続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

異質となる可能性、異質の持つ可能性

 当たらない競馬予想はだらだら書いていますが、サッカーに関するエントリは今年これが1発目。相変わらずの過疎ブログですが、今年もFC東京(トップもユースも)中心に色々書いていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。


 さて、Jリーグは既に始動するチームが出るなど開幕に向けて少しずつエンジンがかかり始めているところ。東京も明日が始動日ということで、いよいよ始まるなぁといったところですが、今オフはとにかく移籍がめまぐるしい状況。それぞれにチーム事情は異なりますが、まあここまで動かれると追いかけるほうも大変大変。私は途中で諦めて、2月ぐらいにいっぺんに覚えようかと思っております。
 そんな中、東京は割と大人しいオフだったように思います。INでの他クラブからの獲得は現時点でエドゥーのみにとどまり(外国籍選手もう1、2名名前は出ていますが)、残るINはレンタルバックと新入団。一方のOUTもルーカスの引退、ネマの契約非継続、長谷川の移籍こそありましたが主眼はスリム化にとどめ、大きな陣容の変更は行わない選択をした印象があります。しかし、チーム全体としては指揮官変更という大きな変化を決断しました。ランコ・ポポヴィッチ監督(現C大阪)をもう1年という手はあったと思いますが、3年目を託すに足る成績は出せなかったとも言える結果だったので、この決断自体は納得できるものでした。そして、後任として招聘されたのが、マッシモ・フィッカデンティ。長友も所属したチェゼーナで指揮を取っていたことから、その名前が出た瞬間から「あー、あの時の」というリアクションが多かった気がしますが、フロントはJリーグ初となるイタリア人監督に白羽の矢を立てました。正直、まだ完全に陣容が整っておらず、フィッカデンティ自身の言葉もちらほらしか伝わってこないので「なんも言えねぇ」状態ではあるんですが、だからこそ妄想する甲斐もあるってもんでして。ここからはある仮定に基づいて、あることないこと書いていきたいと思います。もし以下の内容が少しでも現実とリンクしていたら自画自賛しますし、何にも合っていなかったとしても「まあ、仮定が違ったんでね〜」と誤魔化します(笑)


 その仮定とは「4−3−3」。まあ、もはやシステムを数字で表すこと自体がナンセンスという方もいらっしゃるでしょうが、それはちょっと隅に置いてもらいまして。いくつかのマスコミでシステムはこうして戦いたい…という記事が出ていたと思いますが、その中で大勢を占めていたのが4−3−3でした。
 現在、Jリーグにおいて主流となっているのは「3バック」か「4−2−3−1」。前者はペトロヴィッチ監督がそのやり方で成功してから一気に広まり、チームごとに微妙にその表情を変えながらも、いよいよ主流として定着した感があります。かたや後者は世界的に見てもスタンダードなシステムとなっているもので、ポポヴィッチ時代の東京も「4−2−3−1」をベースとして戦っていました。一方で、昨季4−3−3をベースとして戦っていたのは川崎、清水の2チームのみで、補足しても仙台、名古屋が時折使っていた?ぐらいで、これまでの20年間を見ても、4−3−3をベースとしてリーグタイトルを奪ったのは10年の名古屋しか思い出せないほど亜流のシステムと言えるでしょう。
 しかし、世界に目を移すと、この「4−3−3」は存在感をグッと高めます。オランダでは代表がこのシステムで成功して以降、大半のクラブがそれに倣い、70年前後や90年代前半にはアヤックスが欧州の頂点をもぎ取りました。そのシステムや思考はヨハン・クライフとともにスペインに渡り、クライフの薫陶を受けたバルセロナは90年代前半にリーガ4連覇を果たし、チャンピオンズリーグでも頂点に立って「ドリームチーム」と呼ばれるほどの強豪にのし上がり、その考え方は今なおクラブの根幹として受け継がれています。そして、その当時選手として活躍していたジョゼップ・グァルディオラが08年、監督としてバルセロナに戻ってくると、クライフ原理主義とも呼べるほどの原点回帰と、一方で時代の最先端や人々が思いつかない新しい発想をミックスアップさせた新たな「4−3−3」システムで、世界中のサッカーファンを惹きつける存在となりました。
 そしてこの2014年。グァルディオラが次なるステージとして選んだバイエルン・ミュンヘンフィリップ・ラームをアンカーに置く「4−3−3(4−1−4−1に近い?)」で世界のトップを走り、バルセロナは監督がヘラルド・マルティーノに替わっても形を替えず(戦術にマイナーチェンジはありますが)。ライバルであるレアル・マドリーカルロ・アンチェロッティ監督が苦心しながらも強力3トップ(クリスティアーノ・ロナウドギャレス・ベイルカリム・ベンゼマ)を前面に押し出す「4−3−3」に一応辿り着き、これから欧州のトップを狙わんとするパリ・サンジェルマンも、ローラン・ブラン監督はいくつかの選択肢の中から「4−3−3」を選択し、今季はCLでも頂点を狙える可能性があるぞ!というところをここまで見せています。
 ではなぜ、これほどのビッグチームがこぞって採り入れているシステムが日本で主流となりえないのか?と言う問いが自然と頭に浮かびますが、まあよく分かりません(苦笑)…で話を終わらせるとさすがに無責任なので少しない頭をひねって考えてみると、恐らく「肝となるポジションをこなせる選手がいない」点と、「落としこめる指揮官がいない」点の2点になるのかなと。
 前者。私は、この「4−3−3」では「点を取れるストライカー」と「攻守両面で存在感を出せる中盤の底」の2ポジションが特に大事だと考えています。例えば、バルセロナで言えばストライカーにはストイチコフ、ゴイコエチェアやメッシ、中盤の底にはグァルディオラブスケッツが揃っていました、また、10年にJリーグを制した名古屋にはケネディダニルソンという強力な2人がいました。しかし、名古屋のように上手いタイミングで外国籍選手を同時に保有するのはかなり難しいですし、それぞれで見てもストライカーはいつの世も、どの国も輩出するのに苦労し、中盤の底は「ダブルボランチ」に慣れてしまった日本ではなかなか生まれづらいのかな?と思うところもあり、どうしても中盤逆三角形型の「4−3−3」が成功するイメージはなかなか想像しにくくなっていると考えています。昨季の川崎も中盤は正三角形(ダブルボランチ中村憲剛)が多かった印象ですし、清水も村松大輔のアンカー起用を中心とした3ボランチ構想は、前半戦の不振で盛大にずっこけましたし。
 後者。前者で書いたとおり、日本で「4−3−3」を主としているチームはそうそうないため、そもそも落としこめる指揮官もいないのかなと。それこそ、反町康治監督(松本)や羽中田昌さんのようなバルセロナに縁のある人がバシッとやってくれたら面白いんですが…ってのはさておき、10年の名古屋はストイコヴィッチ監督、今の清水はアフシン・ゴトビ監督といずれも外国籍監督で、風間八宏監督(川崎)が今季も「4−3−3」でいくのか、それとも違う一手を考えているのかはまだ分かりません。システム論がさほど意味を持たなくなった(かつてからそうだったかもしれませんが)とはいえ、「4−3−3」の担い手が絶対的に少ないのは間違いないでしょう。


 はい、冗長な前フリおしまい。翻って今季の東京。フィッカデンティ監督はご存知のとおりイタリア人ですが、イタリアもまた、前述した数チームとは少し色合いを替えた中盤逆三角形型の4−3−3(もう少し大きくいうと「3センターハーフシステム」)が定着している国です。中でも「レジスタ」と呼ばれる、中盤逆三角形の尖った下の部分に当たるポジションはこのシステムの肝の1つで、デメトリオ・アルベルティーニアンドレア・ピルロなどのスーパースターも――くしくも、ともにミランから――生まれています。そして、フィッカデンティ監督自身も、エラス・ベローナチェゼーナカリアリなどで「4−3−3」を用いて戦い、チェゼーナでは当時奇跡とも呼ばれたセリエA残留を果たすなど一定の結果も残しており、システムをチームに落とし込む術は携えていると言っていいでしょう。加えて、選手構成も何だかんだ言って「4−3−3」にはまりそうな顔ぶれが揃っていると見ています。

11――――9―――――7
―――10―――8――――
――――――4――――――
6―――3―――5―――2
――――――1――――――

 仮に、中盤逆三角形型の4−3−3を上のポジション図のように番号分けしたとして、各ポジションには

1(GK):塩田仁史権田修一廣永遼太郎、圍謙太朗
2(右SB):徳永悠平松田陸
3、4(CB):森重真人加賀健一吉本一謙マテウス
6(左SB):太田宏介椋原健太
4(レジスタ):高橋秀人野澤英之
8、10(CH):米本拓司東慶悟羽生直剛梶山陽平幸野志有人外国籍選手?
7、11(ウイング):河野広喜、石川直宏三田啓貴武藤嘉紀、平岡翼
9(CF):渡邉千真平山相太、エドゥー

 という選手が収まるのではないと思いますが(並びは13シーズンの背番号が若い順)どうでしょう、結構収まりよくありませんか?よくない!と言われても、返す言葉はありませんから!…ゴホン。GKは質・量ともに十分すぎる体制で、SBは左右ともに相変わらずのボリューム感。CBはマテウスの加入が本日発表。もちろん現時点では未知数でしかありませんし、吉本はコンディション作りからとやや不安は残しますが、森重・加賀のコンビは実績十分なのでこれで及第点。CHは梶山がいつ戻ってこられるかは不明も、羽生と幸野のレンタルバック+米本、東の現有戦力で十分バリエーションを担保出来るでしょうし、いざとなれば三田もここでプレー可能。噂の外国籍選手が来れば守備面のボリュームアップも叶うのかなと。ウイングはなかなかに多士済々な顔ぶれで、いきなり武藤や平岡の出番があってもおかしくないか?とも妄想できます。
 そして、前述した中盤逆三角形型の4−3−3の肝と言えるレジスタとCF。レジスタ候補は高橋と野澤、CFは渡邉、平山、エドゥーのポジション争いとなるのかなと見ていますが、個人的に今季大注目している2人が高橋と平山。高橋は、もしフィッカデンティ監督が本腰を入れてこのシステムを採り入れ、高橋も死に物狂いでモノにできれば、選手として一段も二段も高いステージに上がれる可能性があると思っています。中には、「ここに米本でよくない?」と考える方もいると思います。しかし、米本には広範囲に、絶え間なく動けるという絶対的な魅力・特徴があり、一方でレジスタには「どれだけ自陣にとどまりながら存在感を出していけるか」を求められる部分があり、米本の特徴とレジスタの特徴とは矛盾するところが出てきてしまうので、米本はもう1つ前のCHで縦横無尽に動いてもらう方がベターかなと。
対する高橋。昨季、ポポヴィッチ監督が高橋に対して「フォアリベロとして…」という表現を使ったことがあったと記憶しています。結局、高橋は役割を飲み込みきれず、ポポヴィッチ監督は落とし込みきれずに終わってしまいましたが、ダブルボランチの1角ではなく、ガッチリとレジスタとして4バックの前に鎮座する役割を、高橋がフィッカデンティ監督の指導や試合を重ねるごとに体得してくれれば、すごく頼もしい選手になるのかなと。最終ラインの前でプロテクト出来る守備力、戦況を見渡せる眼はすでに実証していますし、時折驚くような簡単なミスもありますが、長短のパスで自分より前の選手たちを司れる素地も見せています。後は、どれだけ自分のエリアで動かずに我慢出来るか。一方で、その自分のエリアの中でどれだけ有効に動けるか。この微妙なさじ加減を見定められるようになれば、チームとしても芯がしっかりするでしょうし、個人としても大きな飛躍を遂げられると確信しています。まあ、妄想の中の確信ですけど(笑)。あと、パスセンスだけで言えば野澤は高橋を上回れる素質を秘めていると思っていて、昨季1年でだいぶプロらしい身体になったと聞き及んでいるので、キャンプで上手くアピールできれば、昨季を大きく上回る出番を得られるのではないかとひそかに期待しています。
 CF。昨季は渡邉がゴールを量産し、エースストライカーとして君臨しましたが、終盤はゴールから遠ざかってしまいました。その失速と交差するように、長らく雌伏の時を過ごしていた平山が復活の気配を見せてくれたのは、嬉しいトピックスのひとつでした。そこにシャルケなどに所属して欧州でも名を馳せ、昨季は中国でプレーしたエドゥーが加わり、非常に力強い3人が揃ったのかなと。中でも平山に注目する理由は、(個人的なこじつけも含めて)「4−3−3」とのかかわりが非常に強いため。まず、オランダ(ヘラクレス・アルメロ)時代に経験していること。まあ、平山自身にどこまでシステムの意識があったかは分かりませんが、「4−3−3」の本場であるオランダで1年間プレー。時にはウイングをやらされることもありましたが、32試合で8得点は及第点をあげられる数字と言え、このシステムへの順応性も見せていたと記憶しています。
そして、東京でも4−3−3を経験していること。記憶に残っている方も多いと思いますが、08年に就任した城福監督(現甲府)は、一時4−3−3を主体に戦う時期を作りました。中でも、平山(赤嶺)、石川、カボレの3トップが持つ破壊力は、歴代の東京攻撃陣の中でも屈指のレベルだったと今でも思っていますが、特にスパークした試合が08年6月8日の東京ダービー。この時の4−3−3は中盤正三角形型(梶山、ブルーノ・クアドロスのダブルボランチ+羽生)でしたが、後半少し修正を加えて梶山をアンカー気味にしてからは完全に東京のゲームとなり、カボレ、石川のアシストを受けた平山は(Jでは後にも先にもこれ1回きりの)ハットトリックをマークするなど素晴らしい試合を見せてくれました。また、09年には石川がシーズン15得点というハイスパークぶりを見せましたが、その石川が「前に起点ができるおかげで、ぼくらが前に行ける。FWだからゴールに近い位置でプレーしたいはずなのに(ポスト役をこなしてくれる)」と賛辞を惜しまなかったり、梶山が「守備では本当に助かっている」とコメントしたりするなどの献身性を見せながら、ナビスコカップ奪還を決定付けるカウンターからのヘディングを決めたりするなど、ゴールでも存在をアピールできていました。で、雌伏の時を経た男の、昨季の復調気配。チェゼーナ時代のフィッカデンティ監督はCFにイゴール・ブダンやエリオン・ボグダニといった大型ストライカーを置いてきましたが、平山のイメージはまさにそれ。もちろん、競争の果てに誰が開幕スタメンの座を掴んでいてもおかしくないと思いますが、今季は今のうちに「平山、やっちゃうよ」と吹いておいて損はないのかなと思っています。


 まとめ。どんなシステム、どんな戦術を取るにせよ、今季の東京は初のイタリア人指揮官を招聘したことで、注目のされ方、取り上げられ方も含めてちょっとした「異質なチーム」となる可能性があります。加えて、上で妄想してきたような中盤逆三角形型の4−3−3で推し進めていくとすれば、その異質さはさらに増すでしょう。しかし、異質でいいんです。他所と同じことをしても万年中位を脱せられないのであれば、異質でいること、亜流を選択することは決して間違っているとは思いません。また、4−3−3システムが日本では異質であるということは、それだけ「他所にはないアドバンテージを持ちうる」可能性を秘めていると言えるのではないでしょうか。もちろん、「上手くハマらず、どツボにハマる」危険性も同時に孕んでいますが、他所と同じことを(以下略)。私自身はフロントが打ったこの一手、嫌いじゃないですし、少なくとも今はどのチームも、どのチームのファンも、多少大袈裟とも言える夢を見ていたっていいんじゃないでしょうか。とにかく今年の東京が、もちろん優勝争い、ACL争いで注目されることが一番ですが、いろんな側面で耳目を引くチームであってほしいと願って締めたいと思います。