続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

謝罪文から始まる大宮戦

 えー、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は、大宮戦についてワタクシの不必要な浮かれ具合で一部の方に誤った認識を与えてしまったことをお詫びさせていただきたいと思い、この場を設けさせていただきました。
 去る3月9日、通勤途中にいつものようにサッカー専門紙「エルゴラッソ」を購入し、ついに迎える2012年J1開幕戦、大宮アルディージャ対FC東京のプレビューをいの一番に読みました。そうしたところ、大宮担当の記者−名誉のために名前は伏せさせていただきます−がしたためたマッチプレビューに、このような記載がなされておりました。

“ポポトーキョー”は、縦パスが攻撃のスイッチとなっており、“縦パスの遮断”はFC東京封じの定石だ。「(縦パスの遮断は)常に狙っている」(青木)。

“ビルドアップからの攻撃”を旗印として掲げる大宮で重要な役割を果たすのが、左SB下平とブラジル人ボランチカルリーニョスである。下平は、最終ラインからの確実なビルドアップや攻撃のスイッチを担うクサビなどで左サイドの起点となり、“大宮スタイル”を体現するためには重要なキーマンの一人だ。

 このマッチプレビューと、2月25日に行われたプレシーズンマッチ大宮アルディージャ杭州緑城戦をテレビ観戦したワタクシなりの試合解釈を合わせた結果、この試合についての個人的見解を以下のようにツイートいたしました。




 もう少し細かく説明しますと、杭州緑城戦での大宮アルディージャの攻撃に関しては、両サイドバックを高い位置に押し上げ、しかしボランチのどちらがはっきりとCBの間、あるいは隣に下りることなく、極端に言い表せば「2−4−3−1」のような形にしてCBからビルドアップを試みていました、ただ、カルリーニョス以外のところからほとんど有効的なビルドアップ、ポゼッション、ボールコントロールがなされず、そのカルリーニョス杭州の激しいチェック(とコンタクトプレーをあまりファウルにしなかったレフェリング)の前にボールを失うばかり。かつ、奪われた後の守備の切り替えが遅く、前線からのチェックもあまりかからず、青木・カルリーニョスのダブルボランチが全く縦のパスコースを切れなかったこと、加えてCBの2枚もやすやすとポストプレーを許したことで、まず真ん中を支配されました。サイドも両サイドバックが高いポジションを取ったために戻りが遅れること(+前線の守備が遅らせることができなかったこと)で、杭州の2トップやレナチーニョがその空いたスペースを悠々と活用し、バシバシクロスを上げられる始末。後半はやや両サイドバックの位置を低くし、ダブルボランチやCBの縦パスに対する守備意識も改善されたことで一応の安定を見いだし、攻撃も東の投入やシンプルにチョ・ヨンチョル、渡邉の突破力を活かす方にシフトしたことなどで活性化したことで、結果的に2−1と逆転勝利を得ました。それでもポゼッションサッカーを試みた前半の不甲斐ないイメージが強く残る中で、大宮担当の記者が「ポゼッションで!」と謳ったばっかりに、「あ、これは渡りに船や!」と思ってしまった次第。それこそ、真っ向からポゼッション勝負を挑んでくれて、技術で上回るFC東京が圧倒したACL第1節、ブリスベン・ロアー戦のように、こちらの思うとおりに試合を運べる、そう思ってしまいました。
 ただ、一抹の不安として試合直前に



 とツイートしたように、中盤を省略するような攻撃を仕掛けられたら怖いという思いは当然ありました。ここまでのポポヴィッチ監督の守備の狙いとしては、「最終ラインをギリギリまで高くしてコンパクトにし、攻→守の切り替えを究極的に早くしてボールを奪われた(失った)ポジションからのハイプレッシャーでボールを再度奪い返す」という形が見て取れます。しかし、3月3日、国立競技場で行われたFUJI XEROX SUPER CUP、対柏レイソル戦をご覧いただけた方ならご記憶に残っているかと思いますが、その高いラインの裏、あるいは中盤の選手やサイドバックが戻りきれずにポッカリ空いたスペースに対して柏が長短のパスを送り込むカウンター気味の攻撃でゴールを脅かされるシーンが幾度となく見られました。つまり、現時点でこのハイライン・ハイプレッシャースタイルのリスクマネジメントがしっかりとなされているかと問われると、答えはノーと言わざるを得ない状況で、大宮側の分析によっては、シンプルにここを突かれてしまって危ないシーンを招きかねないという危惧は持っていました。そこは言い訳をさせてください。
 とは言え、試合前に研究される余地が東京にあった(この試合前に公式戦を2つこなし、スカウティングされる材料が揃っていた)ことを全く考慮せず、かつ、鈴木淳監督の本質はリアリストながら、そこまで大風呂敷を広げない人であるという認識を持っていた(なので、ポゼッションをしてくるという決め付けでマッチプレビューを読んでしまった)ことで大宮側の戦術を読み違えてしまい、そこから誤ったショートプレビューと浮かれっぷりをツイートしてしまったことは、ワタクシの不勉強以外の何物でもありません。今後は一記者のマッチプレビューだけを判断材料にして相手の戦い方を断定せず、仮にツイッターやブログでプレビューをする際には自身の目で相手の試合をしっかりと見て、書かせていただければと思っております。このたびは、誠に申し訳ございませんでした。


 というわけで、某所から求められていた(?)謝罪文お終い。いやはや、お恥ずかしい限りでした。
 さて、上と被る部分もありますが、改めて試合について。大宮の攻撃は高い位置で奪いきってのショートカウンター、そして、前述した2−4−3−1の形を作った上で、両CBやカルリーニョスからのフィードで裏や空いたスペースを狙い、裏を取れればそのまま、取れなくても中盤を厚くすることでセカンドボール争いで優位に立ちたいという、まさに危惧していた方の攻撃ばかりを仕掛けてきました。特に顕著だったのがキム・ヨングォンで、彼がボールを持った時の選択肢は「GKに戻す」「左SB下平へつける」「ロングフィード」のほぼ3択に限られ、例えばFC東京の森重のような多彩さ、また、この日は散々なデキだったと言わざるを得ない加賀より、ポゼッションという目線で見ての視野やアイデアには乏しく、正直苦笑いしたくらいのレベルでした。ただ、結果的にこの試合はそこが狙いではなかったので別にこの程度のアイデアでよかったわけですし、その分フィードの正確さ、裏のスペースを見つける嗅覚はFC東京に在籍していた頃のそれを上回るレベルのものを見せ付けられ、何度か肝を冷やされる場面もありました。また、パートナーの菊池からも随所に怖いパスフィードがありましたし、右SBの村上からのフィードに抜け出した東からのクロスをチョ・ヨンチョルが合わせるも権田がビッグセーブで、という場面もあり、とにかくその対応には苦労させられました。
 それにしても、このシーンでの権田は神そのもの。1つ目のセーブは他のキーパーでもしばしば見ることができるものでしたが、2つ目はシーズンに1度見ることができるかできないかのレベル。1つ目のセーブをし終えた自身の体勢とチョの体勢から直感的に「手ではなく足で」という判断をできたことがまず素晴らしかったですし、その判断を即座に行動に移す、しかも1ミリのロスもない身体の運び方をすることができたところに、基礎能力の高さとコンディションの良さを感じずにはいられませんでしたね。立ち上がり加賀がやらかしたところでのシュートストップも読みがピタリでしたし、後半もラファエルのシュートを体制が崩れた中でも身体に当てて止め、クロスボールの目測もピッタリ。最終盤は浅いラインをカバーするために何度もエリアを飛び出していく(ちょっとやりすぎたところもあったけど(苦笑))積極性も見せ、この日は文句なしのMOMだったと思いますね。
 話を戻して、そんな攻勢の大宮の中でも、カルリーニョスがホンモノだったことは脅威そのもの。もちろん、杭州緑城戦の前半でまともにプレーできていたのは彼だけで、そのボールタッチやパスコースを見つける早さとキックの多彩さで「当たり」の雰囲気を漂わせてはいましたが、いざ生で見てみると、その想像をさらに超えるレベルの選手だったなぁと。ポポヴィッチ監督は前半25分あたりで梶山とアーリアのポジションを入れ替えさせましたが、その意図について試合後、

最初はボランチでスタートさせたが、彼はオーストラリアに行っていないので我々がどういうやり方をするのか見ていなかったようだ(笑)。それで今日は上手くいかなかったので、前に出した。梶山は視野が広く、技術もしっかりしており、ボールを収めることができる。良いシュートもあるし判断も素晴らしい。(前目の位置で)アグレッシブさを出してくれる、相手に取って危険な選手ということで前に置いた。実際にスムーズにチームが回ったと思うが、それは梶山が何かしたというより、今日はその方がチームの回し方が上手くいったということ。

 と主に攻撃面での修正だったことを仄めかしていました。もちろんその意図がハマって、ボールの落ち着きどころができた点はありましたが、個人的にはカルリーニョスを(大宮側から見て)低い位置で押さえたい、そのために梶山とアーリアのどちらをぶつける方が効果的なのかを考え、連戦となり身体のキレがイマイチに見えたアーリアより、国内に残って調整して体力十分だった梶山をぶつけた方が良いという守備の判断もあったのではないかと感じています。実際に、多少は動きの自由を奪えていたと思いますし。で、チョ・ヨンチョルは細かい繋ぎの中よりもこういった(良く言えば)ダイナミックなサッカーの方がイキイキするのかなと思いますし、渡邉も中・外の使い分けが悪くはなかったですし、東は裏への飛び出しを狙いつつ、ボランチとトップが離れ過ぎないように上手くポジショニングを取ろうとする姿勢は好印象だったなと。ラファエルは鈴木監督がコンディションの悪さを認めるほどながら、それでも2、3度権田を脅かすあたりはさすが。まあ、正直に言ってこの程度の心意気でポゼッションが〜とかビルドアップを〜とか言ってほしくないですし、それを追い求めようとしすぎれば落とし穴が待っている気はしますが、逆に高望みせずシンプルにプレーして、攻撃は前の4人のコンビネーションで崩す、守備は前からある程度行きながら、しかし後ろでキム、菊池(深谷)、青木らの強さではね返す形(実際にハイボールはほとんど負けていなかった)を突き詰めれば、今シーズンの大宮には決して悪くない成績がついてくるような印象は受けましたね。


 一方の東京はというと、いきなり加賀がやらかしてしまったのを筆頭に、戦術的な問題ではなくパスがずれる、あるいはパススピードが弱い、はたまたサポートが遅い、挙げ句ピッチに足を取られるなど単純なところでボールを失うシーンばかり。おまけにアーリアや谷澤からは連戦の疲労も見て取れるなど、攻撃面ではかなり厳しい試合展開だったと思います。ただ、その流れのまま前半を終わってしまわなかった点は評価して良いでしょう。前述したとおりポポヴィッチ監督は梶山とアーリアのポジションを入れ替えましたが、選手がその意図をすぐに理解し、前ではルーカスと梶山がいい距離感でプレーできたことにより前で収まるシーンが増え始め、後ろも高橋がCBの間に下りてアーリアがワンボランチのような形になり、両サイドバックがそのアーリアと同じぐらいの高さまでポジションを上げて、しっかりと最終ライン3枚のパスコースになってあげたことでだいぶパスの回りが良くなりましたから。
 中でも高橋は最終ラインでパスを捌いたかと思えば、いつの間にかハーフウェーラインを超えてルーカスの落としを受けて谷澤にスルーパスを出し、中盤にいれば失った後のファーストディフェンダーとしてスッとボールホルダーの視野に入る、あるいはパスコースをきっちり消して攻撃を遅らせるという神出鬼没ぶり。後半はハーフタイムでカミナリが落ち、役割がキッチリ整理されたこともありますが高橋のそれはさらに顕著になり、気がつけば高橋、障沂エ、また高橋ってぐらい攻守両面でボールに絡めていました。シーズン前、マスコミの中では「梶山以外で計算が立つボランチが…(高橋未知数、アーリアはどこで使われるの?米本は怪我からの回復具合が…)」という論調が多く、ファンの方でもそう思っていた方がいらっしゃったと思います。しかし、高橋は先週の3試合でそういった不安論をかき消してしまうほどのパフォーマンスを見せてくれましたし、アーリアもボランチとして十分に計算が立つことが見て取れました。米本も練習試合などではすでにしっかりプレーできているようですし、下田、橋本も虎視眈々と出番を窺っている様子。このポジションに抱いていた不安は、現時点ではかなり解消されたといっていいと思いますね。2列目は試合によっては石川、羽生、河野、田邉を途中から使える贅沢さが予想通り贅沢で、交代の仕方によってはルーカスが2列目を努めることも可能とくれば、質・量ともに全く心配がないですし、FWも今のところルーカスと渡邉のみが出場していますが、平山、重松、林もいてこちらも安心。船出は上々のものと言っていいと思います。
 かたや守備ですが、こちらは「ハイラインの裏」という1つ大きな穴を相手に対して見せてしまっている点が不安。SBが高い位置を取る裏のケアについては、CBがそのスペースに入ってきた相手に対してチェックにいき、ボランチがCBの穴を埋めるという形が約束事として共通理解の中にあると言えますが、単純に最終ラインやボランチからラインの裏にフィードされる場面についてどう対応するのか、まだ形が見えてきません。もちろん、奪われた後の切り替えを早くして、即座にチェックに行くことで蹴らせるシーンを減らす狙いはあるでしょうけど、そのチェックが及ばない場面は確実にあります。そこで裏に蹴られた時に…ではなく、裏に蹴られ「そう」になった時に最終ラインがどう判断するのかが大事になってきます。この試合でも、キムがボールを持って「フィードするぞー、するぞー、はいフィードしたー」と例えていいぐらい、タメが入ってからロングボールが飛んでくるシーンが何度かありました。で、この時相手FW1枚がターゲットの場合にはその近くのCBが競りにいって、もう1人のCBがカバーリングのポジションを取る、複数人がターゲットとなりそう場合には思い切ってラインを下げて裏を取られるリスクを軽減する、といったDFラインでのコントロールが必要となってきますが、この試合でそれができていたとは言い難く、(あくまでも上から見ていて)蹴ると分かっていた場面でもハイラインや横に並ぶ形を崩すことなく守ろうとして、あっさり裏を取られるシーンが1、2度ありました。ここまでの東京の3試合を見て、このハイラインの裏(と狙われた時の対応策の未熟さ)を突かないチームは存在しないでしょう。今はまず攻撃面でのメリットを前面に出し、その良さを味方に信じさせ、怖さを敵に植えつける時期であることは理解していますが、果たしてこういった守備面での戦術をポポヴィッチ監督以下現コーチ陣が「今やっている最中」なのか、「これから手をつける」のか、はたまた「持っていない」のか。それによって、その不安の行く先が決まってきます。できれば、最後の選択肢でないことを祈るばかりですが…。
 そうは言いながらも、「襲名披露興行」となったFUJI XEROX SUPER CUPからの3試合を見て、ほとんどの東京ファンの方が不安よりも期待や希望の方を強く抱いていると思いますし、マスコミの論調も概ねそういったものの方が多いという印象があり、スタートは成功したといっていいでしょう。1ヵ月後に、3ヵ月後に、半年後にどういったチームへと仕上がっていくのか。今はその過程をただただ楽しみたいですね。