続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

現実逃避の夢物語 ~監督人事篇~

 「ピンチはチャンス」という言葉。私自身はネガティブよりな人間なので「いや、ピンチはピンチだろ」と苦笑いを飛ばすことが多いわけですが、こと現在FC東京が置かれた状況は、無理やりにでもこの言葉を用いるべき場面、と言えるかもしれません。

 この2年間で、残念ながらいろいろなものが崩壊しました。もはや、土台すらなくなったと感じている方もいるでしょう。しかし、このオフの動き方次第では、いろいろな人の覚悟――そうやすやすと使っていい言葉ではないと思うが――が行動に繋がれば、「リビルディング」に向けて幾ばくか明るい未来を感じ取ることができる…かもしれません。

 そのために、フロントは一にも二にもここ一連の失敗を自戒し、次の一歩を改めて言葉で示し、その考えに沿った新監督・コーチ陣、あるいは選手を整える必要があります。今オフ、私は少なくない選手の入れ替えがあると思っていますが、その動きがある前にまずは新監督を決め、フロントと監督がしっかりと意識をすり合わせたうえで動かなければ、元の木阿弥でしょう。

 そんな中、マスコミでは来季の新監督ネタが頻繁に踊るようになりました。やれドイツの鬼軍曹、やれ日本でもお馴染みの韓国の方、やれ3連覇達成監督、やれ3冠達成監督。飛ばしも含めてでしょうけど、いろいろな名前が取り沙汰されています。

 実際、フロントがどのような決断をするかは行方を見守るのみですが、私自身は希望(妄想)として、そろそろ(FC東京に限らずJ1クラブが)「下部カテゴリーで一定の成果を残した監督のヘッドハント」をしてもいいのでは?と常々考えています。

 

 

 現在、J1の18クラブで指揮を執っている監督の前歴を羅列すると、以下のとおりになります(間違っていたらごめんなさい)。

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 外国人監督&新潟・呂比須監督を除くと、就任する前年に他のJクラブを率いていたのは甲府・吉田監督、清水・小林監督、G大阪長谷川監督の3人のみで、そのほかは軒並み内部昇格かつ下部組織指導経験者。そのほとんどがシーズン途中の就任だったことは考慮すべきでしょうけど、いささかフロントが安易な選択に逃げているように見える側面もあります。

 もちろん、内部昇格が一律ダメだ、なんて言いません。内部昇格した監督が、前監督が築いてきた流れを踏まえながらも一手加えてさらにチーム力を上げるケースはしばしば見られますし、下部組織の監督・コーチ、あるいはトップチームのコーチとしての研鑽が、トップチームの監督になった際に成果として現れることも往々にして見られるので。

また、世界的に見ても「下部組織からの昇格」はケースが増えてきている印象。要因としては、世界的に選手獲得にかかるコストが膨大になり、これまで「育てて売る」ことにこだわってこなかったクラブも含めて育成部門が大きく見直されているなか、育成部門が整備されてカテゴリーが増えた分、指導者が必要となった=指導者の枠が増えていること、そして、育成部門の枠でキャリアをスタートさせる指導者が増えてきたことが挙げられるでしょうか。

特にドイツではその傾向が顕著。詳しくは皆さんご自身で調べていただくとして(苦笑)、特筆するならば若干28歳でU-19監督からトップチームに引き上げられ、昨季CL出場権を手にしたホッフェンハイムユリアン・ナーゲルスマン監督でしょう。また、今季はシャルケに就任したドメニコ・テデスコ監督が、若くして指導者となり、下部組織から引っ張り上げられた監督として注目されています。

 

 一方で、世界的に見てベーシックな監督人事のもう1ルートは「他チーム、特に下位・下部カテゴリーで成果をあげた監督の引き抜き」。日本に比べて各国とも「メガクラブ→ビッグクラブ→スモールクラブ(ここまでがトップカテゴリー)→2部以下の下部カテゴリー」の序列がはっきりしているなか、下部カテゴリーから指導者キャリアをスタートさせ、日々研鑽を積みながらしっかりと結果を残し、徐々に上位カテゴリーのクラブにひっぱりあげられていくケースはこれまでも、これからも頻繁に見られていくでしょう。

つい最近で個人的好例を挙げるとするならば、今季ローマ(イタリア)の監督に就任したエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督。選手としてもローマに在籍し(中田英寿さんともプレー)、イタリア代表としても12試合1得点を記録し、05年に引退。その後、指導者としてはレガ・プロ(3部に相当)のクラブからスタートし、11年に当時セリエBだったペスカーラで名を上げ、続くサッスオーロでは紆余曲折を経ながらも、12-13シーズンにはセリエB最優秀監督に選ばれ、15-16シーズンにはセリエA6位と躍進。その指導力を買われ、今季いよいよビッグクラブであるローマに辿り着きました。

 どのようなルートを辿るにせよ、大事なのは監督自身が「野心」を持っていられるか?そして、そんな環境をその国のリーグ全体で醸成することができるか?だと思っていますが、そんな中、日本もようやくJ3まで整い、現時点でJクラブが54ある状況にもかかわらず、いつまで経ってもトップカテゴリー監督への道が「内部昇格>>>引っ張り上げ」という図式が続くことが良いことだとは思っていません。それこそ、日本独特の「大学」の指導者界隈まで目線を広げれば、もっと裾野は広がってもいいはずで(昨季、明治大学からJ3盛岡の監督に就任した神川明彦さんのような例がどれだけ続くか)。まあ、大学で指導されている方のうち、S級ライセンスを持っている方がどれだけいるのかは分かりませんけど。

 

 

 と、ここまでやや蛇足が過ぎましたが、話冒頭に戻って、私は来季の監督に「下部カテゴリーからの引っ張り上げ」を希望(妄想)しています。現に、J1でチャレンジしてほしい、チャレンジさせてもいい監督が複数いるとも思っていて。その方を3名挙げてみます。

 まずは高木琢也監督(長崎)。当ブログや私のツイッターでしばしば名前を出していますが、今季も手腕を発揮中。それっぽく横文字で表現すれば「ソリッドでオーガナイズされたチームを作る」という評価になりますが、それ以上にスカウティングの確かさがお気に入りで。そのあたりを、宇都宮徹壱さんがコラムにされているので、御一読を。

 

 コラム内で、解説者時代のことも少し触れられていました。指導者の条件として「自らの哲学・イメージをしっかりと具体化できる能力」の重要性がこれまで以上に求められていると感じているなか、高木監督の解説は非常に耳馴染みが良く、端的に状況をコメントできていた印象で、それが指導者になってもいい方向に出ているのかなと。

 とすれば、戸田和幸さんは指導者としても面白そうだなぁ…とか、A田豊さんはちょっとなぁ…ってのは話が逸れるのでやめますが、高木監督のJ1初挑戦は、なにとぞ東京で…と夢見る日々はまだまだ続きます。まあ、長崎が昇格できたら素直に称賛するのみで、その夢は諦めますが(苦笑)。

 

 続いてリカルド・ロドリゲス監督(徳島)。今季から徳島を指揮し、現在7位と昇格プレーオフ圏内を視界に捉えているその結果以上に、「しっかりとボールを持ち、失ったら激しく行く」「『ボールを持って攻撃的なサッカーをするチームだけれど、勝てないね』ということでは意味が無い」という哲学を明確に持ち、戦術的にも3バック・4バックを無理なく兼用できる幅の広さを見せ、若手の登用も躊躇なく行うその内容に、高く評価する声が聞こえてきます。

 おあつらえ向きに(?)、今月発売された「月間フットボリスタ第49号」に、岡田明彦強化部長とともにインタビュー記事が掲載されていて(聞き手は川端暁彦さん)、非常に読み応えがありました。FC東京の現状と比べれば羨ましいほどフロントと現場が噛み合っている印象しか伝わってこず、「やっぱり、とっくによほどのことが起こってたやん!」と某GMに文句の一つも言いたくなるところですが、今の最先端を行く「ポジショナルプレー」の哲学をもし今の東京に注入してくれた…と妄想すると、夢は膨らみます。

 

 最後に、中田仁司監督(横浜FC)。長らく徳島の強化部長兼テクニカルアドバイザーを務めていて――いみじくも、その後任は前述した岡田明彦さん――、監督歴は(ウィキペディアによると)05年9月~12月まで名古屋(ネルシーニョ監督の解任による代行)、15年9月~11月までと、16年6月~現在まで横浜FCの2クラブしかありません。

 しかし、シーズン頭から初めて指揮を執ることとなった今季、現在4位とプレーオフ圏内に位置し、まだ自動昇格も目指せる状況にチームを引き上げています。そんな中田監督の良さは「修正力・臨機応変さ」。データを拾うと、今季16勝中1点差勝ちが11勝で、かつ今季50得点中後半の得点が31得点、特に61分以降に22得点と、「90分を通したゲーム運び、しぶとさを見せている」と評することができるでしょう。

まあ、これだけならほかにもありそうですが、前半リードしていた試合がここまで34試合中8試合しかなく(それ以下は草津、金沢、岐阜、愛媛のみ)、その成績が7勝1敗。つまり、全16勝中9勝は「前半リードしていなかった」展開でのもの。こうした数字を残していることは、ハーフタイムでの修正力、あるいは試合途中での臨機応変な判断が巧みであると言っても過言ではないでしょう。私が見た中での最たる試合が、第9節の千葉戦。当ブログで短評を書きましたが、ハーフタイムでの修正は鮮やかでした。

 

 

 いずれもJ1昇格を伺っているチームのため、今から声をかけることが難しいことは百も承知。また、契約がどうなっているか分からないので、今から声を掛けられるかどうかも不明です。もしも、かの3冠達成監督を就任させられたなら、人事としては一定の成果を得たと評価はされるでしょう。

ただ、何度目かの仕切り直しとなる今オフ、私はこういったチャレンジングな人事をやってみても面白いんじゃないか?と思っています。また、繰り返しになりますが、東京ではなくともJ1のチームがこうした下部カテゴリーで成果をあげた監督(前述した以外でも、山形・木山隆之監督、水戸・西ヶ谷隆之監督なんかは面白そう)を引っ張り上げるところが見てみたいですし、東京に関しては岡山・長澤徹監督を引っ張りなおしてくる、なんて人事も夢があります。

 いずれにせよなんにせよ、リビルディングの第一歩となる(はずの)来季の監督・コーチ人事がどうなるか、今はただフラットに眺めていようと思います。ん?今季について?…どもならず(苦笑)