続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

最後の砦

 厳しい戦いとなった横浜戦から1週間。ここでズルズル行きたくはないセレッソ戦でしたが、結果は2−0と無事勝利を収めることができました。しかし、これは皆さんが思っていることだと思いますが、よくゼロで終えることができたな、というのが正直な感想で、その立役者はもちろん権田修一。これまでも大宮、川崎、札幌戦では権田の活躍で勝ち点3を奪い取ることができたと言ってもよく、これで今シーズン4度目の殊勲賞となります。その権田は、自分が活躍する、目立つことに関しては、終始一貫こんな趣旨のコメントを残しています。

僕たちが目指すサッカーで、キーパーが目立つのはダメ。キーパーがシャーをやって喜んでいるようでは…だから断りました。僕たちが追い求めるのは、GK以外の誰もがゴールを決められるし、主役になれるようなサッカーだと思っているので。

 もちろん、これはある側面から見れば至極全うな意見。ポゼッション率を上げて攻撃の厚み、嵩にかかった攻撃を展開し、ボールを保持することで相手の攻撃回数そのものを減らし、ピンチを減らす。それがポゼッションサッカーの狙いですから。しかし、パスの本数が増え、厳しいところを狙う質が問われればその裏返しでミスはどうしても生まれますし、ハイライン・ハイプレッシャーの裏には相手にとって使い応えのあるスペースが生まれます。この事実を消すことはできません。そして、パスミスからのカウンター、ハイラインの裏への飛び出しをDFだけで食い止められないとなれば、その後は誰が止めるのか?それは、GKなわけです。要は、視点を替えればGKが目立つ可能性だってある戦い方をしているわけです。その中で、日に日に権田の存在感、信頼感、凄みは増すばかりで、失点数が下から数えた方が早い(この試合前までで14失点、リーグ最少は12失点)という数字が残っているのは、権田が素晴らしい仕事をしている証左と言えるでしょう。今日はそんな権田の凄みを、この日のピンチにさらされたシーンから、私なりに画像など取り交えながら考えてみたいなと。


 まずは前半29分のシーン。扇原との長いレンジのワンツーでキム・ボギョンが裏へ抜け出し、ドリブルを挟んで中へ詰めていた柿谷へクロスを送るも、クロスがほんのわずか合わずにそのまま抜けてしまい、チャンスを逃すというシーンでした。
 抜け出した瞬間
 クロスを上げる瞬間
 ここで注目したいのが、権田のポジショニング。1枚目と2枚目、ほとんどと言っていいほど同じポジションに立っています。こういったシーンでのGKの選択肢としてよく見られるのが「飛び出して行ってコースを削る」という動き。キム・ボギョンからすれば中の柿谷も見えていて、使うもよし自分でシュート−しかも、ニア・ファーともにコースがある−するもよし、選択肢は複数ありました。その中で、飛び出すという動きはシュートの選択肢を防ぐものとなります。しかし、この時権田はおそらく間接視野で柿谷の存在をとらえていて、飛び出して行くもサッと外され、柿谷に楽にクロスを送られてジ・エンドというシナリオだけはしたくないという判断に至った結果、じっと我慢してニアサイドへのシュートコースを消し、最後までキムの所作を見ることでファーへのシュートなのかクロスなのかを判断して守りに行く、という選択を取ったと見えました。もちろん、キムが精度を欠いたことは事実ですが、動かないことで相手にギリギリまでどの選択肢を取るか考えさせたことで、プレーが窮屈になったとも言えるわけで。素晴らしい判断だったと思います。


 続いて34分。中盤でボールを持った清武がタメを作っている間に、柿谷が椋原を中央に引き寄せ、空いたスペースをまたしてもキム・ボギョンが使います。再び権田と1対1になり、先ほど以上に時間があったキムは飛び出してきた権田の上を抜くプレーを選択するも、上手くいかずにチャンスを逃します。
 パスを出したのが清武、画面奥がキム
 ボールを持ったとき
 その1秒後
 止めた瞬間
 先ほどは「動かない」ことが相手にプレッシャーを与える結果となりましたが、写真2、3をご覧いただければお分かりの通り、今回は「動く」ことで相手にプレッシャーを与える選択肢を権田は選びました。これは、先ほどと違って中にセレッソの選手が詰めていなかったこと+加賀がしっかりカバーポジションを取れていたことを把握していた上、キムがボールを持った後スピードダウンして刹那考える時間を作ってしまったことで、権田からすれば「詰められる!」という判断に至ったのかなと。その詰め方も、いわゆる横っ飛び滑り(フランスW杯で、川口がバティストゥータに決められた時のような、体を倒してしまう止め方)ではなく、相手と正対しながら最後までボールから目を離さずにプレッシャーをかけるモダンなやり方。世界的に見て、ドイツのGKがこの正対して詰める動きはトップクラスだと私は思っているんですが、権田もこの動きに関しては国内トップレベル。これもキムに難しい判断を「強いた」んですよ、奥さん!


 前半ラストは43分。東京のCKを跳ね返したセレッソが一気呵成のカウンターを見せ、柿谷がゴール前でシュートモーションからのパスを選択します。それを受けた高橋が完全にフリーで権田と1対1になりますが、シュートは権田が足で防いで事なきを得ました。
 パスを受けた柿谷がシュートモーションからパスを出す瞬間
 オーバーラップしてパスを受けた高橋
 シュートストップした権田
 ここで特筆すべきは、柿谷がシュートモーションに入った際、スプリットステップを踏んでいること。スプリットステップとはテニスやサッカーで主に用いられる言葉で、相手が何か動作−テニスならショットやリターン、サッカーならシュート−をしようとする前に小さく両足でジャンプして、その浮いている間に相手が行った動作−ショットやシュートのコースなど−を見極め、着地した瞬間即座にそのコースに対して横っ飛びなどをフルに力を発揮して反応できるようにする一連の動きを指しますが、柿谷が素晴らしい判断でパスにしたことで、この場面ではスプリットステップが無駄足になってしまうんです。で、ここでバランスを崩したり、次への動作が遅れることはそれなりに見られることですが、このシーンでの権田はバランスを崩さず、即座に次の状況を視野に捉え、高橋が抜け出してきた動きに対して一瞬の迷いもなく、かつここでもしっかり相手と正対したまま距離を詰めていってシュートコースを狭め、シュートを体に当てることに成功しました。セレッソ側から見れば、高橋はこの流れで一度もルックアップ(権田の動きを見ること)できておらず、それができていればあわや…とも言えますが、まあそれはそれ。権田の動きはここもパーフェクトと言えるものでした。


 後半も好プレー連発。まず66分、ショートコーナーからキムとのパス交換で清武が前を向いてシュートを放つも、しっかり権田がセーブというシーンがありました。
 清武が受ける前
 清武が受けてシュートを放つ瞬間
 これは非常にわかりづらいですが、ショートコーナーが入った瞬間にはポストすぐそばにいた権田が、ボールを受けた清武がシュートに来ると予測できた瞬間、2歩ほど前にポジションを動かしたんです。たった2歩、と思われるかもしれませんが、上でも書いた通り間合いを詰めること=シュートコースを狭めることであり、よりゴールから離れてセーブすることは、フィスティングやパンチングした際のこぼれ球がゴールから遠くなる、つまり2次攻撃の成功率が下がることにつながるわけです。何気ないですけど、こういった細かい動きを瞬時にできるというのは、私は大事だと考えます。


 続いて84分。扇原からのロングフィードに上手く抜けだした永井が権田と1対1。しっかり権田の動きを見ながらコースを狙うも、残っていた足でボールを掻き出して本日5度目のセービングとなりました。
 エリア入る前の状況
 シュート直前
 シュートストップ
 このシーンは、この日唯一権田が相手に上回られたシーンと言っていいでしょう。先ほど43分のシーンのところで高橋がルックアップできなくて…と書きましたが、この場面の永井はシュートを打つ直前に2度ルックアップして権田が先に倒れたのを見て、その逆にシュートを打ちました。権田もこのシーンでは少し読みに頼りすぎたというか、先に動きすぎたわけですが、そういったマイナスの場面でも足を残していられる所作、運動能力の高さが逆説的に見て取れたところ。横浜戦で兵藤があわや2点目、というシーンでもきっちり足が残っていましたしね。


 というわけで、この日セービングを見せた5つのシーンをすべて振り返ってみました。GKに求められる能力としては、読み、反射神経、判断力、運動能力、駆け引きなどが主にあげられます。そして、そのいずれかが秀でていることでプロとして食べていける、試合で活躍できる、そういったGKはたくさんいます。しかし、この日の権田はそのすべてを駆使してプレーできていて、そのいずれもがハイレベルでした。2ゴールより勝利より、権田のこのプレーが見られただけで、今日はごちそうさまでしたよ。ロンドンで世界にバレないか心配ですわ(苦笑