続々々・メガネのつぶやき

思ったことを、思ったなりに、思っただけ。

ヤマザキナビスコカップ決勝 東京2−0川崎 プレビューその他

 とりあえず、自分の雑感等々は後回しにして、まずは簡単に試合を振り返ります。
 入りが良かったのは、間違いなく川崎の方でした。というよりは、東京の入りがまずかった、と言うべきでしょう。とにかく梶山にミスパスが目立ち、米本はそもそもボールが足につかなくて、今の東京の生命線であるボランチのところでボールが全く落ち着かず、選択肢の幅が狭い攻めは「奪われてはショートカウンター」という川崎お得意の形を食らい続ける展開につながっていきました。川崎もショートカウンターがいつにも増して単調だったと言えなくもないですが、それでもチョン・テセジュニーニョレナチーニョと個で打開できる力が揃っていることで、フィニッシュまで持ち込まれるシーンが多かったような気がします。そんな流れの中、多くの人が試合のターニングポイントとして挙げるであろう点が、11分と19分の川崎のシュートシーンと、その流れがあっての22分のヨネゴールだったんではないでしょうか?
 まずは11分のシーン。憲剛の縦パスがサイドから絞ってきていたレナチーニョに入り、しかし東京守備陣はその絞りに対して一瞬マーキングがズレ、前が開いたレナチーニョは躊躇なくシュート。いいコースに飛んできたシュートで一瞬失点も覚悟しましたが、これを権田がスーパーセーブ。スローで見るとシュートは無回転で、権田の体勢も(ステップワーク等を間違ったとまでは思いませんが)腕に全力が注がれるほどではなく、何とか指の力だけでコースを変えただけの厳しいものではありましたが、終わってみればこれで権田が「ノッた」のは疑いようのないところで、加えて絶対に先制点を奪われたくなかっただけに、本当に素晴らしいセービングでした。
 続いて19分のシーン。先ほどのシーン以上に、全員が失点を覚悟したでしょう。川崎側から見れば、この試合唯一と言っていい流れるパスワークと良質なフリーランが噛みあった綺麗な攻撃で、いくら警戒していても捕まえるのが難しい「3列目からの飛び出し」を谷口にやられて、一度は権田が素晴らしい飛び出しを見せてシュートを防ぎましたが、運悪くこぼれ球が再び谷口の下へ転がり、出し手の谷口も、中で待っていたジュニーニョもどフリーの状態。そして、丁寧な谷口のインサイドキックでのパスを、ジュニーニョがこれまたインサイドで落ち着いてシュートして川崎が先制…と思われましたが、シュートはまさかの大ふかし。家に帰ってスローで見ると、シュートを打たんとするそのわずか手前で、これまたほんのわずかだけイレギュラーというか、ボールが跳ねたように見えなくもないですが、現場にいるときはそんなこと知る由もなく、外してくれて嬉しいし助かったはずなのに、私も含めて周りみんなが「いやー、ジュニーニョなんで?」っていう空気になるほど、普通では考えられないシュートミスでした。でも、ここで確信めいたものはないけれど、「俺らの空気じゃん!俺らの流れじゃん!」と思えたのは、大きかったような気がします。…そう思ってるのは、私だけ?(笑) でも、思えば5年前も、時計の針が秒を刻むごとにそんな気持ちが湧いてきたような…ってのは後ほど。
 そして、22分のヨネゴール。冒頭にも書いたとおり、ヨネはボールが足についておらず、攻撃時の局面での判断もベストどころかベターすら選択できていない入りでした。その中で、川崎が攻め、東京が守る展開になっていったわけで、普通であればそこで「前半は上がりを自重して耐えよう」とか「とりあえず守備だけで貢献しよう」と思ってもなんら不思議ないし、誰も責めることはできなかったと思います。だけど、ヨネはそうじゃありませんでした。中盤でボールを受けると長い距離のドリブルで運び、平山との短いパス交換を挟んでフリーでゴールを視野に捉え、一呼吸置いて右足で一閃。ヨネ自身は試合後に「流れが悪かったので、シュートを打って引き寄せたかった。一本打てば流れが傾くかなと思った。あの場面で打ったことは良かった」と語っていて、この話からもあそこでシュートを打つことに対しての躊躇、迷いが全くなかったことが窺えますが、あの時ピッチに立っていた選手の中で誰よりもプロとしての経験がない(ルーキーだから当たり前なんですが)ヨネが、百戦錬磨の選手たち、目の肥えた識者、そして私たちファンの常識(=あそこからのミドルはない)をぶっ壊すような行動を取ったこと自体に計り知れない意味と意義があったような気がします。結果的にそれがゴールにつながり待望の先制点をゲットすることができた、さらに大ピンチがあった直後という時間帯が最高だった、そして何より、立ち上がりから硬かったヨネ自身が、この一発で「元に戻った」ことが一番大きかったなぁ。終わってみれば、元に戻ったヨネのパフォーマンスに押されて、相棒の梶山の方が最後まで危なっかしいところを隠せなかったぐらい。今日のトーチュウに掲載された梶山の独占手記でも、(冗談も含まれるでしょうけど)「今日はヨネ様様ですね(笑)」って書いてたし。
 そんなこんなで、ヨネが元に戻ったことでボックスボランチの繋ぎの部分に安定感が(ある程度)戻り、守備面でも憲剛をヨネ中心に上手く防げた(その前段として、憲剛に入るボールの出所をある程度ケアできた)ことで川崎の攻撃を減退させることができ、それでも攻め込まれる時間はシーンはあったものの、繋ぎのパスを楽に出させない、クロスを自由に上げさせない、シュートをいい体勢で打たせないといった「際の部分」での攻防において圧倒的にイニシアチブを握ることができていた印象で、前半残り25分間で川崎が打ったシュートをたったの2本に抑えることに成功しました。
 で、この時間帯の守備の殊勲者をあえて挙げるならば…徳永ですかね。まあ、ベースポジションとして右サイドには森、憲剛、チョン・テセがいて、しかもいつも以上に右サイドを意識した川崎の攻撃が目立っていたので、自ずと対面となる徳永が目立つのは自明の理ではあるんですが、でも、徳永はその中で1つもミスを犯しませんでした。羽生との連携で森の上がりや憲剛のアタックを食い止め、チョン・テセが完全に裏に抜け出したシーンでは、懸命の戻りでピンチを防ぎました。この日、徳永の足元はいつもの白ではなく、赤でした。徳永と言えば、あまり感情を表に出さず淡々とプレーする姿が印象的なプレーヤー。しかし、この日は誰よりも目立つ赤いスパイクを引っさげて、いつにも増して激しくプレーしていた姿が、本当に印象に残っています。


 後半。立ち上がりこそ達也のシュートで幕を開けましたが、じわじわ点を取るしかない川崎が強引なまでに攻める展開になっていきました。その中で光ったのは、またしても権田。開幕戦当初と比べれば信じられないほどの成長を遂げた権田も、唯一絶対的に不安視せざるを得なかったのが「(特にサイドからの)ハイボールの処理」。出たのに触れない、逆に出てほしい(キーパーボールと思われる)ところで躊躇する、というシーンが少なからず見受けられ、そんな権田に向けて後半はクロスやCKが雨あられのごとく飛んできました。ボールの種類もニアサイドへの早いクロスあり、頭の上を越えてファーサイドへ伸びるボールあり(特にCKはこればっかりだった)と忙しい時間を過ごすことになりましたが、この日は出るところと出ないところの判断が抜群。ニア、ミドルゾーンのボールに対しては積極的に飛び出し、必ずといっていいほど触れていましたし(一度パンチングしたボールが今ちゃんに当たってゴールの方向へ跳ね返ったのだけは焦った(苦笑))、ファーサイドへ抜けるボールに対しては早めに見切ることができていて、合わせてこの日はセットプレー時のマーキングをあっさりと剥がす悪癖もほぼ見られなかったことで、私は完全に恐怖心を消すことはできませんでしたが、いつもよりは安心して見られた気がします。
 そして、押し込まれた中で川崎のお株を奪うようなカウンター、しかも世界的に見ても増えている「セットプレーをはね返し、そこから(意図のある)カウンター」という形の攻撃を、ついに東京も見せてくれました。いや、もちろん今季ここまでそれが全くなかったとは言いません。実際に6/20の柏戦ではその形でナオが点取ってますし。けれどこの大一番で、どちらかと言えばカウンターをあまりやらない(上手くない?)東京がそれをやって見せたのには、正直驚きを隠せませんでした。達也のサイドへ逃げる動きと羽生さんのパス出しのタイミングがビッタリ合ったこともそうですし、そこに対して、羽生にヘッドでパスを送った平山が80m近く激走して、しかもその中でスピードを落とさずに相手DF(菊地?)の視界から消えてフリーになる動きをしっかりとやってくれたこともそう、また、ワンテンポ遅れてではありましたが、羽生さんがパスアンドゴーでしっかりとついてきたこともそう。とにかく追加点を奪えるとしたら、「前がかりとなった相手の裏を突いての早い攻め」が一番可能性として高いとは漠然と思っていただけに、驚きはしたものの、これ以上ないくらい興奮しましたわ。隣の人がちょっとはしゃぎすぎて前の席の方に倒れてしまったぐらいだし(笑)
 その後は完全に東京の思うとおりの展開に。追加点直後に投入された長友が守備では森をシャットアウトし、攻めては広大に空いた裏のスペースを突いて決定機を得る(決めきって欲しかった〜)などその役割を十二分に果たし、その徳永−長友というゴリマッチョなサイドで崩すことを諦めたのか、川崎は70分に村上→田坂の交代から森を左に回し、(やや運動量の鈍ってきた)羽生と椋原のサイドを攻める手に変えてきたものの、城福監督もすぐさま羽生に変えて平松を投入し、そのサイドに蓋をしにかかりました。対する川崎も、79分には黒津を入れ3−4−3のような形に変えてきた(森はまた右に戻りましたね)ものの、この時間にはすでに川崎のサイドからの攻撃が手詰まりになっていくさまがありありと見て取れ、完全に「個だけ」の攻めに終始する格好に。個人的には「最後の交代は寺田でも入れてパワープレーしてくるか?」と思ったものの最後の交代も登里止まりで(と言ったら失礼に当たるかもしれないが、彼の経験値ではこの舞台はまだ分不相応だったかと)、それでもチョン・テセや谷口めがけて放たれるロングボールに対しては、今野、ブルーノ、権田、そして3枚目のカードで投入された佐原がはね返し続け、最後はクロスバーまでをも味方につけて逃げ切りに成功。見事、ナビスコカップ奪還に成功しました!


 ここからは、個人的な雑感を。当たり前の話ですが、04年とは相手も、試合展開も、最終的なスコアも全く違うものになりました。けれど、5年前も昨日も、なぜか時が刻まれるごとに「負ける気がしねぇ」「相手のシュートなんか入る気がしねぇ」という思いに自分の脳が、身体が、心が支配されていきました。実際には、5年前も昨日も、相手の圧力に何度も屈しかけました。でも、それとは反比例するかのように先ほど書いた気持ちがムクムク湧き起こってきました。5年前のことを、昨日の試合を一晩経って冷静に振り返って「なぜそんな気持ちが沸き起こったんだろう?」と考えてみたんですが、うんうん悩んで達した結論は「信頼」でした。
 5年前は前半29分にジャーンが退場し10人になって以降も、ナオ&加地、戸田&浄の両翼で攻める気持ちを失わず、原監督の交代の手も1人目の藤山はともかく、梶山と馬場の投入という諦めるそぶりを全く感じさせないものでした。守備面でも5年前は藤山、モニが攻める守備と言いますか、裏を突かれるリスクを凌駕する強い気持ちを持って「前で奪う守備」を最後まで見せてくれていました。昨日だって、今季のこれまでと何も変えることなく自分たちの攻めを貫こうとする姿勢をスタートから見て取れましたし、普段はあまりお目にかかれないカウンターも見られるなど、常に攻める気持ちが前面に出ていたように感じました。また、守備でも昨日も下がってブロックを作って受けるんではなく、非常にコンパクトに陣形を保って前から積極的にプレスに行き、相手に対してプレッシャーをかけ続けることができていたように思います。
 一昨日、モハメド・アリが残したある言葉を(一部改変して)載せました。こんな言葉です。

It's lack of faith that makes people afraid of meeting challenges, and I believe in all Blue-and-Red.
(人間が困難に立ち向かう時、恐怖を抱くのは信頼が欠如しているからだ。だから私は青赤を信じる。)

 5年前も昨日も、ピッチに立つ選手、監督、コーチ陣は腰を引かない、勇敢な、攻め気な戦いを見せてくれました。私はそんな彼らの一挙手一投足を雑念なく見ることで心の中が、頭の中が「信頼」の二文字で満たされて、いつの間にか恐怖心がなくなり、同時に全てのネガティブな感情が消えて「負ける気がしない」という思いに達したんだ、そう今は感じてます。


 中の人、外の人問わず、いろんな人が「普段どおり」とか「平常心で」という言葉を用いていました。でも、やっぱり「一発勝負」の「頂上決戦」は普段どおりじゃなかったし、私は平常心で過ごすことはできませんでした。前の日の寝つきも、当日の朝の目覚めも、荷物の量も、(開門から逆算しての)出発する時間も、千駄ヶ谷門の待機列のハンパなさも、座席のギュウギュウ感も(これは国立だったからか?)、スタジアム内の独特な空気感も、ドロンパの切れ味も(優勝報告会でのタキシード、最高や!)、選手紹介の煽りVTRも、音響のボリュームのでかさも、試合前のコレオグラフィーも、試合中の選手のテンションも、試合後のこれでもかってほどの明暗も、やっぱり全てが特別なものでした。毎試合こんなんじゃ疲れちゃうけど(笑)、でも、一度これを味わってしまうと、またここに帰って来たいという「欲」が出てきてしまいますよね。私達はある種無責任な期待を送ることしかできないのかもしれないですけど、また必ず、こういった舞台に私たちを連れてきてくれることを期待してます。
 そして、今はこの舞台に私たちを連れてきてくれた選手・監督・コーチ・スタッフの方々に心からの感謝を届けるとともに、風船、トイレットペーパーの準備等々で素晴らしい雰囲気を作ってくれた中心街の方々始め、全てのファンにお疲れ様という言葉を届けさせてもらいたいなぁと思います。本当にみんな、ありがとうございました!!!


P.S フジとサリさんについては、ここでは書きません。もうこれでもかってくらい泣かされましたけど、まだまだ二人と一緒に戦う舞台が残ってますから。それが全て済んでから、ですね。