続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

「集大成」vs「決意表明」-天皇杯準々決勝プレビュー的なもの

 鹿島アントラーズが「下克上」を果たして幕を閉じた、今季のJ1。その鹿島に初の戴冠を阻まれたのが、川崎フロンターレ。久々にチャンピオンシップ準決勝のハイライト映像をJリーグ公式サイトで見てみましたが、そこに恣意的なものが仮にあったとしても、圧倒的にはゴールへ迫っていたのは川崎でした。

 風間監督はチャンピオンシップで敗れたあとの記者会見で、このようなことを語っています。

── クラブ史上最多の勝点72を獲得してシーズンを終えましたけど、最後に勝ち切るために何が足りなかったのかというところと、素晴らしい雰囲気を作ってくれたフロンターレサポーターの皆さんにひと言、お願いします。 

 

(前略)それからもう1つは、このチームの期待が初めから大きすぎるので、本当は、いつも言っていますけど、初優勝はこっそりするものだと思っているのですけど、最初から周りからすごくヒートアップするので、そこはチーム全員で、色んな選手たちも含めて、強いクラブになるために全員でやっていってほしいなという僕のお願いはあります。(後略)

  なんとも深謀遠慮なコメントで、「風間監督、頭良いんだなぁ」と私なんかは思わされましたが、一方で風間監督の退任がすでに発表された中、リーグタイトルを逃してしまったことも踏まえ、ともすれば風間監督が望まないほどチームの内外に「風間監督とタイトルを!」という思いが充満していることは、想像に難くありません。天皇杯の戦いが、タイトルへの再挑戦が風間体制5年間の「集大成」となることは、火を見るよりも明らかでしょう。

 

 対するFC東京。苦しいシーズンでした。その心はこのブログでも再三書いてきたつもりなので、改めて振り返ることはしませんが、シーズン半ばでの指揮官交代をフロントに決断させたのは、川崎との多摩川クラシコにおける敗戦だったと記憶しています。また、先のJ SPORTS「Foot!」では、こんなありがたくないセレクトも、頂戴してしまいました。

 しかし、篠田監督就任後はリーグ戦8勝2分2敗。ルヴァンカップ含め、浦和にこそ歯が立ちませんでしたが、鹿島や広島には狙い通りの試合運びで勝利を収めるなど、ポジティブな空気をチームにもたらした…というよりは、思い出させた手腕は、素直に評価されていいでしょう。

 そんな篠田監督のサッカーについて、当ブログで以下のエントリを書かせてもらいました。

 全部お読みいただく必要はありませんが(読んでいただけたらなお嬉しい)、要旨を書き出すと、以下のようなものとなります。

 そもそも、篠田体制下の東京を私はどう見ているか。答えは冒頭に書いたとおり、「戦術的に深掘りする要素が少ないな」という印象。もちろんJ1残留を最大のミッションとし、コンディション面における前任の負の遺産や怪我人、J3とのやり繰りを踏まえれば、篠田監督がこの短期間で戦術的な要素を押し出せる状況ではなかった、と見るのが筋でしょう。しかし、そういった副次的な側面を排除して、試合内容にだけフォーカスしてみると、良く言えばシンプル、悪く言えば前時代的なサッカーだな、と私は感じていました。

 (中略)

 フロントが主導して「東京味」を作り出し、そこに「○○風」の彩りを添えられる監督を連れてくる考え方も、当然あるでしょう。今、1つのサイクルが終わったとされる東京にとっては、このやり方で数年かけて頂点を目指すことが一番くどくないやり方とも言えるでしょう。

 しかし、篠田監督の続投がもし明日の試合後、あるいは最終節の大宮戦後に発表されるようなであれば、(天皇杯の勝ち進み具合にもよりますが)今季から来季への空白期間が異常に長い状況下で、篠田監督が「東京味」のメインの味付けを決められるシチュエーションとも言えないでしょうか?

 今思えば、「前時代的」という表現はさすがに度が過ぎたと反省しておりますし、むしろ「近時代的なのでは?」と思い始めている…というお話は後述しますが、いずれにせよ、リーグ戦で結果を残しながら、少しずつ自分の考えをチームに落とし込んできた篠田監督が、そんな篠田監督の教えを受けている選手たちが、前回の試合(天皇杯4回戦、Honda FC戦)から1ヵ月半以上経った明日改めてどのような「決意表明」を見せてくれるのか、今は楽しみが大いに勝っている状況です。

 

 

 さて、試合の注目ポイント。全うな方の目線で見出しを書くとすれば、「川崎のポゼッション vs 東京のプレッシング」になるのかなと。川崎がボールを大事にし、技術を大事にし、最後まで攻めることを大事にするであろうことはここで改めて書くまでもなく、対する東京も、篠田監督がフィジカルを戻し、インテンシティを高め、まずは果敢にプレッシングするところから始めるスタイルを推し進め、シーズンラスト3試合はその成果が十分に見られたと思います。

 が、私の注目ポイントはちょっと違いまして。見出しを書くとすれば、「前時代的なのか?近時代的なのか?」先にリンクを張ったエントリの数日後、こんなエントリを書きました。

 先の「Go Forword」で書いた私が思う篠田トーキョーのスタイルをもう少し詳細に掘り下げた上で、来季への妄想を膨らませているエントリになりますが、今改めて自分で読み直してみると、ほんのりあるチームの姿とかぶるなぁ、と感じました。それが…RBライプツィヒ

 海外サッカー好きの方ならもう耳に馴染んだチームかと思いますが、大手飲料メーカー「レッドブル」がバックにつき、言ってしまえばレッドブルマーケティング戦略の一巻ともなっているRBライプツィヒ。この「RB」が、「RasenBallsport=芝生の球技」の頭文字を取っていながら「RedBull」を彷彿させることは明らかで、保守的なファンからは大いに嫌われている、なんてエピソードもよく聞きますが、こと試合内容に限って言えば、多くのメディア、評論家が好意的に受け止め、「ライプツィヒが見せているサッカーこそが、モダンなサッカーだ」と評する人もいるほど。

 では、ライプツィヒのサッカーって何?というお話ですが、ドイツでは「パワーフットボール」と呼ばれ始めている特異なスタイル。守備時は果敢なプレッシング、極端なワンサイド守備により相手を窒息させるかのような圧力をかけ、ボールを奪ったあとはとにかく手数をかけずにゴールへ迫る。ここまでは、いわゆる「ゲーゲンプレッシング」と呼ばれる、ドイツ以外でも広がりを見せ始めているアグレッシブなスタイルとも言えますが、特徴的なのが自陣から攻撃が始まる場面。

 先日、ヘルタ・ベルリンと戦った試合を見ていました。この日のヘルタは、スカウティングの結果「自陣に引いて相手にボールを持たせ、人をかけてボールを奪ってカウンター」という戦術を採用。まあ、これはカウンターを得意とするチーム相手の常套手段ともいえるもので、これを受けたライプツィヒの立ち上がりはややぎこちなさが見られました。

 しかし、15分と経たないうちに試合は完全にライプツィヒペースに。その要因となったのが、「引かれているのに広げない」ことの意思統一。通常、引いて守ってくる相手に対しては、縦と横の出し入れや、ワンサイドに寄せての大きなサイドチェンジがよく見られる対応策ですが、ライプツィヒはとにかく縦を、中を狙い続け、少しでも縦への、中へのパスコースが見つかったと思ったら、迷うことなくグラウンダーの強いパスを入れ続けていました。

 これが、特定の誰かに偏っているのであれば、それは選手の個に寄っているだけですが、誰がボールを持ってもそうしていたので、これはもうチームのスタイルなんだな、というのはすぐに分かり。結果も、前半のうちに自陣にこもるヘルタ守備陣を完全に破って先制し、後半にも追加点を奪ったライプツィヒが2-0と快勝。この時点で、バイエルン・ミュンヘンと同じ勝ち点をキープすることとなりました。

 

 翻って東京。上記にリンクを張ったいずれのエントリでも書いたのですが(たぶん)、篠田トーキョーの特長は「前線からのプレッシング」と「中を崩そうとする意思、選手構成」。特に後者は城福監督時代とは雲泥の差で、長くなりますが、以前のエントリで書いたその心の部分を再掲します。

そんなビルドアップのシーン。中心は両センターバック+両センターハーフ。時には4枚が近いポジションを取りながら、時にはセンターバックが開き、センターハーフの片方が間に降りながらボールをコントロールするところからスタートしますが、ポイントは、この2パターンにおける「次のボールの行先」が違う点。

 すべてのシーンでそうだ、というわけではないことを御了承いただいた上で話を進めますが、4枚が近いポジションを取る場合、当然相手も中(縦)を警戒して全体的に中へ収縮してくることが多くなります。そのタイミングを見計らってサイドバックはグッとハーフウェーライン付近までポジションを押し上げ、中からボールを受ける役に回ります。特に顕著なのが左サイドで、室屋が機を見て上がったところに丸山からのビシッとしたグラウンダーのパスが通る、というシーンをこのところ頻繁に見かけますよね。方や右サイドは、橋本が本職ではない影響なのか森重と合わないのか、ややぎこちなさが残ったまま。つぶさに見ていると、森重が橋本にもっとこうしてほしいと要求するシーンが散見されますし。とはいえ、意図としては右も左も「収縮させて外へ」で一致しています。

 一方、センターバックが開き、センターハーフ1枚が間に降りてくる場合ですが、センターハーフの片方はセンターバックの間に降りてビルドアップに関わる、もう片方は逆にビルドアップにさほど関わらず、ハーフウェーラインを越えて2列目の3人と近い距離を取る。そして、サイドバックは自陣に残ってパスのクッション役(例:中でのパス交換がちょっと詰まった際に、目線を広げるための横パスを受ける)を担い、結果として後ろ5枚で回しながら、前の4人いずれかに縦パスを通すことが主眼となります。

 また、この時サイドハーフはインサイドエリア(ピッチを縦に5分割した際の、センターエリアの両隣)に絞ることが多いのですが、絞ったサイドハーフへのパスコースを作る(相手ブロックの門を広げる)意味で、サイドバックが開いたセンターバックに押し出されながらもさほど高い位置を取らないのは理に適っているなぁ、と個人的には感じています。伝わるか分かりませんが、下図のイメージ。

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そうして、上手く2列目+押しあがったセンターハーフのいずれかにボールが入った後は、1トップも含めた5人で近い距離を保ちながらパス交換を行い、最終的にはドリブルからのシュート、ポストプレーからの展開、あるいは一発のスルーパスなどでゴールに迫っていきます。サイドハーフが中島&河野ではなく、中島&水沼だった仙台戦、大宮戦でも意図・狙いは変わらなかった(個人的には水沼にアウトサイドエリアで勝負させるのかな?と思っていたが、そうでもなかった)ので、おそらくこの部分は練習から徹底されているのだと推測します。

 ただ、当然相手も中を崩されまいと対応してきて、主にバイタルエリアは混雑します。その分、外が空いて時にはオイシイスペースを与えてくれる場面もあるわけですが、サイドアタックには明確な意図を感じられません。先ほどの「後ろ4枚で回している間に押し上げたサイドバックへパス」するパターンでも、「中でボールを回している中で空いた外へサイドバックが駆け上がってきてパス」するパターンでも、クロスを全く上げないわけではありませんが、一般的に「この流れならクロスだろ」というシーンで素直に上げていたシーンは数えるほど。

むしろ、2列目の選手が近づいてきてボールを受け、あるいはセンターハーフに戻して、そこからもう一丁中で勝負する選択の方が多く見られ、ちょっとだけポポヴィッチ時代を思い出したりもするわけですが、あくまでクロスは次善の策という印象。クロスの球質もハイクロスは極めて少なく、グラウンダーやプルバックがメインとなっているなぁと感じています。

 図のとおり、ペナルティエリアの幅より外にいるのはサイドバックだけ、という時間帯が長く、かつサイドバックはあくまでもパスのクッション役であり、サイドからのクロスは次善の策とまで言っていいほど、外から中という攻撃は数えるほど。と評せる試合が、終盤は続いていた印象があります。

 ライプツィヒの、ラルフ・ラングニックのイズムほど極端ではありませんが、中島、河野、東は中にとどまって細かく動きながらボールを引き出す。そして、森重、丸山、梶山とそこへパスをつけられる技術のある選手はいる。かつ、田邉があれやこれやと間を繋ぎ、縦に、中にアタックを仕掛ける。そして、そのアタックを果敢なプレッシングと組み合わせ、心身ともに90分アグレッシブでい続ける。

 そんなスタイルを、前時代的だと表現した私は正しかったのか?むしろ、時代の潮流を掴んだ近時代的なやり方なんじゃないか?そのことを自分自身に問い、自分なりに答えを見つけ、それを篠田トーキョーの改めての「決意表明」だと受け取る。それが、明日の多摩川クラシコ in クリスマスイブの私的ポイントとなります。

 

 

 もちろん、勝敗が一番です。なんたって、またACLに挑戦したいですから。また、こんなくそめんどくさい見方をしている私は、ちょっと年末疲れてるんだと思います。が、年内最後の生観戦ですから、いろんなことを味の素スタジアムで感じて、味の素スタジアムから持って帰ってこられたら…それが東京からのクリスマスプレゼントなのかなと。