続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

観て、見られて、魅せられて

 人は必ず、誰か他人に見られて生きています。良い意味であろうと悪い意味であろうと、特定の個人であろうと不特定多数であろうと、その目線を気にしようと気にしまいと。そして、見られていることがポジティブに働くときと、ネガティブに働くときと、結果は様々な形で自他に降りかかってきます。

スポーツの世界も御多分に漏れないわけですが、先週のFC東京は、そんな「観ること・見られること」がポジティブに働いた1週間だったように思いました。

 

 

まずは、U-18の面々。夏のカップタイトル、全日本クラブユース選手権(U-18)大会。先日、準決勝を突破した際にこんなエントリを書きました。

re-donald.hatenablog.com

 そして決勝。結果はみなさんご存知のとおり、清水ユースを2-0で破り、8年ぶりの戴冠。「惜しい」の壁をついに突き破った選手たちからは、自信と逞しさが溢れていたように感じました。その後、様々なメディアが様々な切り口で、チーム全体について、選手個々について、佐藤監督以下コーチ陣について、果てはドロンパ「総監督」まで取り上げてくれました。

ko77.hatenablog.com

 もう、プロの方々がプロの目線でこれだけ取り上げてくれたわけですから、市井の一ブロガーは何も書きようがないわけですが(苦笑)、それでもあえて(無理やり?)心に引っ掛かった点を挙げるとすれば、試合終了後に4鈴木喜丈が発したあるセンテンスでした。

 決勝戦はスカパーで生中継され、試合が終わり、明暗くっきり分かれた後、佐藤一樹監督、キャプテンの5蓮川壮大、先制点をあげた4鈴木、2点目を奪った11半谷陽介の4人がインタビューを受けました。その中で、4鈴木はこんなことを口にしました。

(Q:今年はJ3でもプレーしているが、その経験は活かせているか?)

J3で観客が多い中でプレーしたりするので、こういう状況でも緊張せずにやったり、声をかけたりするのを意識したりしています。

 今年、FC東京U-18がクラブユース選手権で優勝できた要因は様々あるでしょう。その中で、4鈴木が発したこのセンテンスは少し趣の異なる、そして、今まであればきっと口にしなかった類のもので、だけど、見逃してはいけない大事なポイントだったと感じています。

 

 今季、FC東京はU-23のセカンドチームを立ち上げ、J3に参戦しています。当初の目的は「U-23組(トップチームにいる23歳以下の選手)が継続してプレーし、成長を促すこと」「オーバーエイジ組がコンディションを整えつつ、プレーを通してU-23組へ姿勢を見せること」そして、「U-18、U-15まで含めたシームレスな育成強化」の3点だったと思いますが、6岡崎慎や4鈴木は今やU-23の主力といっても過言ではない状況となっていて、この大会中もU-23とU-18を行ったり来たりしていました。

 もちろん、プレミアリーグEASTをはじめとする他のU-18の試合でも親御さんやファン、マスコミ・ライターの方やフラッと来た方など、観客はいます。しかし、多くの会場で鳴り物が禁止され、ファンが声を出す、あるいはチャントを歌い上げることはそれほど多くありません。一方、プロが集うカテゴリーで、興行として観客がお金を払って観にくるJ3の舞台では、当然に双方のファンがチームを後押しせんと声を上げ、一つひとつのプレーに対して様々なリアクションが飛び交い、選手たちもU-18の試合とでは「見られ方」「見られることによる影響」が異なってくると考えています。

例えば、スタジアム内で渦巻く様々なリアクションは、声が通らなくなるとか、メンタルや集中力を乱されるとか、普段通りのプレーを阻害する要因となり得ます。また、相手チームのファン・サポーターからすれば、その選手の年齢がいくつだろうと立場がなんであろうと「敵は敵」であって、見られ方によっては温かくないリアクションも飛んでくることもあるでしょう。反対に、自分が苦しいと感じている中、ホームのファンのダイレクトな声援が思った以上の力になることもあるでしょうし、試合の流れによって面白いほどに上がったり下がったりするスタジアムのテンションがプレーに影響を及ぼすこともあるでしょう。

クラブユース選手権の準決勝・決勝、舞台は味の素フィールド西が丘でした。今季、FC東京U-23はホームの地を西が丘と夢の島競技場に構えていますが、今大会の最中に行われたJ3第19節、対ガイナーレ鳥取戦は西が丘で行われ、6岡崎、10松岡瑠夢がスタメンフル出場、18鈴木郁也がスタメン出場で82分まで、7生地慶充、11半谷陽介、14内田宅哉が途中出場でそれぞれプレーし、4鈴木や5蓮川も、準々決勝でフル出場したためにプレー機会はありませんでしたが、ベンチでその戦いを見つめていました。

 そんなJ3第19節の観客数は1,375人。方や、準決勝は2,100人、決勝は2,549人。3年生の多くは5日で3試合同じ場所で戦い、観客数が徐々に増えていく中にあっても、実に堂々とプレーしていました。緊張や期待と同居する不安がある程度プレーを委縮させる、あるいは精度を落とすことに繋がっても不思議ではありませんでしたが、決勝戦を見る限り、最後まで熱く、冷静に、何より丁寧に戦い切ったのは東京U-18の方でした。

それは、J3を知る3年生はもちろんのこと、27岡庭愁人、2荒川滉貴ら2年生、さらには1年生の42平川怜、中学3年生の41久保建英までもが3年生と同様に、むしろ、それ以上にふてぶてしい場面すら見受けられました。振り返れば、彼らもこれまで、要所で西が丘でプレーし、西が丘を知り、西が丘で見られてきた経験がありました。もしもその経験が活きたのだとすれば…と考えると、なんだか優勝した一番の要因は「準決勝・決勝の舞台が西が丘になったから」なんて言いたくなるところです。

ここにきて何をすっとぼけたことを…と思われる方もいるでしょう。しかし、準決勝で敗れた川崎U-18の10田中碧は、決勝で敗れた清水ユースの平岡宏章監督は、敗戦後に「雰囲気に飲まれた」と異口同音に語りました。クラブ史上、全国大会初のベスト4進出だった川崎U-18、そして、クラブユース選手権では12年ぶりの決勝だった清水ユース。試合が持つ重さだけではなく、こういった大勢の観客に見られることに慣れているとは言えなかったでしょう。

方や、2年前にクラブユース選手権決勝をスタンドから観ていた選手が3年生となり、その3年生たちがJ3で「見られている中でのプレー」を経験し、己を保つ、己を出し切る術を学び、それを事も無げに出し切る。そんな先輩たちを頼りにしつつ、一方で先輩たちに負けず劣らずたくましい下級生たちがのびのびと、生き生きとプレーしていた東京U-18。冒頭に引用した4鈴木のコメントを聞き、数日ぼんやり考えてみると、この差はかなり大きなものだったのかな?と感じています。

 

 優勝からわずか3日。U-18の3年生たちは、余韻に浸る間もなく昨日のJ3第20節、栃木SC戦に元気に出場していました。スタメンを見ると、さながらU-18にオーバーエイジ枠(圍、水沼、バーンズ、林)やU-23組(柳、平岡)がヘルプに入ったかの様相。さらに、終盤はU-23組からU-18への交代が続き、U-18とオーバーエイジ枠しかいない状況に。トップチームの事情が多分に影響しているとはいえ、さすがにこれはどうなんだと苦笑いしつつ、この起用に躊躇がなかった一因として、U-23の監督が中村さんになったことが挙げられるでしょう。

 12年にU-15むさしのコーチ陣として招聘され、3年間指導。今年からU-18に籍を移し、今季は主にT1リーグ(東京都1部リーグ)に参戦しているBチームを見ることが多かったなか、城福監督の解任を受けた人事異動でトップチームコーチ兼U-23監督となったのが約2週間前。安間さんのやってきたことを引き継ぎつつ、安間さんより接する時間が長く、短い期間ながら見続けてきたU-18の面々に対して期待する部分、もっとやってほしい部分、いろいろ思うところはあるはず。もちろん、安間さんにもその思いはあったでしょうけど、安間さん以上に積極的に起用し、実際にプレーさせる中で成長や課題を見てやろう!という思いがあっても不思議ではありません。

 そんな栃木戦、気が向いたので現地まで足を運んだんですが、グリスタに向かう最中さすがに驚いたのが、蓮川のスタメン。前日J1磐田戦で貴重な仕事をやってのけた野澤、ユ・インスがいないことは十分想定できたことですが、吉本がスタメンはおろかベンチにもおらず、フル出場することを見据えた(そうせざるを得ない)状況で蓮川を起用したということは、吉本にアクシデントがあったか、蓮川を意図的に起用したかのどちらか。そのどちらであるかは知る由もありませんが、どちらにせよ、よもやJ3で岡崎、蓮川のコンビが見られるとは思っていませんでした(過去の試合であったかどうかは調べておりません)。

 そして、いざ試合が始まってみると、守備で一番目立っていたのは誰あろう蓮川でした。もちろん、蓮川なりに行けると思ってチャレンジした間合いだったけれど、相手が一歩上回って外されることも何度かありました。けれど、逆にこれはやられたか…と思ったけれどギリギリで足が、身体が届いた場面もしっかりありましたし、空中戦は見た目7、8割勝利。PKを与えた場面は不運だったというか、相手の上形が巧かったというか、かなり厳しい判定でかわいそうでしたが、そこで屈することなく最後までやり続けたメンタルも、大したものでした。

その他の選手も、首位を快走する栃木相手に伍して戦い続け、勝利まであと一歩のところまで奮闘するプレーぶりでした。このレベルのプレーをJ3で見せ続け、中村監督以下コーチ陣にアピールしながら、そこで持ち帰ったものをU-18の試合でも見せてくれることを期待してやみませんし、そんな彼らをこれからも継続して観にいきたいと、そして、魅せられたいと思っています。

 

と、このあとトップチームの話にも繋げていこうかと思っていましたが、今日はここまで。気が向いたら、篠田トーキョーについてなにやら書ければと。