続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

「傍流」に求める最後の一手は吉か、凶か

 サッカーの、こと戦術面においては、その時々で「主流」と「傍流」が必ず存在して来ました。また、「主流」と「傍流」はその時々で立場を入れ替えながら、長い歴史を築いてきました。

 近10年、15年で言っても、攻撃ではかつて栄華を誇ったクライフの哲学を引き継いだグァルディオラ監督が見せたポゼッションサッカーが数多の監督、数多のチームに影響を及ぼしながら主流として鎮座していましたが、近年は短い時間で、短いパス交換で前に、縦に突っ込んでいく直線的なアタックが復権の兆しを見せ始めています。

 守備においても、プレッシング、ブロックディフェンス、リトリート、マンツーマン、ゾーンディフェンス、いろんな考え方が主流となり、いろんな考え方が傍流となり、連綿と歴史を紡いできました。

 そして、システムも様々な変遷を経てきました。大きなくくりで言えば、近現代は4バックが「主流(王道)」であり続けていますが、時代の端々で3バックが「傍流」の域を超えて、ムーブメント的なものも含めて、存在感を高めることもしばしばありました。

 

 

 近年、Jリーグにおいても3バックは「傍流」に留まらない広がりを見せています。その第一歩は、ペトロヴィッチ監督が率いた広島でしょう。

 といっても、正確には3バックである局面はほとんどなく、攻撃時はウイングバックを高い位置に上げ、センターハーフのうち1枚が下りての4バックを形成し4-1-5のような形を作り、守備時はネガティブトランジションにおいて両ウイングバックがすぐに自陣へ下がり、2シャドーが外側を見る5-4-1のような形を作り、「王道」である4バックの相手を攻略する「傍流」の視点で世の中の耳目を引きました。

 ただ、このやり方をそのまま引用するチームは、そう多くありません。そもそもペトロヴィッチ監督が独自に考案した戦術であるがゆえに、他の監督が指導方法を持ち合わせていない点はあるでしょう。けれど、私は後ろの4枚と前の5枚を繋ぐ1(=青山)をこなせる選手がどのチームにも存在し得ない点、仕掛けられるウイングバックを両翼に持ち合わせることが難しい点など、選手のスキルも去ることながらいかに「適した」選手を揃えられるが戦術のレベルを左右すると思っていて、物理的にそれが可能なチームが限られてしまうと考えています。

 結果として、守備時は5-4-1に可変するも、攻撃時は3-4-2-1そのままでプレーするペトロヴィッチ監督の「亜流」に留まるチームが多く見られ、結局は煮え切らないプレーに終始してしまうチームも少なくありません。

 

 世界に目を転じると、私がサッカーを見るようになってから3バックがまず「主流」を食いかけたのは、90年代後半のイタリア。受け売りの知識も含めて流れを整理すると、まず名を上げたのがザッケローニ元日本代表監督が率いていたウディネーゼウイングバックセンターハーフがフラットな形を取る3-4-3を形成。後ろの枚数を1枚減らしてでも中盤・前線に人数をかけ、前線3枚はパターン化された動きにより連携でゴールに迫る、守備時は当時2トップを採用するチームが多かった中にあって、両ストッパーによる対人のマンツーマンを基本としながら、真ん中の1枚は余らせ、両ストッパーが外へ釣り出された際にもセンターハーフのどちらかがしっかりと下りて中をケアする。そうした、それまでのイタリアにはなかった「傍流」のアイデアで、セリエA3位に食い込む健闘ぶりを見せました。

 その後、(もしかしたら3バックといえばこれを思い浮かべる人が多いかもしれない)トップ下を置く3-4-1-2が流行。当時のことを振り返る記事などを読むと、アリーゴ・サッキ率いるミランが編み出したゾーンプレスにより中盤フラットな4-4-2が「主流」として存するなか、例えばファビオ・カペッロフランチェスコ・トッティを、カルロ・アンチェロッティジネディーヌ・ジダンを、その他何人かの監督が「トップ下」という最も適した居場所を失ったファンタジスタ達の攻撃スキルを活かしつつ、前にパスターゲットを2枚確保しながらも、後ろに3+4枚を確保して守備のリスクマネジメントも考えた結果、3-4-1-2に至ったとのこと。

 しかし、トップ下が守備のタスクを怠ると途端に交代を余儀なくされ、両ウイングバックが自陣に押し込まれると、自陣での守備が5-2という極端かつバランスが悪い形となり、同時に後ろ7枚と前3枚が分断され、攻撃面にも停滞を及ぼすケースが増えたことで、数年後には再び4バックが「主流」となったようです。

 

 また、グァルディオラ監督が世に広めた攻撃時の4⇒3バック化。改めて説明するまでもないかもしれませんが簡単に要点をあげると、センターバックが大きく開き、サイドバックは敵陣に侵入。と同時に、アンカー(ピボーテ)がセンターバックの間に下りて3バック化する、という流れ。図にすると以下のような形。

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 特長は、後ろ3枚+両ウイングバック+前3枚が円を描くようなポジションを取り、ウォーミングアップでよく見られるロンド(鳥かご)を意識しながらプレーをすること。

 これだけ見れば、ちょっと頑張ればどこでも出来そうな気もしますが、世の中のどのチームも「亜流」に留まってしまった原因は、個々のスキルの差とチャビ&イニエスタの存在。各選手が10~15mのパスを寸分狂わずに出せるうえに、チャビとイニエスタが常に細かくポジションを変えながらボールホルダーに絡みながら、時には相手を収縮させ、時には相手を拡張させ、生半可なプレスやブロックディフェンスをズタズタにしてきました。

 センターバックの間に降りる選手(=ブスケッツ)の働きを出来る選手はいるでしょう。また、チャビかイニエスタの役割をこなせる選手を1人は抱えられているチームもあったでしょう。けれど、当たり前ですけどチャビとイニエスタが同時にいたチームはあの時のバルセロナしかなかったわけです。そして、チャビとイニエスタが同時にいた(ことに加えてブスケッツも現れた)ことが、グァルディオラ監督にとっては僥倖だったわけです。

 そう考えると、このやり方をしているバルセロナ以外のチームは、そりゃ成功しようがないわけで。それでも、今季の川崎フロンターレは谷口、エドゥアルドとボールを扱えるセンターバックがいて、ムラはあるもののエドゥアルド・ネットは1つ下りても仕事ができ、中村&大島はJ屈指のパス&ムーブデュオ。この中盤3枚が揃っているだけでも今のJにおいてはアドバンテージになり得るなか、車屋、田坂、エウシーニョらサイドバックは自陣でも敵陣でもタスクをこなせ、両サイドハーフは多士済々。そこに今季加わった阿部が偽9番的な振る舞いも見せゴールを積み重ねるなど、リトル・バロセロナと呼んでもいいのかもしれません(こう見てたら、家長の居場所、ないね)。まあ、風間監督が去った翌年にこういう状況になっているのは皮肉なものですが、今季の川崎は、個人的にはタイトルを取ってしかるべきシーズンだと感じています。

 

 さらに時代は進むと、3バックとは当たり前にセットになると思っていた2センターハーフすら用いないアイデアも出てきました。それが、コンテ監督がユベントスで、そしてEURO2014においてイタリア代表で見せた3-1-4-2。

 3バックの前にはアンカーが1枚いるだけ。極端に攻めたいときには両インサイドハーフ、両ウイングバック、2トップと計6人が敵陣に入ったうえで、インサイドハーフが相手のサイドハーフセンターハーフの間にポジションを取れば、たちまち相手は中(インサイドハーフ)をケアすべきか外(ウイングバック)をケアすべきか難問を突きつけられる。あるいはインサイドハーフが少し外にポジションを取り、相手の中盤4枚の網目が広がれば、3バックもしくはアンカーからダイレクトに2トップにパスが入る。

 はたまた2トップが少し引いてきて、そこに相手最終ラインの誰かが食いついてギャップが生まれようものなら、ウイングバックインサイドハーフがすかさずそこをついて裏に抜け出し、スルーパスを受けるなど、特に相手が4-4の主流守備を見せてきた際に、メリットを多数見出せるアイデアは、非常に見ごたえがありました。また、このシステムは失った後に敵陣ですぐに守備に入り、人数がいることを利してそのまま敵陣で奪い返してしまう狙いも見て取れました。それが適わなかった際に後ろは手薄になるますが、そこは必要悪として受け入れるほかないでしょうか。

 ちなみにコンテは、ご存知の方も多いでしょうけど、チェルシーに場所を移しても3バックを採用(チェルシーでは中盤フラットな3-4-3かな?)しています。

 

 

 Jのとあるチームが、サマーブレイク中に3バックへ挑戦しているなんてニュースが聞こえてきました。

 そのチームは、豪華陣容を抱えるものの一歩進んで一歩下がる、まことに歯がゆいシーズンを送っていて、ことさら4-4-2という主流、王道のシステムを用いた戦術においては、就任から1年を経ても上積みを見せられず、伸び白ももはやないように感じていました。

 なので、3バックへのチャレンジには賛成!…と簡単にはいきません。要は何を、どこを今の課題と感じていて、その課題の何を、どこを解決すればこの現状を打破できると見ているか?そして、その自問に対する自答が傍流である3バックなのだ!と結果で、内容で内外に示すことができなければ、単なる思いつきで終わってしまいます。

 守備時の人数確保、それによる守備の安定を求めるのなら、守備時5-4-1、攻撃時3-4-2-1になる3バックを採用する手もあるでしょう。今季加入したかのパサーを1列前で活かしつつ、多士済々なフォワード陣を活かしたいのなら、3-4-1-2だってありでしょう。バルセロナ式の3バックはちょっと現実的ではないとしても、コンテ式の3バックは監督が就任当初、元来見せてきたアタッキングマインドを思い起こさせるには面白いアイデアかもしれません。

 まあ、本当に3バックをやるかどうか、その効果がいかほどなのかは数試合見る必要がありますが、膝を打つ一手となるか、引き出しの無さを寄り明らかにしてしまうだけなのか、今はお手並み拝見といったところでしょうか。