続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

先輩に追いつくために。自分を超えるために。

 7月24日に開幕した、日本クラブユースサッカー選手権大会(以下「クラ選」)。頂点に立つためには、10日間で7度、勝ち名乗りを上げなければならないという(毎年のことですが)(恐らく)世界でも類を見ない厳しい戦いに2年ぶり参戦した東京U−18。私自身は諸所の都合によりほとんど足を運ぶことができませんでしたが、グループリーグから準決勝まで相手、試合展開、天候といった本当にさまざまな要素に打ち克ちながら、(特に決勝トーナメント以降は)ギリギリのところで結果をもぎ取りながら(準決勝はなんと抽選勝ち!)、2009年以来となる決勝の舞台に辿り着きました。決勝の相手は、三菱養和SCユース。日中の暑さは残りつつも涼しい風が吹き抜けるニッパツ三ツ沢球技場にて18時、キックオフを告げる笛が鳴らされました。
 …と、ここからすんなりマッチレビューに行きたいところなんですが、いざ手元のメモを見返したら、きれいに前半30分ぐらいまでの記録しかなく。試合当初は努めて冷静に見ようと思って、それなりのメモは取れていたんですが、やはり「カップファイナル」の雰囲気は、一ファンを冷静では居させてくれませんでした。なので、かなり内容については怪しい部分もあることを承知でこの先読み進めていただけると助かります。


 キックオフ早々、試合展開は「堅守速攻の養和−ポゼッションの東京」という形を成します。東京は3バックの中央に入る2高田と、6高橋、15安部のダブルボランチがボールの中心となり、ポジションを上げて受けようとする3バックの両脇(4大西、13渡辺拓)、ワイドに張ったウイングバック(3山岸、27小山)、バイタルエリア付近でうまく隙間を見つけようとする10佐々木、7長澤と主に3つのパスコースを見てボールを細かく動かしながらも、チーム全体が機を見て9蓮川にボールを預け、9蓮川が単独勝負を仕掛けて局面の打開を図ろうと試みます。
 そんな東京のパスは、よく回っていました。しかし、養和の守備組織は全く壊れません。東京の最終ラインにはある程度ボールを持たせつつも、10下田、8伊東の2シャドーが「行ける!」と思った際には躊躇なくボールホルダーにアタックを仕掛けて後ろもそこに連動する。そのスイッチが入らなくとも、後方では14瀬古、28齋藤のダブルボランチと4関野、GK1齋藤のコーチングを中心に縦パスのコースを消しながら、横の揺さぶりには全体のスライドできっちり応対。仮にその2波を掻い潜られ、バイタルエリアにボールを入れられても3バックの誰かが果敢に飛び出して潰し、残る最終ラインの4枚が裏抜けをケア。また、サイドにボールを入れられても、3バックの両脇(5池田、26杉山)、両ウイングバック(3椿、7相馬)、ボール近いサイドのボランチが連携しながら、常に数的優位を作ってボールを挟みに行ってボールを取りきる。とにかく、見ていて惚れ惚れするような守備で東京の攻撃を少しずつ、確実に窮屈にしていきました。
 そんな「堅守」のみで終わらないのが養和の強さ。絶対的エースである9ディサロが「カウンター」を引き出すスキルを遺憾なく発揮。鋭いターンや初速で振り切れるドリブルなど一人でやりきるシーンがあれば、ポストプレーやタメを生むプレーなどで後続の上りを促すシーンもあり、15分を過ぎたあたりからはそのカウンターが東京のGK1伊東を脅かし始めます。そして、スコアが動いたのもカウンターからでした。24分、3山岸が自陣深いところでボールを回収し、素早く前を向いて6高橋にパス。6高橋も間髪を入れずに10佐々木にパスを出し、10佐々木がスッと前へボールを運べれば東京が大きなチャンスを得られる。瞬間的にそんなことを感じられる場面が生まれましたが、10下田はその動きを読んでいたかのような抜群のタイミングで足を出し、ボールを奪取してドリブルを開始します。すると東京は、10佐々木がボールを持ったところで全体の意識、ポジショニングがほんのわずか前がかったせいか10下田に対して誰もチェックに行けず、下田はドリブルで30m強ボールを運び、エリア内に侵入して1伊東との1対1に。このシーンでは1伊東が上回り、シュートを見事にセーブしますが、そのこぼれ球にいち早く詰めたのは養和の8伊東。右足で冷静に押し込んで養和が待望の先制点を奪いました。
 正直に言うと、この失点直後「これは相当厳しいな…」という思いを抱きました。それは、東京の選手たちが自分たちの意図を何とかピッチに反映させようと腐心するも、「東京が打開できそうで、でもできない(養和がさせない)」という、東京側から見れば真綿で首を絞めつけるかのようなゲームバランスがおそらくこの時点ではもう出来上がっていて、個人的にそのバランスをいい意味で崩してくれる手が見当たらなかったから。9蓮川は26杉山のタイトなチェックとダブルマークに苦しみ、らしさを出し切れずにいましたし、10佐々木も下がってボールを受けられはするものの、上手く縦パスを引き出せずに高い位置でいいボールの持ち方ができず。チーム全体としても各局面で一歩先を取られる場面が多く、少しずつ攻撃が膠着(停滞)していく様は、見ていてなかなかに苦しかったなと。
 しかし、そんな状況を打破しかけたのが7長澤。試合開始からしばらくは10佐々木の近いところでプレーし、ある程度中でボールを引き出そうとする動きが多かったように思いますが、失点を許した前後からもう少し幅を取ったプレーに切り替えると養和守備陣がなかなか掴まえられなくなり、上手く間を取って6高橋からの縦パスを引き出す、あるいはこれまでの時間でほぼ見られなかった裏への抜け出しが見られるようになります。この7長澤の判断によって再度リズムを取り戻した東京は前半残り10分で3度ほど決定機を得ましたが、養和は1斉藤の好セーブと守備陣の頑張り(ギリギリで身体を投げ出すなど)でゴールを許さず。失点直後に感じた厳しさはいくらか和らぐも、しかし「この守備、どう崩すのか?」という強烈なメッセージに答えを見つけきれずに前半は終了しました。


 後半。試合の流れは変わらず、東京がボールを動かし、養和が受け止める展開が続きます。ただ、前半と明確に変わったのが3山岸、27小山の両ウイングバックの動き(仕掛け)。前半も攻撃に絡むシーンはありましたが、後半はより積極的に前へと出ていく意識が高くなり、3山岸はタッチライン沿いにベースを置き、クロスを狙うことを主としながらも、逆サイドにボールがある場面で養和最終ラインの裏を取るフリーランを試みる機会が増えます。かたや27小山は、9蓮川がサイドでボールを持った際、養和の守備陣がダブルマークしにいく間隙を縫って9蓮川の内側を追い抜く動きで揺さぶったり、いつの間にかするするっとエリア内に入ってくる動きでシュートシーンに絡みます。後半が開始してから15分ほどはこの2人の動きがいいアクセントとなり、何度かエリア内でシュートを放つシーンを作りますが、最後の最後、養和の守備陣を崩すまでには至りません。
 結果論で言えば、ここでゴールをもぎ取れなかったことが試合の潮目を完全に決めたように思います。東京の選手にはほんの僅かずつ、しかし確実に焦りの色がにじむプレーが見られ始め、養和はその僅かを見逃さずに堅守からの速攻を繰り出す場面が増えていきました。中には、「これはもうダメか」と思うような決定機を養和に許した場面もありました。だた、ここで踏ん張りを見せたのが15安部。これまでも、「球際」という今季のテーマを誰よりも体現してきたと思っていますが、この苦しい場面でも切れずに足を動かし続け、相手に当たり続け、ボールに足を出し続け、チームの希望の灯を消さないために戦い続けていました。9ディサロの動きは相変わらず素晴らしく、10下田、7相馬らのアタックも依然として脅威であり続けましたが、15安部を筆頭に、3バック+両ウイングバックも懸命に食らいついて、1伊東も集中を切らさずゴールマウスを守り続け、試合を決定付ける2失点目は許さないまま試合は残り15分。東京は、76分に7長澤→11渡辺龍、87分に6高橋→14大熊と攻撃的な手を打ちながら、80分には10佐々木が抜群のテクニックで相手を外して決定機を得るも、1斉藤がこの日3つ目か4つ目のファインセーブ。アディショナルタイムには4大西を最前線に上げるパワープレーも見せましたが最後まで得点は奪えず。後半48分17秒、主審が試合終了を告げるホイッスルが鳴らし、養和が31年ぶり3度目となる真夏の王者に輝きました。


 試合終了後、13渡辺は涙をこらえきれず、9蓮川は「チームが準優勝に終わり、得点王もMIP賞も意味のないものになった」と語り、表彰式終了後にコーチと話す中で、泣いていたように見えました。その他スタメンで戦ってきた選手たちは、悔しさが心を支配していることでしょう。確かに届きませんでした。だけど、決勝戦での敗戦がここまで勝ち上がってきたことの価値をなんら薄めるものにはならないですし、まだこの先にも大きな目標が残っています。まだ、頂点に立つチャンスは残されています。その目標に向かうにあたって、今大会でそれぞれに得られた手応え、充実感を否定してはいけません。この悔しさは絶対に糧にしなければいけませんが、そのためには「正当な自己評価」をすることが必要です。ほんの数日かもしれませんが心を休め、身体を休め、またクリアな状態で次のターンに向かってほしいと思います。
 1、2戦目で出番を得られた、あるいは3戦目でターンオーバーしたことにより試合に出ることができたサブ組は、もしかしたらスタメン組以上に「やれた」部分と「やれなかった」部分を強く感じているかもしれません。特に、3戦目を戦った「那須組」は全国の分厚さを思い知ったことでしょう。しかし、グループリーグで有利な日程を勝ち取れたのは、那須組が関東を制したおかげにほかなりませんし、1、2年が多く名を連ねる那須組が「群馬」を体感できたこともまた、少し先を見据えれば有意義な経験になるのかなと感じています。一方で、決勝トーナメント4試合中3試合で佐藤監督が交代枠を使い切りませんでした(いずれも2枠のみ)。外野にいる限り、佐藤監督の意図がどこにあったのかは窺い知れません。ただ、選手たちがこの「あえて」をどう受け取るのかは邪ながらも気になりますし、この先どうやってスタメン組に割って入っていくのか?その志を練習から強烈に表現して、プレーで魅せてくれることを期待しています。
 また、このクラ選本大会、大会規定により登録できる選手は「15名以上30名以下」となっています。つまり、本大会にかかわることのできなかった選手もいました。しかし、彼らも戦っていて、本大会期間中に水戸で行われたフェスティバル大会で優勝を飾ったと聞きました。今は、自分が与えられたその舞台が大きかろうと小さかろうと、とにかく全力を出し切ることをサボってほしくないと思いますし、そういった積み重ねはいつか必ず実を結ぶと信じてやり続けてほしいと願っています。必ず、君たちの力が必要となる時が来ますから。



 試合当日の朝、ふと2009年決勝のオフィシャルサイトマッチレポート、そして自分の決勝戦後のエントリを読み返していました。東京には武藤嘉紀平出涼(現 富山)、阿部巧(現 福岡)、重松健太郎(現 栃木)、三田尚夫、梅内和磨(現 Y.S.C.C)らその後プロへ進んだ選手たちが居並び、かたやセレッソ大阪扇原貴宏、杉本健有、永井龍、道上隼人(現 松本)、夛田凌輔(現 群馬)と負けず劣らずの顔ぶれ。試合は、

セレッソが)しっかりとブロックを作って守るシーンもあれば(2ラインのスライドの仕方にほとんど間違いがなかったのは素晴らしい)、前からの連動したプレスで奪い取ることもできていて、特に東京のサイド攻撃に対しては多くの場面で数的優位をいつの間にか作れていたのが印象的でした。

と(当時の自分の目を信じると)今回と形は異なるも似ている展開となり、ゴールレスのまま延長にもつれ込み、東京のオウンゴールで先制したセレッソがそのまま逃げ切るという結果に終わりました。その後、09年度のチームはこの夏の悔しさを血肉に変えて、冬のJユースカップで見事頂点に立ってみせました。思えばこれが、東京U−18として直近で最後に獲得したカップとなっています。チームとして久しぶりにカップを手にすることは叶いませんでした。ただ、全国制覇を目標とするに恥じないチームであることは、十分に証明してみせました。また冬に向けて、偉大な先輩に追いつくために、チーム一丸となって進んでほしいと思います。
 また、大会前にこんなエントリを書きました。趣旨である「自分たちのサッカーを貫き通してほしい」という点について、グループリーグ第3戦と決勝戦しか見ていない自分が持ちうる答えはありません。ただ、今大会で「自分たちのサッカー」を貫き通せたとするならば、それが通じたのか通じなかったのかも含めて、もう一段上るためのいい教えにはなったと思います。仮に貫き通せなかったとしても、手を変え品を変えることの必要性を学んだと捉えれば、マイナスになることは一つもないでしょう。いずれにせよ、U−18に所属する41名全員が、今の「自分」がどの位置にいるかを強く意識する10日間になったはず。その「自分」を超えていく様を、また草葉の陰から追いかけられたらすごく幸せだなと感じています。