、22分の出場でアタック5回、うち4回を成功させました。その上で、攻撃面でも役割をきちっとこなし、これまで見てきた中で最も存在感があったなと思わされました。この4試合で、いろんなポジションで核となる選手が出てきましたが、まだまだ、明らかに流動的なのが1トップ(とGK)。この動きを長時間維持できるようになれば、大熊が1トップのファーストチョイスとなれる可能性は大いにあると感じました。


 選手自身が掲げた「プレミアリーグ復帰」と「全国大会制覇」。新人戦の優勝は、その果てしなく大きな目標に向かって、まずは確かな第一歩を踏み出せた、というベンチマークになったと思います。また、これまでがどうこうではなく、今季立ち上げからのチームに漂っている(見る側にも伝わってくる)空気感は、なかなかにポジティブなものだとも感じています。この雰囲気を大事にしながら、一つひとつ課題をクリアしていき、個人が、ユニットが、チームが成長していってほしいと、今は素直に願うばかりです。
 


P.S 思いつきでやった割には、個人的な収穫があった「手動データ集計シリーズ」。実は、次のアイデアもあります。それが何かは、実行に移したときのお楽しみにしていただきたいのですが、小平グランドでそれを実行に移せるかは、あまり自信がありません(苦笑)