続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

センチメンタル・ジャーニー

 ついに開幕した2014年Jリーグ。東京はアウェイ、日立台に乗り込んで柏と戦い、結果は1−1のドロー。内容については、インフルエンザに罹り、絶不調の中でボーっとテレビ観戦していたので(TBSチャンネルのスイッチングがど下手だったこともあって)横に置くとしまして、試合後にふと思ったことがあったのでそちらについて少し。


 開幕戦のスタメンに、権田修一三田啓貴武藤嘉紀、3人のアカデミー出身者が名を連ねました。権田は1失点を喫したものの、終盤には敗戦を免れるビッグセーブを見せ、武藤は決定機を何度も演出し(決めてほしかった〜)、三田は今季のチームファーストゴールをゲット。いずれも及第点以上の活躍を見せてくれました。
 改めて歴史を辿ると、馬場憂太(現太田シチズン(韓国))、尾亦弘友希(現未所属)が2002年にチーム初となるアカデミーからの昇格を果たして以降、以下のアカデミー所属経験者が直接・経由含めて昇格を成し遂げました。

2002年昇格:馬場憂太尾亦弘友希
2004年昇格:呉章銀梶山陽平李忠成
2007年昇格:権田修一森村昂太吉本一謙阿部伸行(U-18→流通経済大
2008年昇格:大竹洋平廣永遼太郎椋原健太
2010年昇格:阿部巧平出涼重松健太郎
2012年昇格:橋本拳人丸山祐市(U-15→国学院久我山高→明治大)
2013年昇格:野澤英之三田啓貴(U-18→明治大)
2014年昇格:武藤嘉紀(U-18→慶應義塾大)

また、東京には呼ばれなかったものの、他のチームに直接、あるいは高校、大学経由で入団し、そのチームの主力となっているアカデミー出身者もたくさんいます。単純に数だけで言えば、他にもっとプロ選手を輩出しているチーム(アカデミー)はありますが、余所は余所として、近年アカデミーも応援するようになった私にとって、このことは誇らしく、嬉しく思える部分となりました。
 しかし、その旗色は徐々悪くなっていきました。スタメンに常時名を連ねることができていたのは梶山、権田のみで、椋原、大竹がなんとこさ準主力級に位置していましたが、そんな2人も含めた残りの多くの昇格選手たちは、「なかなか出場機会を得られずに期限付き移籍→そのまま片道切符」というパターンに陥りました。もちろん、このことが健全なチームの競争事情による「結果」としてそうなったのであれば、何も外野が言えることはありません。また、移籍後に機会を得て活躍する姿を見ると、飛び出したことがマイナスだとも言いません。しかし、果たしてその期限付き移籍は健全な競争によるものだったのか?あるいは、シーズンオフに期限付き移籍に出した選手の活躍や成長をしっかりと見定めた上で、その選手のレンタルバックが正しいのか、それとも外部からの補強に乗り出すべきか、といった吟味を果たしてフロントがどこまでできているのか?と首を傾げたくなるパターンも中にはあったように思います。


 少し話はそれますが、チームは「FC東京 2011VISION」というものをかつて策定し、現在オフィシャルサイトでは「FC東京 2011VISION振り返り」が閲覧できます。その中で「都民が誇れる世界と戦えるチームを達成」という大項目があり、さらに「東京出身選手のトップ選手を育成」という小項目がありますが、その振り返りをこう綴っています。オフィシャルサイトから引用させていただきます。

【結果】
 東京出身・育成組織出身の選手をトップチームに輩出し、一定の成果を得た。
【コメント】
 育成年代チームの拡充(U−15むさし)・指導レベルの向上・スカウティングの強化・東京都サッカー協会への指導者派遣などにより、東京出身の選手を輩出できた。
 今後は、送り込むだけでなく最終的にトップチームの成績向上につながったか、世界に通用する選手を輩出できたか、という一段進んだ検証にも踏み入れ、新たな育成プログラムに基づいた活動を展開していく。

 確かに、一定の成果は得たと思います。しかし、コメントにもあるとおり「送り込む」にとどまってしまった感は否めません。もちろん、繰り返しになりますが送り込んだ後のことは選手自身の頑張りや、そのときの環境によって左右される部分があるので、送り込むにとどまったことをことさら槍玉に挙げることはしませんが、上でも書いたとおり状況は良くないな、という印象は受けていました。それで、チームはこの2011の結果を受けて、より先へ進んでいくための「FC東京 2015VISION」を2012年に策定しました。その中で、育成部門については次のようなVISIONを立てました。こちらも、オフィシャルサイトから引用させていただきます。

1.トップチームに常に選手を輩出する育成体制の確立

(1)一貫性のある「FC東京新育成プログラム」の策定と運営体制の確立
・トップチームへの優秀な人材の輩出が第一の目的
・U−12年代からトップチームまで攻守に支配するFC東京らしいサッカースタイルを指向
・普及からトップチームまで一貫したルールに基づくスカウティングを実施
・「自立」を引き出す育成システムと勝利にこだわるメンタリティを確立


(2)トップチーム、および世界で通用する選手の輩出
・育成年代出身者がトップチームスターティングメンバーに5人入る目標を達成

 仔細について突っ込むのはここでは避けますが、「スタメンに5人」という具体的な数値目標が謳われたりもしています。ただ、現実と理想がそう上手くリンクするわけもなく。VISIONが策定された2012年に招聘されたランコ・ポポヴィッチ監督の下では、例えばトップチームで通用する(とクラブフロントやトップチームコーチ陣が思っている)数名の選手をキャンプに帯同させる、練習試合に(トップチームの手駒が足りないという事情もありつつ)参加させるといったことは行われていましたが、それ以上の交流があったとは見聞きできませんでした。また、終わってみればですが「スタメン固定化」がなかなかのレベルで頑固に行われ、あぶれた(アカデミー出身選手含めた)若手は上でも書いたとおり続々と(期限付き)移籍でチームを離れていきました。さらに、残った三田、野澤、丸山らも満足に出番は得られず、三田に至ってはコンフェデレーションズカップ明け、非常にアクティブにやれていた中で、個人的には全く理由がつかめないまま、突然またバッサリとスタメンから切られてベンチに戻り、跳ねる機会を失ったということもありました。
 ポポヴィッチ監督は純粋に勝ちたいがために、タイトルを取りたいが故に、自分の哲学を貫いたのだと思いますし、アカデミー出身者(を含めた若手)が使われないからという目線だけで、ポポヴィッチ監督がやってきたことを全否定するつもりはこれっぽっちもございません。しかし、結果として、2015VISIONと通ずる部分が決して多くはなかったと思います。もう少し突っ込んで言えば、ポポヴィッチ監督下の小平グランドは、「健全な競争原理の下で、アカデミー出身選手(を含めた若手)が対等に勝負できる場」となってはいなかったし、アカデミー出身者にとって、もしかしたら当時のトップチームは「夢を持てる場所」ではなくなってしまったのかも?とすら思うこともありました(個々の選手たちの、上でやりたいという欲求とは別に)。


 そうした中で行われた監督交代。トップチームはイタリアからマッシモ・フィッカンデンティ監督を招聘し、時を同じくして、U−18も本吉剛前監督から佐藤一樹現監督へのバトンタッチがありました。そして、新体制始動後から今までの漏れ伝わってくる言動を見聞きし、U−18の新人戦、トップチーム開幕戦を実際に見てみた上で、今季はターニングポイントなシーズンになる…かも?と思ったところなんです。
 もう少し詳しく。確かに、今オフも丸山(→湘南 レンタル)、大竹(→湘南 完全)、重松(→栃木 完全)、平出(富山 完全)とアカデミー出身者の移籍は多数行われました。しかし、椋原(←C大阪)、梶山(←大分)が戻ってきて、武藤が大学経由で新加入し、フィッカデンティ監督はトレーニングマッチの際から満遍なく選手を試してきました。香港でのAETカップには、U−18所属の大西拓真、佐々木渉も帯同させました。そして、健全な競争の結果として(怪我の影響もありますが)、開幕戦のスタメンには3人のアカデミー出身者が名を連ね、ベンチには吉本、野澤(、松田)が入り、野澤は短い時間でしたがJリーグデビューも果たしました。当然、オフの移籍で多少のスリム化が図られ、昨季以上に「分け隔てていられない」事情はあります。また、何でもかんでも若手を使えばそれでいいなんてことはありません。それでも、フィッカデンティ監督がポポヴィッチ監督よりは戦術的柔軟性があり、選手起用の面でも良い意味で「こだわらない」姿勢であることが、開幕戦の用兵、そして甲府戦へ向けての言葉から窺い知れたことに対して、妙にホッとしているというか、「あぁ、良かったな」と思う自分がいます。
 一方のU−18・佐藤監督も、前田治さん、三田涼子さん、佐藤監督の対談記事の中で「若手レンタル問題」について少し違った目線から触れています。その中で、やはり一番目に付いたのが、

 だから、最初にフィッカデンティ監督とお会いしたときも「(トップとユースの)練習試合をやってください」って言ったんですよ。
 (ユースの選手にとっては)やってみて意外とトップチームもそんなに遠いものじゃないなとか、そこでトップの選手と話をしたら、もっと身近にも感じるでしょうし。選手がパッと行ったときに多少やりやすさもあるでしょうからね。トップチームは高い存在であるけれど、身近なものでもあるんだということで。

(上記リンク先から引用)

 という部分。自分が属するチームの最高峰が、自分にとって夢を抱けない場所なのだとしたら、それはさすがに不幸なことだと思いますし、逆にJ2某チームのように、苦しい台所事情により、スタメンの7割をアカデミー出身の若手に頼らざるを得ないという状況も、決して健全ではないわけで。その両端の支点として、「アカデミー出身者をスタメンに5人」というVISIONは実は良いさじ加減だと思いますし、引っ張り上げるトップチーム、フロント側だけではなく、引っ張り上げられるU−18側からもやれることはやり、意識を変えられるところは変え、再びピュアにトップ昇格をターゲットとしてやっていく土壌を作ろうとしている点は、すごく前向きに捉えていいのではないかと感じています。


 今回のエントリに対する、最終的なアンサーを書こうとすると、(短くても)2015年終了時まで待たなければいけません。なので、ここからしばらくチームが辿っていく旅路を長い目で見守っていきたいと思っていますが、アカデミーを密かに応援している一ファンとして、1人でも多くのアカデミー出身者(を含めた若手)がトップチームでも青赤のユニフォームを身にまとい、その中からさらに1人でも多くの選手がトップチームに定着し、そこから代表選手が――となっていけば、これほど幸せなことはありません。そして、今季がその鼻緒になれば、タイミングとしては悪くなかったと言えるのではないでしょうか。
そんなセンチメンタルな思いを多分に含みながら、いよいよ味スタにFC東京が帰ってきます。土曜日も寒いらしいですが、そんな寒さすらも楽しみながら、2014年味スタ一発目で「眠らない街」を歌えたら最高ですね。私は…少なくとも午前中いっぱいは仕事なので、まずは15時までにスタジアムに間に合うかが勝負です!