続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

舵取り

 大雑把に試合を振り返ると、「前半は名古屋、後半は東京」という結論でいいでしょう。立ち上がりから名古屋がアグレッシブに振る舞い、東京はそれを完全に受けてしまう格好に。20分過ぎから一旦持ち直したように見えましたが、再び流れをもぎ取った名古屋が先制し、そのままの流れで前半が終了。しかし、ハーフタイムにポポヴィッチ監督の「ゲキ」をもらった東京が後半目を覚まし、14分間で3得点をゲット、ゲット、ゲット。終盤は名古屋お得意のゴリゴリサッカーで1点を返し、後半アディショナルタイムには両チームがもみ合うというよろしくないシーンもありながら、東京が3−2と押し切る、そんな試合展開でした。ただ、前半を見終えた直後、果たしてこのスコアを想像した人が一体どのぐらいいたのでしょうか?少なくとも私は、あの場では「後半必ず巻き返してくれるはず。だけど、勝ちまでは(引き分けでも)…」と思った人。試合中はあの14分間の熱狂にほだされて「細かいこたぁどうでもいいんだよ!」となってしまいましたが、いざ試合が終わって冷静になると、「はて、どうしてこうなった?」という疑問が頭の中でムクムクと湧いてきて湧いてきて。その答えを探すべくTOKYO MX、そしてスカパーの試合録画をそれぞれ見ましたが、私は「プランニング」と「ボランチ」が差を分けた、そう結論づけました。


 東京、名古屋ともにオープニングウィークはACL→J1第1節(東京の場合はゼロックスがプラス)という連戦でしたが、その内容は明暗くっきり。東京はゼロックスこそ敗れたものの、3試合とも「これが今年の東京でい!」と内外に強く印象付けられた、非常に有意義な1週間でした。一方の名古屋は、ACLで勝ち点2を失い(相手のオーバーヘッドクロス→オーバーヘッドシュートはすごすぎた(苦笑))、J1第1節も複数の選手が「勝っただけ」と口にする辛勝、しかも3枚の交代カードが全て負傷(玉田、藤本、中村)によるもので、週中の練習でも田中隼がやや痛んだという情報が聞こえてくる、苦しいやり取りを強いられるスタートとなりました。そして、中2日でまたACL(東京はホーム、名古屋はアウェイ)が控える中で迎えたこの試合。名古屋はスタメン11人こそ揃えたものの、ベンチには「攻撃のスイッチ」を入れられる選手がおらず(田鍋、田中輝の将来性は買いますが、今この場で何ができる?となると…ね)、おのずとゲームプランは「先行逃げ切り」−この1点に集約されると断言していいのかなと。
 で、いざ試合が始まると名古屋はまさにそんな印象。ケネディと永井が積極的に東京のセンターバックへプレスを敢行し、金崎と玉田もそれに追随したことで、まずそこでボールを奪う、あるいはパスコースを限定させることに成功。そこで取りきれなくても4バックは非常に堅牢で、ルーカスや梶山は前線でボールを収めることがなかなかできず、ダニルソンと吉村のダブルボランチも非常に広範囲に顔を出して守備をすることで、東京の攻撃が非常に窮屈で、ピンポイントを狙いすぎる=精度の低いパス回しになってしまった印象を受けました。試合後に徳永は、

相手が頭から出てくることは予想していなかった。下がってブロックを作るイメージを持っていたので。だから、前半はリズムを掴めなかった。

 とコメントしていたので、名古屋のプランニングに東京がアジャストできなかったと言い換えてもいいかもしれませんね。また、20分過ぎから一旦持ち直した、と書きましたが、あれは名古屋が試合開始からのプレッシングを緩めて後ろで受けようとした(受けきれると判断した?)だけで、東京の攻撃が効果的だったとまでは言い切れないでしょう。攻撃もケネディが1トップで前線に張って…という形ではなく、玉田、永井が頻繁にポジションを入れ替えながらケネディと横に並び、ケネディはDFラインの前で、玉田、永井はDFラインの裏でとことん勝負することで、絶えずプレッシャーをかけ続けていました。ボールの種類も、DFラインからのケネディや裏への縦1発が中心でしたそれに固執することなく、落ち着いて回すシーンがしっかりとありました。それに対する東京の守備陣ですが、DFライン前後への度重なるプレッシャーに屈することなくハイラインを保ち続け、ケネディには主に加賀がぶつかり(ハーフウェーラインを超えて追いかけるシーンもあった)、裏への抜け出しにはサイドバックが絞ることで対応し、森重はそのカバーリングを一手に引き受けることで、押し込まれはしましたが失点シーンまでは上手く対応できていたと思います。このままスコアレスで終われば、ゲームプラン的に恐らく名古屋は相当苦しかったはず。しかし、一瞬の隙をついて先制してしまえるあたりは、さすがでしたね。このシーンは、ケネディが中盤に下りていった動きに森重が反応し、裏に抜けたがっていた玉田を加賀が見るという、先ほど書いた形とは逆のマーキングになりました。だから、というわけではないんでしょうけど、森重の寄せはいささか中途半端で(ラインを上げた動きだった?)、かつ加賀が他の3人とラインを揃えられず、パスが出る前に玉田についていってしまったことでDFラインに大きなギャップが生じ、結果的にそれでオフサイドが取れなかったという流れ。決めた玉田は冷静でしたが、加賀にもう少し冷静さと視野の広さがあれば…というシーンでもありました。このゴールで再び名古屋が主導権を握り、結局東京が放ったシュートは1本のみ。ほぼ全てが名古屋ペースのままで前半が終了しました。
 後半。前半は「先行逃げ切り」のプランニングがハマった名古屋がどう試合を進めたかったのか。その一端を窺わせるコメントを、試合後ストイコビッチ監督は話していました。それが、

吉村はここまで長い時間プレーをしていなかった。1時間ぐらいが彼にとっては十分な時間だったと思っていました。フィジカル、精神面でも、彼はいずれ交代しなければいけないと思っていました。そういう意味でダニエルを投入して闘莉王を中盤に上げた。

 というもの。私はてっきり、吉村に前半足を痛めたシーンがあって、その影響で交代したんだと思っていましたが、実際はこの交代はプランどおりだったようです。ただ、おそらくは1−0でリードしたままこの交代を行いたかったはず。というのも、闘莉王はご存知のとおり自身の持ち場を離れた後の戻りが非常に遅い選手。センターバックにいる際にはボランチのどちらかがカバーすればそれで問題ない、カバーできるわけですけど、ボランチだとそこをカバーしてくれる選手がいなくなるんですよ。まあ、リードしていれば闘莉王も馬鹿じゃないですから、それほどポジションを崩さずまずは守備からとなったはず。しかし、吉村投入の5分前に東京が同点に追いついた、しかも、太田のドリブルを自身が止めきれず、そこで増川や阿部が中にスライドせざるを得なくなり、結果外の石川がフリーになっていたということもあって、ボランチに上がった後の闘莉王はポジショニング、気持ちともに前掛かりとなり、ボランチのところをダニルソン1人が見る形が散見されるようになりました。これにより東京が中盤センターを上手く起点にできるようになり、その後何度も真正面から崩すシーンが増加。また、ダニルソンも吉村の交代後ほどなくしてガス欠となったのも、ストイコビッチ監督からすれば想定外だったのかなと。彼はすごく素晴らしい選手だと思いますけど、自分でイライラしてメンタル崩して、それが足にきて動かなくなるというパターンがシーズン中幾度となくあるのが欠点。この試合も、それがモロに出てしまったように見えました。こうやってボランチのところを使われたチームがどうなるか。それは私がここであらためて書く必要はないですよね。恐らくダニルソンの失速はゲームプランの想定外な流れでしょうが、「決め打ち」的なゲームプランは1つがずれると一気にバタついてしまうリスクがあると言われます。そんな言葉よろしく、「先行逃げ切り」=後半はしっかりと守備を固める意図が崩れてしまい、名古屋とすれば珍しいセットプレーから、そしてダニルソンの不注意とルーカスの好守備が相俟ったショートカウンターからそれぞれ失点を喫する形でジ・エンドとなりました。まあ、ここまで述べたことが正しいのかは、ストイコビッチ監督に聞かなければ分かりませんが、もしこの推測が正しかったのだとすれば、この結果は必然だったと思いますね。
 それでも、ストイコビッチ監督は試合後、こうも語っていました。

開幕して2戦目ですが、1勝1敗の結果で良しだと思っています。だから心配しないでください。全ては我々が思うとおりに進んでいます。この結果を悲劇だと捉えていません。

 見方によっては、ただの強がりと取られてもおかしくないような口ぶりですが、私はこれを額面通りに受け取りました。そう思わせたのは、東京と名古屋の「1シーズンのプランニング」の違い。東京は監督が代わり、ピッチ上で披露するサッカーの内容もそれなりの変化がありました。普通に考えれば、拙速に結果を求めることは逆に足を掬われかねません。その一方でここ数年「J1昇格直後の躍進」が続いていること、そしてACLがあることなどから、外からは結果を求められる声が多いのも事実です。監督や選手から結果だけを求めるようなコメントが聞かれていないことは幸いですが、それでもポポヴィッチ監督はかなり練習で追い込み、仕上げを早くしたと聞いています。そして、目論見どおり(?)スタートダッシュを決めました。かたや名古屋はどうか?スカパーで解説をしていた水沼貴史さんが「名古屋は始動日が遅かった」と言っていましたが、調べてみたら始動日が2/5とJの中で最も遅いスタート。しかも、それほどフィジカルを追い込むことをしなかったと聞いています。と鑑みれば、名古屋が今、90分フルアクセルでは戦えないのは当たり前の話。思い起こせば、優勝した一昨シーズンもスタートから5試合は2勝1分け2敗、昨シーズンも開幕戦は「ん?」という試合をして引き分け。つまりは、このぐらいのシーズンスタートになることは恐らく想定済みで、12月に自分たちがいるべき位置をしっかりと見据えていることが、前述した言葉につながっているのかなと。そう考えれば、ゲームを通してコンディションが整うであろう(+怪我人が戻ってくるであろう)4月下旬頃からのこのチームは、やはり優勝候補筆頭なんだろうなと思います。


 ここまでは意外と名古屋目線での振り返りになってしまった…のは想定内。前述したとおり、名古屋が90分持たず瓦解した理由として、吉村の交代、それに伴う闘莉王ボランチ起用、そしてダニルソンのガス欠を挙げましたが、これ全て「ボランチ」の選手。そして、東京がこの試合で名古屋を上回っていた、そして、スタートダッシュが効いたのは、「ボランチ」の活躍があってこそなんだなと、この試合で確信しました。ここからそんな東京のお話。
 とにかくこの4試合で光りに光っているのが高橋。これは大宮戦での振り返りでも少し触れましたが、八面六臂の働きとはまさに今の高橋のことだね!と言えるほどのハイパフォーマンス継続中。攻撃では低いところでのビルドアップ、自身の持ち場からの楔やフィード、高い位置への飛び出しと全てのセクションで効果的な存在であり続け、守備でも「ここ危ない!」というところに常にいてくれる安心感は、見ていて惚れ惚れするレベル。コーチングも、スカパーの放送内でピッチリポーターの日々野真理さんが前半44分ぐらいに「今高橋選手が、スタジアム中に響き渡る声で『ここ、最後もう1回集中だよ!』と声を張り上げていた」とリポートを挟んだり、ハーフタイムを終えてピッチに出てきた時にアーリアへ細かく自分の考えを伝えたり、ミスした選手やナイスプレーをした選手にしっかりと声をかけたりと板についてきている様子で、細かいパスミス以外は文句のつけどころがないですね。怖いのは怪我だけですよ。
 コンビを組んだアーリアは高橋以上にパスミスが多く、特に前半の前半はヒヤヒヤさせられっぱなし。大宮戦もそんな感じで、正直に言うと「アーリアに代えてFW入れて、ルーカストップ下、梶山ボランチにしたほうが安定するんじゃね?」とハーフタイムには思いましたが、不思議なことに後半持ち直すんですよね。もちろん、2試合ともチーム自体が後半持ち返した、その波に乗っかったという側面はあるでしょうけど、ミスを引きずらない、あるいはミスをしてもチャレンジを止めない姿勢は評価されて然るべきですし、公式戦4試合で3得点はその姿勢が実を結んでいるのかなと。大宮戦のゴールも、アーリアがエリア内にまで入っていったことでCBが出ていけなかったわけですし。また、今更かもしれませんが2人とも180cmオーバー(高橋182cm、アーリア186cm)で、ロングボールに対して対応できるのもグッド。終盤名古屋が放り込みを始めた中、1度だけ高橋がケネディに対して完全に競り負けたシーンが失点につながってはしまいましたが、それ以外では森重、加賀らとともにしっかりと競れていましたし、攻撃でも自身では「得意ではない」と言いつつ、アーリアが上手くヘディングでゴールをあげ、高橋も昨シーズンからターゲットとしてエリア内で存在感あり。で、よく見てみると、ボランチとしてみられている選手はいずれも平均身長を押し上げているんですよね(梶山180cm、米本177cm、幸野、橋本179cm)。これを強化部が意識して狙っているとしたら、これはお見逸れいたしましたと平伏するのみです。
 また、ボランチがこの2人でこのまま安定すれば、ここ数年で何度か試みるも失敗に終わっていた「梶山トップ下」プランがいよいよモノになりそうな予感がするのも本当にワクワク。今年は攻守の切り替えを早くし、前からプレッシャーをかけて取りきるのも1つ大きな狙いとしてやっており、3点目はそれが実ったものでしたが、あの地点で梶山が前を向いてフリーでボールを持てれば、ああいう素晴らしいパスが出てくるわけです。今回のターゲットは石川でしたが、このシーンでは右サイドを羽生がやはりフリーになってエリア内まで入っていて、今後梶山のパスから羽生やルーカスのゴールも増えそうな感触もありあり。その上で、前線からの守備もサボらないのがまた素晴らしい。これは、昨シーズン大熊監督にボランチとして鍛えに鍛えてもらった成果が花開いているんだと思いますが、この「トリプルボランチ」とも言える3人が健在である限り、今の東京の勢いが減退するのはちょっと考え辛いですね。
 そして、ついに帰ってきましたよ、米本が。メンバー入りはこの日の試合前練習で急遽伝えられたらしく、しかも2枚目の交代も最初は渡邉が用意していた中、急遽変えて米本にしたという、まさにスクランブルな出場でした。で、プレーに関してはこの数分ではまだ何とも言えません。ゲーム勘や当たりの強さを取り戻すにはもう少し実戦をこなしながら、というところでしょう。それでも、彼がボールを追いかけているシーンを味スタで、生でこの目でまた見ることができたことは本当に嬉しかったですし、試合終了後、2度目の復帰と亡き父への思いから頬を濡らし続けた涙には、こちらもグッとさせられました。それで、先ほど「トリプルボランチ」が健在なら…と書きました。梶山とアーリアにはある程度の互換性があり(どちらもトップ下⇔ボランチを横断的にこなせて、試合中にポジションを入れ替えることも可能)、どちらかが起用できる状態なら、トップ下の人選含めていろいろやりくりはできるんですが、高橋が怪我やサスペンションで出られない際の代役がちょっと見当たらないところが大きな不安としてあります。そして、その代役足りえるのは、米本だけだと思うんですよ。なので、このリスタートを機に、高橋にも「ポジション争いが厳しいなー」と言えるところまで、焦らず戻っていってくれたら嬉しいなと。
 あまりにもうまく事が運び過ぎて(課題が試合から透けて見えることも含めて)、「あのー、勘違いしちゃっても、いいんですか?」と言いたくなるほど。まあ、いつかは大きな大きな壁が来るわけですから、今はこの幸福な空気に乗りまくりたいと思います。


P.S スカパーの放送内で、実況の倉敷保雄さんがドロンパ萌え〜、だったのがスーパー面白かった。Foot!でドロンパが紹介される日が、あると思います!