続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

残酷な数字のテーゼ

 今季のJ1も12~13試合、約1/3が終了しました。東京はここまで6勝3分け4敗(19得点13失点)で7位。暫定ではありますが首位柏との勝ち点差はまだ6ですし、1試合1得点以上かつギリギリ1試合1失点と、表面上は及第点を与えてもいい結果を残しています。

 しかし、多くのファンは「一向に内容が良くならない…」と感じているのではないでしょうか。私もその一人で、水曜日に行われたルヴァンカップ・清水戦終了後には、こんなツイートをしてしまいました。

 戦術面で深掘りする要素が少ない、引き出しが多くないことは、当ブログでもたびたび書いてきました。なので、(大事な部分ではあるんですけど)重ねて「戦術が~」とのたまうつもりはありません。ただ、それ以外の部分でもあまりに何もない試合。普段そこまで試合中に文句を言うタイプではない(と思っている)私も、先の清水戦に関してはテレビの前で不満ばかりが募って、ぶつくさ文句を言いながら試合を見ていました。

 そして試合後、選手は各々思う「足りない部分」をコメントしましたが、まあそれが絵に描いたような各々具合。チーム内では今、何がやれていて何がやれていなくて、何を伸ばして何を補えばいいのか、意思統一が図られていないのでは?と勘繰りたくなるほど、見通しは明るくない状態だと言わざるを得ません。

 では、どうしたらいいのか…を漠然と考えてもただ不満を書き連ねるだけになりそうなので、今日は久々にデータを自分なりに分析して、自分の中での客観と主観をすり合わせてみて、その上で何か見えてくるものがないか?ってことにトライしてみようと思います。昨季篠田監督が就任して指揮したのが12試合、今季がここまで13試合と試合数も並びましたしね。データは当ブログではおなじみ「フットボールラボ」より。

www.football-lab.jp

 

 まずは、いきなりスタッツの表から。なお、14,15年はシーズン通して、16年は篠田監督就任後の12試合、17年は今季ここまでの13試合の平均となっています。

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 参考までに、フィッカデンティ監督時代の14、15年のデータも併記しましたが、ゴール数がほぼ横ばいな中、その他の攻撃に関する数字が軒並み悪くなっていることが見て取れます。

 例えばシュート数。なんと平均が2ケタに届かず、順位も16位と当然下の下。また、昨季の篠田体制下より約2本減っていて、同時に枠内シュート数も平均1本減少。さらに、上記の表にはありませんが、チャンス構築率7.7%(攻撃回数127.1÷シュート数9.8本)もリーグ16位と、全く攻撃のスタッツは奮いません。

 それでも得点数が6位なのは、ひとえにシュート成功率の高さ(13.3%でリーグ3位)のおかげ。言うなれば、昨季は「チャンスはそこそこ作るけど、決めきれない」状況だったのに対し、今季は「そこそこ決めているけど、チャンスはあまり作れていない」状況。これは、私の中では客観的イメージとリンクする数字だと感じています。

 では、チャンスを作れていない要因はどこにあるのか?に視点を移しますが、数字から読み取れるのは、

1:ボール支配率は上昇、けれどパス成功率は低下

2:攻撃回数は微増、けれど敵陣30m進入回数は減少

3:クロス本数は横ばい、けれどクロス成功率は低下

の3点でしょうか。

 1について。ボール支配率49.6%は昨季より3.2%上昇し、パス本数も微増。正直、ここまでボール持てていますかね?という印象は拭えませんが、そうらしいです。しかし、パス成功率は3.1%ダウンし、パス成功率には全くこだわっていなかったフィッカデンティ時代と変わらない数字にとどまっています。と、ここでパスに限定したスタッツの表も作ってみたので、合わせてご覧ください。

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 方向別に見ると、前方向へのパス成功率が3.5%ダウン。また、自陣パス本数・割合とも昨季より増えているなか、こちらも成功率は3.2%ダウン。さらに、ロングボールの割合が昨季より0.9%とわずかに増え、成功率は6.2%と大きくダウン。結果、これらの数字から仮説として導き出せるのは、結局のところ皆さんのイメージとほぼ重なるであろう「自陣でのビルドアップ、どうしようもない説」になってしまいます。

 少し目線を変えますが、フットボールラボ内に「パス交換のトップ10」が記載されています。これは「誰から誰に、何本パスが出されているか?」を集計したものですが、今季ここまでのトップ10は以下のとおりになっています。

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 現代サッカーにおいて最終ラインの選手のパス本数が増えることはもはや定説であり、上位がディフェンダー同士のパス交換であることに驚きはありません。とはいえ、パッと見気になってしまうのは「森重と高萩の登場回数の少なさ」でしょうか。

丸山が出し手、受け手ともに複数回ランクインしているのに対し、森重は出し手で2度、受け手では1度しかランクインしていません。もちろん、最終ラインは左のユニットが丸山・太田でほぼ固定されている一方、右はサイドバックが室屋と徳永の半々起用で、その影響により森重⇒徳永の組み合わせがランクインしていないなどやむを得ない部分はあるでしょう。

しかし、丸山⇒高萩が入っているのに森重⇒高萩が入っていない、あるいは丸山⇒林が入っているのに森重⇒林が入っていない点は、やはり解せません。森重⇒高萩に関してはある理由が思い当たり後述しますが、丸山⇒林があるのに森重⇒林がないのは、森重が「キーパーも使ってビルドアップするやり方」があったとしてそれを守っていないか、単に気まぐれすぎるかしか理由がないですし。

 そんな森重、どうも私は今季「ロングボールを出す回数、増えてません?」と感じています。しかも、チームとして狙いがあるならまだしも、大半はビルドアップに詰まって仕方なく…という場面。まあ、丸山も大概と言えば大概ですし、サイドバックが狙いどころにされて逃げのロングボール…という場面も目立ちます。いずれにしても、ビルドアップの手順・約束事が植えつけられていない、あるいは徹底されていない結果、相手の前プレに屈してロングボールに逃げる。それにより、ロングボールの成功率が大きく落ちていることは間違いないでしょう。

 そして、高萩。怪我で3試合欠場していたとはいえ、現時点で出場時間数はチーム7位。かつ、「高萩のチーム」と言っていいほどのオーガナイズぶり、存在感があるので、もっとランクインしていると思っていました。しかし、結果はご覧のとおり、受け手、出し手ともに登場は1度だけでした。

 その相手は丸山、太田ですが、これはビルドアップ時に高萩が最終ラインに落ちる際、間に入るというよりは左サイド(丸山の横)に落ちる場面がほとんどで、その結果左サイドの丸山・太田とのパス交換が増えている、と見ていいでしょう。森重⇒高萩がランクインしていない理由もここにあるかと。

 それでも、紛いなりにも「ビルドアップやっていきたいっす」と言いたいのであれば、高萩含めてセンターハーフ陣がこれほどボールに絡まない、最終ラインからボールを受けられていない、あるいは最終ラインがセンターハーフにボールをつけられていない結果になっているのは、「いや、ビルドアップ全然できてないし」と苦笑いするほかありません。

 

 2について。フットボールラボ内における攻撃回数とは「ボールを保持してから相手チームに渡る、もしくはファウルやボールアウトで試合が止まるまでの間を1回」とカウントし、それを90分集計したものですが、昨季より2.3回とわずかながら攻撃回数が増加している一方、敵陣のゴールラインから計測して30m以内に進入した回数は3.5回減少しています。言い換えれば「ボールは持っている。けどアタッキングサードに入れない。だからシュート数も減った」わけです。

 この要因を探るにはもう少し深いデータが必要になりますが、調べる限りの数字から論を出すとすれば、

・ロングボールが増え、けど成功率が下がったことで、30m以内にボール入らない

・敵陣でのパス割合が減り、かつ成功率も微減したことで、30m以内にボール入らない

・ドリブル数が減少していて、30m進入への手立てがパスに偏っている

 あたりになります。ロングボールについては前述のとおり。自陣と敵陣でのパス割合がほぼ50:50になったのは、ビルドアップ時に後ろが重たく、ロングボールに逃げてしまうことも相まって自陣でのパスが増えてしまっている。また、ドリブルでつっかける場面がサイドに限られ(これはあくまでも私のイメージ)、相手の嫌がるところでは出せていない。結果、どうしても30m手前でボールを相手に渡すことが増えているという見立てです。

 さらに、ポストプレー成功率や敵陣空中戦の勝率はフットボールラボでは分かりませんが、前田が思っているほど収められていないとか、大久保が良くも悪くもフラフラ動き、どうしてもボールを受ける位置が低くなり、もそこからの一手が芳しくないとか、受け手として東が良い目立ち方をしているけれど、出し手として相手の脅威になりきれていない、といったイメージでのお話はできるかなとも感じています。

 

 3について。クロスの本数は横ばいで、フィッカデンティ監督時代のそれと比べると若干減少しています。で、昨季(のサイドアタック)については当ブログの以下のエントリ内で私の見立てを書きました。

re-donald.hatenablog.com

 全部お読みいただくと大変なので要点だけ挙げますと、

サイドバックは自陣でのビルドアップの『クッション』役

サイドバックがオーバーラップする場面はあるけど、シンプルにクロスを上げるのではなく再度中へ戻して細かく崩す狙いが中心。

・クロスの球質もハイクロスはほぼなく、グラウンダーやプルバック中心

 といった具合で、昨季はまずは中央を狙い、サイドアタックは「次善の策」だったと感じています。途中就任で攻撃をある意味でシンプルなもの(=中央突破)で意思統一をはかる必要もありましたしね。なので、クロス数が増えないこと自体はやむを得なかったと思いますし、その中で成功率が約20%ならば御の字だと言えるでしょう。

ただ、今季「クロスが少ない?はい、そうですか」とはなりません。太田がカムバックし、中央で高萩がコンダクターとなり、立ち位置として昨季よりもサイドバックを高い位置に上げていて、「クロスでも崩したい」という意図を見せているわけですから。

 太田は、フットボールラボの集計でラストパス数18本(1試合平均1.38本)、アシスト3本(1試合平均0.23本)。これが多いか少ないかは意見が分かれるところだと思いますが、15年が30試合出場でラストパス73本(1試合平均2.43本)、アシスト13本(1試合平均0.65本)だったことを考えれば満足できる数字ではない、という見方はできるでしょう。さらに「太田の上がるタイミング、そこからのクロスの質、それを受ける中の入り方が煮詰まっていない」と見るのも、邪な見方ではないかと。

 また、クロス成功率の低下は、右サイドバックも大きく影響しているところ。先ほどのラストパス数で言うと、室屋が3本でチーム10位、徳永はランク外。また、フットボールラボ独自の「チャンスビルディングポイント」のクロス部門で、太田がリーグ13位であるのに対し、室屋は28位、徳永に至っては128位という状態。まあ、この「チャンスビルディングポイント」は累積ポイント制なので、出場時間やプレー機会が少なければランクが上がっていかないものではありますが、とにかく右サイドバックのクロスの回数、質の低さは数字に表れています。

 

 と、ここまでを総括すると、「ボールはそこそこ持っているけど、繋ぎたいところで繋げない。中央を崩したいけど中の選手が受け手になりきれず、30m内にもあまり進入できていない。ドリブルによる個の仕掛けも減っている。じゃあ、サイドに活路を見出してクロスから…も様になっていない。」という、かなり厳しい状況であることが数字からは読みとれました。これで、最後の頼みとなっている決定率まで鈍ってしまうと…あぁ、想像したくもありません。

 

 

 変わって守備に目を移すと、タックル数は14位、クリア数8位、インターセプト数12位とこれまた散々な数字。フットボールラボ内の守備ポイントも最下位ですし。まあ、実は昨季も守備スタッツは軒並み中位以下でしたが。

それでいて失点数が1試合1失点にとどまっているのは、一にも二にも林の孤軍奮闘のおかげ。セーブ率80.3%は堂々1位で、フットボールラボ内のセーブポイントも1位。という数字を出さずともとにかく止めまくっている印象で、今季のJ1においては林、中村(柏)、チョン・ソンリョン(川崎)、東口(G大阪)がGKビッグ4であることは疑う余地がないところ。異論は受け付けません!

 話戻って、林のセーブ機会が増えてしまっているのは、残念ながら最終ラインがプロテクトしきれていないから。タックル、クリア、インターセプト数いずれも昨季と今季でほぼ変わらない中、なぜここまで今季は「守りが緩い」と感じる試合が増えているのか?正直、一ファンが確認できるデータ・数字だけでは説明することが難しいです。

それでも1つ仮説を立てるとするならば、「守備のためのスプリント、ちょっと多い説」を提唱したいところ。スプリント数は昨季に比べて26.9回も増え、走行距離も約1.3km増えています。一見すると「お、動けているじゃないですか」と捉えがちですが、その内容をイメージしてみると、どうしても守備時のスプリントが昨季と比べて増えているんじゃないか?と思っています。

 例えば、前田・大久保が前線でスプリントをかけチェックに入る。これだけ見れば「あー、ベテランありがて~」となりますが、じゃあその流れで中盤・最終ラインがボールをキチンと奪えているのか?例えば前線がチェックに入らず「ここはブロックかな」という流れなのに、個人が無意味にスプリントをかけてボールに寄せてしまい、逆にバランスを崩していないか?例えば攻撃が中途半端に終わり、カウンターをしのぐためのスプリントが増え、攻撃へのエネルギーを残せていないのではないか?――これらは、繰り返しになりますが「どの方向にスプリントしているか」あるいは「攻撃のため、守備のため、それぞれどちらで何回スプリントしているか」が見えなければ仮説の域を出ませんが、私の主観で言わせてもらえば、こういった「無為なスプリントが多い」印象はあります。

 じゃあどうするか?これは非常に難しい問題。タックル、クリア、インターセプト数が伸びていない≒チーム戦術でも個人戦術でもボールを奪いきれていないわけで。この事実を覆い隠すには、「ひたすら前から行ってカオスを作り出す」か「ひたすら自陣で耐えて、数的優位で奪い取る」ほかありません。

 しかし、前者にはスプリントが不可欠で、後者は攻撃の幅を自らそぎ落とす必要がある。現状を考えれば痛し痒し、帯に短し襷に長し。どちらの手も取れそうで取れないようにも思えます。

 だからこそ、問われているんです。だからこそ、決断しなければいけないんです、篠田監督が。シーズン前に、「まず隗より始めよ」という偉そうなエントリを書きました。順位とか内容とか、もちろんそれも大事ですけど、何より「篠田監督下のFC東京は、こんなサッカーやってます!」という旗印が欲しかったので。けれど、今は試合を重ねれば重ねるほど、「篠田監督下のFC東京は、どんなサッカーやりたいの?」という思いばかりが内外に広がっているじゃないですか。

 

 

 なんか、うまくまとまりそうにないのでここらへんで切り上げますが、スタッツから見た現状の篠田トーキョーは「毒にも薬にもなっていない」と言わざるを得ません。しかも、このまま終わってしまいそうな雰囲気すら漂い始めています。

 それを受け入れざるを得ないのか?はたまた、反撃の芽がまだ残されているのか?その答えは私には見えませんが、この先どのように転がっていくのか、それをただ、自分の目で見続けていくほかない、ということだけ記して終わりにします。