続々々・メガネのつぶやき

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07−08 その40 CL決勝T1回戦2ndレグ ミラン−アーセナル

 エミレーツ*1での1stレグはスコアレスドロー。引き分けに持ち込みホームで試合が出来るミラン、かたやアウェーゴールを許さなかったアーセナル、そのあたりがどう精神状態や戦術面に反映されるのかに興味を持ちつつ、いざキックオフ。
ミラン 0(0)−(2)2 アーセナル
スコア 84分 セスク・ファブレガスアーセナル
     92分 E・アデバイヨル(アーセナル

 終ってみれば「アーセナル完勝だったな」という印象を私は持っています。立ち上がりこそホームで主導権を掴みたいミランの攻撃に対して守勢に回る時間帯となってしまいましたが、20分を経過あたりから高い位置でのプレスが効果的に効き始め、いいボールの奪い方を出来るようになってからは一方的なアーセナルペース。初戦で見せたアデバイヨルへの縦一発はほとんど見られず、とにかく今季のアーセナルらしい華麗で早いパス回しが展開されました。その中で光っていたのがフレブ。1stレグでは主に左サイドハーフとして開いた形でのプレーが多く、今一つ存在感に欠けた印象でしたが、この日はトップ下での起用。とにかくバイタルエリアでの小さい(けれどミランにとっては非常に嫌な)スペースを見つけてはスッとポジションを取り、そこでのポストプレーやそこから前を向いてのパス出しなどでミランにとって大きな脅威となっていました。もちろんアデバイヨルのフィジカルの強さや個人技、セスクのパス出し、エブエやクリシのサイドアタック*2からも度々のチャンスを得て、後半半ばには完全に「ゴールは時間の問題かな?」という流れになりましたね。
 ただ、そうは言いながらも「ミラン側の水際での守備陣の奮闘+アーセナル攻撃陣が崩しすぎにこだわったこと」が要因でゴールをこじ開けられずに80分を回ったときには、「これはミラン勝利のフラグ?」と思ってしまいました。(ミラン側のことは後述するとして)その要因となったアーセナルの攻撃陣の崩しすぎについてですが、(どのあたりからかははっきり言えませんが)ある時間帯から、例えばセスクやフレブの立ち居振る舞いから「ミラン、恐れるに足らず」的なオーラがビンビン感じられ、これでもかと言えるほどの落ち着き払ったプレーを見せていました。それこそ普段のリーグ戦で力量差のある相手と戦っているときの「俺らはいつでも点取れるよ」みたいなオーラ、プレーを。ただ、そこで自己陶酔してしまったかのような、とにかくぐうの音も出ないほどに崩して点を取りたいというプレーやパスセレクションが散見されるようになり、パスが1歩遅かったり1本余計だったりして、自らでチャンスをフイにしているなぁというシーンが何度か見られました。
 で、並のチームならそうこうしている間にリズムを失い、引き分けのままとか逆に失点するパターンなのかな?というところですが、今季のアーセナルは、セスクはやはり並ではありませんでしたね。セスクの得点シーンは完全な個人技によるものでしたが、そこまでのセスクは明らかにパスにこだわっていて、きっとミラン守備陣は「今回もスルーパス狙いだろう*3」と思っていたはずで(私も絶対パスだと思っていました)、そういう守備陣の考えをあざ笑うかのような見事なミドルシュートだったわけですが、そういった瞬時かつトータルな判断力、そしてそれを体現するシュートの精度は、まさに世界トップクラスのセンターハーフであることを改めて明らかにしたなぁとただただ驚くばかり。この後ウォルコットのクロスからアデバイヨルという、1stレグに取り損なったコンビでのゴールで試合は決着しましたが、実際はこのセスクのゴールで勝負あったといっていいでしょう。今季はこの後もう1度抽選があるためこの先の展望はまだ何とも言えないところがありますが、前年度のチャンピオンであり、決勝T進出16チームの中で最も手が合わなさそうなミランを破ったことは大きいですよ。この後も、大いに楽しみです。
 ここからはちょっと蛇足ですが、隠れた勝利の要因として「ジュゼッペ・メアッツァの芝」を挙げたいなぁと。1stレグの感想内にも「気になる点」として書いたんですが、ジュゼッペ・メアッツァ独特の深くて粘っこい芝にアーセナルがどう対応するのか」という点にかなり注目していたんです。しかし、おそらく「この大一番に向けていいピッチを作りたい」という思いからなのか、どうやら1週間前に芝の張替えをしたらしく、芝の深さこそ分かりませんでしたが、かなり綺麗で目の整った「パスサッカー」にもってこいの芝になっていました。そうなるとアーセナルにとってはお誂え向きと言いますか、よそ行きのサッカーをする必要は全くなく、さらにこの日は試合前に雨が降り、ピッチはさらにボールが走る状態になっていたようで、それもアーセナルにとっては大きなプラス材料だったかと思ってます。昨年マンチェスター・Uはこのジュゼッペ・メアッツァ独特の芝+大雨に祟られ、ジュゼッペ・メアッツァで力を発揮しきれず敗れ去ったわけですが、今季は「ジュゼッペ・メアッツァの魔物」が1週間前に「ピッチ張替え」という形で牙を研がれてしまい、来客を噛みちぎることが出来なかったのかなぁという印象もあります。


 一方のミランですが、戦前の予想通りセードルフが間に合わず、インザーギ、パットの2トップ+カカトップ下という4−4−2の形で試合に臨みました。立ち上がりこそアーセナルの浅いDFラインの裏をインザーギ、パットが鋭く狙い、そこにピルロからのパスがタイミングよく通ってチャンスを何度か掴みましたが、時間を追うごとにアーセナルの早い段階でのプレスに対応しきれず、下げてはDFがロングボールを蹴ってはい終了、という形に追い込まれてしまいました。その中でピルロは意図的に低い位置まで下がって(時にはCBの間まで下がって)ボールを受け、何とかリズム良くパスを散らそうと腐心していましたが、ロングボールへの応対ではパット、インザーギセンデロスギャラスに勝てず、グラウンダーのパスもプレスをかいくぐるだけの縦パスは数えるほどで、効果的なパスはだんだん減っていきました。こうなると頼みはカカの個人技による状況打開となるわけですが、ピルロは比較的自由にボールを持たせてもらっていたのとはうって変わって、カカはフラミニ、セスクに常にマークされ、ほとんど1対1で仕掛けられるようなシーンを作れず。それでも2、3度長い距離のドリブルで相手をちぎってシュートに持ち込むらしさは見せましたが、トータルで見れば「何も出来なかった」と言われても仕方ない試合だった印象です。また、インザーギ(途中からジラルディーノ)とパットの2トップは、ボールがくればそれなりの仕事をしていたとは思いますが、やはりFWはボールが来てナンボ。となるとセードルフの不在は、ボールの配給役が1人減る面に加え、セスク、フラミニがカカのマークに集中できる状況を与えてしまうという大きなアドバンテージをアーセナルに与える結果となってしまいました。セードルフ不在の影響はアンチェロッティ監督もある程度折込済みだったと思いますが、予想以上でしたね。
 そんな中、DFラインは本当によく耐えていました。相手のやりすぎに助けられた面はありましたが、そのやりすぎた場面ではしっかりと食い止めていましたし、1stレグ同様気持ちが伝わるプレーを見せてくれたと思っています。ただ、誤算だったのはガットゥーゾアンブロジーニがDFラインの前で堅いフィルターになれなかったことでしょう。1失点目は、セスクと対峙したガットゥーゾが全くらしくないやられっぷりで、あっさりと交わされ前を向かれてしまったことが原因でしたが、これに限らず、寄せては叩かれ、寄せては交わされるというシーンが続いたことで、最後はかなりの疲労感が画面を通しても伝わってきました。もちろんガットゥーゾだけ、アンブロジーニだけを責める事は出来ませんが、やはりチーム全体でアーセナルの攻撃を食い止めることは出来なかったことが敗因だと言わざるを得ませんね。
 この敗戦を含めて今季ここまでのミランを見ると、とにかくアンタッチャブルな選手ばかりで、控えの層が薄いですよ。特にMF陣がそう。ピルロガットゥーゾアンブロジーニ、カカ、セードルフの代わりなんて世界を探してもそうそういないのは重々分かってますが、誰か一人でも抜けた時のダメージの受け方が尋常じゃない点は何とか解消しなければいけないところ。その点、(かなり先の話ですが)オフシーズンの補強でどれだけカバーできるのかが、来季へ向けての大きな課題ですね。まあ、その前にシーズンで何とか4位以内に入らなければいけないわけですけど。

*1:あ、CLでは「アーセナルスタジアム」か。

*2:サニャはあまりオーバーラップがなかったかな。パットが比較的左に流れてきた分、その対処に追われた感も。

*3:現に前には2、3人待っていて、出そうと思えば出せたシーンでした。