続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

衝撃的な3時間

 去る土曜日、新潟−東京が行われている最中、その試合は録画しつつ、八王子で行われたブラインドサッカー日本代表有志の世界選手権前最後の自主練習(大勢集まって調整するのは最後とのこと)にお手伝いとして行ってきました。事の始まりは、先日味スタ横で行われた世界選手権への壮行試合を見たこと。そしてそこで思ったことをつらつら書いたエントリを読んでいただいたブラサカ事務局の中の人(ツイッターアカウント「@JBFA_b_soccer」)にお誘いいただいた次第。国を代表して戦う選手たちのお手伝いだなんて滅多にできることではありませんし、いろいろ興味のある部分があったので、二つ返事で参加のお願いをしました。


 この日はフィールドプレーヤー(以下FP)8名+GK2名、計10名の代表選手の中からFP6名、GK2名の計8名が参加し、ざっくりとした練習の流れは「自己紹介→ウォームアップ→セットプレー(CK)の練習→試合形式の練習」というものでした。で、自己紹介でいきなりビックリ。何名か取材者が見えていたんですが、なんとその中にブラサカを題材とした「闇の中の翼たち」の著者である岡田仁志さんや(速攻本を買って読まないと!)、サッカーファンならもはやお馴染みの某ライター(ツイッターでは名前出しちゃったけど、出していいか聞けなかったので「某」でw)(追記:本人がOKとのことで名前出し。宇都宮徹壱さんでした)が見えていて、1人で興奮したりしなかったりw …ゴホン、話を戻しますね。ウォームアップは「ストレッチ→ランニング→パス交換→ドリブル練習」という流れ。ランニングは4角に1人ずつ立って声と拍手で角であることを知らせ、選手たちはその音を頼りにしっかりとコーナリングして…ってことを普通にやっていましたが、これ自体私たちがアイマスクしてやろうとしたらキツイなぁというのが正直な感想。真っ直ぐ走ることもそうだし、コーナー付近でも一切減速せずに走り抜けていくのを見て、この時点ですでに「すげぇ」を連発していたと思います。
 もちろんそれはパス、ドリブルを見ても同じ。パスは出し手が相手の名前を呼んで受け手が返事で答え、出し手はその声で受け手がどこにいるか把握してパスを出し、受け手は転がってくるボールの音(中に特殊な鈴が入っています)を頼りにボールの位置を察知してトラップをする形のパス交換練習。まあ、晴眼者も目をつぶったままボールをただ蹴ること自体は難しくないと思いますが、出し手は受け手以外の声や周りの雑音(この日は道路沿いの屋外フットサルコートでの練習で、かつ八王子花火大会があり、雑音レベルは高かったと思います)もある中で、受け手の声を瞬時に聞き分けそこへ正確なパスを出せ、受け手もさほど大きいとは言えない鈴の音をしっかりと聞き取り、パスがずれればきちんとそちらへポジションを取り直して(全部が全部ではないけど)受けることができる。オマケに、出し手はその鈴の音で「あー、パスが左(右)にずれたー、ゴメン!」なんて言えちゃうレベルでして。そしてドリブルは、1人がコーン役として声を出して、もう1人が往復でドリブルをする形でしたが、コーン役の選手の声を頼りに往から復へと180度方向転換できるのもそうですし、ドリブル開始地点に戻ってきた際に、誰の声もなしにスタートした位置あたりでしっかりとドリブルを止めることができるのが不思議でしょうがなかったですね。この位置感覚というか、空間把握能力というか、そういった類の能力がものすごく高い(研ぎ澄まされている)ことが、この練習1つからも十分に窺えました。


 ここでちょっと寄り道。ボールについては、先ほど「中に特殊な鈴が入っている」と書きましたが、選手やスタッフの方がボールを手にしながら「スペインでやる?」とか「ブラジルある?」とか言っていて、中の人に「今の会話なんですか?」と聞いたところ、正解はそのボールの製作国名でした。ボールについてはこちらのエントリで端的にまとめられていると思うので是非読んでいただきたいのですが、選手も「ボールが足りない」というような話はされていました。中にはほとんど音がしなくなったボールもありましたしね。確かに特殊なボールで(鈴はもちろんのこと、堅さや弾み方も通常のサッカーボールやフットサル用ボールとは全く違う。蹴ってみて分かりました)、現時点でそれほど国内需要があるとは言いがたいのでこのご時勢では製作に乗り出しにくいと思いますが、是非志のあるメーカーさんが出てきてくれるのを期待して止みません。


 話し戻って、続いてはセットプレー(CK)の練習。なんでも、大舞台の2週間前になってプレイスキック時における国際ルールが、「審判がコーナースポットにボールをセットして離れた後、味方がそのボールを踏めばそこからゲーム再開(他の味方はドリブル等できる)」から「ボールをその場から動かさなければ(要はチョン蹴りのような形)他の味方が触れない」という形に変更されたらしく(世界選手権でどこまで適用されるか、主催者側が確定できていないというオマケつき(苦笑))、それに対応するような形のCKを何本も練習していました。どのような形かは大会間近なので秘密ですが(笑)、アイデアとしては非常に面白く、また次のプレーへの移行もスムーズになりそうで、これは一つ武器になるんじゃないかと。
 そして、試合形式の練習…の前に、今回私も含め、数名お手伝いで参加した方がいたんですが、その主な仕事が「ヒトカベ」でした。通常、試合時には高さ1m強のフェンスがサイドラインには設置されていて、選手たちはフェンスそのものや、フェンスにぶつかったボールの音を頼りにポジションを替えたりボールを追ったりするわけですが、今回は普通のフットサルコートでの練習だったこともあって、当然フェンスはありません。その代わりに人間がサイドラインに立って、選手が近づいてきたら「カベ!」と声を出してサイドラインが近いことを教えたり、サイドラインをアウトしそうなボールをカベ風に中に戻したりするのが「ヒトカベ」なんだそうで。実際はCK練習の時から「ヒトカベ」としてお手伝いさせてもらってましたが、いざ試合になると選手の迫力が一変して、ちょっとサイドラインに立っているのが怖かったぐらい。特に球際の強さは、ホントに普通のサッカーと何ら変わらないか、あるいはそれ以上のものがありましたよ。
 で、試合全体については、前回壮行試合を見たとき以上の発見ばかり。しっかりとしたフォーメーションとベースポジションがあって、それぞれの局面でどう動くのかについてもしっかりとした戦術があって、1つのプレーが終わると、お互いがまるでそのシーンが見えているかのように的確なやりとりや意思疎通があって(中でも落合選手の状況把握力は凄かった)、もちろん個々に素晴らしいテクニックがあって。中の人にお話を聞く限り、現状はもともとサッカーをやられていた方よりは、視覚障害者となってからサッカーを始めた方が圧倒的に多いとのこと。つまりは、よくある「見ていてあの選手のあのプレーが気に入ったからやってみよう」ということができないし、様々なプレーなりフェイントなりをイメージしてプレーすることが難しいわけです。何にも知らない人にいきなり「マルセイユルーレットやってみて」って言っても、イメージや画面がないのでできない、みたいな。しかし、この日目の前でプレーしていた選手たちは、事も無げにマルセイユルーレットやソールを使ってのプルアウェイ、ダブルタッチや切り返しのキックフェイント、挙げ句にはエラシコチックなモノまで普通に繰り出していて、度肝を抜かれました。聞けば、コーチからこういう技があるというのを聞き、コーチに修正を加えてもらいながらとにかく反復練習で身体に染み込ませるんだそうで。もちろん、基本の止める・蹴るという部分も、相当な反復練習の賜物なんでしょう。「目が見えない。故に視覚でイメージを作れない。だからできない、やらない、諦める。」じゃないんですよね。「ないなら、作ればいい。そして、覚えるしかない。」という、私たち晴眼者が真摯に学ぶべき姿勢がそこかしこにあったように思います。


 そんなこんなで、お手伝いに来たはずなのに最後は普通に一観客として「そうくるか!」とか「上手い!」とかつぶやきまくっていましたし(笑)、「ヒトカベ」初体験でどこまでお役に立てたか分かりませんが、こちら目線とすれば、ホントに貴重な3時間を過ごせたなぁと感激しきりでした。終わった後、選手と一緒に食事までさせてもらいましたし。で、田中選手と同じテーブルに座らせてもらって話をしていたんですが、その話の中で1つだけ。先日田中選手がお勤めの会社で壮行会があったようなんですが、なんとその会社の重役のみならず、親会社のお偉いさんまで壮行会に来たらしく。「もう次から次へと人が来て、その度に激励の言葉(とビールw)をもらって気疲れしましたよー」なんて仰ったので、「さすが、代表様は違いますねー」と返したら、「いやあ、自分はただのサッカー好きですよ」と答えたんです。何か、凄いハッとさせられました。帰りの電車では、聴覚障害者と思われる方々(手話で会話していたので)が、やはりサッカーボールを持って乗車してきて、なにやら熱心に会話していたなんてこともあって、これは綺麗事かもしれませんが、サッカーを好きであること、サッカーをプレーすることそのものには、人種も、国籍も、性別も、貧富も、ましてや健常であるかどうかなんて関係ないんだよなぁと、改めて思いました。
 そんなブラサカ世界選手権は、日本時間8月14〜22日まで開催されます。グループリーグは5カ国×2グループ。お話を聞くと、現在世界トップクラスと言っていいブラジル、アルゼンチン、中国が同じグループに入り、日本はその反対に入れたので、組分けには恵まれたとのこと。選手たちが目指すところはもちろん優勝でしょうけど、まずはベスト4目指して全力を振り絞ってほしいです。試合の模様はJBFAの中の人がUst配信してくれるそうなので、興味のある方は是非チェックしてみてください。私も頑張って全試合見る…つもりです(笑)