続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

だから

 前半は「必然の」0-2でした。お互いフラットな4-4-2を採用し、立ち上がりは互いに最終ラインまでプレスをかけに行く。それをけん制する意味も込めて、互いに長いボールを蹴り合う。そのターゲットも、東京U-18は14原、神戸U-18は13佐々木とお互い明確。しかし徐々に、確実にゲームは神戸U-18のものとなります。その要因は、タクティクスとフィジカルにありました。

 東京U-18はプレミアリーグEAST優勝を決めた青森山田戦で、10小林と18品田の両CHが極力最終ラインには下りず、3篠原、4長谷川の両CBとで四角形を作り続けるようなイメージでプレーをし、相手のプレスを無効化することに成功しました。

 そんな東京のビルドアップに対し、神戸はしっかりと対案を用意してきます。立ち上がりこそプレスに行きましたが、その後10原、13佐々木の2トップは東京U-18のCBへアタックはかけず、CBからCHへのパスコースを切りながらボールを外に追い出します。

 そうして、東京U-18の両CBがやむなくボールを外側に持ち出す、あるいは6荒川、9吹野の両SBにボールを入れると、そこへは2トップや8船越、11泉の両SHがしっかりとアタックする。そして、その圧力はなかなかのもの。結果、東京はやむなく長いボールを蹴らざるを得なくなります。

 また、長いボールも最終ラインの裏・横をめがけることが多く、どうしても「ピンポイント」狙いになってしまい、神戸U-18の牙城を崩すに至りません。さらに、東京U-18の2トップ14原、13吉田どちらかは裏狙いになり、7杉山、11横山も中へ絞るのか外に張るのか曖昧だったことも相まって、セカンドボール回収争いも、8:2で神戸U-18のものとなります。

 それならばと、東京も2手打ちます。まずは両CHの動き。神戸U-18の2トップが中のパスコースを切りに来て、四角形でのパス交換が上手くいかないのを見て、15分を過ぎるころから、両CH(主に10小林)が最終ラインに下りてパスを受け、3-2の数的優位を作りにかかります。恐らく佐藤監督からの指示ではなく、選手たちが主体的に考えた動きで、かつ個人的には悪くない判断だと思って見ていました。

 しかし、神戸U-18は慌てず騒がず。(神戸から見て)2-3の数的不利も意に介さず2トップは外に追い出す守備を冷静に続けて、外に出たところでしっかりとプレスをかけて、長いボールを蹴らせる。そうなれば、先ほど書いたことの繰り返し。結果、打開策にはなりませんでした。

 同時に、サイド攻撃に活路を見出したい意図も感じましたが、この日はサイドでの1対1、特に右サイドの東京U-18 9吹野、11横山vs神戸U-18 8船越、5本山のバトルで、神戸U-18が圧勝。9吹野、11横山ともに、前半を通して見ても相手を制したのは1度あったぐらい。とにかくスピード負け、当たり負けするシーンばかりで、これはただもう「神戸、ごつすぎるわ!」の一言でした。

 それでも何度か裏に抜けられそうな場面も作りますが、待ってましたといわんばかりに4小林、20右田の両CBがその動きをシャットアウト。特に20右田のカバーリングは秀逸で、試合途中に2人とも2年生だと聞かされて腰抜けそうになりましたが、とにかくGK1坪井を脅かすシーンすら作らせてもらえず。こうして1つずつ攻撃の芽を潰され、東京U-18の攻撃はただただ単調なものにさせられてしまいました。

 片や、神戸U-18の攻撃。野田監督は試合後に、

いつもはサイドの選手が張っているのですが、今日は少しダイヤモンドの形で、中盤の主導権を握りにいき、前半はうまくいったと思います。

 と語りましたが、例えば最終ラインから長いボールが出るシーン、13佐々木が少し下りてきて東京U-18の2ライン間で受ける動きを見せ、そこへ両SHがしっかりと絞って寄ることでパスコースとなる。6谷川、7佐藤の両CHもしっかりと関われるポジションを取る。なので、ボールがこぼれても敵陣で拾えるし、攻撃から守備の切り替えもしやすい。実に理に適った動きを選手たちは見せていました。

 というか、そもそも13佐々木の収まりがものすごくて。特別背が高いわけではありませんが、腰周りがパツンパツン。なので、相手を背負ったプレーでほとんどボールをロストすることがなく、シンプルに落として次のプレーにもいけるし、自分でターンして強引に運ぶこともできるし、とにかく厄介なプレーを見せ続けました。

 13佐々木以外にも5本山、10原あたりはドリブルで複数人をちぎることができていましたし、自陣で東京U-18がなんとかクリアしてスローインになれば、2前川、5本山の両SBから繰り出されるはロングスロー。プレミアリーグWESTをずっとこんな感じで勝ちあがってきたのかは知る由もありませんが、そりゃ最多得点タイ・最小失点も実現できるな、と納得せざるを得ない速さ、巧さ、強さを立ち上がりから見せ付けられました。

 

 東京U-18の失点シーン。1点目は2前川のロングスローを20右田がフリックし、奥から入ってきた11泉がヘディングで流し込む。恐らく東京U-18も警戒はしていたと思いますが、シンプルにその上をいかれたシーンとなってしまいました。

 そして2点目。2つの図を作ってみました。

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 番号と名前は省略してしまいましたが、右CB(3篠原)がボールを持つも前に出しどころがなく、両手を広げながら--おそらく「何で誰も受けに来ないor動き出さないんだよ!」という意味--仕方なくGK(16高瀬)へバックパスした時の選手位置です。

 この時、両CBはもう一度ボールを受けようとして16高瀬とほぼ平行の位置までポジションを下げました。しかし16高瀬はここで、最前線の14原めがけてロングボールを入れます。

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 で、その長いボールはあっさりと跳ね返され、前にいたCHが拾って横にいた味方にパスを入れたところが次の図。東京U-18は前4人の切り替えがやや遅れてあっさりボールより後ろに置いていかれ、2列目もボールに詰めきれず、最終ラインは両CBの2人が残るのみで、後方に広大なスペースを与えてしまいます。

 そこを神戸U-18は見逃さず、すかさず最終ライン裏にボールを入れると、13佐々木が4長谷川の前にしっかりと入り、エリアの中で倒されてPK。これを13佐々木が決めて追加点、でした。

 1つ目の図のシーンで、16高瀬がどのプレーを選んだら正解だったのかは分かりません。もしかしたら、前線の動きが良く見えたのかもしれません。ただ、16高瀬はエリアを飛び出していて、両CBとともに擬似3バックになっていて、両CHを含めれば数的優位になっていた。かつ、両SBはすでにハーフウェーラインを超えていたことを考えれば、私は長いボールを「蹴らされてしまった」と感じています。

 いずれにせよ、神戸U-18のタクティクスを上回れず選択肢を徐々に奪われ、フィジカルに屈して圧力を感じ、その結果余裕のある判断ができなかったことに端を発した失点だと見れば、私はまさに、前半を象徴するような流れだったと見ています。

 

 が、後半。東京U-18は前半の大劣勢をものの8分間で取り返して見せました。

 1点目はPK。ロングスローを受けに入った18品田が20右田に倒されたことにより与えられたものですが、映像で見ると、確かに主審がバッチリ見えるところで、両手で押してしまったのでやむなしでしょう。これを18品田が冷静に決めて1-2。

 そして2点目。このゴールに繋がるプレーを1つずつ切り取ってみます。

1:敵陣でのボール回収

2:狭い間隔でのショートパス

3:相手をボールに引き寄せた上でのサイドチェンジ

4:SB(24草住)のアタッキングサード侵入

5:オフ・ザ・ボールでの引きつけ(10小林が24草住の斜め前に走り抜け、相手を1人引きつけた)

6:1対1での突破

7:エリア内でのニア・ファー同時侵入(14原がニア、13吉田がファー)

 前半はこのどれも、どの1つもできていませんでした、ほぼ。それが、1点差に追いつかれて神戸U-18の選手たちがやや気落ちというか動揺をにじませていたとはいえ、わずか1シーンに全部凝縮させることができた。2枚替えしたとはいえ、その効果が如実にピッチ内に表れるのは(結果論ですが)むしろここからで、少なくとも現場で見ていたときの私には、全く説明不可能な光景が目の前に広がっていたとしか言いようがありませんでした。

 

 遡ってハーフタイム。試合終了後、佐藤監督は選手たちに喝を入れた。と同時に、昨年のJユースカップ決勝(前半0-2から追いつき、延長戦で勝利した)を持ち出して、選手たちの気持ちを前向きにさせた趣旨のコメントを残しました。

 終わってみれば、いろいろな歴史を丁寧に辿れば、それにより「正気を取り戻すこと」ができたことに納得する部分はあります。けれど、そうは言ってもこの15分間で、そこまで切り替えられるものなのか?と考えると…私には無理です(苦笑)。いくら選手たちのコメントをなぞって「追体験」しようとしても、前半のあの内容をいい意味で忘れて、もう一回ネジ巻きなおして残り45分ですべて出し切ろう!というメンタルに自分を向かわせることはできません。

 でも、この日の選手たちはそれができた。だから、後半即座に追いつけたわけです。その証拠というべきでしょうか、後半開始前、2枚替えで投入された24草住(←11横山)、5岡庭(←9吹野)をピッチ内で待っていた残りの選手たちには笑顔がありました。どなたかが記事にもされていましたが、もう切り替えはできていたからこその笑顔であって。私のような根がネガティブ系からすれば、味方なのに「なんなの、バカなの?」と思わずいいそうになるくらい、この時点で気持ちは前を向いていたのでしょう・・・か?やっぱり分からない(苦笑)

 

 試合に戻って。スコアをイーブンに戻した東京U-18は、そのままゲームの主導権も握り返しました。要因は「無為なロングボールを減らしたこと」と「交替策ズバリ」の2つにあったかと。

 先ほど、神戸U-18は2トップがCBにアタックするのではなく、縦のパスコースを切りながら外へ追い出す守り方をした、と書きました。当然これがどハマりしたわけで、後半もその形は変えませんでした。

 それを見透かしたのか、後半増えたプレーがCBの持ち出しでした。もちろんリスクはあります。しかし、ある程度持ち出しても、あるところまでは持たせてくれる。そう判断した3篠原、4長谷川は少しドリブルを入れながらのパス回し、あるいは4長谷川は相手陣までドリブルで持ち運ぶシーンも見せるなどして、神戸U-18の狙いをある程度外すことに成功します。

 その上での、交替によるポジションチェンジ効果。CBの持ち出しにしっかりと呼応した24草住、5岡庭の両SBはパスのクッション役になりながら、敵陣でプレーする回数も増えました。そのクッションを経てパスを受けられるようになった10小林、18品田は徐々にパスの精度も上げながら、神戸U-18守備陣の網の目をついて展開を動かし続けます。

 また、SBから位置を上げた6荒川、右にポジションを移した7杉山もしっかりと攻撃に絡み、特に相手の最終ラインを横に広げる狙いも見せると、14原、13吉田の2トップはより近いところでプレーすることができるようになり、コンビネーションも見えるようになります。そんなショートな展開があっての時々まぶされるロングボールは、前半と違って効果的なものになり、前半以上に惜しいシーンへと繋がっていきました。

 守備に目を移しても、良い攻撃ができていることで全体のポジションバランスが良くなり、攻撃から守備への切り替えも前半とは雲泥の差。特に7杉山は前半目立っていた5本山を粘り強い球際の守備で食い止め、敵陣で奪い返したシーンも1度や2度ではありませんでした。また、24草住、5岡庭の1対1も目を見張り、前が限定され、後ろに安心感を得た10小林は、セカンドボールの回収や読みの利いたインターセプトで守備をより締めてくれました。

 それでも、神戸U-18の圧力を完全に消すには至らず、前半同様力強いプレーで最終ラインを破られたシーンもありました。そこに立ちふさがったのは16高瀬。60分に訪れた1対1のシーンでは現代GKがなすべきプレーを冷静に行い失点を防ぎ、そこから続いたセットプレーも全て跳ね返して、良い流れを手放さなかったことに貢献。最終盤にも1つビッグセーブ。熱く、冷静に、最高峰からチームを支えてくれました。

 そうして迎えたタイムアップの笛。試合は2-2のまま延長戦に決着をゆだねることとなりました。その延長戦。私は16高瀬が試合後に残したコメントに尽きると思います。

Q:3年前と同じ神戸との決勝でしたね。


A:「相手が3年前と同じ神戸さんだから勝てる」という自信はもちろんなかったですけど、神戸さんが3年間積み上げてきたもの以上に、自分たちが積み上げてきたものは大きかったですし、質が凄く高いというのはどのチームに対しても思っているので、必ず勝てると思ってこの舞台に立ちました。

 

引用:J SPORTSプロデューサー 土屋雅史さんの以下のブログより

www.jsports.co.jp

 前半で折れかけた。けれど、ハーフタイムで再度胸を張り、後半で取り戻した。そして、延長戦で結実させた。繰り返しになりますけど、ただただそのメンタリティに敬服するだけです。

 

 終わってみれば、今季私はU-18の試合観戦が5試合か6試合に留まりました。ただ、タイトル3つには全て立ち会うことができた、言わば「いいとこ取り」な1年となりました。さらに青森山田戦、神戸U-18戦は、流れで見ることによってすごく印象に残るものとなりました。

 先週、青森山田に対して自分たちから戦術的に仕掛け、それがものの見事に奏功した。その結果、今週はスカウティングをされて対策を施され、自分たちが土俵際まで追い込まれることになった。「正解がない」のではなく「正解がいくつもある」中、その試合の、その瞬間の正解を見つけ続けなければいけない。だから、サッカーは難しい。

 青森山田戦、神戸U-18戦、ともに最終スコアは3-2。でも、内容は全く違っている。けれど、ともに様々なアプローチを経て、ともに勝利をもぎ取った。だから、サッカーは奥深い。

 今日、私なりに掘ってみた神戸U-18戦。こうやって冷静に振り返ってみても摩訶不思議なところは残りますし、神戸U-18側から見れば、「2点差が一番危ない。ここで締めていこう」とどれだけ肝に銘じて後半に臨んだとしても、まさか8分間で追いつかれるとは思っていなかったはずで。だから、サッカーは恐ろしい。

 そんな、いろいろな「だから」が頭を駆け巡るところですが、難しさも奥深さも恐ろしさも、必然も偶然も、歓喜も悲劇も、何もかも全てひっくるめて、今季を締める言葉を残すとすれば、多分こうなるんでしょう。

 

 

 だから、サッカーは面白い。