続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

Surpuss yourself

 昨日、ふと今季の東京U−18の成績を眺めていた。勝った負けたを繰り返し、引き分けが1つしかなく、無失点試合はたったの1つ。現在戦っているプリンスリーグ関東1部では、7勝1分6敗とようやく勝ち越しのターンに入ったが、得失点差は−7。改めて(苦笑)がこれほどふさわしい成績もないだろうな、と一人感じていた。ただ、この1ヶ月で旗色は完全に、変わりつつある。


 以前、このブログで「7/21浦和ユース戦の勝利は、ターニングポイントになり得る」と書いた。お暇な方はアーカイブを遡ってお読みいただければ幸いだが、今や押しも押されもせぬ中心選手となっている佐々木のカムバックが、偶然・必然織り交ぜてチームにいい意味のうねりをもたらした試合だった。その期待を持ったまま中断(クラ選開催)期間終了後の8/25八千代高校戦を迎え、運よく時間が取れたので千葉県まで足を運んだ。だが、試合は惨憺たる内容だった。いや、前半はむしろ東京が押し気味だったと思うので、惨憺たる「後半」だったと評するのが適切だろう。とにかく、先制点をあまりにも稚拙な形で奪われて以降、守備陣が崩壊した。為すすべなく相手の10番、浅川一人に4得点を許し、終盤は怒気を多分に含んだ声も飛び、試合終了後には鬱積したストレスが爆発したのを見聞きした。この時点では、「あぁ、またこのまま沈んでしまうのか…」とうな垂れるほかなかった。
 しかしその1週間後、9/1横浜FCユース戦で、チームはリバウンドメンタリティーをピッチ上で示してくれた。終わってみれば引き分けが妥当な試合展開だったと思うが、今季の、今までのチームであれば、後半半ばで相手に押し込まれた時間帯に我慢しきれず失点し…という結果になってもおかしくなかった。だが、1週間前に怒りを隠そうともせずに発露した――その行為自体は褒められたものではないが――大野が意地のファインセーブを見せれば、最終ラインを中心としたチーム全体の守備も我慢が利いていた。その結果、終盤にはあわや勝ち越し点か!という場面を攻撃陣が作るまでに至った。もちろん勝ちたかった。あの日の帰り道で自分が何を思ったか記憶を辿ると、「こういう試合で勝てるようになれば、もう一段上にいけるんだけど…」みたいなことだったと思う。その一方で、身も心もズタボロにされた惨敗から1週間後の試合でここまでやってくれたことに対しては、素直に嬉しく感じる部分もあった。続く山梨学院高校戦。私は見に行くことができなかったが、オフィシャルのマッチレポートや見に行かれた方の話を聞く限り「戦えていた」ようだし、最後まで攻撃の意識を見せながらも、守るべき局面ではキッチリ守ることができていたようにも聞いた。続く9/15前橋育英高校戦が台風の影響で順延となり、間が開いて迎えた9/22横浜Fマリノスユース戦。自分自身頑張れば見に行けたが、諸々を考慮して観戦せずをチョイスした。その決断は結果的に、嬉しいことに間違いであった。夏のクラブユース王者に対して、3−1の完勝。オフィシャルのマッチレポートに、

「守備の意識が変わりました」(鴨池選手)
相手の時間に踏ん張れるようになってきたこと、練習から声を掛けあいながら、互いの判断をはっきりさせるようになってきたことがピッチでも発揮され、勝利へと繋がってきた。特に、失点の多かった時間帯にはっきりと見え、さらに失点後に全面に見えた選手たちの強い気持ちが、失点を1で食い止めた。そしてこれらのことが、選手たちの自信を伴った1プレー1プレーへと繋がり、「勝てる雰囲気に変わってきました。“勝ち癖”が出てきた感覚です」(長澤選手)

 という一文が載るほど、チーム状態は良くなってきているのだなと感じていた。


 迎えた、10/6市立船橋高校戦。勝てば勝ち点で並ぶことができる…以前に、アウェイで0−5と完膚なきまでに叩きのめされた雪辱を期す大事な一戦。この時期としては厳しい日差しと蒸し暑さに包まれた小平グランドで、11時にキックオフ。
 0−5で敗れた試合を見に行くことができず、今季の市立船橋の何を知るでもない自分にとって、立ち上がりからピッチで繰り広げられた攻防は、少々奇妙に映った。攻撃時には3バックの隊形を取り、最終ラインから丁寧にビルドアップし、前線の選手は細かいポジションチェンジを行いながらCBとボランチの間、あるいは浅めに取っていた東京最終ラインの裏を狙い、ロングボールは時折織り交ぜる程度(かつ効果的)。守備も前からのプレスはさほど圧力をかけず、スライドも最小限に抑えながら中を閉めていれば良いという、ある種の割り切りも垣間見えるブロックディフェンス主体だった。私が知っている市立船橋のサッカーでは、全くなかった。試合後、エルゴラッソ編集長を退職されて市井に下りてこられた川端暁彦さんのレポートを読んでようやく納得したが、今季からそういった戦い方にシフトしているらしい。その中で、「捌けるCB像」がすっかり板についた磐瀬と、目下ダントツの得点王である石田の京都サンガ入団がこの試合直前に発表された。これまでもプロ選手をたくさん輩出してきたが、シフトチェンジ1年目から2名のプロ選手を出したわけだから、そして、夏のインターハイを制しているのだから、この取り組みに対して外野がとやかく言うべきではないのかもしれない。ただ、立ち上がりから垣間見えた「軽さ」(要因がどこにあるのかは分からないが)、先制した直後に同点弾を許す、あるいは相手の時間帯で割とあっさりと守備網を破られる「勝負勘のなさ」を見て、何より「カメレオン」ではなくなった市立船橋に、幾ばくかの寂しさを感じたことは正直に吐露しておく。
 翻って東京。川端さんも書かれているとおり、立ち上がりに先手を取られ、その流れのまま失点を喫した。春先〜夏までのチームであれば、このまま我慢できずにズルズルいってしまう姿も想像できただろう。しかし、今のチームは違う。誰も下を向いていなかったし、あちこちからお互いを励ます声が出ていたし、相手の「軽さ」に乗じて前半のうちに同点、逆転まで持っていく試合運びの上手さ、強かさを見せた。シーズン序盤は1+1=2、1×11=11以上になることがなく、むしろそれ以下だったこともあったが、今はそれぞれ大きさの違う「個々の歯車」がガッチリと噛み合い、1+1=3にも4にも、1×1=11以上になる場面が目に見えるようになってきた。この試合も、大野は積極的にビルドアップに絡みながら、失点後はセービングでも安定していたし、大西は得意のエアバトルでことごとく勝利し、高田は立ち上がりこそ硬さが見られたものの、ほぐれて以降は楔のパスやカバーリングなどらしさを見せた。高橋、佐々木、長澤の3人は流動的にポジションを変えながら、観る者を唸らせるパス&ドリブル&コンビネーションやしぶとい守備を見せ続けた。蓮川、田宮の左サイドは阿吽の呼吸が…と形容していいほどお互いの良さを引っ張り出しあい、田宮が非常にクレバーなフリーランで相手をかく乱すれば、蓮川は3点全ての起点となる大車輪の活躍を見せた。一方の青木、山岸の右サイドも、攻撃がやや左に偏る中でもバランスを見失わず、的確な攻め上がりと献身的な守備で貢献した。矢島は怪我の状態が結構良くないと聞く中、それを微塵も感じさせないガッツ溢れるプレーと絶えることのない声で、後ろの選手に勇気を与え続けた。そして、前半を2−1で折り返した勢いそのままに後半早々に追加点を上げた際には、試合の趨勢を決めたとさえ思えた。
 ただ、市立船橋は死ななかった。戦術的にどこがどうというのは私の知識ではよく分からなかったが、失点直後から市立船橋のポゼッションはより実効性が高まり、東京は完全に受ける側に回った。3点目を奪った後、時間にして15分以上は、大袈裟ではなくボール支配率が80%−20%だったぐらいボールを回された。だが、記憶に間違いがなければ、この時間帯に市立船橋が決定機を掴むことはなかった。そうさせたのは、矢島の献身的なボールホルダーへのチェック、それを受けてのチーム全体での的確な、勤勉なスライド守備、そして、後半頭から投入された安部の存在、この3点だったと思う。矢島は誰よりも走り、ガムシャラにボールホルダーに食らいついた。そんな矢島の動きを基準点として、チーム全員が意思統一して左右にスライドし、縦パスのスペースを潰しながらサイドのケアをし続けた。そんな中でも市立船橋が少ないスキを窺って放った後方から前線中央への縦パスも安部を中心としてしぶとくカットし続け、バイタルエリアの支配権を相手に譲ることを許さなかった。安部については、国体で厳しい戦いを経験して、その中で優勝を掴むことできた「成功体験」が出色のパフォーマンスを呼んだ、と言っても過言ではないだろう。とにかく、守備面での貢献度は光っていた。そして70分を迎える前には前半になかった給水タイムを告げる笛が鳴らされ、一息つく時間が与えられた。その瞬間、東京ファンから何とも言えない深い一息が聞こえたのは印象的だった(もちろん、私もその中の一人である)。
 リスタートは、市立船橋側の深い位置からのスローイン。「上手いこと前からはめ込んで、高い位置で奪ってショートカウンターでネットを揺らせれば…」などと甘いことを考えていたが、その約1分後揺れていたネットはなんと大野が守る方、つまり東京側のものだった。守備のセットが遅れたといえばそれまでだが、流れの中での攻撃を耐え忍んで跳ね返し続けていたことを考えるとあまりにももったいない失点を喫し、試合はここから更に「攻める市立船橋、守る東京」の様相を呈する。しかも、頑張って、頑張ってスライドすることはできていたが、矢島のファーストチェックのラインが徐々にではあるが確実に下がっていき、いつしか東京の11人が全員自陣に押し込まれるハーフコートマッチへと局面は移っていった。東京も交代でフレッシュな選手を入れながら何とか押し返そうとするが、市立船橋の圧力がそれを許さず、ついにはシュートが枠内に飛び始めるところまで追い込まれた。それでも、決して守備陣は決壊しなかった。崩されてはいたが、最後の最後までボールに食らいつき、市立船橋の各選手のシュートタッチをほんの少しずつズラしていたし、最後の最後で身を投げ出すことでシュートコースを限定させ、大野もそれに応えるようにファインセーブを連発した。流れ的には厳しく、体力的には苦しく、どこまで我慢できるのか分からない。だが、我慢の守備で同点弾は許さずに、劣勢でも気持ちは途切れずに、時間は間違いなく90分へ近づいていた。現実味を帯びてきた逃げ切り勝利への期待と、ギリギリを強いられている焦燥と。他の方はどうだったか分からないが、私は交互に押し寄せるポジティブとネガティブの波に飲み込まれそうになっていた。
 とここで、試合は突然動いた。市立船橋にセットプレーが与えられ、両チームの選手がエリア内でポジションを取り合っていた中で、主審が迷うことなく笛を吹いた。そして、東京の選手が膝をついて悔しがっていたのが見え、主審がペナルティスポットを指差した。そう、市立船橋にPKが与えられたのだ。観客席から遠い方でのプレーだったので、一体どのプレーでファウルを取られたのかはまったく分からなかったが、PKという事実は揺るがない。ペナルティスポットにボールを置き、助走を取るのはエース石田。対峙するは、ここ10分弱決定機を立て続けに止めた大野。耐え難いほどの緊張感と静寂が場を支配し、主審の笛とともに石田が助走を開始。右足インサイドで放たれたシュートは…大野が横っ飛び一閃ストップし、そのリバウンドも跳ね返すビッグセーブ!市立船橋としては最大のチャンス、東京としては最大のピンチだった場面でスコアは動かなかった。この後、石田と大西がどつき合って双方退場というP.Sもあったが、このまま試合は3−2で終了し、東京が貴重な勝ち点3を奪取した。


 終わってみてすぐに出たのは、「疲れた」の一言だった。勝つことは、本当に難しいことだと再認識させられた。ただ、勝つためにはここまでやらなければいけないのだと改めてこの試合(この3連勝)で実感できたならば、それは勝ち点3以上の価値があると言えるだろう。自分たちの時間帯に上手く畳み掛けて得点を積み重ねることができると実感できたならば、今後も複数得点を期待していいだろう。相手に押し込まれる時間帯を我慢することはとても苦しくて辛いことだけど、勝利という結果によってその我慢が報われると実感できたならば、変な話、市立船橋に感謝を述べたいぐらいでもある。そして、この勝利によって自力で3位(=プレミアリーグ参入戦への出場圏内)の座を掴むことができるシチュエーションになった。
 ただし、現在5位ながら自力で3位以内を掴めるということは、自分たちより上の順位にいるチームが相手となる。10/16が延期となっていた首位・前橋育英高校。11/24が2位・柏レイソルU−18。11/30が3位・大宮アルディージャユース。相手にとって不足はないどころか、前半戦はいずれにも敗戦を喫している。当たり前だが、これまで以上に厳しい戦いが待っているはずだし、聞くところによると依然怪我に苦しむ選手が(特に3年生に)多く、代表選出で抜ける選手があり、累積警告も気になるところだ。しかし、同じく前半戦で敗れた山梨学院、市立船橋に後半戦でリベンジを果たしたとおり、今の東京は一味違う。「誰が出ても同じサッカーを」という耳慣れたフレーズが実は大嫌いな私だが、「出た人間が臆せず個性を発揮できる」状況となっているのは歓迎すべき材料だろう。
 とはいえ、努めて厳しい言い方をすれば、ようやく上位チームの「背中が見えるところ」まで辿り着いたに過ぎない。ビッグフレームス会員との交歓会で、主将の五勝出は「プレミアリーグ復帰」と「Jユースカップベスト4進出」を目標に戦うと話したようだが、ここで満足していてはこの2つの目標いずれも達成することは無理だろう。特にJユースカップでは、勝ち進むほどより高いレベルにあるプレミア勢と相見える可能性もある。だから、勝負はむしろここからだし、越えなければいけないハードルはまだいくつも残っている。だけど、今のチームなら、今の38人なら、それを一致団結して飛び越えて「実りの秋」を、そして「笑顔の冬」を迎えられると信じている。その気持ちを、私の好きなとあるバンドの一節に込めて。

跳べ 迷わずに 合図待たずに あの月を狙って
希望ってやつを信じているのさ 裏切り覚悟で
行け まっすぐに 止まらずに 後戻りはしない
可能性を今覆すために 裸足で踏み出すのさ

9mm Parabellum Bullet 「Grasshopper」から)