続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

変わらぬ印象、変わりゆく心象

 突然ですが、世の中ではよく「人の第一印象は出会って数秒で決まる」と言われます。人は、その人ごとの価値観や判断でもって、初めて出会うその人を瞬間的に-あるいは生理的に-「好き」か「嫌い」か、「良い印象」か「良くない印象」か決めてしまいます。そして、わずか数秒で決め付けた第一印象は、よほどのことが無い限りその相手の「全ての印象」へと成り代わり、自らの行動へと影響を与えることとなります。

 

 こと、サッカーの監督にこの論は及ぶのか?と考えると、「あるようでない」とも「ないようである」とも言えるのではないでしょうか。

 ある監督が、あるクラブに就任する。そのタイミングはシーズンオフなのかシーズン中なのか、様々なケースはあります。その中で、よく言われるのは「すぐに監督の意図は選手に伝わらない」という言葉。日々の練習で監督は選手たちに意図を伝え、選手たちは監督の意図を読み取り、毎試合違う顔を見せながら、時を重ねることで監督の、チームの意図がピッチに反映される。つまりは、就任直後の数試合で受けた第一印象が、即その監督(の意図を受けたチーム)の全体の印象と言い切るのは早いと言えます。

 しかし、これがシーズン途中での前監督解任、新監督就任となった場合、少々事情が変わってきます。新監督にはすぐにチームを好転させることが求められ、時には前任と180度違うサッカーを選手に求めるケース、あるいは「良かった頃、俺たちこうだったろ?それを思い出そうぜ」と原点回帰するケースがあります。

 こうなると、新監督は就任した最初の数試合、もっと言えば最初の1、2試合で「自分の色」を出さなければいけなくなります。言い換えれば、最初の1、2試合で新監督(の意図を受けたチーム)が見せた第一印象が、そのまま「全体の印象」へと繋がっていくことだってあるとも言えるわけです。

 

 

 さて、篠田監督。就任するまでの経緯、就任してからの推移を私がここで改めて振り返る必要は無いかと思いますが、私が篠田監督に受けた第一印象は、以下のエントリにまとめたつもりです。

 そして、昨日の多摩川クラシコまでを見続けてきた今、結論から言えば、この第一印象が私の中ではほぼそのまま全体の印象になっていると言っても過言ではありません。

 

 例えば「戦術的に深掘りする要素が少ない」こと。昨季に関して言えば、途中就任ですぐに色を出さなければいけなかったことがエクスキューズとして残ってはいましたが、キャンプから指揮を取ることができた今季も、ピッチで繰り広げられているサッカーは概ね昨季のそれと変わっていません。具体的には、こちらのエントリの前半で書いていることが、そのまま今季にも当てはまると思っています。 

 「戦術的に深掘りする要素が少ない=上積みが少ない」と捉える方もいるでしょう。ともすれば、「戦術的に深掘りする要素が少ないと思っている=上積みが少ないと思っている=篠田disやん!」と思われる方がいるかもしれません。いやいやそんなこと…あるんです。正直に言いますが、「もはや上積みは少ない」とは薄々感じていました。

 オフシーズンに攻撃篇、守備篇のシーズン妄想エントリをぶっ放しました。当ブログと言えば妄想がお馴染みで、私なりに現状は捉えながらも「こうなったら面白いなぁ」という視点で膨らませたお話をこれまでも書いてきたわけですが、先にあげたもの、特に攻撃篇は今までに無いくらい「現状<<妄想」な内容でした。読んでいただいている方にその意図が伝わっているかは分かりませんけど、妄想優先だったので、筆はサクサク進んだんですけどね(苦笑)

 というお話はさておき、ビルドアップの部分は昨季も今季も、割とあっさりプレスの餌食になってしまい、フロントラインにボールが入らないまま時間が過ぎる場面が散見されています。「ビルドアップはそこまで深く考えず、フロントラインにさえボールが入ってしまえばさ」…という見方もできるんでしょうけど、それが出来なかった暁には、大宮戦の前半のように「0-0だけどブーイングすれすれ」な展開だったり、G大阪戦のようなボッコボコにされてしまう展開だったりが避けられない状況がすぐそばにあり続けています。

 

 例えば、選手起用。「Go Forword」のなかで、昨季最も印象に残っている試合に篠田監督就任後2戦目となった磐田戦を挙げました。その心は「バランスを崩すリスクを負ってでも『攻撃で主役を担ってくれる』選手をとことん信頼する姿勢が、今までの日本人監督像とはちょっと異なる」もの。このときはムリキがその主役だったわけですが、奇しくも昨日、似たような状況が発生しました。

 0-0のまま進んでいた62分、篠田監督は1枚目の交代に「永井→ピーター ウタカ」を選択。ミッドウィークのルヴァンカップで鮮烈なデビューを果たしたこともあって、スタンドには非常に好意的な空気が漂いました。

 が、それまでは大久保と阿部が分担しながら最終ラインにチェックをかけていたなか、ウタカは相手のビルドアップに対してほぼノーリアクション。当然、川崎のバックラインはそれなりの自由を得て、東京のバックラインが脅威に晒される場面が出来始めます。

 この日一緒に観ていた友人の中でも「これ、前田の方がよかったんじゃないか?」説がすぐに提唱され、満場一致で「でしょうね」となりましたし、守備のしわ寄せを受け、飯田主審に「次やったらもうレッドだよ」レベルで注意を受けた橋本を下げざるを得ない判断を強いられ、76分に先制点を挙げてもなお、私は「大丈夫かよ…」感を拭えずにいました。

 しかし、スタンドから篠田監督の姿を見ていると、慌てる素振りが一つもありませんでしたし、ウタカもゴール&アシストで結果を残し、一斉にファンからの「ごめんなさい!」を受けることに。今振り返ってもあの展開で、1枚目にウタカを使うことが多数派にはなりえないと考えていますが、それが出来る胆力には、頭が下がる思いです。

 

 

 そんなこんなで、繰り返しになりますが篠田監督に対する「印象」は、就任当初に受けたものがそのまま、今もほとんど変わっていません。そして、これから大きく変わることも無いでしょう。

 ただ、そこに付随する私の中の篠田監督に対する「心象」は変わってきています。就任直後、割とすぐに篠田色がチームに落とし込まれ、しかしそこから時を経てもバリエーションが増える気配はさほど見られなかったことに対し、「このままで終わってしまうのかなぁ」とか「このままだとなぁ…」と感じていました。

 ただ、フロントの頑張りもあってこれだけの陣容を揃えられ、選手の個性×個性でもって、戦術面とは異なるアプローチでバリエーションを表現できる可能性が増した今季にあっては、「これでいいんじゃないか?」と思い始めるようになっています。それを自分の中で確信に近づけてくれた昨日の多摩川クラシコは、私の中では大きなターニングポイントとなったゲームでした。