続々々・メガネのつぶやき

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久々の、読書感想文

凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦

凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦

 こちらの本を買いました。小学校の夏休みの宿題を思い出しながら、久々に読書感想文でも書いてみようかと。まあ、発売して2日で読みきった勢いだけで書きますので、短文&乱文は切にご容赦を。あと、一部引用させていただきますが、これから読まれる方のために、それはなるべく少なくしたいなと(なお、引用部分は囲みにしてあります)。


 人生において、「タイミングが合う」ということは、実は思いのほか少ないんじゃないか?と最近感じることがありました。自分がこうしたい!という能動的な思いと、周りが自然とそうしなさい!と言わんばかりの受動的な空気がピタリと合致することが果たしてどれぐらいあるのか、それは誰にも分かりません。しかし、ピタリと来る瞬間というのは誰にも確実にあって、それを逃さなかった時、その人の人生が変わる。それを一言で表したのが「運命」なのかなと。
 この本の第1章は「運命の組み合わせ」と題されました。そして、一通りこの本を読み終えた後すぐに思ったのは、「あの時、なでしこジャパンが世界の頂に立つことは、運命だったのかな」ということでした。日本女子代表が活動を始めて30年という節目の年、悲惨という言葉を通り越した大震災と津波に潰されかけた日本を勇気付ける存在を誰もが漠然と求める中、ここまで幾多の苦悩と涙とともに、しかし

「サッカーをやれることが幸せ」と言い続ける。(中略)彼女達にあるのは、笑顔と前向きなモチベーション

 という思いは忘れずに歩んできた21人の選手たちが1つとなり、世界を相手に自分達を信じて戦う。その信じる心が結実するタイミングがここだったというのは、あながち結果論ではないでしょう。そして、今W杯への道のりも、08年に東アジアを制して初のタイトルを獲得し、10年にはオールアジアも制覇。しかし世界大会である08年の北京五輪では、

「準決勝に残った4カ国のうち日本以外の国は、優勝を目指していた。それでメダルを取った。でも、自分たちはメダルを取ることを目指していた。それでは、メダルは取れない。じゃあ、次は優勝を目指そう。」(佐々木監督)

 という経験をして、その思いをしっかりと胸に刻み込み、夢物語ではなく現実として優勝を目指して全てを準備してきて迎えたわけです。つまりは、優勝したい!という能動的な思いと、優勝するならここだろう!という受動的な空気がピタリと合致した大会が今W杯だったのかなと。そのタイミングを逃さず、自らの手で運命を変える瞬間を手繰り寄せた彼女達の戦いぶりに隠されたさまざまな思い、歩み、秘話などがギュッと詰まったのが、この1冊でございました。最年長・山郷のぞみと最年少・岩渕真奈の年齢差が「18」、日本女子代表のアイコンである澤穂希が代表デビューしてから「18」年目、そして、ひとつの壁であったドイツ戦で決勝ゴールを決めた丸山桂里奈の背番号が「18」。こんなちっちゃな偶然も今思えば面白いなぁ、何てことも思い出したりしますし。


 ちょっと引用が長くなりますが、もう一つ強く感じたこと。

「ごめんなさい…」
 (07年中国W杯グループリーグの)予選敗退が決まり、ピッチから戻ってきた加藤與恵(旧姓・酒井)が泣きながら謝る。
「決勝トーナメントへ行けず、申し訳ない」
 負けて悔しいのは彼女自身だというのに酒井は号泣し、結果を出せなかったことを詫びた。
(中略)彼女たちが、ここまで「結果」にこだわるには理由があった。
「大好きなサッカーをしたい」。ただ単純にそう願っているだけのに、女子選手にはプレーする環境が整っていない。
(中略)代表としてプレーする選手の多くは、家族や関係者の協力や理解に助けられ、サッカーを続けることができた。けれど、彼女たちは知っている。自分よりも高い能力を持ちながら、サッカーから離れていくチームメイトがいたことを。
 この状況を改善するためには結果を残すしかない。結果を残すことで、女子サッカーの環境を変えるきっかけをつくりたい。結果が出なければ、改善はおろか衰退しかねない−。そんな日本女子サッカー界を背負う自覚が代表戦士にはあるのだった。だから酒井は謝った。
「日本の女子サッカーの環境を良くするために」
 女子代表選手たちの心には、いつもその思いがあった。

 長い間日本女子サッカー界は「マイナースポーツ」の域から脱することができず、ある選手は企業に属する社員選手として、ある選手はアルバイトをしながら、というように、多くの選手がサッカー1本では暮らしていけない「アマチュア」としてプレーを続けるしかない状況にありました。しかし、そうでありながら大きな大会で結果を残すことでしか、結果を残さなければ生き残れないという「プロフェッショナリズム」の極地を生き、「Dead or Alive」という言葉が大袈裟ではない場面を幾度となく経験してきた選手が多くいました。だからなのか、日々野さんの目線で語られる代表戦士たちのエピソードからは、強さと賢さがバシバシ伝わってきました。でも、オンの時にはそうでありながら、オフの時や各場面で見せる彼女達の素の姿は、あまりにもピュアでした。言うなれば、ダイヤモンドよりも硬い核をしっかりと持ちながら、それを包むのはマシュマロのごとき柔らかさで…とでも表現すればいいでしょうか。そんな、2011年6月にあの場で戦うまで21人になるまでの、そして、あの場で戦っている最中に急速に成長する21人に何が起こっていたのか、というさまざまなエピソードがたくさん散りばめられています。それは是非、自ら手にとって目にしていただければ。

 私にできるのかな?そんな不安にかられつつも、輝いていた選手たちの姿や、ここに至るまでのプロセス、そしてこれから彼女たちが目指していくものを、少しでもお伝えしたいという思いで、即座に決意しました。

 ドイツから帰国してわずか2日後の、慌しさからまだ全く抜け切っていない最中にこの本のお話があったそうです。しかし、日々野さんの思いは上記の通り。精力的に取材を行い、その中で選手たちから「よく見てるねー」と言われるほどつぶさに追いかけ、そこから見えた選手達の喜怒哀楽を過不足なく表現し、それだけではなく日々野さん自身が感じた気持ちの揺らぎを包み隠さず書いてくださったこの1冊は読み応えたっぷりでしたし、自然と笑ってしまったり、目に汗が溜まる部分がいくつもありました。
 で、文中を参考にすると、日々野さんが女子代表を追いかけるようになったのが、2003年7月12日に国立競技場で行われたアメリカW杯大陸間プレーオフ、対メキシコ戦なんだそうで。それからほぼちょうど8年後の2011年7月19日に迎えた歓喜。これを見ると、なでしこジャパンが今W杯で優勝することと同じかそれ以上に、日々野さんが長年追い続けてきた日本女子代表を今この時に1冊にまとめることが「運命」だったのかなぁ、なんてね。