続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

「己」と向き合った一年

戦術論が喧しく、戦術本が売れる時代にあって、戦術に目を向けることはとても大事なこと。しかし、その戦術を為すのは個であり、戦術が個を引き立てることも、個が戦術を机上の空論にしてしまうこともあるのだと、今季の東京を見ていて強く思い直しました。

であるならば、来季の東京に期待することは至ってシンプル。一人ひとりが上手くなってほしい。一人ひとりが、一つひとつのプレーに意図を込めて、責任を持ってプレーしてほしい。そこに、長谷川監督以下スタッフ陣の戦術が上手く噛み合い、1つでも多くの勝利を見せて欲しい。今は、ただそう思います。

 昨年末、2018年シーズンのFC東京を振り返ったエントリをこう、締めました。

 あれから1年。2019年シーズンを戦い切ったFC東京の選手たちは、「己」と向き合い、「己」高めることができたでしょうか?答えはYES、でしょう。

 

 

 永井謙佑。今年1年かけて、永井に対する評価が単なる「スピードスター」に留まらないものとなったことは、もはや衆目の一致するところでしょう。

長谷川監督は、就任から一貫して永井を「ストライカー」として起用し、指導し、評価してきました。永井自身も、当初はサイドアタッカーのプレーリズム・プレーマインドが抜け切らなかった、という類の自己評価をしていたように記憶していますが、長谷川監督のぶれない姿勢をしっかりと受け止め、今季の立ち居振る舞いはストライカー然としていた印象。自らの意思で最前線に立ち、攻撃では「速さ」だけじゃないゴールシーンをいくつも作り、守備では後ろのこともしっかりと考えつつ、プレスのスイッチを幾度となく入れ続けていました。

 また、今の永井にはいい意味での「ゆとり」を感じられるようになったなと。何でもかんでも走る、何でもかんでも追いつく、何でもかんでもスピードで…という評価を、自身というよりはむしろ周りのチームメートが拭い去ったこともあって、プレー精度が上がり、プレービジョンの幅が広がったと思っているのは、私だけじゃないはず。気が付けば30歳を超えましたが、成長のチャンスは中堅以上にも巡ってくる-もちろん、それを逃さない永井自身が素晴らしいのだが-ことを示してくれたのは、なんだかすごく嬉しいです。

 

 橋本拳人。終わってみれば、フィールドプレーヤーとしてチーム唯一の全試合スタメンフル出場。長谷川監督は、パートナーの高萩を戦術的な理由も含めてしばしば途中交代させていたのとは対照的に、何があっても退かせることなく、橋本をすべての時間ピッチに立たせ続けました。

 印象的な試合もいくつかあって。例えば第13節 C大阪戦。0-1のビハインドを跳ね返すべく、渡辺→矢島という3枚目の交代を施したあと、橋本はCBとして残り時間をプレー。熊本時代に3バックの真ん中を経験していたこともあって違和感はありませんでしたが、現地で試合を見ていて「ん?CBに下がったのって…え、ケント!?」となったことを記憶しています。

 例えば第29節 神戸戦。試合を決定づけた3点目を取りましたが、自陣でボールを奪ったあと、カウンターの起点だったのも橋本で。もちろん「3列目からの飛び出しによるゴール」は橋本がよく見せるパターンですけど、起点と終点、その両方を受け持ったのは、私の記憶が間違っていなければ初めて。とても素晴らしいゴールでした。

 そして、ついにA代表にも選出…どころか、センターハーフの主力としてプレー。雌伏の時が長かったか否かは様々な見方があるでしょうけど、ついに花開いたことに、疑いの余地はないでしょう。

 

 東慶悟。今季、「主将」と「10番」を背負い、1年間戦い続けました。途中で退く場面はたびたびありましたが、34試合すべてで先発。出場時間3,164分も、東京在籍7年目で過去最長。6アシストはリーグ10位タイで、ファウル数59はリーグ2位と少々ありがたくない数字ながら、提示されたイエローカードは2枚だけ。激しさはしっかりと体現しつつも、熱くなりすぎることなく冷静にプレーできていたことを、スタッツは物語っていると言えるでしょう。

 しかし、今季の東を称賛するならば、主将としての言動になるでしょう。長谷川監督は何度も会見で東のキャプテンシーを称え、複数のジャーナリスト・ライターが、各々の取材で見聞きした東の主将像を記事にしてくれました。また、勝利後のユルネバをサポーターグループとのやり取りでスタートさせ、今ではすっかりおなじみの光景となりました。

 私は以前、このブログで「サッカーにおける主将の重要性を、あまりよく分かっていない」と記したことがあります。今でもよく分かっていない気がしますが、それでも今季の東を見ていると、想いを言葉にし、気持ちを目に見える形で表現し、常にチームを前向きにさせる。そういったことを、主将が先頭切ってやり続ける。その大事さを感じることはできました。

 

 高萩洋次郎。昨季も感じましたが、東京に来て-韓国に渡って-高萩は明らかにキャラクターが変わったと思います。広島時代は2シャドーの1角として、守備をしないわけではないけれど、主眼は明らかに攻撃にありました。

 けれど、東京に来てからの高萩は、攻撃のタクトも揮うけれど、勘所を得た守備で存在感を示すシーンが多い印象。ファウル数45、警告6は褒められた数字ではないものの、安牌な守備をするのではなく、前からプレスに行けばしっかり呼応するし、自陣で壁を作るならばそのバランスを崩すことなく、それでもただバランスを見るだけではなく、押し引きがしっかりしている。酸いも甘いも嚙み分けて、という年齢になってきましたが、トータルバランサーとして、チームにいい影響を与えられる存在になってきたのかなと思っています。

 

 小川諒也。太田宏介を押しのけ、開幕スタメンの座を掴むと、そのままポジションを譲らず。太田が出場機会を求めて名古屋へ移籍した副作用は小さくない痛みとなりましたが、健全な競争の結果、もたらされたものであり、不平も不満も感じていません。で、小川が太田を押しのけた理由。もちろん、複合的な評価ではあるでしょうけど、私は一番に「ロングボール」の成長を挙げたいなと。

 「小川と太田、キックの精度はどちらが上?」という問い。私は6:4で太田かな?と思っていますが、大事なのは精度の使いどころで。太田は主にセットプレーやクロスでチームの助けになっていましたが、小川はむしろ敵陣よりは自陣、ポジティブトランジション直後、あるいはビルドアップ後のロングボールでチームの助けになっていました。象徴的なのが、第2節 湘南戦。先制点を許すも、前半のうちに2点返して主導権を渡さなかった試合展開でしたが、2点とも起点は小川のロングボール。このシーン以外にも、距離感や落としどころがいい!と思わされるパスがいくつもあり、確実にチームの武器になっていました。

 

 森重真人。昨季を振り返るエントリでは少しやり玉に挙げてしまいましたが、今季は大きな波もなく、チーム最古参として文字通り後方からチームを支えられていたように思います。

また、今季特筆すべきはファウル・警告の少なさ。これまでの森重の出場記録を眺めると、怪我があった2017年以外は、すべて30試合以上出場。だけど、34試合すべてに出場したシーズンはゼロ。小さい怪我による不出場もありましたが、ほとんどのシーズンはレッドカード、累積警告による出場停止で1、2試合出られず…という形でした。しかし、今季はファウル数23、警告2にとどめ、ついに34試合すべてに出場(1試合だけ89分に途中交代)。「カードコレクター」というありがたくない異名を頂戴したシーズンもあったことを考えれば、隔世の感すらあります。

 

 渡辺剛。CB4番手→CB3番手→森重のパートナー→U-22代表選出。東京に限らず、すべてのチームを見回してみても、今季これほどのステップアップを果たした選手は、渡辺ただ1人でしょう。

 運がよかった、それは間違いなく。けれど、運を実力で逃さなかったことを素直に称えるべきですし、立ち位置が徐々に変わっていく中でも、自分を見失わず、まずは自分の良さ-今の日本においては貴重なストロングヘッダーかと-を出すことでチームに貢献しようとするシンプルさは、功を奏していたと思います。

 

 室屋成。これまで、室屋の持ち味としてまず出てくるのが「上下動」。変わらず、そこは続けてくれましたが、今季よりポジティブだったのが自陣での守備。周囲との連携も含め、外へ行く・中を固めるの使い分けがしっかりとし、外に行った時にはこれまでよりもう数十cmのレベルですが、相手により圧をかけられていましたし、中を固める際も、大きい相手をぶつけられる場面がありながら、決して安易にはねのけられることはなくなった印象。第4節 名古屋戦で見せたジョーとのマッチアップは、この時はまだ序盤ながら「おー、今年の室屋は力強い!」と確信させるパフォーマンスでした。

 

 三田啓貴。4年ぶりに戻ってきたタマ。出場機会を求めて東京の地を離れた中、この3年の出場試合数はいずれも30オーバー。試合に出続ける中で養われたタフさ、ポジショナルプレーを重んじるチームにいて身に着いたポジショニング、特に仙台時代に任されていたセットプレーは、確実にチームの助けとなっていました。

 オ・ジェソク。長谷川監督のラブコールを受け、G大阪で出場機会を減らしていたこともあり、夏に加入。すると、何の因果か、小川が怪我により離脱。穴を埋める…という表現を用いることが申し訳ないレベルの選手で、かつ、本職とは言えない左サイドバックでの起用が続きましたが、もう長年東京にいるんじゃない?と思わせる雰囲気と、粘り強いプレーでファンの心を一気につかみました。

  こうして、それぞれが一年間「己」と向き合い、年齢や立ち位置関係なく、多くの選手が昨年の「己」を超えていったと感じています。

 

 

 それでも、届きませんでした。

 

 ゴール数の問題ではないけれど、永井は2ケタ10得点まで1つ及ばず。最終節、高萩とのワンツーで抜け出した場面でゴールをもぎ取れていたら、奇跡に近づいたかもしれません。

 橋本は代表との並行に、徐々に体力をそぎ取られたのか、ラスト3節のパフォーマンスは、それまでの彼と比べれば明らかに低調でした。

 

 「まだ、諦めていません」。味スタラストゲームで静かに、しかし力強い言葉を発した東でしたが、奇跡が大きく遠のく最終節の1失点目は、彼の懸命なプレーが故に起こったディフレクションから。これだけなら「現実はいたずらだ…」で終わったかもしれませんが、その後のプレーぶりにまとわれていた「折れてしまった」感は、できれば見たくありませんでした。

 奇跡が完全に断たれた2失点目。エリキの動き出しを褒めるべきシーンであると同時に、森重と小川の守備は、批判されてしかるべきものでした。素人意見だと分かっていますけど、どちらかがどちらかを押しのけてでも、どちらかが最後まで責任をもって身体をぶつけてほしかった場面でした。

 ダメ押しとなった3失点目。渡辺は遠藤渓太に翻弄されました。ファーストコンタクトで刹那の迷いを突かれて外され、一度は追いつくもペナルティエリアでの1対1も止められず。ネットが揺れたのを見届けた渡辺は、大の字になり天を仰きました。

 

 その最終節、累積警告により決戦のピッチに立てなかった室屋。1試合平均のクロス数3.4本はリーグ14位ながら、アシスト数は2。中で合わせる選手との兼ね合いもあるが、この数字はやはり物足りなく映りましたし、そもそも浦和戦で頂戴したイエローカードは、自身の置かれた状況を鑑みれば、明らかに安いものでした。

 三田はもっとガツガツしてほしかったというか、リンクマンに収まってしまったのはもったいなかったですし、ジェソクはどうやらこれにてお別れ。最終節、試合終了後に涙を見せたジェソクですが、すでにその時点で、別れは決まっていたのかもしれません。

 また、ディエゴ・オリヴェイラはより献身性を高め、幅の広い選手になった一方、昨年同様「固め打ち」と「沈黙」がはっきりとしたシーズンとなり、大森は諸所ありがたい存在だった一方、セカンドキャストの枠を壊し切れず。

 林は守備陣との連携が深まり、ファインセーブを1試合で複数見せたかと思えば、フワッとした失点を防ぎきれない場面があり、ナ・サンホ、ジャエル、田川、アルトゥール・シルバ、ユ・インスは一長一短がはっきりしすぎて、あと一歩突き抜けられず。

 岡崎、矢島、内田ら生え抜き組は、それぞれに存在感を示す場面もありましたが、主役を脅かすまでには至らず、J1に絡めない選手も少なくありませんでした。

 

 

 

 だから、限界を感じているか?来季に悲観しているか?答えは、NOです。

 あと一歩まで迫った理由。それは間違いなく、選手個々の成長が優勝を知る長谷川監督が求めるレベルに概ね達し、ベースの力が上がったから。昨季の後半は、個が戦術を縛ってしまいましたが、今季は個が戦術をより強固なものにしていたから。ここに尽きるでしょう。

 そのうえで、来季さらにもう一つ上を目指すために必要なものは何か?と考えると、いろいろ浮かんできます。さらなる個の成長、すでに実力を示した選手の補強、個をより際立たせる長谷川監督の次なる一手、などなど。そのどれも簡単に成せるものではありませんが、今のFC東京ならそのどれをも期待していいのかなと感じています。

 まあ、いささか楽観的に聞こえるかもしれませんが、少なくとも私は、2020シーズンに向けてポジティブな気持ちを持たせてくれた、そんな2019シーズンでした。来季こそ、ターイトルほしいよ~。