続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

確かな期待と、微かな不安と

 去る日曜日、小平グランドで行われた東京都クラブユースU-17サッカー選手権(通称「新人戦」)2次リーグ第3戦 三菱養和ユース戦を見に行ってきました。これが今年のユース初め。今年もよろしくお願いしゃーす!


 2次リーグ第1戦で横河武蔵野ユースに0−1で敗戦。第2戦は大宮ソシオに18−2で勝利したものの、横河武蔵野ユースが三菱養和ユースに勝利。横河武蔵野ユースと大宮ソシオとの実力差を踏まえれば、この試合が実質3位決定戦進出をかけた1戦という立ち位置でした。そんな試合のスタメンは以下のとおり。

――――矢島―――岸――――
伊藤――――――――――青木
――――高橋――長澤――――
田宮――柳澤――大西――山岸
――――――伊東――――――

 背番号はそのうちまた変わってしまうので省略。また、鴨池と川上はトップチームの沖縄キャンプへ帯同していて不在でした。
 立ち上がりから養和の守備はアグレッシブで、CB2枚にきっちり2枚を当てて縦へのパスコースを塞ぎ、サイドへ追い込んで人数をかけてボールを奪いきる、あるいはコースを限定させた上で長いボールを蹴らせて、空中戦で跳ね返すという守備を仕掛けてきます。東京はまんまとその圧力に飲まれてしまい、攻めの糸口をなかなか見出せません。特に大西は半分以上プレー視野を消された中で一本調子なパスしか出せず、山岸と青木のコンビネーションも今一つだったことで右サイドの攻撃は結構澱んでしまいました。しかし、「どうしたもんかねぇ…」と思いながらも10分を過ぎたあたりから様相が変わります。ワンサイドに追い込もうとする養和の守備意識は見事でしたが、それが強すぎる余りに逆サイドのケアが不十分だったこと。かつ、苦しむ右サイドとは対照的に、左サイドでは伊藤が上手く中へ絞ってポジションを取り始め、養和の右サイドプレーヤーが中に収縮されられたことで守備陣のスライドが上手くいかずに、田宮がフリーでボールを受けられる場面が頻出します。そこから田宮がある程度前にボールを運んで仕掛けるもよし、解れた守備ブロックの穴をパスワークで突くもよし、という形が増え、一気に養和のプレッシング圧力は減少しました。
 そんないい流れになってきた18分、中盤で長澤がパスを受け、チェックに来た相手2人の間を強烈に切り裂くハーフターンで前を向くと、そこからドリブルで30m以上前進。十分に相手をひきつけたところで左サイドから中へ入ってきた伊藤に優しいスルーパスを送ると、これを伊藤がきっちりとゴールに流し込んで東京が先制します!オフィシャルのレビューには長澤のドリブル開始のところからしか載っていませんが、あのハーフターンこそが全てで、ご馳走様でした!ってなもんでした。これで流れは完全に東京のものに。攻撃では高橋、長澤のダブルボランチが冷静にコンダクトしながら、引き続き左サイドが躍動。守備では立ち上がりからでしたが、きっちりと4−4−2の3ラインによるブロックを形成し、中盤をコンパクトにしながら穴を作らずに冷静に対応できていました。こうなると「いい流れのときに2点目取れれば…」と誰しもが思うところですが、その期待に応えたのは岸。ゴールまでの流れは忘れちゃいましたけど(苦笑)、とにかくきっちり決めていい時間帯に追加点を奪います。養和の守備陣はこの辺りから完全に取りどころを見失い、チームとしての守備はバランスを失ってしまいました。こういう時にはベンチからの指示でもピッチ内の選手たちによる話し合いでもいいから、あえて一度引いて受けて体勢を整えることがあってもいいのかな?と思って見ていましたが、前から当たるやり方は変えず。結果的に後半その姿勢がファイトバックの要因の一つとなるわけですから、どちらが良い悪いではないと思いますが、「ゲームプランが崩れたときの次善策」をスムーズに表現することができる大人なチームが増えてくればなぁ、とふと考えてしまいました。まあ、それはそれとして。42分には岸からボールを受けた伊藤が1人、2人と交わして右足を振り抜いて3点目を奪うと、45分には青木から矢島へ綺麗なボールが渡り、矢島がこれを冷静に流し込んで4点目を奪ったところで前半終了。2−0でも十分な前半でしたが、相手がバランスを取り戻す前に畳み込むことができたのは大いに収穫でしたね。
 後半。養和は2枚替えを施し、さてどう対処しましょうか?と様子を見たかった立ち上がり早々の49分にセットプレーから失点。形そのものはGKと味方の接触によりボールが流れて…という残念なものでしたが、スコアとしてはまだ4−1と慌てる必要は全くありませんでした。しかし、この1点で試合は再度養和のものに。青木が59分という早い時間に足が攣ってしまったりするなどコンディションがややバラバラだった東京に対し、養和は前半立ち上がりからハイプレッシングを敢行したにもかかわらず運動量が落ちず、球際の強さも衰えなかったことで徐々に東京の攻撃に引っかかりが生じてしまいます。また、養和の攻撃対東京の守備でも、前半は上手く抑えていた養和の4番の子(なかなかにガタイが良い)にボールが収まり始め、そこから攻撃を展開されたり、深めに蹴りこまれた流れからセットプレー(主にCK)を与えてピンチを招いたりするなど押される時間帯が続きました。しかし、流れの中では完全に崩されてシュートを浴びるシーンは作らせず、最低限のバランスは保てていたことで追加点は許しません。その後はお互い何度かゴール前に迫るシーンがありながらもネットは揺れず、東京はGK石原以外のサブを起用するなどしながら時間を進めてこのままタイムアップ。無事、3位決定戦への進出を決めました。


 上でも書いたとおりコンディションにはまだまだバラつきがありますし、不在だった選手やコンバートされて使われている選手がいましたし、これから組み込まれる新1年生はどんなんかいな?などもあって、いかにもシーズン序盤の試合だったのかなと。個人的にもこれが今シーズン初見だったので、チーム全体がどうこうという視点ではまだ語れないところはありますし。ただ、それでも「確かな期待」と「微かな不安」は覚えました。
 期待から。チームとしてのビルドアップやそこからのボールの進め方はまだまだですが、個人として光っている選手が複数いたことは素直に嬉しかったなと。田宮はある程度自由にできる部分があったことは事実ですが、縦への推進力や深いところでの選択の良さが見えました。守備はもう少し頑張りましょう(苦笑)でしたが、左右ともにこなせる器用さもありますし、今季大いに出番を掴めそう。きっかけ一つで一気に飛躍しそうな気配も感じます。その良さを存分に引き出したのは伊藤。あえて中へ絞って田宮のコースを作ってあげたり、外から中へのカットインのタイミングであったり、昨年から見て取れた「逆サイドにボールがあるときのポジショニングの良さ」を改めて感じることができた試合だったかなと。伊藤も左右こなせるタイプで、個人的にはどちらのサイドで使うにしても田宮と伊藤はセットで使って、どんどんコンビネーションを高める方向に進んだら面白いかな?と思いました。
高橋は観客席のあちこちから「梶山」という固有名詞が飛んでいました。立ち上がりこそチームの入りの悪さに埋没した感はありましたが、その後は上手くボールを引き出しながら、もらった後の選択肢−パスはショートなのかロングなのか、コースは横なのか縦なのか斜めなのか、ボールキープなのかドリブルなのか−が豊富で、かつ間違いが少なかったのは好印象。もし川上が不動のボランチなのだとすれば、そのパートナー候補筆頭に躍り出た印象すらあります。それこそ、昨季小泉がやったような役割を担えるとも。長澤はもう1列前の選手というイメージしかありませんでしたが、この日はボランチで躍動。1点目を演出したプレーを筆頭にボランチの位置からドリブルでボールを運べて相手を崩せる点は、現代の主流ともなっているブロックディフェンスを切り裂く大きな武器の1つ。まだどこで使われるか分かりませんが、まずは「前を向かせたらとにかく怖い」選手になってほしいです。
 矢島と岸の2トップは補完関係が抜群。主に「矢島が受ける、岸が出る(抜ける)」という形でしたがそれにこだわるわけではなく、プレーエリアを広くとって様々なところでポイントになれていました。また、矢島は試合前のアップで先頭を走ったり、この日一番声を出していたりするなど「俺が引っ張るんだ!」という姿勢に好感が持てましたし、岸は以前までの「火の玉突貫小僧」というイメージ(たぶん、誰にも伝わらないけどw)から脱却した印象。体格的にもガッチリしてきましたし、プレーの選択肢やスキルの種類も増えており、もはや裏へ抜ける速さだけのプレーヤーではないことは誰の目にも明らか。上手く切磋琢磨して、さらに補完しあう関係になってくれたら嬉しい限りです。


 その一方で覚えた微かな不安。それは、「個で奪える選手の不在」。積極的な姿勢を担保するために、攻撃でチャレンジするために、守備は非常に大事になってきます。「どう攻撃したいのか?」という結論から逆算して守備のやり方は決まってくる、と語る識者もいます。上でも書いたとおり、この日前半に見せたブロックディフェンスは非常に均整が取れていて、養和の最終ラインがボールを持つけどスペースを消されて出しどころがなく、困った末にロングボールというシーンは1度や2度ではありませんでした。また、東京の各選手の距離感が適切だったことで、誰かが抜かれた、あるいは飛び出して空けたスペースを埋めるカバーリングも上手く機能していて、ピンチの目を摘むことができていました。これはこれで素晴らしく、どんどん堅固さを高めていってほしいと思います。しかし、1対1での球際の強さは養和が上回っていましたし、ガチンとした局面でボールを取りきるシーンは思いのほか少なかった印象も受けました。もちろん体格差やチームスタイルの違いによって、そこを重視すべきかどうかは議論が分かれるところではあります。しかし、引き続きトップチームに倣い、クローズな展開を作り続けながら人数をかけてパスワークで前進し、気持ちを前に持っていく攻撃を志向するのであれば、それを後方で支える選手、特にCBとボランチには「1対1で奪えるスキル」が問われてきます。
 トップチームは昨季、カウンターに泣く試合が少なくありませんでした。しかも、自陣〜ハーフライン付近でボールを奪われ、そこから浴びた「ショートカウンター」ではなく、相手陣でボールを回しているときに奪われ、そこから浴びた「ロングカウンター」の方が多かったと思います。これは、自陣における少人数対少人数での守備時にポジションが重なった、ボールを奪いきれなかった、スペースを消しきれなかった、などが要因として挙げられます。当然ながらシーズンを失点ゼロで終わることなんか不可能ですし、そのチームの守備のやり方によって「やられてもいい(仕方ない)やられ方」があれば、「やられてはいけないやられ方」もあります。そう考えたとき、前に人数を割く=後ろの人数が減ることで、ある程度ロングカウンターや自陣での少人数守備による失点は覚悟しなければいけないのかもしれません。けれど、森重、チャン、米本、高橋ら「正対した1対1」に強い選手が揃っているトップチームですら、一時はこの形の失点に抗うことができなかったわけで。そして、今東京U−18に所属している選手の中に「正対した1対1」で絶対的に安心できる、信頼できる選手がいるかと問われれば、個人的には(今は)大西ぐらいしかいないのが正直な印象。少なくとも、最終ラインの1つ前でプロテクトすべきボランチができる選手の中で、そういうタイプの選手は見当たりません。
 歴史を辿れば、数多くのタイトルをものにした、あるいは攻撃的なサッカーでファンを魅了したチームには、必ず「つぶせるボランチ」がいました。W杯で言えば、94年優勝のブラジルにはドゥンガ、98年優勝のフランスにはディディエ・デシャン、02年優勝のブラジルにはジウベウト・シウバ、06年優勝のイタリアにはジェンナーロ・ガットゥーゾがいました。クラブレベルでも、トレブルを達成したマンチェスター・ユナイテッドにはポール・スコールズ、「ロス・ガラクティコス」時代のレアル・マドリーにはクロード・マケレレ、黄金期のアーセナルにはパトリック・ビエラモウリーニョの名を世界に売ったポルトにはコスチーニャバイエルンを抑えてブンデス連覇を果たしたドルトムントにはセバスティアン・ケール、そのリベンジを期す今季のバイエルンにはハビ・マルティネス、そして、我が世の春を謳歌し続ける今のバルセロナにはセルジ・ブスケッツがいます。Jでも、創世記の鹿島には本田泰人、黄金期の磐田には服部年宏福西崇史、連覇を果たした横浜F・マリノスには那須大亮、いずれも初優勝を果たした06年G大阪には明神智和、07年浦和には鈴木啓太、10年名古屋にはダニルソン、3連覇を果たした鹿島には青木剛がその守備力でチームに多大な貢献を果たしました。
 チームの戦い方次第では、そういったタイプの選手が必要ない場合もあります。それこそ、この日のようにブロックディフェンス主体で行くのであれば、そこまで憂うことではないのかもしれません。だけど、今東京U−18が目指しているスタイルをより高めるためには、やはりボランチのところでスイープできる選手が必要なのではないかと思っています。そういった選手は出てくるのか、あるいはどういう守備の仕方で攻撃を支えて挙げられるのか、その点が昨季からの流れの中でまだはっきりと見えていない点は−恐らく考えすぎで、めんどくさい奴の思考なんでしょうけど−拭いきれない不安として残りました。