続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

久々に、くどいプレビューを

 「4−2−3−1」に徹底的にこだわってきた中、8/4浦和戦の後半、そして前節広島戦で「3−4−2−1」を用いたポポヴィッチ監督。しかし、それは相手に合わせると言う意味を多分に含んだものだったので限定的なものかと思っていましたが、今週の動きを見る限り、明日の横浜FM戦もその形を継続するそうで。これを聞いた瞬間の率直な感想は「笑い4割、楽しみ4割、不安2割」。本来は別に暇じゃないけど暇つぶしネタを用意していましたが(それはまた後日)、東京さんがこれだけ面白い動きを見せているようであれば、その3バックネタを絡めて久々にプレビュー的なものを書いてみようかなと。あまり、めんどくさい展開にはしないつもりですが、それでも戦術ヲタ、数ヲタ的なくどい話は出てきてしまうかと思いますし、あくまでも練習などを全く見ていない妄想好きの妄想をそれっぽく並べているだけになりそうなので、まあ、興味のある方のみしばしお付き合いください(笑)


 エルゴラ掲載の予想スタメンは以下のとおり。

―――――ルーカス―――――
――――梶山――石川――――
椋原―アーリア―米本――徳永
――森重――高橋――加賀――
――――――権田――――――

 エジミウソンがハムストリングを傷めて離脱し、ブチチェビッチ、中村、森重も週中フルにトレーニングを積めていないという再びの野戦病院状態ですが(森重は大丈夫そうで何より)、それでもこれだけのメンバーが組めるんだからすごいすごい。というのはさて置き。「システムがどうであれ、俺たちは相手に合わせないよ!ホントだよ!」という本来のポポヴィッチイズム全開に笑いを覚え、「『東京式の3−4−2−1』をお見せする(超意訳)」という心意気に楽しみを覚え、しかし「着手してから間もない中、ミスマッチが生じかねない4−4−2の相手に、よく3−4−2−1を選択したな〜。大丈夫かな〜?」という不安も覚え、その割合が冒頭に書いた4・4・2という感じになっているところでございます。
 今、世界的に3バックを採用するチームが増え始めています。その代表格がイタリアで、EURO2012でチェーザレ・プランデッリ監督があっと驚く3バックを見せ、グループリーグ初戦でスペインとまれに見る高ゲームを演じましたし、セリエAも今季はまだ1節を終えたのみなので分からないところもありますが、その第1節ではユベントスウディネーゼナポリフィオレンティーナあたりは3バックを採用しており、他にもきっとあるはず(昨季は最大9チームが3バックを基本システムとしていたほど)。また、スペインではバルセロナが昨季から3バックを取り入れ−しかも、そのアイデアグアルディオラ前監督以上にティト・ビラノバ現監督(当時第2監督)が推していたという話もあり、今季はより見られそう−、ビルバオも3バック論者であるマルセル・ビエルサ監督の下、4バックと併用する形で採用。今季も開幕戦でラージョ・バジェカーノも3バックで戦うなど徐々に広がりを見せていますし、イングランドでもロベルト・マルティネス監督が率いるウィガンが昨季後半3バックを採用してから息を吹き返して奇跡の残留を果たし、今季はマンチェスター・シティロベルト・マンチーニ監督が前節リヴァプール戦で3バックを採用するなど、「4−4−2」のお国柄から考えれば、3バックの存在感が目に見えて増している印象もあります。こと日本においては、皆さんご存知のとおりフィリップ・トルシエさんが代表で「フラット3」を実行し、一時期3バックが流行しかけましたがあっという間に沈静化。しかし、ペトロヴィッチ監督が広島、浦和で3バックを採用し、それぞれのチームで一定以上の評価を得たり、J2では今季湘南、大分、岡山、北九州、松本、熊本、町田、富山あたりが3バックベース(北九州は半々なところもあるか?)で戦っており、千葉、愛媛、岐阜も(あまり上手くいきませんでしたが)時折3バックで戦うなど、隆盛を極める…という表現は大袈裟にしても、かなりの採用率だと思います。
 ただし、一口に3バックと言ってももちろんいろいろなやり方があることは言うまでもなく。その一つひとつをここで読み解いていたら時間がいくらあっても足りないので、敢えて単純化して2つのパターンに分けてみます。1つが「クラシカルスタイル」でナポリウディネーゼ、EUROでのイタリア代表やペトロヴィッチ監督の3バックはこちらに属すると言えますが、決して低い位置からのビルドアップやポゼッションを放棄するわけではないものの、突き詰めればその肝が「5バック&カウンター」に集約されるスタイル。2ボランチ+2WB+トップ下+2トップというオールドファッションな3−5−2や(ウディネーゼやイタリア代表はこちら)、2ボランチ+2WB+2シャドー+1トップの3−4−2−1(ナポリや広島、浦和はこちら)と形は異なりますが、いずれも守備時は5バックになることを全く厭わず、相手をある程度呼び込んで狭いエリアで人数をかけてボールを奪い取り、そこから早く仕掛けられるときは前線の3枚やスペースに中長距離のボールを出してカウンターで仕掛けきるやり方となります。もう1つが「モダンスタイル」。バルセロナビルバオ、ウィガンやユベントスはこちらに属すると言え、カウンターを否定するわけではないものの、「非5バック&ポゼッション」を志向するスタイル。中盤がダイヤモンド型の3−4−3や(バルセロナビルバオ、ウィガンはこちら)、中盤が逆三角形の3−5−2(ユベントスやラージョはこちら)と形は異なりますが、なるべく陣形をコンパクトにしてボール奪取は高い位置で試み、奪った後の切り替えを早くして前線に人数をかけて、細かいパスワークを中心に攻撃をする。仮に押し込まれてもなるべく5バックにならないよう工夫して守備を行い、低い位置で奪った際にはさほど急がず前進していくやり方となります。そして、今東京が目指しているのはまさにモダンスタイルの方で、目指している攻撃・守備の形が3−4−2−1になったらさらに際立つのではないか?という点に「期待4割」を感じたところです。


 さらに掘り下げてみます。大まかに言えば、今季の東京が標榜するやり方は前述した「なるべく陣形をコンパクトにして…」の部分そのもの。最終ラインを高く押し上げてコンパクトにし、前線のチェックと中盤のプレッシングでボールを奪い取る。そこからの攻撃は、一度最終ラインに下げて丁寧にビルドアップを試みながら、シーズン序盤はCBやボランチからの「縦パス」をスイッチに次々と前線に人数をかけて、追い越して相手の守備陣を切り裂いてゴールをもぎ取っていました。しかし、その縦パスを読まれ始めて中を固められると、一気に攻撃が停滞する事実もシーズン序盤からすでに見えていました。というのも、ここまで東京の試合を継続して見られている方ならもうお分かりのとおり、今季の東京には「サイドアタック」という概念がほぼありません。だって、SHとSBの2人の関係や大きなサイドチェンジのパスからサイドを深くえぐり、ペナルティエリア外からクロスを入れてヘディングやボレーで直接叩き込む、あるいはこぼれ球をドン!という攻撃から生まれたゴールって、皆さん記憶にあります?おそらくすぐに浮かぶ人は少ないはずで、実際このエントリでも取り上げたんですが、オープンプレーにおけるサイドを深くえぐった形から生まれたゴールはわずかに2つ、そのうち、純粋にサイドからクロスと言えるのは5/6新潟戦の1点目(椋原のクロスを梶山がボレー)だけ。結果として、今季の東京は「単純なクロス」という形を半ば放棄するかわりに、サイドを「崩しの起点の1つ」として意識することを強く見せていると私は感じています。
 では、東京がいい攻撃を見せるために必要なことは何か?私が思うポイントは2点ありまして、それが「ボールホルダーより前に、中央へ何人かけられるか?」「ボールがあるところ以外でどれだけいいポジションを取れるか?」の2つ。サイドでのボール保持をあくまでも起点の1つとするのならば、そのサイドで持っている間に中央にどれだけ人を寄せられるか、そして、中央に寄った選手が相手のマークを上手く外してボールを受けられる体勢をいかに作れるか、さらに言えば、出し手と受け手以外の3、4人目が追い越したり次の展開を作ったりできるような動きを見せられるか、そこが大事になるわけです。それを踏まえた上で、3−4−2−1で試合を進めた際に奪った3ゴールの流れを見てみると、いずれも4−2−3−1ではやや難しいと思える−逆に言うと3−4−2−1だからこそ生まれた可能性が高い−ゴールだと言っていいのかなと思っています。浦和戦の1点目は、椋原がWBならではとも言えるナチュラルな高いポジションでボールを持ったところからスタートしていて、その椋原からアタッキングサードに入ったすぐの左サイド寄りでボールを受けた梶山がヘッドアップした瞬間、パスコースがすでに1トップのルーカス、シャドーの石川、そしてパス&ゴーをした椋原と3つありました。そして、梶山が数秒タメを作っている間にアーリアもボランチから飛び出してきたところで浦和守備陣は完全にフリーズ。そこから先は梶山→アーリア→石川とパスが繋がり、最後はエリア内でのグラウンダーのクロスを椋原が叩き込みました。浦和戦の2点目も、今度はアタッキングサードに入ったすぐの右サイド寄りでボールを受けた梶山には左のアーリア、前方のルーカス、バイタルエリアにいた石川という3つのパスコースが特段手間をかけることなく与えられました。梶山はそこからアーリアを選択し、その後1タッチでアーリア→石川→ルーカスと繋がり、最後はこれまたエリア内でのグラウンダーのクロスをパス&ゴーで飛び出してきたアーリアが押し込みました。
 そして、3−4−2−1だからこそ生まれたと断言できるのが広島戦のゴール。高い位置で米本がボールを奪い、3バックから飛び出してきた加賀を経由して右サイドタッチライン沿いで梶山がボールを受けましたが、恐らく4−2−3−1であれば、SHはSHの位置にしかいれず、中央での受け手はルーカスしかいなかった可能性が高かったはず。けれど、3−4−2−1のシャドーとしてプレーしていたからこそ石川はあの瞬間当たり前のように中にポジションを取ることができました。まず、梶山にとってあの瞬間に1つしかパスコースがないか、2つパスコースがあるかは文字通り雲泥の差だったと思いますし、相手にとっては3対2の数的優位ではありましたが、ポストプレーができるルーカスと裏へ抜けられる石川という異なるタイプを相手にしなければならず、見た目以上に難しい局面だったと想像します。それで結果は、石川が見せたラインの裏へ抜ける斜めのフリーランに広島の3バックが一瞬気持ちを持っていかれてルーカスがフリーになり、その瞬間を見逃さなかった梶山からルーカスにピタリとグラウンダーのパスが入り、〆はルーカスが超絶美技でネットを揺らしました。つまり、3−4−2−1をやる利点として、アタッキングサードに入ったあたりで梶山なりアーリアがボールを持った際に、特段意識することなくほぼ必ず前に2人いて、そこにボランチが飛び出したりWBが絞ったりすればあっという間に中央へ3〜4人かけることができ、前述した今季の東京が標榜するやり方とピタリ合致すると言えるわけです。もっと単純にすれば「これまでのやり方を変えることなく、さらに洗練される可能性が高い」と表現できるでしょうか。


 その一方で「不安2割」を覚えたのは守備について。高い位置からのプレッシングについては4−2−3−1でも3−4−2−1でも全く変わらないでしょうし、さほど心配していません。問題は「4バック化の成熟度」という点。3バックの弱点としてよく挙げられるのが、ストッパー両脇のスペース。68mの横幅を3バックだけでカバーディフェンスするのはほぼ不可能で、ただしそのスペースにストッパーが引っ張られると中が薄くなってしまうという痛し痒しの状態が常にリスクとして存在し、相手とすればいわゆる定石として「サイドのスペースを狙え」となるわけです。当然、両WBが下がってきて5バック化すれば問題なくそのスペースを埋められるわけですが、監督・選手の声を聞く限り、5バックに「なってしまう」シチュエーションはあれど、5バックに「なる」シチュエーションは存在し得ません。ではどうするのか?今日のエルゴラには「最終ラインは4バック(3バック+片方のWB)の陣形を保つ」練習をしてきたと書かれていました。具体的に例を挙げてこの動きを説明すると、ハーフウェーラインを越えたあたりで中村俊輔がボールを持ったとした場合、対峙する右WBの椋原がチェックにいった上で、陣形を

―――――ルーカス―――――
――――――梶山――――――
椋原―アーリア−米本――石川
森重――高橋――加賀――徳永
――――――権田――――――

 というような形にするわけです。文字で起こすと「3バックはボールサイドにスライドして、ボールと逆サイドのWBが下がってSBかつ4バックになる。それに呼応してボールと逆サイドのシャドーがSHのポジションに移動し、相手の左SBの上がりを防ぐ。」という感じ。これは、単純な配置上、サイドは東京がWB1枚なのに対し、4−4−2の横浜FMはSBとSHの2枚となり、どうしても東京が数的不利になる点を5バックにならずに解消する1つの方法で、アルベルト・ザッケローニ日本代表監督の標榜する3バックシステムにおける守備戦術のキーポイントとしても知られており、一見するとこれで全てが解決しそうな雰囲気もあります。
しかし、いくつか問題はあります。一番大きなものとしては「どの段階で4バックに移行するのか?」。上のように、単純にWBがマークすべき相手がスンナリ入ってきてくれればいいのですが、相手もバカじゃないのでいろいろな工夫を見せてくるはず。例えば、最終ラインやボランチがボールを持っている間に両SHを同時に3バック横のスペースに押し上げられたらどうするか?3バックは左右どちらにスライドする判断をするのかを瞬時に迫られ、それを間違えると4バック化できずにバランスを崩してしまいかねませんし、仕方なく両WBが下がって5バックになってしまうことも考えられます。それも含めて、どのタイミングで4バック化するのかはいろいろな考え方があって、相手にボールが渡ったらポジション関係なく無条件にそうするのか、それともプレスを外されてからそうするのか、あるいはハーフウェーラインを越える前にそうするのか、越えられた後にそうするのかなど、誰のどのプレーがスイッチとなって4バックに移行するのかの判断は非常に難しいところだと思います。
 また、東京が3バック時にSHが絞り気味にポジションを取った際、あるいはボランチが飛び出してきた際、そこにチャレンジするのはシャドーが下がってやるのか、WBがそのまま絞ってやるのか、ボランチが飛び出してやるのかという判断も非常に難しいところ。仮にWBが絞ったとして、相手FWがそれを見て3バック脇のスペースに流れたり、SBが追い越して飛び出してきたりした場合、スライドが遅れて中途半端な守備を強いられる危険性もありますし、シャドーが対応した場合にそのタイミングで4バック化するのか、あるいは3バック+2WB&2ボランチの3−4を崩さずに守るのかの判断も瞬時に問われます。そういった様々なシチュエーションをこの短い期間でどこまで想定して、どこまで対応策を染み込ませることができているのかは、正直蓋を開けてみないと何とも言えません。「1人がボールホルダーへプレスに行った際のスライドの動きを意識する」ということも練習では繰り返し言っていたようなので、4バック化するスイッチは各選手に据え付けられたはず(と思いたい)ですが、それが上手く試合で発揮できるかについては、やはり「ほぼやった事がない事」である以上、不安を拭い去ることはできないのかなと。


 ここまで長々書きましたが、私が明日注目しているポイントを改めて簡潔に書くと「アタッキングサードに入ったあたりでボールホルダーが前を向いた際、どれだけの人数が受け手として無理なく関与できるか?」「3バックと4バックの使い分け・判断が上手くできるか?」の2点。この2点が上手くいけばどこが相手でも圧倒できる可能性を秘めていますし、逆に上手く行かなければグズグズな負けが待っているかもしれません。もちろん広島戦での「結果を求めた」3−4−2−1とは違い、「内容を求めて継続した」3−4−2−1になるわけですから、私は「どれどれ、お手並み拝見といきますか」っていうテンションで見させてもらいますし、その上で結果が出ればいうことありません。そして、もし後者になってしまったとしても、ポポヴィッチ監督がようやく多様性を見せてくれたことは評価したいですし、結果だけを持って「あー、このシステムダメだ」などというつもりは、全くありません。さぁ、来週のどこかで、気持ち良くレビューエントリをかけるかどうか。楽しみですなぁ。