続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

満額回答

第2節がどういう展開だったかはいろんな方の文字情報を追うしかありませんが、第3、4節の2試合は「守備の勝利」だったと感じています。

(中略)

この先「オーソドックスなことを実直にやる」チームもあれば、「東京の攻撃が問われる」試合も出てくるでしょう。その時にチームは何を見せられるか?個人は何を出せるのか?といった興味がまた湧いてくるところですが、それは「守備から始まるエトセトラ」としてこの先のお楽しみに取っておきましょう。

 

 先日、U-18の戦いぶりについて書いたエントリのまとめ部分です。実は、「オーソドックスなことを実直にやる」という一文は、このエントリのアップ後にすぐ訪れる、第5節 鹿島ユースを想定して書いたものでした。

トップチームの鹿島のスタイルはもはや私が何か言うこともありませんが、鹿島ユースもまた、独特なスタイルを持っているチーム。どの代も…というほど追いかけてはいませんが、CBとFWに長身選手を置き、小兵ながら激しくプレーするCHとともにセンターラインを固める。サイドの選手は運動量豊富に動き回り、攻撃ではクロスとセカンドボール回収に勤しみ、守備では1対1を大事にしながら周りのヘルプも怠らない。そうやって手堅く実直に、時には大人顔負けのアピールや狡猾さも見せながら、少ない手数やセットプレーでゴールを奪い、勝ち切るという印象。トップチーム同様U-18もまた、そんな鹿島には辛酸をなめさせられる試合が多く、私もかつて、多分な負け惜しみも含んだこんなエントリを書いたこともありました(長いので読まなくても大丈夫です)。

 

re-donald.hatenablog.com

 

 さて、今季。鹿島ユースは第4節までで1勝1敗2分、4得点3失点。「守備が堅くて負けていない」のか「得点を奪えず勝ちきれていない」のかは分かりませんが、3試合が無失点という点だけ見れば、守備の堅さは及第点以上なんだろうな、というイメージを持って試合を迎えました。

 

 

 キックオフして5分と経たないうちに、試合は「持つ東京、追う鹿島」という流れで落ち着きます。東京は今季おなじみの4-4-2で挑んだのに対し、鹿島は4-1-4-1でブロックを組む形で対峙。そして、鹿島の守備の狙いは「真ん中はとにかく閉じて、サイドに追い出してボールを奪う」だったのかなと。図に表すと、以下のようなイメージ。

f:id:re-donald:20160510194412j:plain(青が東京、白が鹿島)

 最終ラインの高さがどの辺に設定されていたかはネット裏からでは窺い知れませんでしたが、SBがある程度の高さを取る東京の攻撃陣形に対して、システム上がっちり噛み合わせる。その上で、FWがCB→CHのパスコースを切りながら、外へボールを追い出すようなチェックから守備はスタートし、第1の取りどころはサイド(バック)。ただし、闇雲にサイドに人数をかけるのではなく、もう1つの狙いは中を突き破られない、あるいはいったん外にボールを追いだし、東京のパスの選択肢を削ったその先(=SBからSHへの横パスやFWへのクサビのパス)で奪うところにあったのかな?という印象も受けました。序盤はこれが効いていて、後ろでボールは回るけど前に効果的に配球できなかったり、目線を変える意味も含んだ最終ラインからのロングフィードも上手く通らなかったり、東京の攻撃が単発に終わるシーンが続きます。

一方、鹿島の攻撃はどうだったかというと、東京以上に単発。前述のとおり上手く守れてはいたものの取りどころは相対的に低くなり、また東京の攻→守の切り替えが早かったことで、奪った後に自陣でつなげるシーンはほぼ皆無。では、前線へ割り切って放り込み…といきたいところでしたが、ファーストプレス役ともなっていた9石津が、その役目を終えて攻め残る際にあまりいいポジションが取れず、また、攻め残りがほぼ石津1人で2列目も押し上げきれなかったことで、東京守備陣は(主に)5蓮川がチャレンジ、2坂口がカバー、4鈴木()42平川がセカンドボール回収と4人がかりで対応することができ、蓮川がこの戦いで8割方勝てていたことで、この手も打開策にはならず。どうにかして相手陣でファウルをもらい、そこからのセットプレーに活路を見い出すしか手立てがない状況だったかと思います。

 

 そんなジリジリする展開がしばらく続きましたが、流れを引き寄せたのは東京でした。まず効果的だったのがサイドチェンジ。ベンチからもしばしば「遠く(逆)を見ろ!」と声が飛んでいましたが、(開始早々から気配はありましたけど)東京は徐々にボールとは逆サイドの選手が幅を広くとるポジションを取るようになります。

f:id:re-donald:20160510194711j:plain

 上の図は例として「東京の左SB、7生地がボールを持った場面」ですが、序盤は鹿島のカウンターを警戒してか、逆サイドの選手は少し中にポジションを取っていたように見えました。しかし、鹿島の攻撃の圧力がそれほどでもないと感じたか、逆に自分たちの攻撃が上手く回ってないと察したか、徐々に外へポジションを取るようになります。合わせて、キックオフ時点で27度という季節外れの高気温に鹿島の選手たちがスタミナを持っていかれ、スライドやヘルプがじわじわ鈍っていきます。これにより、「7生地からCBへボールが戻る→そこから1本で右SBの27岡庭や右SHの8伊藤へ」というパスが通るようになったり、「7生地からボランチへの横パスが通り、そこから広く展開する」という形を使えたり、東京の攻撃に幅が出るようになりました。

 と同時に、もう1つ効果的だったのがドリブル。これはこの試合に限ったことではありませんが、この日のメンバーで言えば10松岡、11半谷、14内田、生地、岡庭と個で仕掛けられる選手が多数揃っていて、先ほど、鹿島の立ち上がりからの守備で「闇雲にサイドに人数をかけるのではなく…」と書いたように、サイドでは1対1の状況が多数生まれました。そこで、特に左の生地・内田は試合も中盤を過ぎたあたりから果敢に仕掛け始め、鹿島の守備陣を慌てさせます。また、松岡・半谷の2トップも臨機応変にポジションを動かしながらボールを受け、そこから上手く前を向いて仕掛ける意欲を見せます。こうなると、鹿島守備陣は1対1で抜かれた後のヘルプも考えなければならなくなり、よりボールサイドに人をかけざるを得なくなります。そうすることで、より逆サイドが空き、局面打開のサイドチェンジも効くようになっていきました。

そんな好循環の下でじわじわ押し込んでいきましたが、今度はシュートにまでは至れない時間が訪れます。終わってみれば前半のシュート数は東京3-1鹿島。ドリブルで仕掛け、あるいはサイドチェンジを挟んで中にクロスを送るも鹿島のCB陣がタフに跳ね返し、松岡、半谷、内田らがカットインからのシュートを試みるも二重、三重の人垣に阻まれ足を振り切れず。形よく攻められていただけに「0-0だとむしろ、鹿島に勇気が湧いてしまうなぁ」と少々不安を覚え始めながら時間を経ていましたが迎えた40分、常に相手の脅威になっていた左サイドのユニットから試合は動きます。

…といっても、約100m先の反対側でちょこちょこ動いていたシーンだったので詳細には覚えていませんが(苦笑)、生地からボールを受けた内田がドリブルで左サイドをえぐり、中へグラウンダーのクロスを送ると、鹿島のDFがクリアしきれずにオウンゴール。ラッキーといえばラッキーでしたが、この時ペナルティエリアの中には多分両チーム合わせて10人以上いたはずで、これだけ人が混みあった中にスピードのあるボールが入ればこういうこともありまして。それほど押し込めていたことのご褒美だったと言っても過言ではない得点だったとも思います。その後、内田が右サイドから切れ込んでのシュートでGKを脅かし、続くCKから蓮川がドンピシャのヘッドを放つもクロスバーに弾かれるも、一気に東京の攻撃に火がつき、前半は1-0で終えました。

 

 後半。0-0で折り返し、0-0の時間を長くした中で一発ゴールをもぎ取れれば…と考えていたであろう鹿島の熊谷監督がどういう手を打ってくるか興味を持って見始めましたが、まずはFWの9石津を下げ、3中村を投入します。しかし、収まったポジションはCBで、前半はCBでプレーしていた13篠崎をFWに上げるというもの。恐らくは後ろの強さと前のエネルギーを同時に補完しようという意図だったと思いますが、ちょっと意表を突かれる交代でした。

 さらに、守備のやり方はさほど変わらないものの、攻撃では右SBの2白井のクロスを意識的に用い、序盤の10分弱はある程度狙い通りに東京守備陣にプレッシャーを与えられていたように思います。しかし、ここでも存在感を見せたのが蓮川。前述のとおり、前半は9石津とタイマンを張り続け、贔屓目抜きにほぼ完勝していましたが、相手が篠崎に替わった後半も変わらず圧倒し続けます。また、これまた前半から目立っていましたが、平川がセカンドボール争いのところで存在感を見せ、サイドへのヘルプも含めて守備で貢献し続けます。こうして、流れの中からはこの日唯一の突破口だったと言っていいこの攻め手を封じると、流れはあっという間に東京へ。後半も引き続き個の仕掛けが効果的で、左サイドは生地・内田のユニットに加えて松岡・半谷も左に流れてポジションを取ることが増え、手数も人数もかけて相手を揺さぶり続ければ、中継点としての伊藤のポジション取りと岡庭のオーバーラップで右サイドも崩しにかかります。

 そして60分。松岡の巧みな仕掛けからのシュートで得たCK。一度はDFに弾かれるも、バイタルエリアでこぼれ球を拾った岡庭が右足一閃。打った瞬間の軌道は枠外でしたが(これはゴール真裏で見ていたから間違いないw)、相手に当たってコースが変わり、ネットを揺らしました。やっぱり、シュートは打ってみるもんです。その後、65分にCKからあわや失点という場面を作られますが、ここは鈴木()ゴールライン上ギリギリでクリアして事なきを得ると、鹿島の選手たちはいよいよエンプティ状態に近づき、特にアンカーの8西本は東京のCKのたびに足を延ばすなど疲労を隠せなくなりました。

一方の東京は手を緩めることなく仕掛け続けると、とどめを刺したのはジョーカーになりつつある41久保でした。76分に松岡と交代でピッチに入ると、そのわずか4分後、右サイドのペナルティエリアちょい外からドリブルを開始。相手DF3枚を引き連れながらエリア内に侵入し、GKと1対1。シュートモーション的には「体を開き、左足インサイドでGKの右側(久保から見てファーサイド)を抜く

ように見え、GKもそのイメージで初期動作を始めたように見えましたが、実際は「インステップ気味の強いシュートでGKの左側(久保から見てニアサイド)をぶち抜き」ました。ボールを受けてからシュートに至るまでの動きに全く無駄がなく、最後は(推測ですが)GKの動きを見る余裕まであって、まだ90分戦えはしませんが、疲れた頃に入ってくる選手としては、厄介極まりないだろうなと笑いすらこぼれるゴールでした。試合はこのまま3-0で終了。攻守ががっちり噛み合い、見事に4連勝をマークしました。

 

 

 冒頭に書いたとおり、鹿島は「オーソドックスなことを実直にやる」チームでした。また、試合前の想像以上に「東京の攻撃が問われる」試合展開となりました。正直、前回のエントリのまとめでそういうフリをした割には、この試合についてブログに何か書こうと思ってはいませんでした。ただ、これだけの試合を見せてくれて、(選手たちはこんな辺鄙なところの、冗長なブログなんぞ読んでいないでしょうけど)あまりにも見事な満額回答を見せられたら、こりゃ感謝の念も込めてなんか書かにゃと思って、また長ったらしく振り返ってみました。

 トップチームが3つのコンペティション(J1・ACL・J3)のやり繰りに四苦八苦する中、U-18もプレミアリーグ、T1リーグ、そしてJ3と3つのコンペティションを戦っています。そんな中で、どうやってチーム力を高めていくのか?そのアプローチの仕方は、思っているより難しい側面があるでしょう。ただ、ここまでで言えば、佐藤監督がいくつかのメディアで「個人」の部分をクローズアップしたコメントを発したかと思えば、蓮川は鹿島戦後に「チームとしてもですけれども、個人としても成長する一年」とコメントし、そんな個々人が思い切った、持ち味を発揮することでチーム力が徐々に高まっているという印象を受けています。もちろん今までにも、個で仕掛けられる選手は数多く在籍していました。ただ、これほどまでに「ドリブルが大きな持ち味の一つ」である選手が揃った年はおそらく無くて(少なくとも私が見始めた10年以降は無い)、今までにはない「小気味よさ」と「ダイナミズム」が上手くミックスされたチームになっていると感じています。

 

 これにて、プレミアリーグはいったん中断。ここからは3大タイトルの1つである「クラブユース選手権」の関東予選が始まります。例年、2次リーグを戦い、その結果を受けたトーナメントで全国の切符を争っていましたが、今年は完全トーナメント方式。1つの敗戦が即全国の切符を手放すこととなる緊張感があり、延長なしの即PKというレギュレーションが、戦い方の極端さやジャイアントキリングを生ませることもあるでしょう。それこそ、この日の鹿島以上に守備に重きを置き、自陣に引きこもって人海戦術をとってくるチームもあれば、サイドでの個人の仕掛けが上手くハマらない試合もきっと訪れるはずです。その時どうするか?は、これまた先のお楽しみとして――個人的にはセンターハーフ陣が鍵になってくると思っていますが――まずはクラブユース選手権関東予選で、しっかり全国の切符を手にしてくれることを期待したいと思います。